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東大、印刷で作れる厚さ約10nmの有機半導体単結晶膜ウェハを開発
2019年11月5日 14:26
東京大学大学院新領域創成科学研究科、同マテリアルイノベーション研究センターおよび、産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ、マテリアルイノベーション研究センター、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点、パイクリスタル株式会社らの研究グループは、厚さ10nm(ナノメートル)の極薄有機半導体単結晶膜ウェハを開発した。
有機半導体は、現在多く用いられているシリコン半導体と比べて軽量で柔軟性が高く、印刷による低温プロセスで製造が行なえるため安価で大量に生産可能だとされており、次世代の半導体として研究が進められてきた。しかし、有機半導体の多くは低温での印刷性能と優れた半導体特性を両立できず、実用性に欠けていた。
研究グループでは、以前に独自の高性能有機半導体材料を用いた印刷技術を開発しており、2分子層程度の厚みの有機半導体単結晶膜の作製に成功している。今回の研究ではこれを応用し、有機半導体インクを吐出するノズルのスキャン箇所にだけ単結晶薄膜を生成する独自の「連続エッジキャスト法」を使用するとともに、有機半導体インクの濃度や印刷温度を精密に制御することで、分子レベルで層数制御された単結晶薄膜の作製を可能にした。
作製された薄膜は厚さ約10nmの非常に薄い単結晶膜で、非常に高い材料利用効率を実現。生成プロセスについても、断続的にインクを供給しながら印刷するため、ノズルを拡張すれば大面積の印刷も可能で、単位面積あたりの印刷時間の削減も行なえる。
さらに、ノズル幅を従来の4倍以上となる9cmに拡張し、厚さおよそ12nm(およそ3分子層)の均一な有機半導体単結晶膜印刷の大面積化を試みた。このノズルで製造できるウェハは4インチ級の大きさで、市販のシリコンウェハに同等のものとなる。有機半導体の材料には、単結晶薄膜上でフォトリソグラフィによる電極パターニングも行なえる化学的に安定なものを用いた。
実際に4インチ有機半導体ウェハ上に1,600個のトランジスタを作製したところ、すべてが欠陥なく駆動し、平均の移動度も10平方cm/Vsに達することが分かった。これは現状の有機トランジスタにおいて最高クラスの移動度に相当する。
研究グループでは、より高性能な有機半導体材料や印刷装置の開発を進め、さらなる大面積印刷技術の確立を目指しており、より安価で大量生産可能なRFIDタグやIoTデバイスの実現が期待される。