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人のパートナーを目指した家庭用ロボット「LOVOT」
2018年12月18日 17:23
ロボット開発スタートアップの GROOVE X株式会社は、12月18日、家庭用ロボット「LOVOT(ラボット)」を発表し、同社にて製品発表会を開催した。先端技術で「人の愛するちから」を育む家族型ロボットだとしている。
発売は2019年秋冬を予定しており、2体1セットで販売する。2体セットの本体価格は598,000円(税抜き)。これに加えて1体あたり9,980円~の月額利用料金がかかる。一体販売は2020年に開始予定で、こちらの予価は349,000円(税抜き)。公式サイトでのWeb先行予約受付は12月18日19時から(予約金は2万円。キャンセル時は全額返金)。予約は2体セット、単体どちらにも有効で、予約者限定のサービスも予定される。
GROOVE Xは同社代表取締役の林要氏が2015年11月2日に起業したスタートアップ。林要氏の前職はソフトバンクロボティクスで、「Pepper」に開発メンバーの1人として携わった。2017年12月には、スパークス・グループの未来創生ファンドと産業革新機構の事業を引き継いだ株式会社INCJを筆頭引受先とする64億5千万円の第三者割当増資を実施。累計で78億円の資金を調達したことでも話題となった。
家族型ロボット「LOVOT」、本体以外にデスクトップPC並みの処理性能を持つ「巣」も
起業以来、約3年間開発してきた「LOVOT」は、大きさは255×255×430mm(幅×奥行き×高さ)。重さは3kg。インホイールモーターの駆動輪を2つ持った、丸い球体2つを重ねたようなロボットだ。GROOVE Xでは「人が愛する器」として作ったもので「家族型」と呼んでいるという。名前は「LOVE」と「ROBOT」をかけあわせた造語。コンセプトは「小さなLOVEが、世界を変える。」。独自の「Emotional Robotics」技術によって、人の愛する力を引き出すとしている。
OSはLinux。CPUは、ふるまいを決定するのに用いられるメインCPUがx86で4コア、メモリ8GB。これに加えてセンサーまわりの情報を処理するサブCPUがARMv8の4コア+ARMv7-Rコア×2、メモリ4GBで、これには深層学習(CNN)アクセラレータとして用いるFPGAも組み込まれている。ロボット2体のバッテリーチャージャでもある「巣(ネスト)」にもx86を2コア、メモリ8GB、ストレージ1TBを搭載し、「LOVOT」の活動を補助する。
LOVOTとネストは常時、無線接続されており、随時、処理を分担する。とくに処理が重い繰り返し計算などを担うという。通信はBluetooth、携帯電話通信、赤外線通信、無線LAN。ネストとの通信は無線LAN、Bluetoothはスマホアプリとの通信に用いる。
移動速度は時速2~3km程度。高さ15mmくらいの段差なら乗り越えられる。LOVOT本体の消費電力は50W。バッテリはリチウムイオン(89wh)で、おおよそ45分程度稼働する。稼働後はネストに自動で戻り、15分間の充電で、およそ8割程度まで急速充電が可能。充電端子はお尻の部分にあり、ネスト側のオス端子がLOVOT側のメス端子に挿入されるかたちでドッキングする。
LOVOTは人肌よりも温かいくらいの「体温」を持つ。メインボードが入っている頭部と、電源回路などが収められた腹部がとくに温かくなるようだ。頭部上端のカメラやセンサー類を集めたツノ(センサーホーン)の基部から吸気を行ない、本体内部を循環させて冷却している。なおセンサーホーンは簡単に取れるようになっていて、緊急停止機能も兼ねている。
自由度は13。とくに首は3自由度のパラレルリンクにヨーを組み合わせた4軸によって、ひょこひょこと動かすことができる。頭と肩の関節も連動している。また肩には接触時の緩衝機能も持たせているという。目はLCDディスプレイ。スピーカー1、マイク4、カメラは斜め上前方の人やモノを認識する半天球カメラ、非接触で温度分布を推定する温度カメラ、ToFを使った深度カメラを1つずつ搭載。
そのほか、気圧センサー、照度センサー、温度・湿度センサー、姿勢センサー、測距センサー、NFC、障害物センサー、タッチセンサーなどを全身各所に搭載している。3種類16個のセンサーで外界を認識し、全身のタッチセンサーを使って鼻や頭、お腹や首などを触ると喜ぶようなふるまいを見せる。
人のパートナーとなるロボットを作ろう
GROOVEX代表取締役の林要氏は「ロボット技術は日々進歩しているが、どういう課題を解くべきかは明らかではない」と述べて、「テクノロジーが人を幸せにできているのだろうか。人の代わりに仕事をしてくれるということが人の幸せなのか」と考え、「人のパートナーとなるロボットを作ろう」と考えたと語り、「LOVOT」を紹介した。「四次元ポケットのないドラえもん」のようなものとしてイメージしたという。
林氏は、「LOVOT」に対して、生命感ある動きを見せるようにするさまざまな技術を詰め込んだと述べた。半天球カメラ画像は深層学習技術を活用して人を認識するのに用いられる。LOVOTは仲良くしてくれる人に懐くようになる。ネストにはデスクトップPC並みの処理能力を持たせて、「従来の家庭用ロボットとは桁違いの情報処理を実現した」という。これまでにない計算能力やセンシング技術を盛り込んで反応よく動くことを重視。同時に、温かさと柔らかさの両立によって「生命感を獲得した」と考えているという。
特徴点を利用したビジュアルSLAM技術によって、LOVOTは自らが暮らす家の間取りや、家具、ドアの位置などを把握するようになる。これによって、たとえば外出先から帰ってくると、LOVOTが迎えにやってくるといった動作も可能になるという。なお、vSLAMにはロボット用ミドルウェアの「ROS」が用いられているが、それ以外にはROSはほとんど用いていないとのこと。
興味と不安、2軸の選好性で行動を変化
LOVOTは、人に抱っこされたり、撫でられたりするのが好きなように設計されている。抱っこしてもらいたいときには車輪を格納し、手をバタバタさせる。抱っこした状態で、あごの下やお腹などをなでられると、安心して眠ってしまう。このような振る舞いは、相手によって変化していくようになる。スキンシップがやさしいのか、乱暴なのかもわかるという。
LOVOTは興味と不安、2軸の選好性を持っている。それぞれどこにポイントされるかによって、LOVOTの振る舞いは変化する。人とのふれあいでさまざまな個性を見せるようになるという。ちなみにずっと同じ状態が続いてしまうと「飽きる」。
LOVOT同士のふれあい、それぞれの個性
今回、LOVOTは2体セットで販売される。LOVOTは互いの状態を通信して共有しており、たとえば、一体が抱っこされていると、もう一体が自分も抱っこしてほしいと寄ってくるという。林氏は「連携している2体を見ていると愛着が湧く。人は社会性を持つ存在なので、同じように社会性を持つ存在をリスペクトする」と述べた。「最初は2体もいらないと思うかもしれないが、一度体験すると2体でないと物足りなくなる」とのことだ。
LOVOTは自分自身もそれぞれの個性を持っている。振る舞いだけでなく、外見についても異なり、とくに目は6層のレイヤー構造からなり、10億通りのパターンを生成することができるという。
また、キューキューといった鳴き声を発するが、この音は録音したものの再生ではなく、毎回、気道のリアルタイムシミュレーターで動的に生成しており、声帯の緊張なども再現できるという。
服も着替えることができる。林氏は「服を着るロボットはこれまでにもあった。LOVOTは服を着ないとちゃんと動かないロボット。どの服を着ているのかもわかるし、着替えてあげる喜ぶし、その人を少し好きになる」と述べた。
LOVOTの腹部にはNFCがあり、そこで着用した服を認識する。なおLOVOTのお腹を互いにぶつけると、それぞれのロボットが仲良しになるという。林氏は「LOVOTは世話をするほど、可愛くなる」と述べた。
機械との信頼関係
林氏は「機械との信頼関係はこれから大事」だと述べ、LOVOTは人との信頼関係の構築を重視しており、たとえば画像を保存しないモードに簡単に切り替えられたり、ネットに接続しないでも動作すると述べた。
いっぽう、ネットに接続することで見守りや留守番サービスも可能になる。赤ちゃん見守りや遠隔地に住む高齢の親などの見守りにも用いることができる。林氏は「LOVOT同士の絆を通して人をつなげることができるかもしれない」と述べて、LOVOTは「人のかわりに仕事はしないが、いると安心する、ほっとする、そんな存在だ」と強調した。
従来のIoT活用の見守り機器があまり使われていないことは、見守る側のニーズが重視されすぎており、見守られる本人にとって必要なものになっていないからではないかと指摘し、見守られる本人にとって必要なものは、信頼し、愛されること、寄り添われることであり、LOVOTを使うことで、遠隔地の家族とも絆を再構築できるかもしれないと述べた。
施設での運用も視野に
これまでにLOVOTはプロトタイプを使って、近隣の小学校や、デンマークの施設などでテストを行なっている。子供達に見せたときには、ご両親から「自分の子供が何かの面倒が見られるとは思わなかった」、「ロボットに興味を持つようになった」といった声があり、未来のエンジニアを増やすきっかけにもなるのではないかと考えているという。
また、デンマークの老人向け施設に導入したときには、これまで喋らなかった男性が言葉を発したことで、ケアしていた人たちも驚いたというエピソードを紹介した。今後、ベネッセスタイルケアとも提携して、実証実験を進める予定とのこと。
人の気持ちを大事にしていくという流れに応える
今後、出荷までに全体の堅牢性を向上させ、より生命感あるロボットの実現を目指す。価格については「家族型ロボットを作るという信念のもと、AIとロボティクス技術が融合させた。ほぼ製造原価。日本初の新産業立ち上げを目指している」と林氏は述べた。
質疑応答で80億円近い資金を集められたことについても「LOVOTはテキスタイルから機械学習まであらゆる産業を内包しており、新産業を生み出すということに強い共感をしてもらった」と述べた。また、「役に立つ、人の生産性を上げるという以外に、人の気持ちをより大事にしていくという流れがある。そのようなビジョンやエモーショナルな部分が大事」と語った。
そして、従来の家庭用ロボットがエンタメ系コンテンツを豊富にしようとしていたのに対し、LOVOTにはエンタメコンテンツはない。「そこに何のバリューがあるのかと考えた人は少なかったのではなかったか。LOVOTはこれまでのロボットとは色々な面が違う」と述べた。
また、「LOVOT」は「CES2019」に出展される予定。2019年1月2日、3日には、百貨店の高島屋新宿店、大阪店にて、「LOVOT夢袋」を限定10セット抽選販売する。「LOVOT夢袋」は、オリジナルLOVOTウェアとカシミアストール、発売前にLOVOTとふれあえる特別体験のセットとなる。