大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

新ブランドを引っ提げて、MID市場に参入したシャープの思惑



NetWalker

 シャープが新たに投入した「NetWalker」は、ネットブックとスマートフォンとの間を狙った、「モバイルインターネットツール」と位置づける製品だ。

 ポケットに入る手のひらサイズであり、インターネットの接続に適した機能を搭載。モバイル環境でも手軽にネット接続ができるのがNetWalkerの製品コンセプト。いわば、MID(Mobile Internet Device)と呼ばれる領域の製品なのだが、MIDが、Intelが提唱した言葉であることを考えると、CPUに、Atomではなく、Freescale i.MX515 マルチメディア・アプリケーション・プロセッサを搭載するNetWalkerは、MIDとは言いにくい製品でもある。

 シャープは、この製品の開発を、約1年前からスタートしていた。開発コードネームは「Spider」。

 今年4月、シャープは約1年ぶりのノートPCの新製品として、光センサー液晶を搭載したネットブック「Mebius PC-NJ70A」を、先に発表した。

 製品投入がなかった1年間の空白期間に、ネットブックの「Mebius PC-NJ70A」と並行して開発が進められていたのが、今回のNetWalkerである。

笛田進吾氏

 「ネットブックは新たな市場を開拓したのは周知の通り。だが、重い、大きい、バッテリ駆動時間が短いという理由などから、ほとんどの人がモバイルで利用しているとはいえない。それは、電車のなかや、カフェなどでネットブックを利用している人が少ないことからも明らか。ネットを利用するモバイル端末としての購入ではなく、安いPCとして購入している人が多い」と、シャープパーソナルソリューション事業推進本部マーケティングセンター 第二マーケティング部参事 笛田進吾氏は語る。そして続けて、「クラウドコンピューティング時代に求められるモバイルコンピュータのスタンダードが求められている。PCとは形を変えながらも、PCの機能を持っている製品がもう1つ必要」として、NetWalkerの製品企画を、Mebius PC-NJ70Aと同時並行で進めていたことを明かす。

 つまり、シャープのPC事業再スタートのために費やされた1年間の集大成が、この2つの製品というわけだ。

 ノートPCの形をし、携帯電話にできる機能を、PCでも実現することを狙ったものがMebius PC-NJ70Aであり、携帯電話の使いやすさと、PCの持つ高性能、モバイルで求められる操作性を高めたのがNetWalkerということになる。

 「NetWalkerには、Mebiusやザウルスのブランドを使ってもいいのではないか、という議論もあった。だが、ノートPCとは形を変えながらも、PCの機能を持ったという点で、どちらのブランドにも当てはまらないと考えた。そこで、新たにNetWalkerというブランドを立ち上げた」という。

 モバイルインターネット環境での利用を想定した場合、ネットブックには、機能は満足しているが駆動時間や起動速度などの使い勝手に不満があるという声が多い。また、スマートフォンや携帯電話では、すぐに起動するが、機能面での不満や、キーボードがない、あるいは打ちにくいといった不満がある。こうした要求に応えるとともに、携帯電話にはない画面の大きさ、ネットブックでは不可能な即時起動、手軽にメールを送信できるといった機能を兼ね備えた端末が、NetWalkerというわけだ。

 シャープは、NetWalkerが狙う市場のポテンシャルは大きいと見ている。

 シャープの試算によると、MID(ここではあえてMIDとするが)の市場規模は、2012年には全世界で800万台の規模が想定されている。MIDを含めたネットブック市場が、3,000万台強と予測されるなかで、4分の1をMIDが占めるという計算だ。

 「日本では、WiMAXの商用サービス開始に加えて、来年度にもサービスが開始されるLTEによって、3.9G時代が訪れ、データ通信環境がさらに進化する。これにより、モバイルネット利用に最適化した端末が一気に求められることになるだろう」。

 笛田氏は製品化にあたり、「ネット接続端末として、きっちりと載せなくてはらないものを載せ、載せなくてもいいものは載せなかった」とする。

 きちっと載せなくてはならないものとは、仕様策定にも影響している。

 NetWalkerの主要ターゲットとする30〜40代のビジネスマンの背広のポケット、ズボンの後ろポケットにも入る大きさとなるA6サイズ、重さを感じさせない400g台という重量、一般的にネットブックと同様に、スクロールなしでWebの閲覧を可能とする5型WSVGA(1,024×600)液晶の搭載、親指でのタイピングが可能なキーピッチ14mmのQWERTYキー。そして、JEITAバッテリー動作時間測定法で約10時間という駆動時間の実現である。

 液晶をタッチパネル方式としたり、親指でのマウスポインタ操作を可能とするオプティカルポイントの採用なども、モバイルシーンでの操作性を考慮したものとなっている。


ポインティングデバイス QWERTYキーボード 本体を上から見たところ

 また、ホームページを閲覧するためのブラウザ(Firefox)、メールソフト(Thunderbird)、そして、ビジネスマンが活用するためのOpenOfficeといったアプリケーションも搭載。ブラウザやメールは、ワンタッチで起動できるクイックスタートボタンも配置した。Twitterもデスクトップ画面にアイコンを用意しており、Twitter専用マシンとして利用することも可能だ。NetWalkerの発売時点で、同社が動作検証済みのソフトが約200種類となる。

 最大の特徴は、Ubuntu 9.04をOSに採用したことだろう。これにより、レジュームモードにしておけば、電源オンからわずか3秒で立ち上がるといった仕様を実現した。

 「シャープ東京本社があるJR市ヶ谷駅から電車に乗れば、次の飯田橋駅ではメールの返事を書いて、送信して、NetWalkerを終了できる。だが、これをネットブックでやると、その先の水道橋駅についてようやく立ち上がるという状態」と、インターネット端末ならではの機動性の良さを表現してみせる。

 一方で、あえて外したものもある。例えば、ネットブックにほぼ標準で搭載されているカメラ機能はその1つだ。

 「NetWalkerを持ち歩くモバイル環境では、携帯電話を所持していることを前提に考えた。電子手帳などで採用しているワンセグTVの機能も、同様の発想から搭載していない」とする。

 また、記憶装置として、4GBのフラッシュメモリを搭載し、しかもユーザーエリアは約2GBに限定しているが、これもmicroSDメモリーカードによって、容量はカバーできるという観点からの発想だ。

 何度も検討を重ねたというBluetoothは、今回の製品ではすっぱりと搭載を見送っている。

 「もし、Bluetoothが必要という声があれば、次期モデルでの搭載を検討したい。まず、先行して製品を投入することで、ユーザーから多くの意見をいただき、それを先行的に次期製品に採用するというサイクルを作りたい。モニター制度も実施したい」とする。

 店頭での展示は、まずはネットブックコーナーになりそうだ。

 そして、イー・モバイルとのセット販売や、WiMAXとの外付けモジュールによるセット販売も想定している。

 45,000円前後という市場想定価格は、カメラ量販店でのポイントを利用すれば39,800円、イー・モバイルとのセット販売では4,800円程度という価格で販売されることが想定される戦略的なものだ。

 「ネットブックコーナーに設置しても埋もれない展示を考えている。ホワイト、ブラック、レッドの3色のカラーバリエーション展開も、店頭における訴求要素の1つになる」とする。

3色のカラバリが用意される

 想定しているのは、ホワイト45%、ブラック30%、レッド25%という構成比。ホワイトは女性層もターゲットにする考えだ。

 また、Ubuntuを支えるCanonicalを通じた低価格ソフトのダウンロードの提供に関しても取り組んでいく考えで、これにより、ゲームソフトの提供などを含めて、NetWalkerの用途拡張を提案していく考えだ。 加えて、将来的には電子辞書、電子ブックといった領域にも用途を拡張させていくという。

 シャープは、この分野で圧倒的なシェアを取りたいと考えているという。

 いち早くこの分野の製品を投入することにこだわったのも、モバイルインターネットネットツール市場におけるパイオニアとしての地位獲得に意欲を見せているからだ。

 新たなブランドを引っ提げて、この分野に参入したシャープ。その点でも本気ぶりが伝わってくる。

 「他社がやらないものに先行して取り組む、シャープらしさが出た製品」という、NetWalkerによる挑戦がいよいよ始まった。

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