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消防庁、大規模火災に対応する消防ロボットシステムを開発 複数種類のロボットで構成
2019年3月22日 18:37
消防庁は2019年3月22日、石油コンビナート等の大規模火災時のために開発している消防ロボットの実演を、東京都・調布市にある消防庁消防大学校消防研究センターで公開した。総務省消防庁が「エネルギー・産業基盤災害対応のための消防ロボットシステムの研究開発」として2014年度から5年計画で開発中のロボットシステムで、複数のロボットから構成されている。消防隊員が現場に近づけない状況で災害の拡大抑制を行う「実戦配備型の消防ロボットシステム」だという。
ロボットは飛行型偵察・監視ロボット、走行型偵察・監視ロボット、放水砲ロボット、ホース延長ロボット、そして指令システムで構成される。各ロボットは自律技術、協調連携技術、耐放射熱技術を活用しており、1台の車輌に積載し出動する。いずれもロボットが銀色なのは熱を反射させるための布で覆われているからだ。95%の熱を反射することができ、透過してくる残り5%の熱も今回開発した特殊な自衛噴霧機構で処理できるという。
まずは上空から偵察を行なったあと、地上のロボットが状況を確認し、実際に放水による消火活動を行なう仕組み。ロボットの移動経路などは基本的には指令システムが自動で計算し、消防隊員に提案する。システムは風向きや火災が発生しているタンクの特性なども考慮された上で、どんな角度で放水すればいいかなども提案してくる。問題なければ隊員はシステムの指示にゴーを出すだけでいいので、ほぼ自動で活動できるという。ロボット同士はそれぞれが撮影した画像なども合わせて自動的に動きを修正する。
来年度から千葉県市原市消防局に実証配備され、「エネルギー・産業基盤災害即応部隊(ドラゴンハイパー・コマンドユニット)」が効果を検証する予定。有効性を確認しながら、今後の配備を進めていく。
飛行型偵察・監視ロボット
「飛行型偵察・監視ロボット」は産業用UAVのメーカーである株式会社AileLinXが開発したドローン。長さ1.5×0.5×1m(長さ×幅×高さ)。重さは69kg。同軸二重反転型のドローンで、テールローターはない。プロペラによる風は本体を冷やすように設計されている。移動速度はマニュアル操作時で時速60km、自律飛行時は時速約15km。飛行時間は1回あたり13分。
輻射熱に強く、複雑な気流の中でも安定して飛行でき、自動飛行が可能だという。上空から可視画像、熱画像、輻射熱量、可燃ガス濃度、風向・風速などの各種データを地上に伝送することができる。つねに地図上で指定された目標物を撮影し続けることができる。輻射性能は8.0kW/平方m。
走行型偵察・監視ロボット
「走行型偵察・監視ロボット」は三菱電機特機システムが開発した。サイズは1.4×0.9×1.8m(同)。重さは285kg。通常走行用の装輪操舵と、不整地走行用のクローラを備えている。移動速度は5.5km/h(装輪)、2km/h(クローラ)。乗り越え可能段差は40cm。
地図上の指定位置までの自律走行機能を持つ。可視画像カメラ、熱画像カメラ、放射熱センサ、温度センサ、可燃性ガスセンサ、RTK-GPS、LiDAR、3軸マニピュレータ、IMUなどを装備している。マニピュレータ可搬質量は10kg。耐放射熱性能は 8kw/m2(耐放射熱カバー使用時)。
放水砲ロボット、ホース延長ロボット
「放水砲ロボット」と「ホース延長ロボット」は三菱重工業と深田工業株式会社、東北大学が開発した。いずれも4輪駆動、前輪操舵でバッテリで駆動する。耐輻射熱性能はいずれも20kW/平方m。
「放水砲ロボット」は、2.3×1.4×2.1m(同)。重さ1,700kg。最高時速は7.2km。人が近づけない場所で消火冷却を効果的に行なう。「ホース延長ロボット」は2.4×1.7×2.1m(同)。重さは2,800kg。最大300mまで消防用ホースを自動敷設して「放水砲ロボット」に効率良く水を供給する。
「放水砲ロボット」は、放水または泡放射を行うノズルを備え、1分間に4,000L、圧力1.0MPaで放射できる。放水口は特殊形状で、中心部を泡、周辺部を液状で放射する「セミアスピレート泡放射」をすることで目標に届きやすい泡水流を放出することが可能。偵察・監視ロボットによる情報をもとに自律走行して放射位置まで移動し、風の状況を判断しながら最適なノズル方向を自動設定する。風の変化による位置ずれも自動認識できるという。
「ホース延長ロボット」は画像認識を使って前を走行する放水砲ロボットに自動追従するロボット。内径150mm(呼び径150A)の消防用ホースを最長300m搭載可能。曲がり角を含む目的の経路上に、硬くて重い(2kg/m)ホースを適切に敷設できるよう、ロボットの走行に合わせてリールを自動制御してでホースの送り出しと巻き取りを実現した。高耐熱性能を持つホースも新たに開発した。
この2つのロボットは堅牢な足回りで高い走破性を持つ農業用小型バギーを改造した専用車体にGPSやレーザーセンサーを搭載し自律制御可能な移動台車としたもの。互いに消防用ホースで接続された状態で自動運転で火元へ向けて走行できる。移動速度は7.2km/h。
複数のロボットを統合する「指令システム」
三菱重工と三菱電機特機システムによる「指令システム」は今回が初公開。ロボットの自律・協調連携を行なう制御システムで、各ロボットがどう動くべきかを消防隊員に提案し、消防隊員はシステムの提案に対して決定を下す。メインPC 1台、ラップトップPC3台からなる。
大規模火災に対する「技術の結晶」
プロジェクトリーダーである総務省消防庁消防研究センター 特別上席研究官
天野久徳氏は、開発背景には2つの災害があったと述べた。1つ目は東日本大震災での市原市LPG貯蔵施設の爆発火災。もう1つは日本触媒姫路製造所での爆発火災だ。後者では消防職員1名が亡くなった。これらの人が近づけない大規模火災への1つの回答がロボットではないかと考えて、今回、「技術の結晶として完成した」と述べた。
今回のロボットの耐熱性能は、日本で最大の石油コンビナートで大火災が起きたときに50m程度離れたところで計測される発熱量から決められた。石油コンビナートは上に屋根が浮いている状態で、通常の火災は蓋の周りの部分で発生する「リング火災」だが、その浮いている屋根の部分が沈んでしまうと、直径100mの油の池が燃えてしまう全面火災も起こり得る。そのときの熱量と射程から、20kW/平方mという値を決めたとのこと。今回開発された要素技術の一部はほか装備開発にも活かしていく予定。