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社員PCを仮想化するVDIに活用されるvGPU技術「NVIDIA GRID」
~フアン氏はPCがクラウド化される未来を語る
2018年9月14日 20:50
NVIDIAは、9月13日~14日にかけて、「GTC Japan 2018」を開催した。
2日目となる14日、ハーゲンダッツジャパン株式会社による、NVIDIAの仮想GPU技術「GRID」を活用した、仮想デスクトップ基盤(Virtual Desktop Infrastructure: VDI)の構築についてのセッションが行なわれた。本稿では、同セッションと関連する内容についてお伝えしたい。
VDIでどこでも仕事ができるようになるも、課題も持ち上がる
「社員の仮想デスクトップ環境が飛躍的に改善! 新VDI基盤で実現した生産性の向上」と名付けられたセッションには、ハーゲンダッツジャパン株式会社 情報システム部マネージャーの竹下新一氏が登壇。
竹下氏は、ハーゲンダッツジャパンでは、5年前から全社員のPCをVDIへと移行させていると説明。
導入ベンダーによるインフラ構築を経て、実際にVDIを導入したところ、当初想定していたとおりのメリットを享受できたとした。
具体的には、どの支店・工場からでも、社員各人の環境でメールやマイドキュメントの利用が可能となり、支店出張にPCの持ち運びが不要となったほか、自宅PCを業務PCとして活用でき、育児や介護などに合わせた働き方多様化や、緊急対応が可能になったという。
また、VDIをホストするサーバーは本社にあるため、支店やモバイル環境からでも本社と同等のレスポンスで社内システムを利用できる点もメリットとして挙げた。
当然ながら、VDIの場合には環境が仮想化されているため、1台ごとにオペレーションを行なっていた旧来のPC環境と異なり、マスターイメージから1度の操作で全台にアップデートなどを適用できるため、管理部門のタスク軽減にもつながる。
VDIならばクライアント側のハード性能は必要としないため、社員用のPCの単価を下げられる点もメリットではあったが、実際に導入当初に安価なPCへの入れ替えを行ない、差額をVDI構築の費用として割り当てたものの、社員から「持ち運ぶにはPCが重い」といった声が多かったことから、2017年に全台をモバイルに適したPCに再度入れ替えてしまったため、同社の場合には、結果的に経費削減にならなかったとのことだ。
しかし問題点もあり、導入されたVDIでは、アプリケーションの処理が遅かったり、固まりやすいといった事態が多発したという。
GRIDの導入でユーザー体験を大きく改善
竹下氏は、VDIの導入時に、ベンダーから「既存環境の調査のために監視ソフトを入れて現状を分析すれば、より最適なシステム提案ができる」と言われていたものの、調査費用がかさむため、社内で既存環境のヒアリングを行ない、それを基に利用者数や用途(アプリ)、拠点数からリソースを算出して、それをベンダーに提供してシステム構築を行なったと説明。
そのリソースを計算するさいに、ヘビーユーザーとライトユーザーの使用リソースを平均化して計算してしまったために、ピーク時にリソース不足になり、快適でないVDI環境になってしまったと語った。
そこで今回、環境の改善に向け、あらためて既存のVDI環境に監視ソフトを導入し、1カ月間にわたって1時間ごとにリソースの利用状況を分析したところ、ほとんどの時間でリソースが不足気味になっていたことがわかったという。
NVIDIAによれば、VDI環境の構築においては、顧客の予算の問題などからベンダーがホストのリソースを絞って提案することが多く、遅くなったと社員から不満が出る事例が多くあるという。
この分析によって、新VDIシステムのCPUやメモリ、ストレージ、ネットワークに関するリソース改善は見当がついたが、竹下氏は、実際に導入するまでVDI環境の体験はできないため、社員の体感の改善に不安があったと述べた。
既存VDI環境では、アニメーションを使っている新商品のキャラメルアイスの商品ページが、VDI環境で表示できず、マーケティング部門から「自社Webページの『塩キャラメル』が表示されない!」と問い合わせがあり、ネットブレインズから「Webブラウザのウィンドウサイズを小さくすれば、なんとか表示できます」と回答をもらってなんとか事なきを得たことを明かし、そういった体験から、本当に大丈夫なのかという懸念があったとした。
それについてネットブレインズに相談したところ、GPUリソースのためNVIDIA GRIDを提案されて、社員に快適な環境で業務を行なってもらいたいと考え、採用を決定したという。
GRIDを採用した新VDIでは、初回ログイン処理の速度や、グループウェアの起動、Officeソフト類の起動や操作、Webブラウザのページ表示など、さまざまな部分で改善がみられ、とくに初回ログインとWebブラウザ表示は大幅な高速化を実現。
安定した快適なVDI環境を提供できたことで、情シス部の作業やヘルプ対応の負荷も軽減できたとした。
今後は、BCP基盤へのVDI環境追加、GRIDのバージョンアップにあわせて、仮想マシンを別ホストにホットマイグレーションできるvMotionへの対応、2019年3月を目標としたWindows 10への切り替えを予定していると語った。
よりGPU依存が高まっていくWindows 10
NVIDIAによれば、Windows10では、文字のレンダリングにもDirectXを経由してGPUを使う「DirectWrite」の実装など、GPUの重要度は増しており、実際にWindows 7とWindows 10を比較すると、グラフィックスリソースはOS部分で32%、アプリケーションでは平均200%も消費が増えているという。
さらに、Windows 10ではアップデートごとにGPU依存が高まっていることもあり、VDI環境でもGPUによるグラフィックスリソースを確保しなければ、快適なユーザー体験を実現するのは難しいとした。
未来のPCはクラウドに?
本件に関連して、基調講演後の質疑応答において、NVIDIA創業者兼CEO ジェンスン・フアン氏は、PCの未来としてクラウドコンピューティングが前提になる時代を挙げていた。
フアン氏は、「これまでのコンピュータは、それぞれ個人が所有しているが、これからはそれとまったく異なり、コンピュータはクラウドに置かれるもので、皆がそれを共有する形に変化するだろうと語った。
同氏は「これまでの25年間で、コンピューティングは10年ごとに1,000倍の性能向上を達成してきたが、これからの10年も同じに進化をつづけると信じている。しかし、(新機種に買い換えるたびに価格が上昇していては、いつか購入する余裕がなくなってしまうため)PCのコスト(価格)は一定である必要がある。一方で、1,000倍もの性能向上を実現するには、クラウドコンピューティングが必要になる」と説明。
クラウドのコンピューティングリソースを共有することで、1人あたりのコストを変えず、高いコンピューティング性能が得られるため、それが理に適ったやり方だとした。
また、クラウドコンピューティングが一般的になれば、PCのコストは同じまま推移するか、むしろ下がるだろうと述べ、1,000倍の進化を実現するために、我々は新しいアーキテクチャを開発していくとアピール。
同氏は、たとえ半導体の性能が、物理学的な上限に到達してしまったとしても、コンピューティングは単なるチップによって得られるものではなく、アルゴリズムとシステムによるものであり、アーキテクチャの改善によって性能を向上させつづけられると語った。
同社では、ゲーミングの領域においても、クラウドゲーミングサービスを提供するなど、PCのクラウド化を見据えた動きがこれまでも見られたが、あらためてフアン氏自身の回答で、そのビジョンが明らかになった印象を受けた。
現在では、かつて部屋を埋め尽くした機器群から進化して、「パーソナルコンピュータ」が普及しているが、PCが“個人のコンピュータ”ではなくなる時代が到来するのかもしれない。