笠原一輝のユビキタス情報局

Copilotキーの位置はメーカー次第。ハードウェア的にはMenuキーに統合。Microsoftは将来のUXとして組み込む

Copilotキー

 CES 2024の話題の多くが「AI」関連だった。アグリテック(農業技術)を展開する農機具メーカーも、化粧品を販売するために化粧映えを判定するアプリを提供する化粧品メーカーも、これまでITとは縁が遠かったようなところも、AIを活用したソリューションを一般消費者に提供し始めている。

 PC業界に関しては「AI PC」が大きな話題になっていた。AI PCとは、従来はクラウドでだけ演算していたAIの処理を、デバイス上のCPU/GPU/NPUなどでも演算することを可能にしたPCのことで、CESで各PCメーカーから発表され大きな話題を呼んだ。

 そして、CESに先立ってMicrosoftが発表したのが「Copilotキー」と呼ばれる、新しいWindows OS向けのキーとなる。「Windowsキー」レベルの本格的な新しいキーとしては30年ぶりとなるキーの導入とあって大きな話題を呼んでいる。

 Microsoftはなぜ新しいキーをこのタイミングで導入したのか。OEM向けのビジネスなどを担当するMicrosoft Windows・デバイス担当 執行役員 パヴァン・ダビュルリ氏にお話を伺ってきた。

将来はCopilotからユーザーの作業がスタート

Microsoft Windows・デバイス担当 執行役員 パヴァン・ダビュルリ氏

 Microsoftによる「CopilotキーはWindowsキー以来30年ぶりとなる本格的に新しいキーの導入」というの発表から分かることは、同社が本気でCopilotのWindows OSへの浸透、そしてそれを実現するハードウェアとなる「AI PC」を本格的に推進していくという強い意志だ。

 では、なぜこれまでPC産業でよく見られてきた「シール」での対応ではなく、ハードウェアキーという「強い薬」で取り組むことにしたのだろうか?

 というのも、シールに関しては製造時に1枚貼るだけなので、MicrosoftがPCメーカーに「お願いをする」コストも、PCメーカーの製造時の追加コストも比較的低く済む。

 しかし、キーボードのキーとなれば、それなり大がかりなコストになる。そうしたコストに関しては、直接的ではないがMicrosoftのようなプラットフォーマー側から、PCメーカーに対して何らかの形(たとえばロゴシールを貼った時のリベート支払いのような形)で補償されるのが一般的だ。

 Microsoftはそれについて何も説明はしていないが、今回のCopilotキーに関してもそうした何かはあると考えられている。つまり、それなりのコストを払ってでもそれをドライブしていく強い意志がMicrosoftにはある、そう考えるのが論理的だろう。

 今回なぜロゴシールではなく、物理的なキーを選択したのかに関してMicrosoft Windows・デバイス担当 執行役員 パヴァン・ダビュルリ氏は「今回我々がシールでなく物理的なキーを選択した最大の理由は、一貫したCopilot in Windowsのユーザー体験を、キーを通じて提供したいという想いがあるからだ。ユーザーがただキーを押すだけでCopilot in Windowsが起動し、利用できるというシンプルな体験を提供することが重要だと考えている」と述べる。

 また、「今後我々はユーザーのCopilot in Windowsの使い方は進化していくと予想している。Copilotキーを押してCopilot in Windowsに入り、そこで画像生成したり、ドキュメントを要約したり、さまざまな新しい作業フローをCopilotで行なっていくようになると考えている」という。

 Windowsユーザーがスタートメニューからさまざまな作業を始めるのと同じように、今後はCopilotキーを押してCopilot in Windowsを起動することで、さまざまな作業フローをこなしていくのことを想定しているようだ。

 つまり、将来のWindowsのメインUIがスタートメニューからCopilot in Windowsになることすら想定しているということだ。そのあたりは今後のユーザーの使い方次第で決めていくのだろう。

Copilotキーの位置はWindowsキーと対になる右が奨励だがPCメーカーの自由

Dell XPS 13のキーボード、左側のWindowsキー、Copilotキーが対になっていることがよく分かる、右側のCtrlキーがない

 MicrosoftのCopilotキーだが、今回のCESでは多くのPCメーカーが発表した2024年モデルに搭載されていた。Copilotキーは多くのマシンで左側のWindowsキーと対をなして右側に位置していることが多かった。

 この位置に定義があるのか聞いてみると、ダビュルリ氏は「その通りだ、多くのPCメーカーはそうした位置にキーを置いているし、我々もそれを奨励している。しかし、どこに置くかはPCメーカーの選択次第だ」とも述べ、Copilotキーの位置に関して強制的な指示をしていないとした。

AcerのゲーミングPCではMenuキーも用意されており、その隣にCopilotキーがある

 Microsoftによれば、スペースキーを挟んでWindowsキーと左右対称の右側に置くこと、場合によっては右側のCtrlキーを置き換えることなどを奨励している。

 しかし、よりキー数に余裕があるキーボードなどではCopilotと右側のCtrlキーが共存するのもちろんありだし、そもそも奨励の場所でない場所に置くのも問題はないと説明している。

 なお、物理的なキーとしては、Copilotキーは、従来の「Menuキー」(アプリケーションキーとも言う)に統合されており、従来のMenuキーの機能はCopilotキーのセカンダリ機能として残されており、キーボードにもよるがFn+CopilotキーでMenuキーの機能を利用できるということだ。

 ただし、CESで展示したマシンの中にはMenuキーとCopilotキーの両方が用意されている場合もあり、Microsoftの説明するようにこうした配置に関してはPCメーカーの自由度が高いようだ。

 また、Microsoftによれば、今後このCopilotキーはWindows 11ベースのPCキーボードの要件の1つになる予定だという。

現状のCopilotキーは一般消費者向けのPCだけがターゲット、法人向けPCは「タイミングの問題」と説明

ビジネス向けのPCであるLenovo ThinkPad X1 Carbon Gen 12にはCopilotキーはなく、右Ctrlが存在する

 さらに、ダビュルリ氏はこのCopilotキーが現状では一般消費者向けのPCだけに搭載されており、法人向けPCはターゲットになっていないことを明らかにしている。

 「現状では一般消費者向けのPCがターゲットになっている。これはタイミングの問題で、将来的には法人向けPCでも対象になると考えている。実際、PCメーカーやカスタマーから一般消費者向けのPCだけでなく法人向けPCでもCopilotを利用したいという要望が寄せられている」と述べている。

 たとえば、Lenovoは今回のCESに向けてThinkPad X1 Carbon/X1 2-in1など法人向けPCを発表した数少ないPCメーカーだが、両製品はいずれもCopilotキーは搭載されていなかった。

 OEMメーカー筋の情報によれば、法人向けPCでCopilotキーが搭載されるようになるのは、次のプラットフォームからのようだ。今年の末にIntelやAMDが発表するような新しいSoCを搭載し、CESで出てくる法人向けPCでCopilotキーの実装が始まっていくと予想できる。

ローカルCPU/GPU/NPUでの利活用に前向きなMicrosoft

Copilotキーの搭載は将来にさらなるCopilot in Windows活用の第一歩に過ぎない

 今回のCESでは実に多くのメーカーが、Ryzen 8040シリーズ・モバイル・プロセッサー、Core Ultraプロセッサーなどの最新のNPU統合SoCを搭載したAI PCの展示を行なって注目を集めた。その多くにはCopilotキーが実装されており、まさにMicrosoftの狙い通りにCopilotキーがAI PCを象徴しているという状況になっている。

 Microsoftにとっての次のステップは、Copilot in WindowsやCopilot for Microsoft 365のようなMicrosoftのファーストパーティアプリケーションが、いつデバイス側のCPU/GPU/NPUを利用したデバイス上処理に対応するかどうかだ。

 現状Copilot in Windowsにせよ、Copilot for Microsoft 365にせよ、ローカルのデータをクラウドアップロードしたあと、クラウド側のCPU/GPUなどで処理を行ない、その結果をローカルに戻すという作業がアプリケーションの背後で行なわれている。

 クラウドへ自分のデータをアップロードするのにセキュリティ上の懸念があるユーザーもいるだろうし、そして処理を依頼してから結果が出るまでの遅延(レイテンシー)が気になるユーザーもいるだろう。現状のクラウドの仕組みではその2つを根本的に解決するのは不可能だ。

 しかし、AI PCでは、そうした処理をすべてローカルで完結することが可能になる。AI PCでは、AIの学習データをサーバーから常時ダウンロードしておき、ローカルでLLM(大規模言語モデル)や生成モデルなどの大規模モデルを実行して、クラウドにデータを上げる必要なく、生成AIの処理が可能になる。

 そのため、データのセキュリティに関する懸念もないし、なによりデータをアップロードしてダウンロードするネットワークの遅延もない。そのため、クラウドを使っていない、あるいは企業のポリシーによりクラウドを使えないユーザーにとっては生成AIのメリットを得ることができる初めての機会となる。

 そうしたCopilot in WindowsやCopilot for Microsoft 365の、ローカルPC上のCPU/GPU/NPUなどでの処理に関してダビュルリ氏は「我々はすでにNPUのサポートを始めている。Windows Studio Effectsはその1つで、今後さまざまな形でNPUだけでなく、ほかのプロセッサーを含めたローカルでの処理をサポートしていくだろう。それと同時にMicrosoftはONNX Runtimeを利用したハイブリッド処理のようなアプローチも提供しているし、DirectMLのようなAPIも提供しており、Adobeのようなサードパーティーがすでにサポートを開始している。今後、そうしたクラウド、ローカル両方のよいところを取り入れたソリューションを提供していきたい」と述べる。

 それが具体的にいつ、どのような製品になるのかは明らかにしなかったが、MicrosoftはローカルのCPU/GPU/NPUなどを活用したソリューションの提供を前向きに行なっていきたいという意向を示した。

 最後にダビュルリ氏は「我々のCopilotの取り組みは短期間で終わるものではない。今回のCopilotキーの導入はその最初の一歩に過ぎず、これから長い時間をかけてより良いユーザー体験を提供できるように環境を整えていく。大事なことはユーザーがシンプルに利用できることで、Copilot in Windows、Copilot for Microsoft 365、そしてサードパーティのアプリケーションもより簡単に生成AIの機能を取り込んでいけるように整えていきたい」と伝えた。

 Microsoftが今後数年にわたってCopilotの取り組みを続けていくことで、Windows OSがより良いAIを利用できるプラットフォームにしていきたいとしている。