笠原一輝のユビキタス情報局

第8世代Coreプロセッサ“Coffee Lake-S”が日本で10月5日に発売されないワケ

Coffe Lake-Sこと第8世代Coreプロセッサ・Sシリーズ。CPUが6コアになっていることが最大の特徴

 Intelは第8世代CoreプロセッサのSシリーズを、9月24日(米国時間、日本時間は9月25日)に発表した(別記事参照)。

 米国Intelの発表では10月5日から販売開始とされているが、実は日本ではそのスケジュールは適用されない。

新しいZ370マザーボードが必要になる第8世代Coreプロセッサ・Sシリーズ

 第8世代Coreプロセッサ・Sシリーズは、開発コードネームCoffee Lake-S(以下CFL-S)で知られる製品となる。Coffee Lakeに関しては本連載で何度か取り上げてきたが、14nmプロセスルール世代で製造される、6コアCPUの製品だ。

 Intelによれば、今回発表された第8世代Coreプロセッサ・Sシリーズに利用されているCFL-Sは、CPUやGPUのマイクロアーキテクチャに関しては、昨年(2016年)発表された第7世代Coreプロセッサ(開発コードネーム: Kaby Lake)とほぼ同じだという。

 違いは2点で、1つはCPUがKaby Lakeでは最大で4コアだったのに対して、Coffee Lakeでは6コアになっていること。もう1つは製造に利用される製造プロセスルールが、Kaby Lakeは「14+nm」となっていたのが、Coffee Lakeは「14++nm」となる点。

 14++nmは、2015年に導入された14nmのプロセスルールの改良版第2世代という製品になる。Intelは14nmプロセスルール以降のプロセスルールでは、“ハイパースケーリング”と呼ばれる新しい考え方を導入している。

 このハイパースケーリングというのは、同じ世代の技術を使ってはいるが、さまざまな工夫を加えることで、トランジスタの微細化を実現する技術と考えれば良い。つまり、14+nmであれば14nmに比べて微細化されており、14++nmは14+nmよりもさらに微細化されているということになる。

 プロセスルールの世代という呼び方は変わらないが、実際には微細化したのと同じメリットを得ることができる、それがハイパースケーリングの考え方だ。このため、14++nmは10nmまでは届いていないが、14nmと10nmの中間にあるようなプロセスルール、そう理解しておけば間違っていない。

 なお、この第8世代Coreプロセッサ・Sシリーズに組み合わされるのは、Intel Z370チップセットになる。このZ370チップセットは、現行のIntel 200シリーズチップセットのリネーム版で、基本的にはIntel Z270チップセットと大きな違いはないと理解して良い。

 ただし、ソケットこそ同じLGA1151だが、電気信号は異なっているので、マザーボードは第8世代Coreプロセッサ・Sシリーズ用の新しいマザーボードが必要になり、従来のIntel 200シリーズチップセットを搭載したマザーボードでは利用できない。

 なお、OEMメーカー筋の情報によれば、来年の半ばには、次世代PCHを利用した「Intel 300シリーズチップセット」の各製品が投入される予定だ。Z390、H370などの各製品が予定されているとのことで、マザーボードのラインナップが充実するのは、そのタイミングになるだろう。

日本でも10月5日に販売するのか、という質問に対しての答えが「第4四半期」の背景にあること

 こうした注目の第8世代Coreプロセッサ・Sシリーズだが、日本で手に入るのは、グローバルに比べてやや先になりそうだ。

 9月26日に、Intelの日本法人(以下IJKK)が行ったプレスセミナーの最後の質疑応答の時間に、筆者の「米Intelでは10月5日に第8世代Coreプロセッサ・Sシリーズの販売を開始すると言っているが、日本でもそれは同じか?」という質問に対して、Intelの広報担当者は「第4四半期中を予定している」と答えている。

 この広報担当者の答えには大きな意味が2つある。

 1つは、IJKKが少なくとも10月5日に第8世代Coreプロセッサ・Sシリーズを販売開始する予定はしていないということ(グローバルと同じ10月5日販売開始ならそう言うからだ)であり、もう1つは、その販売開始が第4四半期中とグローバルの予定である10月5日よりも幅広く取られている、ということだ。

 この発言を受けて、OEMメーカーやチャネルの関係者に取材したところ、IJKKは10月5日ではなく、11月以降、具体的には11月後半に販売開始する予定で、OEMメーカーやチャネル関係者と調整を続けているということがわかった。

 まだ最終的に決まったわけではなく、発売日なども流動的だとのことだが、少なくとも10月5日には日本では販売開始されない可能性は高いと言える。

 なぜこうした事態になっているのかというと、実は第8世代Coreプロセッサ・Sシリーズの供給がタイトになっているからだと、Intelに近い情報筋は説明する。

 実際、第8世代Coreプロセッサ・Sシリーズの各リージョンへの割り当ては少なく、リージョン間で奪い合いになっている状態で、とても初期の需要を満たせる数を確保できていない現状だという。このため、IJKKとしては十分な数が確保出来てから販売することを計画しており、現在OEMメーカーや販売チャネルと話し合いを続けている、そういうことなのだ。

当初は足りるはずだった第8世代Coreプロセッサ・Sシリーズだが……

 Intelに近い情報筋によれば、そもそもこの第8世代Coreプロセッサ・Sシリーズは、8月には販売ができる準備が整っていると、OEMメーカーには説明されていたのだという。

 しかし、Sプロセッサを販売する上で重要なパートナーとなるマザーボードメーカーが、Intel 200シリーズチップセットを搭載したマザーボードの在庫が積み上がっている状態だったので、それが捌けるまでリリースを待って欲しいという話があり、10月5日に発売日が再設定されたという経緯がある。

 ところが、それが決まった後で世界中で需要を見積もったところ、供給が圧倒的に足りないということがわかり、各リージョンに十分な数が割り当てられないという事態になってしまったのという。

 それがなぜ起きたのか各所に取材したが、OEMメーカーの関係者も販売チャネルの関係者も、一様にわからないとのことだった。

 考えられるのはIntelの担当者が需要の予測を見誤ったか、歩留まりが上がらなくて必要な数を確保できなかったのどちらかだろう。最近のIntelを見ていると、後者の可能性が高そうだが、はっきりとはわからない。

 いずれにせよ、現状では10月5日の発売に十分な数を確保できないことは確実で、それをIJKKが確保できそうなのが11月後半ということで、11月後半以降の販売が予定されている。

 日本のユーザーにとっては、11月後半までの約1カ月半お預けを食らう形となるが、それまでに供給も改善して、魅力的なマザーボードと共に市場に供給されることに期待したい。