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ディープラーニングで衣類を折り畳む「ランドロイド」技術が一部公開
~発売は2018年度後半に延期
2017年11月28日 19:29
セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社は11月28日、開発中の全自動衣類折りたたみ機「laundroid(ランドロイド)」の開発状況と販売日程の変更に関して記者会見を行ない、発売を2018年度後半に延期すると発表した。また今回初めて技術的側面について一部が公開された。
会見は、同社が東京・表参道にイノベーションのための拠点としてオープンした「ランドロイド・ギャラリー」で行なわれた。
セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社 代表取締役社長の阪根信一氏は、セブンドリーマーズは「なんちゃってイノベーションではなく本当のイノベーションを目指している企業だ」と自社のことを紹介。「世界一、イノベーティブな会社へ」というビジョンを掲げている同社は、世のなかにないモノ、人々の生活を豊かにするモノ、技術的ハードルが高いモノの3つをクライテリアにして開発テーマを決めて、これまで製品を世に送り出して来たと述べた。
「ランドロイド」は、衣類を折りたたむロボット家電だ。セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズが、パナソニック株式会社、大和ハウス工業株式会社と共同開発中で、NEDOからも助成を受けている。
洗濯物を最下部の引き出しに入れると、なかに入っているロボットアームが洗濯物を折りたたんで仕分けしてくれる。1枚あたり15分程度と時間はかかるし、すべての洗濯物に対応しているわけではないが、Tシャツやタオル、パンツ類などなら畳んでくれる。本体操作はシンプルなサークルインターフェイスのみで行ない、細かい設定をはスマートフォンで行なう。
今年(2017年)5月には、ランドロイドはスマートフォンアプリを使って衣類をオンラインで記録・整理する「オンラインクローゼット」機能と、衣類の使用頻度の傾向から着たことがないコーディネートを提案する「衣類コンシュルジュ」などの機能を持ち、「衣類と人との新しい関係を作ってくれる機械」でもあるとリリース。
月額制ファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」を展開している株式会社エアークローゼット、ハードウェアベンチャーの株式会社Cerevoとのコラボも発表された。
価格は税別185万円から(仮)で、複数モデルが用意され、限定予約販売を受け付けている。もともと2017年度中に発売予定だったが、9月末に「仕様のレベルを引き上げるために一部の機構を追加する判断」をし「さらなる開発業務に伴い、出荷が2018年度」となる、と発表していた。
衣類の山から洗濯物を摘み、広げ、認識し、畳んで仕分けする方法
ランドロイドが初公開されたのは、2015年10月に行なわれた「CEATEC Japan」だった。ドサっと入れた状態から洗濯物を折りたたんでくれる機械はほかにない。これまでのデモでは畳む前と畳んだあとの結果と、モザイクだらけの動画が示されるのみで、ランドロイドが実際にどのような技術を組み合わせて洗濯物を折りたたむのかはまったく明かされていなかった。
今回初めて、技術の一部が紹介された。
衣類の折りたたみが難しいのは、衣服が変形する柔軟物だからだ。2005年からはじめた同社の研究開発は、最初はまず人間の動きをよく観察し、産業用ロボットを使ってその再現を試みるところからはじめたという。そこから自動化するべきポイント見出していった。
箱のなかで折りたたみを行なうことで安全性を確保し、将来的に安価にすることを目指すため、自社開発アームを開発することを目指した。
ランドロイドの折りたたみ作業は、まずカメラ画像と距離画像センサーを使って、洗濯物の山の頂点を探すところからはじまる。そこが一番、ロボットアームで摘みやすいからだ。センサー類の詳細は明らかにされなかったが、会見では実際に撮影された3次元の点群が示された。
ランドロイドの内部のロボットアームは、上下2段の構成になっている。衣類の山の頂点をつまんだロボットアームは、それを上のロボットアームに受け渡し、そのアームが今度は服を展開する。
なぜ服を展開する必要があるのかというと、展開することで、その衣類がどういう種類の衣類であるのかを認識する、そしてそのための確率を上げられるからだ。
人間ならばパッと見ただけで、それがTシャツかタオルか、裏表がどちらかということはあらかた判断できてしまうが、機械ではそうはいかない。服を広げながら輪郭を認識して、どんな形状なのかを推定しなければならない。そのためにもただ適当につまむのではなく、掴むべき座標を決める必要もある。
服を広げたら、ようやく何の衣類かを認識する作業に入る。ここでも機械ならではの問題がある。たとえば色柄のシャツは背景と混同してしまい、どこが衣類かわかりにくい。またTシャツの首部分などの部分開けの部分を切り出して認識するのだが、それも機械には難しい。しわとゴムなどの違いもわかりにくい。だがたたみ方を指定するためにも衣類の種別判定が重要だ。ここに同社では機械学習(人工知能技術の一種)を活用している。学習を繰り返し、たとえばどれが半袖シャツなのかを識別できるようにした。
認識が終了すると、いよいよ畳む工程に入る。TシャツにはTシャツの畳み方、タオルにはタオルの畳み方がある。大きさや向きの確認も必要だ。そのため、畳みながらも測定を繰り返していき、どこを掴むべきか座標を求めながら、じょじょに畳んでいく。
折りたたみ後は仕分け・積み上げだ。
ランドロイドには、2種類の仕分けモードががある。アイテム種類別と家族別だ。家族別仕分けモードを使うためには、一度覚えさせる必要がある。特定の家族の服をランドロイドに入れて、たたませて1枚1枚覚えさせることができる。
また、もう1つの方法もあって、ランドロイドは使っているうちに2週間のあいだに畳んだものがリストされる。スマートフォンを使ってそこからどれがどの家族のものかを教えることでソートすることもできるという。
最終的に折りたたまれた衣服は、「ピックアップユニット」と呼ばれる棚に置かれて作業は完了となる。
ディープラーニングで衣類を認識、256,000枚の教師データを作成して認識率95%に
ひととおりの流れについて説明したあと、阪根信一氏は、ランドロイドでどのように人工知能技術が活用されているかを改めて解説した。
たとえば顔検出にはブースティング(Boosting)という手法が使われていることが多く、人検出にはサポートベクターマシン(SVM)のようなアルゴリズムが使われている。ディープラーニング(深層学習)は大量の教師データから特徴量を自動でつかませて学習させるアルゴリズムだ。実際の応用では、それぞれ特徴の異なる複数のアルゴリズムを重ねて正解率を上げている。
衣類は形が変わる柔軟物であり、色も柄もさまざまだ。実際にある種の衣類を認識させるために、25,600枚の画像を教師データとして用いてようやく認識率は75%になる。その教師データ数を10倍の256,000枚にするとやっと95%になるという。
ランドロイドの開発においては、実際に人が衣類を何かにかけて写真を撮って、それが何かという正解タグをつけるという教師データを作る作業をひたすらやっている技術者が今も作業を行なっているという。
また、Tシャツの襟にはまた別の機械学習方法を使っているなど、さまざま方法を組み合わせて衣類を認識させているという。
滑りやすい衣類は苦手
ランドロイドの細かい設定はスマートフォンアプリで行なう。そのため、アプリのUXUIについても多くの検討を行なった。購買者のペルソナを想定し、行動パターンを分析。実際に日頃どのようにアプリを使うだろうかという点からデザインをした。
今もユーザーテストと修正設計を繰り返しており、最終的に出荷までには完璧なアプリができあがる予定だという。
ランドロイドの開発においては、世界初の製品であるため、目標設定を自ら決める必要があった。たとえばどのくらいの衣類をたためればいいのか、どのくらいのものまで畳める機械にするかといったことだ。また2005年10月のCEATECまでは機密だったので外部テストしようがなかったが、そのあとは多くのテストを繰り返したという。
そして、多種の衣類を試験をしたところ、衣類の生地の質が想定以上に多様であることがわかった。ランドロイドは、「滑りやすい衣類」と「ごわごわの衣類」は苦手なのだとわかった。「滑りやすい衣類」というのは、具体的には、たとえば最近流行の軽量肌着である。
人間は台や床の上でたたむので、滑って落ちるということはない。だがランドロイドは衣類を空中で畳んでいる。そのなかで、あるときにアームが衣類を離すタイミングがあり、そのときに衣類がつるつる滑ってしまうのだという。
これに対してなんとか対策したいと試行錯誤したが、マイナーチェンジでは難しいということがわかった。ランドロイドはWi-Fi環境下でしか動作しない。ソフトウェアアップデートは随時かけていく予定だ。しかしハードウェアは不変だ。
そこで完成度を上げるために、パナソニック、ダイワハウスとの協議の上、2017年度出荷開始の予定を2018年度出荷開始にずらしたほうが良いと判断したと阪根氏は説明した。新たなスケジュールについては「何がなんでもスケジュールを守って、当初予定よりも良いものを出荷しようとチーム全体で結束している」と述べた。
イノベーションを起こすために必要なことは正しいテーマを選び、明確なゴールを掲げること
当日の記者会見は、表参道にある「ランドロイド・ギャラリー」(渋谷区神宮前4-6-9 南原宿ビル B1F)で行なわれた。同社ではここを「コ・イノベーション・スペース」として活用していきたいと考えているという。
阪根氏は、イノベーションを起こすためには、前述の3つのクライテリアを基準にテーマを選んだあとは、ゴールを明確にし、スペシャリスト間の垣根を作らず、反対を押し切ってあきらめずにやりきることが重要だと語った。
「ランドロイド」は多くのパートナーとの出会いによって奇跡的にできたものだと述べ、その経験をもとに、ランドロイドギャラリーをイノベーションを起こすためのアイディア、マインドや空気を共有する場として技術展示やイベントなどを開催する予定だと続けた。
ランドロイドの開発は秘密裏だったため、以前はセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズで人工知能研究者を募集しても誰も来てくれなかったが、CEATECでの公開後、多くの人材を採用し、今は70人くらいの技術者たちで技術開発を行なっているという。多くはイノベーションを起こす開発をキャリアのなかでやりたいと考えている50代以上のベテランたちだという。
阪根氏は「日本は人材が非常に優秀。唯一必要なのはテーマを正しく選んで、明確なるゴールを掲げること。それを実現する人材はこの国にはいっぱいいる。日本でこそイノベーションは起こるはず。当社もその役割をにないたい」と語った。
同社は2018年1月に米国ラスベガスで開催されるCESにも出展する。ランドロイドの将来については「洗濯乾燥機と同じように将来は衣類折りたたみ機を普及させたい。将来は普及型モデルも発売したい」と述べた。