ニュース

HDD市場を2020年まで展望、台数の減少と容量の拡大が続く

~DISKCON JAPAN 2016レポート

DISKCON JAPAN 2016会場入り口の看板。2016年5月25日に筆者が撮影した

 ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は。2016年5月25日~26日にHDDとその応用に関する講演会「DISKCON JAPAN 2016」を東京都大田区で開催した。

 本講演会では市場調査会社TRENDFOCUSのプレジデントを務めるMark Geenen氏が、「A Fresh Outlook on the HDD Industry」と題し、2020年までのHDD市場を展望した。その概要をご紹介したい。

 なお、DISKCON JAPANの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることを予め、お断りしておく。

HDDの出荷台数は一貫して減少

 始めはHDDの出荷台数(世界市場)である。2014年から2020年まで、HDDの出荷台数は一貫して減り続ける。品種別の分類は3.5インチ外付け、デスクトップPC内部、2.5インチ外付け、モバイル内部、コンシューマエレクトロニクス(ビデオ、ゲーム、監視、車載など)、エンタープライズ、ニアラインである。

 この品種別では、3.5インチの外付けとモバイル内部の減少が目立つ。増加しているのはニアラインだけである。ただしニアラインの台数が全体に占める割合は少ないので、出荷台数全体を押し上げるには至らない。

HDDの年間出荷台数推移(世界市場、2014年~2020年)。品種別の分類は3.5インチ外付け、デスクトップPC内部、2.5インチ外付け、モバイル内部、コンシューマエレクトロニクス(CE)、エンタープライズ、ニアラインである。出典:TRENDFOCUS

HDDの出荷容量は一貫して増加

 続いてHDDの出荷容量(世界市場)である。出荷台数とは逆に、2014年から2020年までの間にHDDの出荷容量は一貫して増え続ける。つまり、台数の減少分を超えるペースで、1台当たりの記憶容量が増加し続ける。HDD 1台当たりの平均容量は2014年に1,147GBである。これが2018年には2倍近い2,132GBに増加し、2020年には約3倍の3,419GBへと急速に増えていく。

 出荷容量は品種別に、デスクトップ、モバイル、コンシューマエレクトロニクス(CE)、エンタープライズ、ニアラインに分類した。出荷容量の増加が目立つのは、デスクトップとニアラインである。

 出荷容量の拡大は主に、HDD 1台が内蔵するプラッタ枚数を増やすことによって達成する。デスクトップは2015年にプラッタの平均枚数がおよそ1.6枚だったのが。2020年にはおよそ2.4枚に増える。ニアラインはさらに枚数が多い。2015年における平均枚数は約2.7枚である。それが2020年には、2倍を超える約7.3枚へと増加する。

 なお、2016年5月時点でHDD製品1台が格納するプラッタの最大枚数は7枚である。「DISKCON JAPAN 2016」における他社の講演から、量産開発レベルでHDD 1台が格納するプラッタ枚数を最大で9枚にできることが明らかになっている。2020年には9枚のプラッタを内蔵するHDDが量産出荷されていると見られることから、上記のニアライン向けHDDの平均7.3枚という予測は、実現性がかなり高そうだ。

HDDの年間出荷容量推移(世界市場、2014年~2020年)。品種別の分類はデスクトップ、モバイル、コンシューマエレクトロニクス(CE)、エンタープライズ、ニアラインである。出典:TRENDFOCUS
HDD 1台当たりのディスク(プラッタ)枚数の推移(2015年~2020年)。出典:TRENDFOCUS

 2020年を展望すると、PC市場におけるHDDの地位は揺るがない。最も重要なのは、PCベンダーは少なくとも数年は今後も、HDDを採用し続けるということだ。SSDの寄与はそれほど大きくはならない。

 確実な市場として見込めるのは、デスクトップPC、監視カメラシステム(ビデオの格納)、中小企業向けNASである。ノートPCでも一般消費者向けは大容量ストレージを要求するので、2.5インチで1TBクラスのHDDを載せていく。Geenen氏は、2020年までのトレンドを上記のように総括した。

唯一の台数成長分野、ニアラインの行方

 エンタープライズ分野で、というよりもHDDの応用分野で唯一、出荷台数を伸ばしているのがニアライン分野である。しかし、ニアライン向けHDDの成長もいずれは鈍化する。TRENDFOCUSの予測によると、ニアライン向けHDDの出荷台数は、2018年~2019年には頭打ちになる。世界市場の年間出荷台数は、5,000万台の手前まで伸びて、そこで止まると予測する。

 しかも標準的なニアライン向けの出荷台数は、2018年をピークに減少に転じる。ニアラインでも、記憶容量の大きさを重視するアーカイブ/コールドストレージ向けのHDDが伸びることで、全体の減少を食い止めるという構図である。

 出荷容量の推移でも、アーカイブ/コールドストレージ向けの寄与が大きい。標準的なニアライン向けHDDの総出荷容量は2019年にピークとなり、2020年には対前年比でほぼ横ばいとなる。一方でアーカイブ/コールドストレージ向けHDDの総出荷容量は、2018年にはごくわずかだったのが、2019年と2020年はともに2倍~3倍の増加を予測する。

ニアライン向けHDDの年間出荷台数推移(世界市場、2015年~2020年)。出典:TRENDFOCUS
ニアライン向けHDDの年間出荷容量推移(世界市場、2015年~2020年)。出典:TRENDFOCUS

エンタープライズ市場で存在感を増すSSD

 エンタープライズ分野の市場規模を金額ベースで見ると、SSDの台頭が著しい。エンタープライズ向けストレージ(HDDとSSDの合計)の世界市場(金額ベース)は、2015年から2020年まで、一貫して伸び続ける。HDDの市場規模は2017年にピークを迎え、2018年以降は横ばいあるいは微減で推移する。これに対してSSDの市場規模は、2020年まで順調に成長していく。成長の牽引役はPCI ExpressインターフェイスのSSDである。

エンタープライズ向けストレージ(HDDとSSDの合計)の世界市場推移(金額ベース、2015年~2020年)。出典:TRENDFOCUS

 金額ベースでは無視できない存在となるSSDだが、出荷ベースの総記憶容量はまだ小さい。2020年でも、エンタープライズ向けとクライアント向けともに、ストレージ(HDDとSSDの合計)全体の1割未満にとどまる。

HDDとSSDの総出荷容量推移(世界市場、2015年~2020年)。出典:TRENDFOCUS

2020年代にはストレージの主役が交代へ

 記憶容量当たりの価格(GB単価)は、HDDに比べるとSSDがまだはるかに高い。ただし単価そのものは、急速に低下していく。例えばエンタープライズ向けPCI ExpressインターフェイスSSDのGB単価は、2015年に約1.40ドルだった。同じ時期にニアライン向けHDDのGB単価は約0.05ドル、パフォーマンス向けHDDのGB単価は約0.18ドルに過ぎず、大きな差があることが分かる。

 これが2020年には、エンタープライズ向けPCI ExpressインターフェイスSSDのGB単価は約0.45ドルまで下がると予測する。2015年の3分の1以下である。同じ時期にニアライン向けHDDは約0.02ドル、パフォーマンス向けHDDは約0.10ドルになると予測した。HDDは単価が下がる余地がほとんどない。

記憶容量当たりの価格(GB単価)の推移(2015年~2020年)。高い側から、エンタープライズ向けPCI ExpressインターフェイスSSD、エンタープライズ向けSASインターフェイスSSD、エンタープライズ向けSATAインターフェイスSSD、パフォーマンスHDD、ニアラインHDDである。出典:TRENDFOCUS

 以下はGeenen氏の講演内容ではなく、DISKCON JAPANを取材した筆者の予測と意見である。

 2020年にエンタープライズ向けPCIe SSDのGB単価が0.45ドルということは、エンタープライズ向けの1TB品が500ドルで入手できるという意味に相当する。一方でニアライン向けHDDの1TB品はなんと20ドルで購入できるはず、なのだが、実際にはそうはならないだろう。どのような意味かというと、ニアライン向けHDDは1TB品が製品として存在しない、ということだ。製造コストを考慮すると、5TB品(100ドル)あるいは10TB品(200ドル)が製品の最小容量になるだろう。

 こうなると2020年代とは、一般消費者からはHDDが見えなくなる時代だと分かる。ストレージとはSSDあるいはフラッシュストレージを意味するし、一般消費者がイメージするのも同様だ。HDDを知らないユーザー層が多数派になり、消費者でHDDを購入するのは一部の好事家だけになる。2020年代とはたぶん、そのような時代なのだろう。