西川和久の不定期コラム

超小型モバイルインターネットツール登場! シャープ「PC-Z1」



NetWalker

 ネットブック真っ盛りの昨今、シャープから面白いインターネットツール「NetWalker(PC-Z1)」が発表された。A6サイズで、CPUにFreescale i.MX515を採用、OSはUbuntu(Linux)、そして解像度はWSVGAの1,024×600ドットだ。このネットブックがギュッと小型化した様なMID(Mobile Internet Deveice)、その量産試作機が届いたので早速レポートをお届けする。
●PC-Z1の中身は!?

 まず、このPC-Z1を語る上において見逃せないのが、「Freescale i.MX515」プロセッサだ。このプロセッサは「ARM Cortex-A8テクノロジ」を採用し、65nmプロセス技術で製造、最高2,100Dhrystone MIPSの性能を持ち、PC-Z1のCPUクロックは800MHz。更に動画再生支援機構とOpenVG(2D)とOpenGL(3D)のグラフィックコア、そしてパワーマネージメント機構を搭載。メモリインターフェイスはDDR2とMobile DDR1両方に対応など、MIDには欠かせない機能が詰まっている。アーキテクチャが違うものの、丁度IntelのAtom Zシリーズ+SCH US15Wが狙っているターゲットと同じジャンルのCPUだ。

 実は既にFreescaleとPegatronで、i.MX515プロセッサ+Ubuntuをベースにしたネットブックリファレンスデザインがベンダーを対象としてサンプル出荷されている。PC-Z1も、それをベースにシャープが仕立てたものだろう。仕様は以下の通り。

・OS:Ubuntu 9.04(シャープカスタマイズ版)
・CPU:Freescale i.MX515 マルチメディア・アプリケーション・プロセッサ
・メモリ:512MB(固定)
・ディスプレイ:5型ワイドTFT液晶、WSVGA(1,024×600ドット)、LEDバックライト
・記憶デバイス:4GBフラッシュメモリー/ユーザーエリア約2GB
・ネットワーク:IEEE 802.11b/g
・カードスロット:microSDメモリーカード×1(16GBまで)
・入出力:ヘッドフォン、USB 2.0×1、miniUSB 2.0/miniABコネクタ×1(ホスト機能のみ)、モノラルスピーカー
・バッテリ:内蔵リチウムイオンバッテリ/約10時間
・サイズ/重量:A6サイズ・約161.4(W)×108.7(D)×19.7~24.8(H)mm/約409g

 OSは「Ubuntu 9.04」だ。筆者は普段CentOSを使っているのでUbuntuは詳しくないのだが、サイトを見ると9.04のリリースは今年の4月23日。比較的最近のバージョンだ。

 メモリは512MB。この手のマシンとしては多い方だと思われる。液晶ディスプレイは5型のWSVGA(1,024×600ドット)で、一般的なネットブックのスタンダードとなっている解像度だ。

 ストレージは4GBのフラッシュメモリ。ユーザー領域が約2GB確保されているものの、今時のストレージとして考えるとかなり少なめだ。この点に付いてはmicroSDメモリーカードで補うこととなる。

 入出力は、USB 2.0×2にヘッドフォン、そしてモノラルスピーカー。A6サイズなのでスペース的に無理をしない配置となっている。

 重量は約400g。バッテリー駆動時間約10時間とかなり軽量で長時間の使用が可能だ。これならどこへでも運べ、一日の行動時間中の大半で使用でき、なかなか魅力的なMIDに仕上がっている。ただネットワークは無線LANのみの対応だ。このマシンの特性を考えるとWWANを内蔵して欲しかったところ。なお、USB経由でのイー・モバイルは対応予定となっている。

本体上面。写真からはわかりづらいが概観はなめらかな質感だ。安っぽくは無い左側にmicroSDメモリーカードスロットがある程度で、内部にアクセスできるようなパネルは見当たらないUSB 2.0×1とヘッドフォン出力。パネルの左側にモノラルスピーカーがある。試しにUSBマウスとキーボードを付けたところ問題無く認識した
miniUSB 2.0/miniABコネクタ×1、ロックポート、電源入力キーボード。カナの刻印は無いが、カナ入力は可能。\|{}[]~^などが[Fn]キーとのコンビネーションとなる主要なキーの幅は実測で14mm。周囲のキーはキーピッチが狭く、キートップも小さくなっている
Eee PC 901-X、iPhone 3GSとの比較/大きさ。サイズ的にはネットブックよりiPhoneの方が近いEee PC 901-Xとの比較/画面。8.9型と5型の液晶パネル。サイズは違うがどちらもWSVGAと解像度は同じなので、見えているページも全く同じとなるジーンズのポケットに入る。A6サイズなので軽く収まった。多少はみ出るが、これなら許容範囲
microSDメモリーカードが1枚入る。メインストレージのユーザーエリアが約2GBと少ない分、こちらで補うことになるACアダプタ。本体と比較してもそれなりに小さい。コネクタはメガネタイプだ

・付属ソフトウェア
Firefox 3.0、Thunderbird 2.0、OpenOffice 3.0(ワープロ、表計算、プレゼンテーション、ドロー)、Sunbird 0.9(スケジュール管理)、Totem(動画プレーヤー)、gedit(テキストエディター)
・オリジナルフォント

LCフォント(LCゴシック、LC細明朝、LC細楷書、LC明朝、LC楷書、SHクリスタルタッチ、SHスリムタッチ、SH角ポップ)
・対応データ

動画:MPEG-4、H.264、VC-1
音楽:MP3、HE-AAC、WMA
静止画:JPEG、GIF、PNG、BMP
フラッシュ:Flash 8.0(現在はLite、後にアップデートの予定)
その他:PDF

 付属ソフトウェアは、オープンソースの有名どころだ。Webブラウザは「Firefox」、メールソフトは「Thunderbird」、オフィス関連は「OpenOffice」。どれも定番アプリケーションであり、PC-Z1を使うにあたって全く不満や不安は無い。また動画プレーヤー「Totem」は、動画再生支援機構に対応し、MPEG4、H.264、LC-1、WMVが難なく再生できる。

 また、オリジナルフォントとして「LCフォント」が入っているのも同社ならではだ。この書体は同社が液晶表示用として開発したフォントで、「中心・重心の安定化」、「部首バランスの見直し」、「ふところの開放と均一化」、「1文字中のストローク幅統一」などを改善したもの。本機のように小型の液晶パネルでその威力を発揮する。

デスクトップ。見慣れたWSVGAなのに結構広く感じる。Windowsとは多少レイアウトなどが異なるが主な操作は同じだ。右下にある2つの枠は仮想スクリーンWindowsでも定番のFirefoxが動くので、IEでしか見れないサイト以外は特に問題無い定番のメールソフト「Thunderbird」
OpenOffice 3.0/ワープロOpenOffice 3.0/表計算
OpenOffice 3.0/プレゼンテーションOpenOffice 3.0/ドロー

 OpenOffice 3.0になってMS Officeで作ったファイルとの互換性が高くなった。同社オリジナルのフォントLCゴシックはこんな感じの書体だ。

「Sunbird」。Mozilla Toolkitをベースにしたスケジュール管理ソフトTotemでwmvを再生しているところ。残念ながら動画の部分がキャプチャできていないが、問題無く再生しているgedit。GNOME定番のテキストエディター
デスクトップのTwitterメニューをクリックすると、TwitterのHPが表示された。専用のクライアントは無く、単にURLを引数としてFirefoxが起動するだけだったmicroSDメモリーカードをマウントしたところ。microSDメモリーカードを差し込むとご覧のように、デスクトップにアイコンが表示される

●使い勝手

 まず起動しての第一印象が「液晶パネルが綺麗」だ。これは絶対的に特別綺麗と言う意味では無く、ネットブックと比較して同じレベルと言う意味。従来このサイズの液晶パネルを搭載した機器ではもう少しランクの低いパネルを搭載したものが多かったのだが、PC-Z1はPCと同クラス。発色は若干赤味が足らないものの、明るさとコントラスト共に良好。ただし光沢パネルなので映り込みはある。なお、この液晶はタッチパネルとなっている。

 HDDなど回転するメディアが無い0スピンドルなので、振動やノイズは一切無く、加えてCPUの特性上、熱もほとんど出ず快適だ。長時間触ってもボディーは全く温かくならないので、普段PCを使っているユーザーとしては、逆に不気味に思えるほど。

 キーボードは普通に打ったり、親指打ちしたりいろいろ試したが、さすがにキーの幅が14mmなので窮屈、そして全体的に少したわみ、キートップもグラつくのが気になる。キータッチはクリック感があり少し硬めだ。個人的には硬めが好きなのだが、このサイズのキーボードとなると、もう少しソフトな方が扱い易い気がする。また、キートップにはカナの刻印は無いものの、カナ入力は可能だ。おそらくキートップの面積が狭く、カナまで刻印すると見辛くなるのでこのような仕様になったのだと思われる。

 ポインティングデバイスとなる「OPTICAL POINT」は、指の動きに合わせてスムーズに反応する。筆者はこの方式のデバイスをはじめて触ったが、割と好印象だ。インターフェイス的に両手で持って操作することを前提としているのでマウスボタンに相当するボタンは、ボディーの左側に付いている。ただもう一工夫欲しいのはOPTICAL POINTのセンサー上でタップが出来る様にして欲しいところ。慣れの問題であるが、操作感がタッチパッドに近いため、どうしてもセンサー上でタップしてしまう。両手で持っている時は左側のマウスボタンを無意識に操作するのだが、机の上に置いての操作は無意識にセンサー上をタップしてしまうことがしばしばあった。

マウスのボタン相当(左/右)。両手で持った時、左手の親指でこのボタンを操作する。左右の意味は通常のマウスと同じだOPTICAL POINT。名前から想像すると赤外線センサーか何かで指の動きを感知していると思われる。反応が滑らかなので思ったより操作し易いショートカットキー。[ホーム]ボタンはデスクトップ表示、[地球]ボタンはFirefox起動、[メール]ボタンはThunderbird起動。[星]ボタンだけ機能が異なり、OPTICAL POINTのスクロールモードON/OFFの切り替えスイッチとなる

 OSがUbuntuなので、Windowsユーザーにとっては扱いが難しそうなイメージを持ってしまうかも知れないが、細かい部分を除けば、アプリケーションの起動終了、ウィンドウ操作など基本的な操作は全く同じだ。タスクバーが上にあるか下にあるかの違い程度となる。付属アプリケーションは、Windows版もありユーザーも多い。いったん、アプリケーションが起動してしまえば、その中の操作はWindows版と同じだ。難しい部分は全く無い。

 描画速度や処理速度は操作した感覚上、Atom Z520プロセッサ+SCH US15WでWindows XPを動かした雰囲気に近い。そう考えるとi.MX515プロセッサの性能はなかなかのもの。但し、現在Flash Liteになっているため、Flashを使ったコンテンツで例えば全画面表示やYouTubeの[HD]コンテンツなどは再生できず([HD]アイコンそのものが非表示となる)ノーマルサイズとなる。またH.264など動画再生時、ウィンドウ枠を動かしたり他のアプリケーションを操作すると、音が切れたり画像が乱れる。動画再生支援機構があってもこのあたりはCPUなど全体的なバランスからはギリギリなのかも知れない。

 ちなみに、モノラルスピーカーは音楽系のコンテンツを再生したところ、サイズの割には十分な音量だった。音質も悪くない。右の同じ場所が空いているので、できればステレオスピーカーにして欲しかった。

flv/Flashに対応。Flash対応なのでflvも再生可能だ。ただ、現在Flash Liteなので、例えばYouTubeは再生できるもののフルスクリーンや[HD]モードにはならないコマンドプロンプト。sshも入っている。apt-get(パッケージ管理)があるので容量が許す限り、いろいろインストールできそうだ。sshで他のサーバーへログインすればメンテナンスにも使える小型端末となる

 Linuxらしい部分としては、メニューのアプリケーション→アクセサリ→端末(bash)が入っている。ストレージ容量の関係から、必要最低限のツールしか入っていないものの、sshやapt-getなどがあるので、いろいろ楽しめそうな雰囲気だ。ただ良く使う|^~{}[]などのキーが全て[Fn]キーとのコンビネーションになっているため、入力がちょっと面倒なのが残念なところ。

 電源ONからの起動は1分近くかかるが、起動後は、蓋を閉めた時にサスペンド、そして復帰は約3秒とかなり早い。無線LAN使用時は復帰後に、再接続をはじめるため、実際にネットを利用するのにプラス数秒必要となる。いずれにしても、これならパッパと操作でき、ストレスは感じない。

3秒で復帰するレジューム。復帰後、無線LANの再接続がはじまっているのがわかる

  一般ユーザーは、A6の小さなボディにFirefoxとThunderbird、そしてOpenOfficeを搭載、解像度はWSVGA。ビジネス用途にバッチリ使え、IT系のユーザーならOSがLinuxなのでいろいろ便利な小型端末となる。このPC-Z1をどう使うかはユーザー次第と言ったところだろう。いずれにしても、コンシューマー機でここまでLinuxが前面に出ているものは珍しく、更にi.MX515プロセッサ搭載という要素もあり、なかなか楽しめそうな一台だ。