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「Type-C=USB PD対応」ではない。高速充電には認証済みType-Cケーブルも必要

~USB-IF認証取得の充電器「Energear」発表会レポート

EnergearシリーズのACアダプタ

 ゴッパ合同会社は、USB Power Delivery (以下USB PD)対応のACアダプタ/カーチャージャー「Energear」シリーズを、12月下旬より発売する。

 日本初のUSB Implementers Forum (USB-IF)認証済みチャージャーを謳った製品となる。本稿では、都内で行なわれた製品発表会についてお伝えする。製品の詳細については既報(日本初のUSB-IF認証取得USB PD対応ACアダプタ)を参照されたい。

 発表会には、ゴッパ合同会社の九鬼隆則氏、グラナイトリバーラボ・ジャパン株式会社の仲丸直江氏らが登壇し、製品説明およびUSB PDについての解説を行なった。

ゴッパ合同会社 九鬼隆則氏。手に持つマイクは同社のBluetooth接続できるスピーカーを内蔵するカラオケマイク
グラナイトリバーラボ・ジャパン株式会社 仲丸直江氏

 九鬼氏は、欧州や北米でも展開予定の製品だが、日本はそれらに先行しての発売になると述べ、日本で最初のUSB-IF認証ACアダプタとして発売することにこだわったと語った。

 仲丸氏は、USB Type-CおよびPower Deliveryの仕様について解説を行なった。Granite River Labs(以下GRL)は、製品試験サービスや試験ソリューションを提供する米企業で、グラナイトリバーラボ・ジャパンは、その日本拠点にあたる。

 Energear製品のUSB-IF認証にもGRLが関わっており、USB-IF規格に適合するよう連携してきたと説明。今回のUSB PDに関する解説は、EnergearがUSB-IFの認定を取得していることをアピールするために行なわれたものだ。

 なお、GRLもUSB-IFのメンバーで、テスト要件の策定などに関わっているという。

グラナイトリバーラボ
GTrustedというサイトで独自に市販製品のテスト結果なども公開している
USB-IF
USB-IFメンバー以外は閲覧できないが登録製品のリストも存在する

 仲丸氏はまず、USBの規格では、Vbusを使ってUSB 2.0で500mA、USB 3.1で900mAまでしか給電できない規格になっており、USB Battery Charging (USB BC) 1.2で1.5A(7.5W)までの給電が可能になっていると説明。

 USB PDはそれを超える給電をUSBで行なうための規格で、最大20V/5Aの100Wまでの給電が規格されている。

 USB PDは、Type-Cコネクタでのみ使えるよう規格で定められているが、Type-C規格とPD 3.0の規格は別のものであり、Type-Cコネクタでも充電は可能(3A/5Vまで)となっている。逆に言えば、「Type-Cコネクタ=USB PD対応」ということではないため、注意が必要だ。

 Type-Cコネクタは、上下や裏表の区別をなくし、USB PDの対応のほか、DisplayPortやHDMI、MHL、Thunderbolt 3、PCI ExpressといったUSB以外の規格も使えるようになっている。

なぜUSB PDなのか
PDとType-C
PDのコンセプト
Type-C端子とケーブル

 USBケーブルでは、USB 2.0は信号線とVbus(電源)、GNDからなっていたが、USB 3.1ではそれらに差動線が追加されて転送速度の高速化が図られている。Type-Cでは、USB 3.1からさらなる差動線の追加と、Configuration Channel(CC)、SideBand Use(SBU)、Vconnが追加された。

 上述のとおり、パワー(電力)のやりとりにはVbusが使われる。Type-Cでもそれは変わらないが、ネゴシエーションにCCラインが使われている。通信は信号ラインが使われており、このとき、パワーの向きと信号の向きは独立して動作している。

 給電側はDowstream Facing Port(DFP)やソース、プロバイダなどと呼ばれ、受信側はUpstream Facing Port(UFP)やシンク、コンシューマなどと呼ばれる。ノートPCのように、充電と給電のどちらも可能なポートはDual Role Port(DRP)と呼ばれている。

 Type-Cのコンフィグレーションプロセスは、まずDFPとUFPとの挿抜検知のあと、プラグ方向と面の検知、DFP-UFPと受給電関係の初期状態検知、Type-C Vbus電流検知と使用法という4つのプロセスを経る。

 このあと、USB PDの場合にはUSB PD通信と機能拡張の検出と設定が行なわれるという。

ケーブル構成
Type-C端子のピンアサイン。レセプタクル(メス側)はCCが両面にあるがプラグ(オス側)には1つしかないため、端子の向きを判別できるよう設計されている
パワーの向き
コンフィグレーションの流れ

 Type-Cには終端抵抗があり、シンク側はソースの供給可能電流を検出する。このときにケーブルも確認されている。

 Type-Cのケーブルには、Eマーカー(E-marker)ケーブルと呼ばれる、ケーブル長や電圧、電流などのケーブル情報を格納したLSIを搭載したものがある。LSIはVconnにプルダウン抵抗Raでつながっており、CCラインにパワーが送られるとネゴシエーションが開始され、終了後にVbusで電源供給が開始される。

 規格上、PDの5A対応にはEマーカーケーブルであることが必須とされており、3Aでも、USB 3.1以上で両端ともType-Cのケーブルは、Eマーカーが必要になるという。

 つまり、ノートPCなどの充電をUSB PDで行なうには、5A対応のEマーカーケーブルが必須となる。

Type-C検出
終端抵抗
Eマーカーケーブル

 仲丸氏は、USB PDは利便性の向上につながる規格だが、開発者や製造側からすれば非常に機能が複雑化していると述べた。

 ユーザーである消費者も、USB PDは「ホスト、デバイス、ケーブルの組み合わせでパフォーマンスが決定する」という仕様を理解し、チャージャーや充電したいデバイスの対応だけでなく、ケーブルも対応品を使わなければ、本来可能な大容量電力での給電ができないだけでなく、最悪の場合にはデバイスの故障や端子が溶ける、燃えるといった事故に繋がってしまうとした。

Eマーカーのマーキング
CCラインの通信
Start of Packetの定義
良いところばかりではない

 今回Energearが取得しているUSBロゴは、コンプライアンステストに合格した製品だけが使えるものとなる。このUSBロゴ取得には、同梱ケーブルも認証取得済みでなくてはならないため、Energear製品付属のケーブルも認証を取得している。

 コンプライアンステストの内容は、意図的に抵抗を変化させてVbus電圧、電流量を確認するソースパワーテスト、Type-Cピンの検知や動作をチェックするファンクションテスト、パワールールのチェックやCCラインの信号チェックなどを行なうPDテスト、実機を使った同社チェックを行なうType-C IOPテスト、後方互換性などを確認するUSB通信/レガシーテストなどとなる。

 テストは、メーカーが提出するVender Information Fileと呼ばれる製品仕様の一覧を試験機材に読み込ませて、それらの仕様に本当に対応しているかが検証される。

USBロゴはコンプライアンステストに合格した製品のみつけられる。中央の「Certified USB Charger 45W」ロゴは、USB PDのコンプライアンス認証に合格していることを示すもの
Type-Cコンプライアンステストの概要
Vender Information File
ソースパワーテスト
ファンクションテスト
PDテスト
BMC Eye Diaglam。流れる信号(黄線)が青のマスク部分に被っていないかを確認する
Type-C IOP
「GRL-USB-PD-A1」を利用した電圧チェックの例。上は正常な動作をするデバイスだが、下のデバイスは断続的に20Vを給電する挙動で、充電できていない
オーバーカレントチェック

 仲丸氏は、規格は安全性を考えて定められているもので、準拠することが重要であると語り、加えて認定を取得し、第三者の評価を受けているかが大切であるとした。これは「規格に準拠」していると記載があっても、USBロゴのない製品などで、都合の良い部分だけ仕様にそっており、すべてが規格どおり作られているわけではないといった場合もあるためだ。会場にいた製造メーカーのスタッフは、各地域の安全基準やUSB-IFの認定取得などのために、それなりのコストがかかっていると話してくれた。

 大きな電流を扱う以上、万が一の事態で起きる事故も大きなものになってしまうため、消費者も認定機器を使うほか、理解を持って機器を扱うよう気をつける必要があると言えるだろう。

Energearの65W ACアダプタを使ったデモ。規格準拠品なのですべてチェックが付いている(黄色の項目はデモでは時間が掛かるためスキップされた項目)
アダプタは20V/3.25Aまで出せると申告している
実際に20V/1Aを要求してみる
水色が電圧、黄色はCCラインの通信。最初に5Vが供給され、CCラインでPDのネゴシエーションが行なわれたあとに20Vを供給しているのがわかる
CCラインで行なわれた通信の内容。機器の対応する電流や電圧を確認している
20V/1Aを要求
承認された
従来の測定はオシロスコープやプロトコルアナライザなど複数機器を組み合わせて行なう必要があった
GRLの新型測定器は1台に機能を集約。右の白い機器はカーチャージャーのための12V DC供給用
簡易テスターのA1