西川和久の不定期コラム

2012年を振返る

~Retina、Windows 8、7型タブレットが印象に残る2012年

 今年も残すところあとわずか。そこでこの1年間に掲載した記事を振り返りつつ、2012年のトレンドなどを追ってみる。筆者の趣味/趣向がかなり入るので、一般とはズレがあるかも知れないが、そこはコラムと言うことでお許し頂きたい。

今年扱った機器は?

 今年1月から掲載した記事はざっと70本。内訳はUltrabook:10本、ノートPC:18本、スマートフォンやタブレット:8本、デスクトップPC(小型、一体型、タワー型など):12本、その他ハードウェア(ディスプレイ、HDD、サウンド、プリンタ、改造ネタなど):12本、その他ソフトウェア(OSなど):7本となる。

 2011年もノートPCは数多くあったものの、Ultrabookのカテゴリは11月から始まっており、今年は一気に増えたのが印象的だ。ただルックスや重量以外で普通のノートPCと差別化するのが難しく、ブランドの認知度は高いものの、購入時の決定打にはなっていない雰囲気を受ける。

 スマートフォンやタブレットに関しては2011年も好んで記事を書いたが、今年は機種変更をしなかった事もあって「iPhone 5」を扱わず、「iPad mini」と「iPad 4」を1回でまとめたにも関わらず、2011年より記事の本数が増えている。このあたりも今年の特徴と言えるだろう。

 そしてソフトウェアに関しては、iOSやAndroidも従来通り最新版の話などを扱っているが、「Windows 8」関連で、Consumer Preview:2本、Release Preview/RTM:2本と書いているため大幅に増量した。

 今回は年末と言うこともあり、この中から筆者的に印象が強かったものをピックアップし、後日談も加えて書いてみたい。掲載順にあげると、Retina版iPad、Windows 8、7型タブレットとなるだろうか。後半は個人的なIT環境の変化や、残念だったことも付け加えている。

Retinaディスプレイの衝撃

半年でディスコンとなってしまった「iPad 3」

 今年の冒頭は、WiMAX Wi-Fiルーターから始まり、ノートPC、改造ネタ、AMD Fusion APU系、デスクトップ、液晶ディスプレイなど、無難なところからスタート。そして、新しい(新しかった)iPad(以下iPad 3)を発売日の3月19日に購入した。ご存知のように、A6Xプロセッサを搭載したiPad 4が11月2日から発売となり、たった半年ほどでディスコンになってしまった前モデルだ。

 発売の段階で「iPhone 4/4S」のRetinaディスプレイをすでに体験していたにも関わらず、当時の衝撃はかなりのものだった。何しろたった9.7型のパネルの中に2,048×1,536ドットも詰まっているのだ。しかもIPSパネル。PCの汎用的な液晶ディスプレイですらもっとも大きいサイズで2,560×1,440ドット。この差は圧倒的であり、ドットはまるで見えず、高品位な印刷物を見ている錯覚に陥る。

MacBook ProにもRatinaディスプレイ版が登場

 当時は“これに他社が追いつくのは大変では”と書いたが、半年後の現時点では、同社の「MacBook Pro」はもちろん、「Nexus 7」をはじめ、多くのAndroid機がこの264ppiに迫る解像度を持ち始めた。もちろんタブレットだけでなく、スマートフォンも同様だ。一度この画面に慣れてしまうと、普通のディスプレイはスカスカに見える。早くPC側も追いついて欲しいところだ。2013年はPC(Windows 8)でもRetinaディスプレイになるのか注目したい。

Windows 8リリース

 Windows 7以来のメジャーバージョンアップで、IT関係者のみならず多くのユーザーが関心を持ったWindows 8。今年は3月のConsumer Preview版からこの話題で持ち切りだったと言っても過言ではない。

 ソフトウェア面では、スタートメニューがなくなり、ライブタイルを使ったスタート画面へと変化、Windowsストアアプリの追加、エディションが整理され分かりやすくなったのが最も大きな違い。特にスタートメニューについては賛否両論あるようだが、慣れてしまえばあまり気にならなくなると言うのが個人的な感想だ。

 もともとWindows 7でも、良く使うアプリケーションに関しては、デスクトップやタスクバーへ置いていたので、同じことをWindows 8でも行なえば、起動時に一旦スタート画面が表示されるものの、事実上差がなくなる。新しくなったExplorerも意外に使いやすい。

 Windows 8では、ノートPCに外部ディスプレイを接続した使い方が筆者的にはお気に入りの環境だ。ノートPCはWindowsストアアプリ、外部モニタはデスクトップ環境として、主に情報収集はノートPCで、クリエイティブな処理は外部ディスプレイで行なうと効率が良い。

 ハードウェア面では少し前から記事で掲載しているように、Windows 8の特徴を活かすためにタッチパネル搭載機が増え、タブレットとキーボードが合体したり、ノートPCからスライドしてタブレットになったり、両面に液晶パネルを搭載したものなど、これまであまりなかったタイプのノートPCが増えてきた。長らく形状面での変化が小さかったPCが、緩やかであるものの進化してきたのがこの2012年と言えるだろう。

 いずれにしても、Windows 7からは急激な変化なので、Windowsとの付き合いが長ければ長いほど、なかなか馴染めないのは仕方ない。ただ、従来のままだと、タブレットなど非Windowsデバイスとの差は広がるばかり、これからのハードウェアに適合しにくいこともあり、扱う側の意識の変化が必要とも言える。

Windows 7から大きな変化となったWindows 8
キーボード合体式の富士通「FMV STYLISTIC QH77/J」(左)や、天板にも液晶ディスプレイを備えるASUS「TAICHI」(右)など、PCのハードウェアにも変化が起こった

 余談になるがWindows 8出荷後、ライセンスに関して大幅な変更があった。筆者のメイン環境は、メモリ16GB搭載のMac mini。BootCampしてWindows 7を入れ、Parallels Desktop for Macの仮想PC上でそのWindows 7を使っている。

 これまでは同一パーティション上にあるWindowsであれば、ライセンス上は同一と見なされ、リアルなWindows 7も仮想PC上のWindows 7も単一ライセンスでOKだった(2012年12月末まで)。しかし、Windows 8の出荷後にライセンスの見直しがあり、2013年1月からはWindows 8に限らず、Windowsの全てのバージョンで別ライセンス、つまり2本分のライセンスが必要となってしまう。

 あくまでも物理的にインストールされているHDDを参照しているだけで、Windowsはもちろんアプリケーションも全て同じ環境にも関わらずだ。アクティベーションが必要なソフトウェアでも、こんな話は聞いたことがない。ユーザーにとってみれば不条理なライセンス変更となってしまった。

 既にBootCamp側のWindowsは何カ月も起動していないので、現状困ることはないのだが、突然のライセンス変更に困っているユーザー(ほとんどアナウンスされていないので知らないユーザー)も多いのではないだろうか。同社の紳士的な対応を望みたい。

仮想環境に物理OSを呼び出して利用する場合のWindowsライセンスが変更される

約7型タブレットの台頭

Nexus 7

 2012年の夏頃までは、Retinaディスプレイを搭載した9.7型のiPad一人勝ちの状態が続いたが、この秋以降はNexus 7を筆頭に(もちろんiPad miniも)、約7型のタブレットがいろいろ出回りだした。

 その後、Kindle Paperwhite 3GやKindle Fire HDも触ったが、ページ切替時に発生する独特のブラックアウトや、発色が黄色っぽい、そしてGoogle Playが使えないなどの理由で、結局はNexus 7に落ち着いている。

 そしてこれまで少なくとも自宅では無敵だった“新しかったiPad”は、アプリの検証以外、ほとんど使わなくなってしまった。さらにiPad 2はカメラ接続キットのUSBアダプタからUSB-DACへ接続しネットラジオ専用機になった。一気に主役から脇役に降格だ。

 恐らく国内で約7型が受けているのは、片手で持てるサイズと重量、そして購入しやすい価格帯からだと思われる。これほど日本人にマッチするデバイスはほかには見当たらない。

 もう1つ個人的に決め手になったのが、「Twonky Beam」のnasne対応と、先日ソニー「RECOPLA」の汎用Android版が出たことだ(以前nasneの記事で同社にお願いしたことが現実となり嬉しい限り)。どちらもiOS版があるのだが、iPhone 4S以外で再生すると音がズレたり切れたりする。しかしNexus 7なら完璧に再生できる。現在のところ、ゴロ寝デバイスとしては最強だ。

 来年はiPad miniのRetina+A6X搭載の噂が出ていることもあり、今から楽しみにしている。もちろんAndroidも魅力的なデバイスが多く出てくるだろう。まだまだ約7型タブレットの市場は熱そうだ。

 余談になるが、今年購入したデバイスの中で一番のお気に入りが、このnasneとNexus 7。どちらも安価なこともあり、軽い気持ちでポチッとしたのだが、結果的には一番常用する逸品となった。

「iPad mini」
「Kindle Fire HD」
Android汎用版となった「RECOPLA」

キャリアメールからFacebookとLINE、SMSが主に

 話は少し変わって、今年1年、個人的に大きく変わった点を書いてみたい。それはキャリアメールを使わなくなったことだ。ご存知のように、電話番号に関してはMNPでキャリア間を移動可能だが、キャリアに紐付けられたキャリアメールアドレスは移動できない。また、SIMロックフリー機の例えばiPhoneもキャリアメールは使えない。つまり端末をほかのキャリアやSIMロックフリー機に変更する場合、一番大きな障壁がキャリアメールとなる。一時期、iモードメールをPCから扱えるiモード.netも試したが、あまりにも古過ぎるシステム概念とUIに、あっさり断念した経緯もある。

 この障壁を取り除くには日頃からキャリアメールを使わず、ほかの手段で代替すれば良く、実行してみると意外と簡単だった。一番はSMSを使うこと。2011年7月13日から全キャリア間で電話番号を使ってのSMSが可能になった。欠点としては若干コストがかかり、写真を添付することが出来ない。

 これをカバーするのが、「Facebookメッセージ」と「LINE」だ。筆者の場合、多くの友人や知人はFacebookにアカウントがあり、これまでキャリアメールで連絡していた内容を90%カバー出来ている。しかもPCでもタブレットでもスマートフォンからでもOK。プッシュ通知にも対応しているため、見逃すこともない。

 加えてLINEがあれば完璧だ。こちらは元々メッセージから始まったシステムなので、Facebookよりもより使いやすく、シェイクしたりQRコードを使うなどの手段でアドレス交換もその場ですぐに可能。Facebookメッセージ同様に、マルチデバイス、写真の添付やプッシュ通知に対応し、若い層とはLINEを使っている。

 この3パターンを使えば100%カバーでき、もはやキャリアメールは不要。気軽に乗り換えが可能となる。ただFacebookとLINEは、(遭遇したことはないが)ダウンする可能性もあり、緊急時はSMSを使っている。

 この回避策はSMSが全キャリア間でOKになる2011年7月13日以前は難しかったし、FacebookやLINEのユーザーの大幅な増加に伴い可能になった手法と言えよう。

SMSに加え、LINEやFacebookメッセンジャーの活用でキャリアメールを使わなくなった

Windows Phone 8とMicrosoft Surfaceの日本飛ばし

 最後に個人的に今年非常に残念だった話を書いてみたい。それはWindows Phone 8とMicrosoft Surfaceが何故か先進国の中では日本だけ発売されなかったことだ。

現在、唯一国内で発売されたWindows Phone 7.5搭載機、au「IS12T」

 まずWindows Phoneであるが、日本ではauから「IS12T」として唯一出荷されている。2011年9月に試用記を掲載し、その時の印象はかなり良かったスマートフォンでありOSで、Windows CEをベースにしたWindows Phone 7.5を搭載、Windows 8の手本ともなったライブタイルとMetro UIを採用。iOSやAndroidにはない動きが特徴的だ。

 さらに、People Hubと呼ばれるソフトウェアの考え方が良くできている。例えばiOSやAndroidでは、電話の履歴は電話アプリ、Facebookでのやり取りはFacebookアプリ、つぶやきはTwitterアプリ、メッセージのやり取りはメッセージアプリ……といった具合に、同じ人を対象にしても、そのやり取りはアプリ毎に分断されている。しかしPeople Hubでは、人を中心に書き込みや写真も含めまとめて見ることができて、非常に便利。目からうろことはまさにこの事だ。もちろんMicrosoft製品だけあって、OfficeやSkyDriveとの連携も万全。iOSにもAndroidにもない世界観を持ったスマートフォン用のOSだ。

 ただWindows CEがベースと言うこともあって、マルチコア非対応など、iOSやAndroidを搭載した端末と比較してハードウェア的なスペックで見劣りしていた(と言ってもシングルコアでも驚くほどスムーズに動く)。

 そこでWindows Phone 8はNTカーネルを採用し内部を一新。ライブタイルも標準、標準の4分の1、標準の2倍の3サイズを用意し、ホーム画面へ自由に配置出来るなど、さまざまな機能を搭載して生まれ変わった。発表は10月30日。現在、NokiaやHTCなどから魅力的な端末が出荷されている。当初、NTTドコモの冬春モデルで登場すると噂されていたものの、結果はご存知の通り。実際プランはあったようだが、土壇場でひっくり返ってしまったようだ。

 あくまで筆者の推測だが、日本で出荷されなかった理由は2つ考えられる。まず地図の問題だ。Windows Phone 7.5ではBingマップが使われていたので国内もそこそこ表示できていたが、Windows Phone 8ではNokiaマップを採用したため、日本はほぼ真っ白。先のiOS 6でも地図の件は大きく取り上げらたことからも分かるように、この問題は深刻だ。もちろんGoogleマップがベースになっているgMapsなどを使えば大丈夫なのだが、標準で持っているか、後でユーザーがダウンロードするかの差は大きい。

 もう1点は、マーケットサイズとそのガラパゴス性の問題だ。国内のスマートフォンは世界から見れば市場規模が小さいわりに、多くの機種がひしめき合い、キャリアのスペックに対する独自仕様の要求が多く、またユーザーも厳しい。これらに対応するにはもう少し時間がかかるとの判断があったのだろう。ただ、iPhoneが上陸した当初も同じことが言われたものの、今では街にあふれるほど使われている。ぜひ第1弾としてアーリーアダプタを対象に、NokiaやHTCなどの端末を技適だけ通してそのまま国内でも扱って欲しいところだ。

 そして、MicrosoftのWindows RTマシン、Surfaceも日本では発売されなかった。初期起動時には日本語に対応していないが、ランゲージパックをインストールすれば、プリインストールしているOffice 2013 RTも含めて完全に日本語化でき、全く問題なく使える。何故国内で販売されないのか筆者には意味が分からない。

 今時、日本語キーボードがないのが理由とも考えられず、一説によると他社と比較して価格が安いことが問題とも言われたものの、キーボードと一緒に揃えると6万円強と、それほど安価でもない。Coreプロセッサを搭載したSurface Proが来年早々出荷開始となるが、今のところ同様に日本で販売される予定はなく残念だ。

 この続けざまに起こったMicrosoftの日本飛ばし。筆者にとってはどちらも非常に欲しい端末だっただけに、2012年一番残念な出来事となった。

「Windows Phone 8X by HTC」(左)などの端末が出ているWindows Phone 8や、MicrosoftのWindows RT端末「Sureface」(右)の“日本飛ばし”は残念な出来事となった

 以上2012年を振り返ると、Ultrabookの実質的な登場、Windows 8元年、広がりつつあるRetina相当のディスプレイ、約7型タブレットの台頭など、新型のプロセッサやチップセットで盛り上がるような例年とはかなり異なった展開となった。

 来年早々は恒例のInternational CESがあり、2013年の動向を垣間見ることができるだろう。どんな年になるのか、楽しみにしつつ、今年を締め括りたい。

(西川 和久http://www.iwh12.jp/blog/