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NICT、原子時計をスマホに搭載できるレベルまで小型化
2018年1月23日 19:38
国立研究開発法人 情報通信研究機構(以下NICT)は、NICT電磁波研究所 原基揚主任研究員らが、国立大学法人 東北大学 大学院 工学研究科 機械機能創成専攻 小野崇人教授、国立大学法人 東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 伊藤浩之准教授と共同で、小型原子時計システムの開発に成功したと発表した。
原子時計は非常に高精度な時計システムで、日本標準時の生成などにも用いられており、GPS衛星や無線基地局など、一部の機器や施設などで設置、利用されている。
電子機器間の高精度かつ均等な同期を実現するための同期網構築には、原子時計そのものの高精度化だけでなく、原子時計を搭載した通信ノードの拡充も重要となる。そのさい、スマートフォンなどの携帯端末を含め、すべての通信ノードに原子時計を搭載するのが、高精度な同期の実現において最も理想的だが、大きさや重さ、消費電力の点などから、持ち運ぶ端末に搭載するのは困難だった。
欧米を中心に原子時計の小型化研究も行なわれているが、まだ数cm角程度の大きさがあり、携帯端末に搭載するには、さらなる小型化が求められていた。
今回発表されたのは、水晶発振器と周波数逓倍回路を必要としない、シンプルなマイクロ波発振器を用いた原子時計システムで、原子時計の大幅な小型化、低消費電力化を実現するという。
原子時計では、ルビジウムなどアルカリ金属元素のエネルギー準位差から得られる共鳴現象に、外部のマイクロ波発振器を同調させるように制御することで、安定した周波数を提供する。
マイクロ波発振は、低周波の水晶発振器を基に、周波数逓倍処理を行なって得るのが一般的だが、その方式を原子時計に用いると、基板の面積と消費電力の大部分を同発振器が消費してしまうという。
研究チームは、ギガヘルツ(GHz)帯で良好な共振が得られる、圧電薄膜の厚み縦振動に着目。この振動を利用し、3.5GHz帯で良好な共振が得られる「圧電薄膜共振子(Thin Film Bulk Acoustic Resonator: FBAR)」を周波数リファレンスとして採用することで、水晶発振器やPLL(Phase Locked Loop)を用いた周波数逓倍処理のための回路を必要としない、シンプルなマイクロ波発振器を実現した。
アルカリ金属元素から共鳴を取得する場合、アルカリ金属は気体状態にあることが必要で、ケースに封じ込め、レーザーによって観察する必要がある。
ケースには、従来は小型化と量産性に課題のあるガラス管を利用していたが、今回の実験では、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いた、ウェハプロセスで製造可能な小型ルビジウムガスセルを試作。小型化と量産性に優れているため、製造コストの圧縮を狙えるという。
実験では、同セルとFBARマイクロ波発振器とを組み合わた原子時計システムで、短期安定度2.1×10-11(平均時間1秒)の原子時計動作が確認され、市販の小型原子時計と比較して1桁優れた安定度を実現しているとする。同システムを市販の小型原子時計と比較した場合、チップ面積は約30%、消費電力は約50%抑制できるという。
NICTでは、今回の成果を踏まえてデジタル制御系の簡略化に着手し、2019年を目途にさらなる低消費電力化を目指すほか、高密度実装に適した光学系を持ったガスセルの開発も、2019年を目途に進めるという。発表内容は、21~25日に英国で開催される国際学会「MEMS 2018」にて発表される予定。