笠原一輝のユビキタス情報局
法人市場でAndroidを抜きiPadを追い上げるWindowsタブレット
(2015/2/12 06:00)
昨年(2014年)の日本のPC市場は、前半こそXPリプレースの特需などで好調だったものの、後半はその反動でマイナス成長になったと言われており、各PCメーカーは市場環境に合わせた戦略の練り直しに直面している。そうした中で、逆に成長している分野がある、それがタブレット市場だ。
従来のタブレットと言えば、iPadやAndroidタブレットなど、いわゆるスマートOSを採用した製品が市場の中心だったが、日本では大きく変わりつつあるという。
日本マイクロソフト、そしてその親会社である米Microsoftは、Windowsタブレットの普及を目指しており、さまざまな市場のてこ入れ策やキャンペーンを行なっていく。今回は日本マイクロソフト Windows本部 Windowsコマーシャルグループ シニアマネージャ 西野道子氏に、Windowsタブレットについてお話を伺ってきた。その模様と筆者がOEMメーカーなどに独自に取材した内容を交えて、Windowsタブレットの現状や今後について紹介していきたい。
国内法人向け市場ではAndroidを抜きiOSに次ぐ2位に
西野氏によれば、米国ではマイナス成長だった法人向けタブレット市場だが、日本は急成長を遂げているという。「調査会社の統計によれば、米国市場では既に法人向けタブレット市場の成長は止まっているが、日本市場はまだ成長を続けている」(西野氏)という言葉の通り、実際、査会社のIDC Japan株式会社が発表した2014年第3四半期 国内タブレット端末市場規模では、一般消費者向けを含めたタブレット全体では前年同期に比較して13.7%の減少になっているが、法人向けタブレットに限ると、前年同期比36.3%の成長になっているという(詳細はIDC Japan社のリリースを参照)。
こうした法人向けのタブレット市場において、Windowsタブレットは、AppleのiPadに次いで市場シェア2位になっていると西野氏は指摘する。「具体的な数値を明らかにすることはできないが、我々のWindowsタブレットは、Androidタブレットを抜き市場シェアでiPadについで2位になっていると考えている」(西野氏)と、既にAndroidタブレットを追い抜き、AppleのiOSを搭載するiPadをWindowsタブレットが追いかける、それが日本の法人向けタブレットの構図であると西野氏は説明した。
Windowsタブレットの強みは、柔軟性があること
既に成長が止まった米国市場とは対照的に、日本の法人向けタブレット市場は依然として成長を続けており、2015年に関してもPC全体がマイナス成長が予想される中、法人向けのタブレットは引き続き成長すると予想されている。それだけ法人向けのタブレット市場が注目されているわけだが、その理由について西野氏は「弊社がデジタルワークスタイルと呼ぶ、新しい形のITの利用法が広がっていると考えている。日本の法人でも、モバイルデバイスを活用して、いつでもどこでも仕事ができる、それを業務効率や業績に繋げる動きが広がりつつある」と述べ、法人側でもタブレットを導入することの効用に関する見直しが広がっているからだとした。
実際にそうした目的を持ってタブレットを導入したとしても、いくつかの課題に直面することになる企業が多い。「タブレットは導入してみたが、ノートPCと2台持つことになり、結局両方とも中途半端な使い方になるという悩みを抱えている法人は少なくない。また、既存のWindowsベースの社内システムとの親和性や、セキュリティの確保、さらにはMicrosoft Office関連データの利用をどうするのかという問題が出てくる」(西野氏)とのことだ。
例えば、Windowsベースのアプリケーションで社内システムを組んでいる場合、あるいはWebブラウザでもInternet Explorerを前提にシステムを組んでしまっている場合、AndroidやiOSデバイスに対応させる場合には新しいソフトウェアをゼロから開発する必要があり、コストが大きな課題になる。また、セキュリティに関しても同様で、Windowsで実現しているような、カスタマイズ可能で高度なセキュリティソフトウェアと同様の機能を、AndroidやiOSで実現しようとすると、やはりコストが増大することになる。しかし、Windowsタブレットであれば、現在PCで利用しているソフトウェア資産をそのまま使い回せるため、低コストで同じ環境を実現できる。
また、Windowsタブレットでは、いわゆるスレート型のタブレットだけでなく、2-in-1型と呼ばれる変形機構を備える製品が多数ラインナップされていることが1つの特徴。例えば、Microsoft自身が提供している「Surface Pro 3」は、いわゆるスレート型のタブレットだが、オプションで用意されているタイプカバーキーボードを取り付ければ、クラムシェル型のノートPCとしも利用できる。例えば、フィールドワークではスレート型のタブレットとして使い、報告書を書くためにカフェなどに行なった時にはキーボードを付けてノートPCとして作業できる。
それだけではなく、顧客の細かなニーズに応えられることもメリットだ。iPadなどでは、顧客側のシステムをiPadに合わせる必要があるが、Windowsタブレットの場合は、OSそのものまでも顧客側でカスタマイズすることが可能になっている。西野氏によれば、同社が販売しているSurface Pro 3のCore i3モデルに、WindowsのEmbedded版をシステムインテグレータがインストールして顧客に提供している例があるという。つまり、Surface Pro 3をPCではなく、専用端末として利用しようという取り組みだ。また、OEMメーカーからは、富士通のWindowsタブレットのように、防塵/防水を保証した製品など、特徴的な製品が用意されており、そうした中から選ぶことができる。顧客側が自社のニーズに合わせた製品を選択できる、それがWindowsタブレットの強みだと言える。
現在Microsoftは、同社のOfficeソフトウェアを、Windows向けだけでなく、AndroidやiOSを搭載したタブレットにも提供を開始している。このため、Officeのデータを扱えるのは、Windowsタブレットだけの強みではなくなっているが、それでもタブレット向けのOfficeはすべての機能を利用できるわけではない。例えば、Excelのマクロなどは、iOS/Android向けバージョンでは利用できない。そうした意味では、Officeのフル機能を使いたいと考えている法人ユーザーであれば、依然としてWindowsタブレットは魅力的な存在だと言えるだろう。
既に日本でも多数のWindowsタブレット採用例が出始めている
西野氏によれば、そうしたWindowsタブレットは、既に国内のビジネスシーンでも採用が進んでいるという。今回西野氏が紹介したのは株式会社ローソン、アートコーポレーション株式会社、JAたいせつという3つの法人での事例だ。
株式会社ローソンは、LAWSONブランドのコンビニエンスストアをチェーン展開する企業で、既に1,500台のレノボの「ThinkPad Helix」(キーボードドックとドッキングするタイプの2-in-1型タブレット)を導入済みだという。ローソンではSV(スーパーバイザー)と呼ばれるチェーン店を回る社員と本部との意思疎通のデバイスとして利用されており、本社からSVのタブレットに対して新製品情報やキャンペーン、店舗巡回時のTo Doリストなどが提供され、SV側からは店舗の情報をフィードバックしてもらう使い方がされているという。
アートコーポレーション株式会社は“0123”のブランドで知られている引越事業を展開する企業で、個人向け引越業務部門の営業社員に、HPの「ElitePad 900」(スレート型タブレット)が配布されているという。営業社員はこれを利用して顧客に対して見積を作成するときに手書きで作成したり、タッチパッドから操作するだけで簡単に見積書を作成している。また、そうした営業社員からの報告書なども、Windowsタブレットで行なえるようになっており、営業社員が帰社後にタッチ操作を行なうだけで簡単に報告書が作成でき、報告書作成にかかる時間が従来に比べて1時間程度短縮できるようになっているなど、効率改善が実現されている。
北海道の旭川市および鷹栖町の農業協同組合となるJAたいせつでは、農業の生産性向上のためにWindowsタブレットが活用されている。農協の職員や農業生産者の双方がWindowsタブレットを持っており、クラウドベースのITシステムを活用した生産履歴、精算工程管理、耕作地の管理などを行なっているという。従来は紙に手書きで行なっていたそうだが、それをタブレットに置きかえることが大幅に生産性が向上しているとのことだった。
今年登場するWindows 10に向けてさまざまな施策を打っていくMicrosoft
こうした現状のWindowsタブレットだが、日本マイクロソフトは日本の法人向けタブレット市場ではさらなる成長の余地があると考えており、積極的にさまざまな施策を打っていく予定だという。「日本ではOffice 365 BusinessとWindows PCをセットでご購入頂いた場合に割引を行なうキャンペーンを3月31日まで行なっている」(西野氏)と、既にWindows PCやiPadなどを含むタブレットとOffice 365 Businessを同時に購入した企業(個人ユーザーは対象外)に対して、Office 365 Businessの価格を45%割り引くセット割キャンペーンを行なっているという。
もちろんそれだけでなく、OEMメーカーと協力したさまざまな施策を行なっていく。「日本には多くのOEMメーカーがあり、業種、業務に特化したソリューションを提供しているOEMメーカも多い。そうしたOEMメーカーと協力して、お客様に深くアプローチしていきたい」とし、日本のOEMメーカーと日本マイクロソフトで協力して特定の産業などにアプローチしていくことを今後も続けていくとした。日本マイクロソフトとしては、法人向けのタブレット市場で1位になっているAppleのiPadとの差を縮めていくことが、2015年のターゲットになるだろう。
なお、今回のインタビューでは西野氏は何も言及しなかったが、筆者が海外のOEMメーカーに独自に取材した情報によれば、Microsoftはグローバルに、Windowsタブレットの法人向け製品向けの新しいライセンスモデルを打ち出しているという。具体的には、Windows 8.1 Pro Updateのタブレット向けのライセンス価格が劇的に下げられており、それに併せてOEMメーカーから出荷されるWindows 8.1 Pro Updateを搭載した製品の価格が下げられているという。
この流れは日本にも来ており、1月の下旬頃から日本市場でもOEMメーカーから無印Windows 8.1との価格差が数千円レベルというWindowsタブレットが登場しつつある(従来は売価で1万円以上の価格差があった)。OEMメーカーの関係者によれば、この新しいProのライセンスは、Officeのバンドルは不可という条件が付けられているそうで、安価なProライセンスを搭載したWindowsタブレットをOEMメーカーから企業に提供してもらい、企業にはOffice 365を契約してもらうというのがMicrosoftのシナリオだと考えることができるだろう。
このように、公にはされてはいない施策も含めて、Microsoftはさまざまなタブレット普及策を打ってきており、その集大成となるのは、今年リリースされる予定のWindows 10になる。Windows 10では、デスクトップとタッチ操作をワンタッチないしは自動で切り替える機能など、Windowsタブレット向けの重要なアップデートも含まれており、よりユーザーの使い勝手が向上すると考えられており、そのWindows 10の登場もWindowsタブレットの普及を後押しすることになるのではないだろうか。