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じつは“Type-C 1ポートだけ”から大きく変化していた「ThinkPad X1 Carbon」
~レノボ、みなとみらいの大和研究所を公開
2018年6月20日 19:48
レノボ・ジャパン株式会社は19日、横浜・みなとみらいにある「大和研究所」の品質試験設備を、報道向けに公開した。
試験設備の公開に先立って、1997年からThinkPad開発に関わり、現在はPC開発事業推進/製品保証を担当している、レノボ・ジャパン株式会社 執行役員常務の横田聡一氏が、25周年を迎えたThinkPadブランドの歴史と、その開発哲学について語った。
大和研究所は、世界に3カ所あるLenovoの研究・開発の重要拠点の1つで、「ThinkPad」製品の開発などを担っている。
大和研究所はIBM時代から存在しており、かつては神奈川県大和市にあり、ThinkPadシリーズの開発拠点として、「大和事業所」として世界的に有名になった。現在は前述のようにみなとみらいへと移転しているが、“大和”の名前が引き継がれている。
横田氏は、もともと当時の日本IBMが、液晶パネルやHDD、チップセットの開発といったことも行なっており、生産施設(藤沢工場)も抱えていたことや、電池やカーボンファイバー技術など、小型デバイス製造に関わる技術が多く国内に存在していたことから、大和事業所がThinkPadの製造を担うこととなったと説明。
その結果生まれたのが、1992年発売の初代ThinkPadである「ThinkPad 700C」で、このときからThinkPadブランドは、モバイルPCによって仕事における場所の自由度が格段に向上すると考え、“働き方改革”を訴えていたと語り、ようやく時代が追いついてきたとした。
使い方の進化と試験設備の進化
ThinkPadは100万円もするデバイスだったことから、開発陣は「それだけ高いデバイスなのだから丁寧に扱うだろう」と考えていたが、実際に故障したとして戻ってきたThinkPadは、酷い状態のものが多数あったという。
同氏はそれ以降、品質設計のための試験に「拷問テスト」が追加されていくことになったと語った。
2005年ごろにあった例としては、大学生ユーザーの故障率がビジネスマンと比較して3倍も高い数字になっていたことを受けて、米国の大学へエンジニアを1週間派遣し、学生の利用シーンを観察させた結果、バックパックに固く重い教科書とともに突っ込んで、自転車に乗ってキャンパス内を移動していることが、高い故障率の原因ではないかということがわかったという。
その衝撃を再現するために、新たな試験設備の導入が行われたと語った。
同社は以前にもプレス向けに試験設備の公開を行なっているが(レノボ、みなとみらいに移転した大和研究所の内部を初公開、レノボ、大和研究所で「ThinkPad P」シリーズの拷問テストを公開)、試験のメニューは毎年決まっているわけではなく、同氏は「PCと同時に、ユーザーの使い方も進化している」と述べ、製品だけでなく、試験設備の開発も両輪で行なっていることを明かした。
ThinkPadの哲学
同氏は、初代の700Cからユーザーのビジネスの成功に貢献すべく設計されており、安全かつ堅牢で、電池も持つことを重視し、堅牢性と長時間タイプしても疲れないキータッチ、バッテリの要素にこだわっているとした。
社員証の裏に描かれているという「ThinkPad開発哲学の木」は、生産性を向上させることで、顧客の成功をサポートするというゴールに向けて、イノベーションや技術の種、顧客からのフィードバックを開発のベース(根)として吸い上げ、先進性と親しみやすさ、信頼される品質を幹として成り立っていると紹介。
しかし、信頼される品質と使いやすさ、先進性という要素は、それぞれ相反する要求になるという。
例えば、軽さや薄さという使いやすさは、堅牢性に相反し、高度なセキュリティは親しみやすい使用感に、一貫性はイノベーションに反する要素となる。
そのベストなバランスを取るには、ブレイクスルーを起こすか、忍耐強い試行錯誤でしか解決できないと述べ、どこがベストなバランスなのか常に挑戦し続けてきたと語った。
ThinkPadの理念としては、自然界に存在するデザインにはすべて意図があることから、目的/意図を持った合理的なデザインであること、仕事に専念できるように、PCを使っている/管理することを意識させない体験を提供すること、堅牢性と継続性のある、信頼されるブランドであることを掲げているという。
キーボードはIBMのタイプライター時代からの理念を継承し、自然なキー断面や絶妙なフォースカーブ、ゆとりのあるキーピッチを確保してきたと説明。
トレードマークである「トラックポイント」もキーボードから手を離さず、ホームポジションから動かすことなくカーソル操作ができるという合理的な操作性を実現しており、同氏は「生産性の面では究極のデバイス」だとアピールした。
また、使いはじめは慣れが必要だが、同氏の経験からすると「最初の3日を超えれば一生モノの操作感」とのことで、これからはさらに良さをプロモーションしていきたいと語った。
イノベーションパイプラインとは
ThinkPad製品の開発では、イノベーションパイプラインと称する流れで開発が行なわれるという。
早い時期にイノベーションのアイデア出しが行なわれ、「概念実証(Proof of Concept: PoC)」として、実際に稼働するレベルの高精度な試作品が作られるという。その後、PoC試作機を顧客に実際に見せることで、フィードバックを貰ったうえで、製品設計に落とし込みが行なわれる。
現在のLenovoでは、「プロダクトセントリック」から「カスタマーセントリック」への移行が推進されており、開発者が作りたいものを作るのはではなく、ユーザーの需要に合わせてチューニングを行なっていくことが重視されているとした。
ThinkPad X1 Carbonの例では、アイデア出しから計算すると2年半前からプロジェクトが動いていたと明かし、カメラ位置を下に配置すると使用感に影響を与えるとして、ポップアップ式Webカメラの実装をとりやめたり、アンテナ配置をパームレスト側に設置することによる影響の評価などが行なわれていたという。
一部顧客以外には今まで披露されることのなかった、X1 Carbonの試作機も披露された。
インターフェイスが別モジュール化されていたり、ディスプレイサイズが異なるなど、製品化にあたって大きく変化した部分が多数あるのがわかる。
現在では、大和研究所はThinkPadに限らず、オフィス内の生産性向上という分野まで裾野を広げ、国内未発売だが、会議システム製品の開発にも関わっていると紹介。スマートソリューションもみなとみらいのスタッフが注力している領域だと語った。