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東北大ら、燃料電池の性能向上につながるn型混合電導体の開発に成功

吸着した酸素へ電子を供給する模式図。(a)がp型、(b)はn型混合電導体

 東北大学大学院工学研究科の高村仁教授らとマサチューセッツ工科大学の国際共同研究グループは、電子と酸化物イオン伝導が共存する「n型混合電導体」の開発に成功したと発表した。固体酸化物形燃料電池(SOFC : Solid Oxide Fuel Cell)の高性能化や作動時の温度低下が期待される。

 SOFCは、電解質に固形の酸化物を利用した燃料電池。現在のSOFCでは、正極(カソード)の材料としてコバルトや鉄を含んだ混合電導体で酸化還元反応を発生させている。正孔(ホール)と酸化物イオンが電気伝導を行なうため「p型混合電導体」と呼ばれるが、p型の場合は電子がエネルギー的に低い位置にあるため反応が不利となる。

 一方、電子と酸化物イオン伝導が共存するn型混合電導体の場合、p型と比べて電子がエネルギー的に高い位置にあるため、より効率的な電子の供給が可能で、酸化還元反応を促進する。しかし、実際にSOFCに使用した場合、750℃前後の高温・大気中にさらされる正極部分では電子と酸化物イオン伝導の共存が困難で、実現されてこなかった。

 混合電導体で酸化物イオン伝導性を得るためには酸素の空孔が必要で、今までは完全結晶に「アクセプター」と呼ばれる元素を置換するのが欠かせなかった。しかし、このアクセプター置換では酸素の空孔とともに正孔も生成されるため、作製されるのはp型混合電導体となってしまう。

 そこで本研究では、元から多数の酸素の空孔を含んだ不完全な結晶に対して「ドナー」と呼ばれる元素を置換する手法を採用。酸素の空孔を完全に消失させず、電子を生成することに成功した。これにより、酸素の空孔と電子が高温でも安定的に共存可能なn型混合電導体の開発が可能となった。

 研究グループでは、引き続き今回開発したn型混合電導体を現在のSOFCの正極材料として適用し、特性を明らかにするという。また、SOFC以外の高温電気化学デバイスやリチウム二次電池などへの応用も期待されている。