笠原一輝のユビキタス情報局

打倒MacBook Pro?Surface Laptop Ultraが目指すモノ作りしやすいマシン

Microsoft Surface製品担当執行役員(CVP)のアンドリュー・ヒル氏

 Microsoftは10月7日に、米国カリフォルニア州サンフランシスコ市内の会場で「Microsoft Windows & Surface Event」と題したイベントを行ない、エージェント型AIに関するWindowsの新戦略とそれに対応した新しいデバイス「Surface Laptop Ultra」を発表した。

 その模様はすでに別記事でお伝えした通りだ。新しいSurface Laptop Ultraは、NVIDIAの新しいWindows向けSoC(System on a Chip)となる「RTX Spark N1X」を搭載し、メモリは最大128GBで、ストレージは最大2TB、ディスプレイは15型PixelSense Ultra(3,270×2,180ドット/120Hz)を採用しており、重量は約2kgとなる。

 そうしたSurface Laptop Ultraを統括するMicrosoft Surface製品担当執行役員(CVP)のアンドリュー・ヒル氏に、同製品の位置付けや狙いなどについて伺ってきた。

開発者やクリエイターがモノ作りできる性能を目指したSurface Laptop Ultra

Surface Laptop Ultra

 今回お話を伺ってきたアンドリュー・ヒル氏は、Microsoft社内でSurfaceのチームが立ち上がった2010年から製品チームに所属しており、歴代のSurfaceデバイスの製品開発などに関わってきた。現在は執行役員としてSurface製品の展開を統括している立場だ。

 ヒル氏は「今回我々が発表したSurface Laptop Ultraは、開発者やクリエイターにとって素晴らしいものを作ろうという意図で開発を始めた。NVIDIAと多くの協業を行ない、そのうちのいくつかは本日の発表会で説明した通りだ。入力機器、タッチパッド、ディスプレイなどはもちろんのこと、熱設計などにも力を入れ、性能面でも妥協がないようにした。」

 「また、Windows側では開発や管理を簡単にし、開発者の方のモノ作りをしやすくするために何が必要なのかを考えてきた。というのも、今はモノ作りの時代といっていいからで、そうしたことに取り組みたい方がより取り組みやすくする、それがSurface Laptop Ultraを設計した理由だ。」と述べ、Surface Laptop Ultraに取り組んだ理由が、開発者やクリエイター向けの製品を投入したかったからだと説明した。

MXC
HydraFusion

 今回Microsoftはイベントの前半で、Windowsにおけるエージェント型AIのローカル実行環境に関してさまざまな説明を行なった。別記事でも詳しく紹介している「MXC(Microsoft eXecution Containers)」もそうだし、ローカルとクラウドのハイブリッドでフロンティアAIモデルを利用する環境となる「HydraFusion」、さらにはOpenClaw、Hermes Agent、Perplexityなどのエージェント型AIを、2クリックで導入できるインストーラーの提供なども明らかにしている。

 実際、OpenClaw Foundationが展示会場で行なったデモでは、MXCのコンテナを活用して、安全にOpenClawを実行する様子が実演されていた。ハーネスとも呼ばれる従来のエージェント型AIでは、導入が非常に複雑で、セキュリティの設定が難しすぎて、一般的なPCユーザーには超えるべきハードルが非常に高くなっていた。しかし、MXCに対応したOpenClaw、さらにはHermes AgentやPerplexityでは、導入や設定が簡単になっているとアピールしていた。

エージェント型AIのインストーラー、OpenClaw、Hermes Agent、Perplexityのアイコンをポチポチするだけで簡単にインストールできる
OpenClaw FoundationのWindows版OpenClawのデモ。MXCに対応することでセキュリティの設定などはMXC向けの設定で簡単に行なえる

 今回発表されたSurface Laptop Ultraは、このようにWindowsにより容易に、かつ安全に導入できるようになったエージェント型AIを、確実に実行できる性能を備えている。それが、今回Microsoftが訴えたかったことだと考えられるだろう。

2,599ドルからの価格設定は詳細な市場分析の結果

Blenderを利用するクリエイターのデモ

 MicrosoftがSurface Laptop Ultraをエージェント型AIのローカル実行に最適な環境であり、開発者やクリエイター向けの製品であるとアピールする背景には、そうした市場がAppleとの競争が激しい、より厳しい言い方をするのであればAppleが強い市場だからということができるだろう。

 Appleは、自社設計のCPU、GPU、NPUを利用したApple siliconというSoCを、同社のMacBookシリーズやMac miniなどに採用しており、それらが開発者やクリエイターなどに支持されている現状がある。これまでSurfaceシリーズは、メインストリーム向けの「Surface Laptop 13.8インチ」や、バリュー向けの「Surface Laptop 13インチ」などをラインナップしていて、Appleの「MacBook Air」などには競合製品を用意できていた。しかし、上位機種である「MacBook Pro」、中でもMaxといった上位のSoCを搭載したMacBook Proに対抗する製品がなかった。

 正確に言うと、かつてはあった。Surface BookやSurface Laptop Studioなどが相当し、IntelのCPUとNVIDIAのディスクリートGPUを搭載していて、開発者やクリエイターのニーズを満たしていた。しかし、ここ数年はそうした製品がリリースされてこなかったというのがSurfaceシリーズの歴史になる。

RTX Sparkは、MediaTekが開発するCPUダイと、NVIDIAが開発するGPUダイがパッケージ上で1つになって提供されている

 そうした中でNVIDIAがリリースしたSoCが「RTX Spark」であり、それを採用したSurface Laptop Ultraが今回リリースされたというのが時間軸になるだろう。RTX Sparkは、MediaTekが設計した最大20コアのArm CPUのダイと、NVIDIA GPUのダイを1つのパッケージ上で統合した2Dのチップレット構造になっている。Apple MシリーズのMaxなども複数のダイをパッケージ上で統合しているという意味では、RTX Sparkの構造に近く、RTX SparkがApple MシリーズのMaxやUltraに競合するような製品といっていい。Microsoftとしても、NVIDIA RTX Sparkの登場を待っていた、そういうことだろう。

 ヒル氏は米国で2,599ドル(日本では51万3,480円)からという価格について「市場での各種製品の価格をかなり詳しく調べ、このデバイスの機能に対する競争力のある価格にしたいと考えてこの値段を付けた」と述べた。具体的な競合相手がどこかは言及しなかったが、競合の価格に関しても念入りに調べて、競争力のある価格設定にしたのだと説明した。

米国での価格は2,599ドルから

 ヒル氏は言及しなかったが、その競合相手はやはりMacBook Proシリーズである可能性が高いだろう。実際にMicrosoftは米国で、MacBook Proのユーザーを意識したキャンペーンを実施している。

 具体的には、MacBookのユーザーがSurface Laptop Ultraに乗り換えるときに、下取りにMacBookを出すと最大1,000ドルをキャッシュバックするというものだ。こうしたキャンペーンを行なっていることからも、MicrosoftがSurface Laptop Ultraの競合製品としてMacBook Proを意識していることは明らかだろう。

Surface Laptop Ultraはワンランク上のCopilot+ PC

発表会では企業向けノートPCの40%がCopilot+ PCになっていると説明された後で、ビルダー向けのPCとしてSurface Laptop Ultraが紹介された

 ちなみに、このSurface Laptop UltraはCopilot+ PCであるのかと質問してみた。するとヒル氏は「Copilot+ PCは、バッテリ駆動時間、AI性能、ストレージ、メモリなど、ローカルAIのワークフローを活用するための一連の機能を備えたカテゴリだ。これに対してSurface Laptop Ultraは、その一段上のカテゴリで、より大規模なローカルモデルを実行できるビルダー(筆者注: 開発者、クリエイターの意味)向けの製品だ」と述べ、具体的なブランド名こそ用意されていないが、Copilot+ PCよりも一段上の製品カテゴリだと位置付けていると説明した。

MicrosoftのSurface Laptop Ultraのページに掲載されているFAQ。Copilot+ PCだと明白に書かれているが、今回の発表会では言及はなかった

 なお、MicrosoftのSurface Laptop Ultraの製品ページには「Surface Laptop UltraはCopilot+ PCか?」というド直球な質問がFAQとして掲載されている。その答えは「はい。Surface Laptop UltraはNPUを内蔵したCopilot+ PCで、対応するWindows 11のAI体験とCopilotをご利用いただけます。さらに、負荷の高いローカルAIのワークフローに向けて、NVIDIA RTX Sparkによる高速化とCUDAへの対応も加わります。」となっており、Surface Laptop UltraはCopilot+ PCだと説明されている。

 Surface Laptop UltraのSoCであるRTX SparkにはNPUは搭載されていないが、Copilot+ PC向けに提供されているソフトウェア(たとえばRecallなど)は利用でき、それに加えてフロンティアAIモデルをローカル実行できる機能が追加されているのがSurface Laptop Ultraであると分かる。

 なお、Microsoftが公開しているWindows 11のシステム要件を見る限り、Copilot+ PCになるためには40TOPS以上の性能を備えるNPUが必須だと書かれているのだが、その要件をSurface Laptop Ultraは満たしていない(RTX SparkはNPU非搭載のため)。今後それが改訂されるのか、それともRTX Sparkはその例外となっていくのか、現時点では明確ではない。

 ただ、今回Microsoftは発表会で「Surface Laptop UltraはCopilot+ PCだ」ということを言わなかったし、ヒル氏もCopilot+ PCよりも上位のカテゴリの製品だと表現したことからも、それを大々的に言うつもりはないということは見てとれるだろう。

 それらをつなぎ合わせるとCopilot+ PCは、今後はエージェント型AIではない、従来のローカルAIソフトウェア群を総称する言葉としては残っていくが、Microsoftのマーケティング戦略の中では徐々にフェードアウトしていく可能性が高いと考えられるのではないだろうか。