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パナソニック、肉眼で利用できるVRシステム
2019年5月23日 16:31
パナソニックは、同社が取り組む「VRシミュレーション」技術について説明。等身大広視野角で、複数人が3D立体映像を閲覧可能な映像装置「汐留サイバードーム」や、グラスレスで没入感を高めた空間演出ソリューション「VIRTUAL STAGE MIERVA(バーチャルステージミエルバ)」を公開した。
VIRTUAL STAGE MIERVAは、2020年以降に、東京オリンピック選手村跡地に誕生する新しい街「HARUMI FLAG」のマンション販売センター「HARUMI FLAGパビリオン」に導入されている。
VIRTUAL STAGE MIERVAは、グラスレスで、没入感を高めた空間演出が可能な映像ソリューションで、東京・晴海に設置しているマンション販売センター「HARUMI FLAGパビリオン」に導入している。
HARUMI FLAGパビリオンは、2020年以降に、東京オリンピック選手村跡地に誕生する新しい街「HARUMI FLAG」のマンション販売センターで、特定建築者11社(三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、野村不動産、住友不動産、住友商事、東急不動産、東京建物、NTT都市開発、日鉄興和不動産、大和ハウス工業、三井不動産)によって建設される、約5,632戸のマンション販売が行なわれる。今年のゴールデンウイーク初日となった2019年4月27日から稼働したところだ。
HARUMI FLAGパビリオンには、ゴーグルなしで、複数人による同時体感ができる「1/1 VRドーム」、モデルルームの眺望演出ができる「眺望型体感ルーム」に、VRソリューションを導入。いずれも、パナソニックのVIRTUAL STAGE MIERVAを利用し、VR体感ができるようになっている。
ディスプレイの継ぎ目を感じさせない湾曲した立体スクリーンに、3Dデータや動画データなどをプロジェクション投影することで、広視野で没入感のある体験が可能な新感覚VRシステムである。
これまでは広い視野角をカバーするためには、大型スクリーンに投影する必要があったものが、この技術を活用することで、1/1 VRドームでは、高さ2.6mのスクリーンと、2台の高輝度プロジェクタによって、左右最大約180度の広視野角のVR投影を可能としたほか、立ち位置や高さといった視点を計算して、実物大である1/1サイズのスケールに投影することで、VRならではの没入感を高めている。
また、眺望型体感ルームでは、従来のモデルルームでの眺望表現が、引き伸ばした眺望写真やCG合成写真などの静止画像を利用しているにすぎなかったのに対して、4台の高輝度プロジェクタと超短焦点レンズを使用することで、窓から見える朝や夕方、夜の風景のほか、階数や部屋の向きを変えて、それぞれの部屋の眺望を見るといったことができる。
各住戸の眺望風景は、3Dデータのリアルタイムレンダリング技術を活用することでシミュレーションし、商談コーナーの卓上ディスプレイで見ることができる。
三井不動産レジデンシャル 選手村事業部推進室の高木洋一郎主菅は、「HARUMI FLAGの最大の特徴が『眺望』である。三方が海に囲まれているという立地にあり、その解放感が魅力であるが、この良さを伝える手法に限界を感じていた。海はおおらかであり、落ち着いた雰囲気がある一方で、船が行き来し、躍動的でもある。これを静止画の写真だけで見せても伝わらない。そこで、最新技術を活用することで、眺望の良さを伝えることにした。VIRTUAL STAGE MIERVAを利用したことで、その良さが、想定以上に伝わっている」とする。
また、「1,000タイプの間取りプランがあるが、実際のモデルルームの形で見せることができるのは、わずか5タイプだけ。だが、VRを使うことで、1,000タイプを見せることができる。さらに、今年末には建物が完成するが、そのまま選手村として使用されるため、実際には、購入希望者が現地を見学できなかったり、建物と建物の間の中央道路が50mもの幅があるものの、その解放感を体感できなかったりといった課題もある。高層棟は、東京オリンピック終了後の2021年から建設されるため、これも実際には、建築が終わるまで見ることができない。
こうした課題に加えて、街並みや豊かな緑が植樹された中庭、マンション内の共用スペースなどの様子をみたいという場合にも、VRを活用することで、臨場感のある体験が可能になり、これまでのモデルルームや販売センターが持つさまざまな課題を解決できる」とした。
パナソニック ライフソリューションズ社ライティング事業部エンジニアリングセンター 中央エンジニアリング部照明環境解析課の高島深志主幹は、「VIRTUAL STAGE MIERVAは、住宅をリアルに体感するための空間演出・創造プラットフォームであり、内装を提案できるバーチャルモデルルーム、ウォークスルーによって敷地全体が持つ魅力を体感できるバーチャル外構散策、1/1 VRによって解放感があるバーチャル眺望体験、実写コンテンツの迫力を表現する360度映像を提供している。
VIRTUAL STAGE MIERVAによって、実展示できるプラン数には制限があることや、戸別の景観イメージが不明であるといった既存のモデルルームの課題と、ゴーグル型では1人だけでの体験となり、複数人でイメージが共有できない、あるいはゴーグルを着けたくないというVRの課題を一気に解決できる。
汐留サイバードームでの技術蓄積をもとに、3Dデータや動画データを入力するだけで、1/1スケールに自動変換する技術を活用するとともに、限られた空間でも最適な投影ができるようなスクリーン形状、プロジェクタ台数の評価を行なう一方で、最適なレンズの採用や、人の影が映らないように映像領域を検証する投影シミュレーションによる事前検証を実施。これによって、最適な映像とともに、省スペース化、ハードウェア台数の削減を図った」という。
「HARUMI FLAGパビリオン」の1/1 VRドームでは、2台のプロジェクタと、1台のPCで制御。同じ体験空間を平面スクリーンで実現するには、縦13.3m、横27.7mの1,208型という大規模スクリーンが必要であったが、円柱状のドーム型にすることで、高さ2.5m、横幅5.2mに圧縮して体感できるようにしたという。
「今後は、パナソニック製品のデータなども活用することで、建築設計のBIMワークフローに組み込み、空間価値創造の迅速化を図る」としている。
汐留サイバードーム
一方、汐留サイバードームは、等身大広視野角で、複数人が3D立体映像を閲覧可能な映像装置で、パナソニック東京汐留ビルに設置している。
直径9mの球をカットしたサイズとなる、高さ8.5m、横幅8.5mの世界最大級のドーム型スクリーンを採用。18台のプロジェクタを利用して、10台のPCを活用して、これらを制御し、3次元CADデータをもとに、等身大の立体映像を体験できる。
最大視野は水平180度、見上げ90度、下方60度の没入体験が可能だ。CGだけでなく、ビデオ映像も立体的に体験できるのが特徴で、都市などの計画、設計プロセスにおける関係者の合意形成にも効果的だという。
ドーム型スクリーンへの映像表示歪み補正ソフトウェアは、経済産業省の平成14年度次世代VR等推進事業において、パナソニック電工が研究委託を受けて開発したものを一部利用しているという。
デモストレーションでは、Fujisawa SSTの景観や、渋谷駅周辺再開発におけるVR映像を表示した。
パナソニック ライフソリューションズ社ライティング事業部エンジニアリングセンター 専門市場エンジニアリング部都市・空間VR推進課の大石智久課長は、同社のVR技術の取り組みについて説明。「パナソニックは、VR技術において、顧客ごとに異なる課題解決のためのアップデート性能、ライティングを中心にした機器やソフトナレッジの活用、大型プロジェクション技術やAR、スマートデバイスとの連携において強みがある。これらの特徴を通じて、顧客ごとに唯一のカスタマイズサービスを提供できる。
また、専門知識を持つコンサルタントが顧客の要望に対応する点も特徴である。パナソニックは、VR技術を、顧客との接点をつくるための見える化インターフェイス技術として、重視していくものになる」とした。
パナソニックのVRの歴史
パナソニックでは、1990年に、システムキッチンの使いやすさの検証用途にVRシミュレーションを活用した「システムキッチンVRシステム(VIVA)」を、開発。旧松下電工の新宿ショールームに導入して、「つくる前に、設計段階で、あなたのシステムキッチンの使い勝手を確認」することができるようにした。
それ以来、約30年間に渡って、街づくりや都市再生、地方創生などの社会的合意形成を中心に、同技術を活用。これまでに1,500件以上の案件での実績がある。2000年からは、景観・都市計画シミュレーション「環境計画支援VR」をスタートし、2年後に事業化している。
昨今では、商業施設やスポーツ施設などのリニューアルのさいに、照明設置シミュレーションにVRを活用し、快適な競技環境や施工性向上に効果を発揮しているという。
具体的な事例として、内閣府の「i-都市再生」における都市政策の調査支援で活用したほか、東京ドームでのLED照明の改修において、プレーヤーがまぶしさを感じない照明設計においても活用。Fujisawa SSTおよびTsunashima SSTにおけるスマートシティでは、新たな街づくりにおけるサービスの検証での活用や、渋谷駅周辺再開発においては、導線の検証など、街づくりにおける課題をVRを用いて抽出するといった取り組みを行なった。
今後の取り組みとして、VRデジタルプラットフォームの構築により、空間価値を創造。人起点で、家、街、社会でのくらしといった顧客の快適空間をシミュレーションし、バーチャルとリアルのインターフェースを目指すほか、行政や民間を中心に提供してきたVR技術を、より広く、さまざまな空間に暮らす人々のために活用する考えを示した。
「デジタルツインが注目を集めるなかで、VRを活用した取り組みはますます重視されるだろう。快適な暮らしや空間づくりのために、VR技術を進化させていく」とした。