瀬文茶のヒートシンクグラフィック

Sapphire「VAPOR-X UNIVERSAL CPU COOLER」

~ベイパーチャンバーを搭載するSapphire初のCPUクーラー

 今回はSapphireブランド初のCPUクーラー「VAPOR-X UNIVERSAL CPU COOLER」を紹介する。購入金額は9,980円だった。

受熱面にベイパーチャンバーを採用

 ATI、そしてAMDのGPUを搭載したビデオカードを製造するメーカーとして名高いSapphireが、同社初のCPUクーラーとして2012年12月に発売したのが、今回紹介する「VAPOR-X UNIVERSAL CPU COOLER」(以下、VAPOR-X)である。オーソドックスなサイドフローレイアウトのヒートシンクを持つVAPOR-Xは、一見ありふれたサイドフロー型CPUクーラーに見えるが、CPUと接するベース面にベイパーチャンバーを採用したことを特徴としている。

 近年、ハイエンドGPU搭載ビデオカードのヒートシンクに採用されている部材として知られるようになったベイパーチャンバーは、平たいヒートパイプのようなユニットで、中空構造の中に封入した液体の気化と凝縮によって熱を輸送する。CPUクーラーでベイパーチャンバーを採用した製品としては、2012年7月にCooler Masterから発売され、本連載でも紹介した「TPC 812」が記憶に新しい。ただし、TPC 812ではベイパーチャンバーをベースユニットから放熱ユニットへの熱輸送というヒートパイプと同じ利用方法だったが、VAPOR-XではCPUクーラーからの熱を受け取る受熱部にベイパーチャンバーを利用しており、同じベイパーチャンバー採用CPUクーラーながら、その用法はまったく異なっている。

 VAPOR-Xのヒートシンクは、ベイパーチャンバーを受熱部に備えるベースユニットと、4本の7mm径ヒートパイプ、63枚の放熱フィンを持つ放熱部から構成されている。受熱部のベイパーチャンバーが、CPUから受け取った熱を水平方向に拡散することで、4本のヒートパイプに熱を分散させて伝えるという設計だ。中心部から離れた位置のヒートパイプにも熱を伝えようというベイパーチャンバーの使い方は面白いのだが、その割にヒートパイプ数が少ないのが勿体なく感じる。

 VAPOR-Xには2基の120mmファンが標準で搭載されており、いずれもPWM制御によって495~2,200rpmの範囲で回転数を調整することができる。ファンの取り付けには、専用のファン固定用フレームにファンをねじ止めする形をとっており、市販の120mm角ファンに交換することもできる。

 120mmファンを2基搭載する大型のCPUクーラーだが、ヒートシンク本体が薄型であるためメモリをはじめとする周辺パーツとの物理的な干渉は起こりにくい。今回テストに用いたASUSのIntel Z77 Expressチップセット搭載マザーボード「MAXIMUS V GENE」に搭載した場合、メモリスロットおよび拡張スロットとの干渉は発生しなかった。

冷却性能テスト結果

 それでは冷却性能テストの結果を紹介する。今回は標準ファンのPWM制御を無効にしたフル回転時と、PWM制御を20%に設定した際の温度をそれぞれ測定した。

検証テスト結果

 検証結果を見てみると、VAPOR-Xは3.4GHz動作時に、CPU付属クーラーより14~26℃低い温度を記録している。フル回転時の温度はまずまずの結果だが、約580rpmという低速回転とはいえ、デュアルファン構成である割には20%制御時の温度が高い。63枚もの放熱フィンを備えるVAPOR-Xの放熱ユニットは、静圧の低い低速ファンとの相性があまりよくないようだ。オーバークロック動作時については、4.4GHz動作時に71~87℃、4.6GHz動作時はフル回転時で81℃、20%制御時は94℃を超えたためテスト中止となった。

 動作音については、フル回転設定の約2,000rpm動作時は、風切り音が大きくケースに収めてもその動作音が聞こえるレベルであるのに対し、PWM制御を20%に設定した約580rpm動作時は、風切り音、軸音ともほとんど気にならなかった。VAPOR-Xは低速ファンとの組み合わせにおけるパフォーマンスが芳しくないが、ファン自体は静音から冷却重視まで幅広く対応可能なファンであると言えるだろう。

技術的には面白い受熱部へのベイパーチャンバー採用

 水平方向への熱拡散を目的にベイパーチャンバーを採用したVAPOR-Xは、CPUクーラーにおけるベイパーチャンバーの新たな活用方法を実践したヒートシンクとして、面白い存在であることは間違いない。ただ、今回のテストで確認したパフォーマンスは、9,980円という空冷CPUクーラー最高クラスの価格からすると、物足りなさを感じるものであるのことも確かである。

 もっとも、CPUクーラーを選ぶ際の基準はコストとパフォーマンスだけではない。VAPOR-Xは見た目から受ける印象の割に薄型のヒートシンクを採用しているため、物理的な干渉が起こりにくいCPUクーラーである。また、樹脂パーツと青色LEDによる装飾に力を入れている製品でもあり、見た目の豪奢さや物理的制約の緩さは一考の価値がある。SapphireオリジナルのVGAクーラーを搭載したビデオカードと組み合わせてみるのも一興だろう。

SAPPHIRE「VAPOR-X UNIVERSAL CPU COOLER」製品スペック
メーカーSAPPHIRE
フロータイプサイドフロー型
ヒートパイプ7mm径×4本
放熱フィン63枚
サイズ135×110.4×163.5mm(幅×奥行き×高さ)
重量924.85g
付属ファン120mm角ファン ×2
電源:4ピン
回転数:495~2,200rpm
風量:77CFM
ノイズ:40dB
サイズ:120×120×25mm
対応ソケットIntel:LGA 775/1155/1156/1366/2011
AMD:Socket AM2系/AM3系、Socket FM1/FM2

(瀬文茶)