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GeForceユーザー向けキャンペーンの影に「Adobe Sensei」あり
2019年3月28日 16:35
米Adobeは、3月26日~3月28日の3日間に渡り、同社がクラウドサービスとして提供しているデジタルマーケティング支援ソフトウェア「Adobe Experience Cloud」関連のプライベートイベント「Adobe Summit」をアメリカ合衆国ネバダ州ラスベガス市で開催している。
そのなかでAdobeは、同社のAIプラットフォーム「Adobe Sensei」を利用したデジタルマーケティングの手法に関していくつかの新しい発表を行なった。
その1つとしてNVIDIAは、同社のデジタルマーケティングの効率化にAdobe Experience Cloudを利用し、ユーザー層に最適化した電子メールの配信などの効果的なデジタルマーケティングを行なっていると紹介した。
Adobe Experience Cloud向けにも提供されているマシンラーニングAIのAdobe Sensei
Adobeが提供している「Adobe Experience Cloud」は、効果的で効率の良いデジタルマーケティングを支援するためのソフトウェアで、大企業などが電子メールの配信や、SNSへの情報配信などをより効率よく行なうことができるようになっている。
その「Adobe Experience Cloud」向けに提供されているマシンラーニング(機械学習)AIサービスが「Adobe Sensei」。日本語の「先生が教えるよう」にという意味を込めて「Sensei」と名付けられたこのAIは、同社のクリエイターツールである「Adobe Creative Cloud」でも採用されており、写真のレタッチ時に、領域の指定をAIが自動で行なうなどの用途に利用されている。
「Adobe Experience Cloud」でも、Adobe Senseiは機械学習ベースのAIとして提供されていることは同じだ。ただし、Creative Cloudの使われ方とは異なり、たとえばビッグデータと呼ばれるデータを解析して、ユーザーを属性ごとに分類する用途や、ユーザーの傾向を把握する用途に利用される。そのほかにも、デジタルマーケティングにかかった費用と効果をAdobe Senseiが測定し、費用対効果を数字として見せるなどの機能も用意されているという。
よく知られている用途としては、eコマースサイトのリコメンデーションがある。特定のIDの利用傾向などをAIが分析し、そのユーザーが欲しがっていそうなモノをAIが選択し、ユーザーがeコマースサイトでブラウジングを利用しているときに、そのモノを表示するという仕組みは、eコマースを利用したことがある読者なら一度ならず体験しているのではないだろうか。
Adobe Senseiはそうした機能を、ユーザーが利用しているeコマースサイトの“雲の向こう側の縁の下の力持ち”として動作している、
GeForce RTX 20シリーズの発売キャンペーンやGTCの参加者募集にもAdobe Senseiが活躍
今回AdobeとNVIDIAが共同で行なったセッションでは、NVIDIAがAdobe Senseiを利用してどんなことを行なっているのかが説明された。NVIDIAはデジタルマーケティングの基盤として、B2C(Business to Consumer、企業から一般消費者へ)はAdobe Experience Cloudを、B2B(Business to Business、企業対企業)に関してはMarketoを活用してきた。Marketoは昨年(2018年)にAdobeが買収することを発表しており、すでに会社統合も終えているため、NVIDIAのデジタルマーケティングの基盤はB2BもB2CもAdobeベースなっている。
今回のセッションではB2C、つまり一般消費者向けのキャンペーンがどのように行なわれているのかを中心に説明が行なわれた。
NVIDIA デジタルインテリジェンス担当 シニアマネージャ タム・トラン氏によれば、NVIDIAはAdobe Senseiを主に3つのAIの用途に使っているという。それが属性(アトリビュート)AI、顧客管理(カスタマー)AI、全体管理(ジャーニー)AIの3つだという。
属性AIというのは、ある特定のID、あるいはある特定のIDの集合がどんな属性であることなどを把握するためのAIで、それを活用するとどのキャンペーンに投資した結果それがどれだけの売り上げにつながったかと分析したり、広告を打つにはどんなメディアに対して広告を打つと効果的なのかということを示してくれるものだ。
なお、誤解のなきようにお断わりしておくが、特定のIDというのは、それが誰であるかということを特定したIDではない。IDが誰であるかはわからないような取り扱いをするのはデジタルマーケティングの世界では常識になっており、とくに欧州ではGDPRという厳しい個人情報保護の考え方が導入されており、グローバルにビジネスを行なっている企業の場合にはそれに準拠した扱いがされているため、ユーザーが自分の情報の削除を要求ができるようになっているし、それが誰であるかは特定できないような仕組みが設けられているのが一般的だ。
トラン氏によれば、NVIDIAはこの属性AIを利用して、実際にGeForce RTX 20シリーズの発売時などのキャンペーンに活用し、電子メールを利用したキャンペーンや、広告、アフェリエイトなどの仕組みを利用して、従来よりも効果的なキャンペーンが可能だったという。また、先週NVIDIAが主催して行なわれたGTCの有償参加者募集でも、従来よりも5倍ほど成約に繋がったという具体的な効果がでているとトラン氏は説明した。
さらに従来は評価が難しかった、北米、欧州、日本での費用対効果に関しても、Adobe Senseiによりより簡単に出せるようになったということで、今後その結果により、各リージョンへの予算配分などが行なわれるとのことだった。
Adobe Senseiを利用してユーザー全体の動向を把握したよりメールキャンペーン
2つめの顧客管理AIでは、特定のIDがなぜその製品を購入したのかを分析したりできるものだ。たとえば、あるIDがハイエンドGPUを使っていると推測できれば、なぜそのIDがハイエンドのGPUを購入したのかなどを分析できたりするということだ。
デジタルマーケティングの用語ではそういうことをパーソナライズというのだが、たとえばそれをもとに国ごとの平均的なゲーム時間を出したり、ゲームを何時間するユーザーがどのぐらいの頻度で同社のWebサイトを訪れているのかなどをデータにすることができる。
それをもとに、たとえばゲームを長時間プレイしているユーザーに対して、新しいGPUを買いませんか、少しお安くなりますよというキャンペーンのメールを出したりなどの効果的なキャンペーンが可能になる。トラン氏によれば、そうしたAIの解析と、実際の統計を比較してみたそうだが、96%の整合性があると判明したとのことで、AIの解析の確度は高いとわかったそうだ。
そして最後に全体管理AIでは、どうやってどのIDにリーチするのが良いかをAIが示してくれるという。たとえば、電子メールでキャンペーンを送るとしても、あまりしつこく送ると、ユーザーは電子メールの登録を解除してしまうので、逆効果になりかねない。そこで、AIが全体の動向を分析し、たとえばお昼頃送っているメールは読まれて、新しいGPUの購買に繋がっているなどの評価をするという。それにより、従来よりも14%ほどURLをクリックする数が増え、メーリングリストの解除率3分の1になったという目に見える効果があったとのことだ。
現代ではNVIDIAにせよ、AMDにせよ、ユーザーに電子メールを登録してもらい、キャンペーンのメールを送るというデジタルマーケティングは当たり前になりつつある。ユーザーとしても、おいしいキャンペーンは大歓迎のはずで、そこは持ちつ持たれつの関係でもあると言えるのだ(必要が無ければいつでも解除できるのだし)が、そうした背後には今回紹介したAdobe SenseiのようなAIが動いて最適化しているというのは、なかなか興味深い内容だった。