瀬文茶のヒートシンクグラフィック

世界初のベイパーチャンバー採用CPUクーラー
「Cooler Master TPC 812」



 7月6日に発売されたCooler MasterのハイエンドCPUクーラー「TPC 812」を紹介する。今回の購入金額は8,980円だった。

●世界初のバーティカルベイパーチャンバー搭載CPUクーラー

 Cooler Masterが同社の空冷CPUクーラーのフラッグシップモデルとして発売した「TPC 812」は、従来のサイドフロー型CPUクーラーの形状を踏襲しつつ、熱輸送部に新機軸「バーティカルベイパーチャンバー」を採用したヒートシンクが特徴の製品である。

 近年、ハイエンドGPUを搭載したビデオカードを中心にVGAクーラーへの採用製品が増えているベイパーチャンバーは、チャンバー内に封入した液体の気化と凝縮によって熱を輸送するという、ヒートパイプとほぼ同じ原理を用いたユニットだ。TPC 812に採用されたバーティカルベイパーチャンバーとは、ベイパーチャンバーを垂直方向に取り付けたものであり、Cooler Masterによれば、このような形でベイパーチャンバーを利用するCPUクーラーは世界初であるという。

 TPC 812のヒートシンクは、2本のバーティカルベイパーチャンバーと6本の6mm径ヒートパイプを備えており、ベースユニットがCPUから受け取った熱はこれらの熱輸送ユニットによって放熱部へと伝えられる。放熱部は44枚の放熱フィンからなり、最上段にはヒートパイプとベイパーチャンバーのカバーを備えた装飾板がある。ヒートパイプとベイバーチャンバーを接続しているベースユニットの構造は、CPUと接するベースプレート側にヒートパイプ6本を配置し、そのヒートパイプの上部にベイパーチャンバーを配置するというものだ。

 ベイパーチャンバーという新機軸を採用しているため、従来とそのまま比較できるものではないが、ヒートパイプとベイパーチャンバーの間にはかなり隙間が空いており、ハイエンドCPUクーラーのベースユニットとしては少々造りの甘さを感じる仕上げである。

 TPC 812には、PWM制御により600~2,400rpm(±10%)の広範囲で回転数を制御可能な120mm角ファンが1基同梱されており、「クイックスナップファンブラケット」と呼ばれる専用のブラケットにねじ止めしてからヒートシンクへ取り付ける。TPC 812にはこのファン固定用ブラケットが2セット同梱されているので、市販されている120mm角ファンを用意すれば、デュアルファン構成での運用も可能だ。

 極低速から高速まで幅広くカバーするTPC 812の付属ファンは、同梱の静音モードアダプタを組み合わせることで回転数の上限を1,600rpmに抑えることができる。なお、この静音モードアダプタは、Cooler Masterの製品ページによれば「ファンの回転数を1,600rpmに固定する」とされているのだが、実際には回転数の上限を約1,600rpmに抑えるだけで、アダプタを使用した状態でもPWM制御による回転数の抑制は可能だった。

Cooler Master TPC 812製品パッケージ
Cooler Master TPC 812本体
付属品一覧
ヒートパイプと共にベースユニットから延びる幅広の扁形ヒートパイプのような物が、バーティカルベイパーチャンバー
ベースユニットの隙間
ベースユニットの構成(イメージ)
メモリとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE)
拡張スロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE)

 TPC 812も大型のヒートシンクではあるものの、流行の140mmファン向けの大型ヒートシンクに比べれば幾分か小さく、今回テストに用いたASUS MAXIMUS V GENEとの組み合わせでは、拡張スロットに被るようなことは無かった。ただし、メモリとのクリアランスについては難がある。メモリスロットの上空にヒートシンクが直接被さっているわけではないのだが、ファンを通常の位置に取り付けると高さ40mmのメモリでも干渉してしまう。多くのCPUクーラーの場合、ファンの干渉であればファン自体を上にずらすことで問題の解消を図ることができるのだが、TPC 812の放熱部最上段に設けられた装飾板には、ファンブラケットを固定する切欠きが用意されていないため、ファンを上にずらすとファン自体の固定が甘くなってしまう。組み合わせるメモリには注意が必要である。


●冷却性能テスト結果

 それでは冷却性能テストの結果を紹介する。今回のテストでは、標準ファンのフル回転動作時(約2,270rpm)と、静音モードアダプタを使用した約1,650rpm動作時、PWM制御を20%に設定(約680rpm)の3パターンの温度データを取得した。

【グラフ】テスト結果

 結果をみていくと、3.4GHz動作時にはCPU付属クーラーより20~30℃低い結果となっており、シングルファンのサイドフロー型CPUクーラーとしては良好な結果と言える。また、ハイエンドCPUクーラーに期待されるオーバークロック時の動作温度については、4.4GHz動作時にフル回転時に68℃、約1650rpm動作時には70℃、20%制御時には81℃。4.8GHz動作時にはそれぞれ79℃、81℃、NG(94℃超のためテスト中断)となっている。120mm角ファンのシングルファン構成かつ、回転数が約680rpmという20%制御時に温度が高くなるのは仕方ないとして、フル回転時と静音モードアダプタ使用時の温度差が小さい点は気がかりだ。静音アダプタ使用時に記録した結果は、空冷CPUクーラーとして上位のパフォーマンスと言える結果だが、搭載ファンの回転数が約2,270rpmに達するフル回転時の結果は少々物足りない印象を受ける。

 動作音については、約680rpmで動作する20%制御時はCPUクーラーからの騒音はほぼ気にならないレベルで、静音モードアダプタ使用時の約1,650rpm動作も回転数の割には動作音は小さいような印象を受けた。一方、フル回転時も回転数の割には動作音が小さい印象はあるものの、流石に耳障りなファンノイズが発生していた。冷却性能のパフォーマンスを鑑みると、フル回転時の動作音はパフォーマンスに釣り合っているとは言い難い。パフォーマンスを求めるユーザーであっても静音モードアダプタを試してみる価値はあるだろう。

●ベイパーチャンバー採用は興味深いがベースユニットには課題も

 最近のCPUクーラーはどこか似通った形状の製品が増えてきており、特に冷却性能を追求するハイエンド製品に関しては、140mmファンを搭載するのミッドシップレイアウトのサイドフロー型ヒートシンクが定番となっている。そんな中で、Cooler Masterがオーソドックスなスタイルのサイドフロー型ヒートシンクにベイパーチャンバーを採用したハイエンド製品をリリースしたことは、なかなか興味深い。

 TPC 812自体、見栄えの良いヒートシンクでありパフォーマンスも良好だ。実売価格の8,980円は空冷CPUクーラーとしては高い部類だが、買ってみたくなる魅力をもった製品である。ただ、今回試してどうしても気になってしまったのは、ベースユニットの作りだ。せっかくのベイパーチャンバー採用ヒートシンクながら、ベイパーチャンバーとベースユニットの接触面積が少ない点がどうしても引っかかった。それでも性能が出るのであれば問題ないのだが、冷却性能の検証でもファンをフル回転した際と静音モードアダプタ使用時の温度差が、回転数の割に少ないという結果も出ており、このあたりがボトルネックになっているのではないかと邪推してしまう。

 初のバーティカルベイパーチャンバー採用製品として、TPC 812は十分及第であると思われるが、せっかくのハイエンド製品なのだから、もう少し細部も丁寧に仕上げて欲しかったというのが正直なところだ。

【表】Cooler Master「TPC 812」製品スペック
メーカーCooler Master
フロータイプサイドフロー型
ヒートパイプ6mm径×6本+バーティカルベイパーチャンバー×2枚
放熱フィン44枚
サイズ138mm×103mm×163mm(幅×奥行き×高さ)
重量978g (ヒートシンク826g+ファン152g)
付属ファン120mm角ファン×1 (カッコ内は静音モードアダプタ使用時)
電源:4ピン
回転数:600~2,400rpm±10%(1,600rpm)
風量:19.17~86.15CFM(59.54CFM)
ノイズ:19~40dBA
サイズ:120×120×25mm(幅×奥行き×高さ)
対応ソケットIntel:LGA 775/1155/1156/1366/2011
AMD:Socket AM2系/AM3系、Socket FM1