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東芝ら、盗聴不可能な量子暗号通信で大容量の全ゲノム配列を伝送する技術
2020年1月14日 14:14
株式会社東芝および東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)は、量子暗号通信を用いた世界初の全ゲノム配列データ伝送に成功した。
人間のゲノム情報は、およそ32億の塩基で構成されているが、現在使われている次世代シーケンサーではより高精度の解析を行なうため、約30倍にあたる900億以上の塩基の情報が出力される。加えて、複数人のゲノム情報を同時に解析するため、出力されるデータ容量も数百GB以上と膨大になる。
法律下で個人情報として扱われる場合もあるこれらのゲノムデータは、個人の特徴など秘匿性の高い情報を含むため、キーロックつきのHDDをセキュリティボックスに収めて物理的に輸送するなど、コストや時間のかかる手法で運ぶ必要があった。
これに代わる情報輸送手段として、光の粒子である「光子」を利用した「量子暗号通信」が期待されている。光子1つあたり1bitの情報を送ることで盗聴や解読を確実に検出する安全性の高い通信技術だが、最大でも10Mbps程度の転送速度しか発揮できないため、ゲノム情報のような大容量のデータ伝送を行なう上で課題となっていた。
研究グループでは、次世代シーケンサーが出力するゲノム解析データを量子暗号によって逐次暗号化し、伝送する技術を開発。次世代シーケンサーからの解析データと量子暗号装置からの暗号鍵をワンタイムパッドを用いて逐次暗号化し、リアルタイムで伝送する。一度に全データを伝送するのではなく、次世代シーケンサーの動作にあわせてデータ伝送を進めるため、伝送処理の遅延を短縮できる。
実証実験は、東芝ライフサイエンス解析センターからToMMoの間に施設された約7kmの光ファイバー専用回線を用いて2回実施。全ゲノム配列解析によって出力された全ゲノム配列データの伝送を試みた。その結果、1回目は解析完了の1分52秒後、2回目は同1分37秒後に伝送の完了が確認され、量子暗号通信を利用した実用的な大規模データ伝送が可能であることが実証された。
量子暗号通信技術は、医療や金融分野など、秘匿性や機密性が求められるさまざまな分野での利用が期待されており、同グループでは実用化に向けた研究を進めるとしている。