西川和久の不定期コラム

キヤノンのインクジェット複合機「PIXUS MP990」を試す



PIXUS MP990

 早いもので、年末へ向け新型インクジェット複合機が発表される季節となった。その中の1つ、キヤノン「PIXUS MP990」の量産試作機が届いたので、前モデルに当たるMP980」と比較しながらレポートする。

●MP990の仕様

 前モデルに当たるMP980は、2008年11月レポートしているが、MP990もよく似た第一印象だ。梱包の方法や外観などは、ほとんど変わっていない。

 違いを探そうと、取り扱い説明書を読んでみた。キーワードを順に拾って行くと、インクシステムは、「BCI-321/M/BK/GY/C/Y」+「BCI-320/PGBK」の6色。グレーインクを搭載したのはMP980と同じだ。その他、MP990の仕様部分を抜粋すると以下の通りとなる。

・グレーインクを搭載、次世代6色インクシステム/最小1pl、最高解像度9,600×2,400dpi
・高輝度白色LED、透過原稿対応、4,800×9,600dpi 高精細スキャナ搭載
・3.8型液晶ディスプレイ(MP980は3.5型)
・自動両面プリント&コピー対応
・IEEE 802.11b/g対応無線LAN、Ethernet、Bluetooth(オプション)
・470×385×199mm(幅×奥行き×高さ)/約10.7kg

 もうおわかりだろうか。ハードウェアスペックは液晶パネルの3.8型以外、MP980と変わっていない。サイズ/重量まで全く同じだ。もちろん特徴の1つであった35mmフィルムからの印刷や、CD/DVDメディアへのプリントもそのまま引き継いでいる

フロント。右側にメモリーカードリーダ、下にデジタルカメラ接続用USBポート、写真からは解り辛いが、その横に赤外線ポートがあるリア。右下が電源コード接続部、左側にネットワーク、USBポートがある最大150枚分入る普通紙専用給紙カセット
液晶ディスプレイと操作パネル。液晶は3.8型と大きくなった。ボタン関連の形状や位置関係も若干MP980とは異なっているフィルムガイド。台紙カバーの裏にセットされている。これなら行方不明になることもない後トレイ。写真専用紙など硬い紙は、この後ろトレイにセットする。ハガキなら最大40枚、光沢紙などは最大20枚

 全体的な質感は変わっておらずシルバーとブラックを基調としたシンプルなデザインだ。自宅と仕事場、どちらに設置しても馴染むだろう。また多くの部分がシルバーで指紋のあとが目立たないのもありがたい

 最大150枚セットできる前面給紙カセットは普通紙用。写真用の専用紙やハガキなど、硬い用紙は後トレイを使う。単独使用時は、本体中央にある液晶パネルとイージースクロールホイールで操作する。ただし、この液晶パネルはタッチパネルではない。とはいえ、MP990は液晶パネルが3.5型から3.8型へ、若干であるものの大型化され、操作性が向上した。実際に使ってみるとわかるが、メニュー表示からプリントの操作だけではなく、写真のトリミングやインデックス印刷などその場で指定できる。

 このように、ハードウェアは液晶パネルを除いてほぼ同じであるものの、ソフトウェアの方は大きくアップデートされている。追加/変更された部分はEasy-Scroll Wheelの新UI、無線LANのAOSS対応、自動写真補正II、Easy-WebPrint EX、iPhone/iPod touch対応など。これらの機能に付いては後述する。

●セットアップ

 試用したMP990は、インクなどが設定済みの状態だったこともあり、ハード的なセットアップの部分は省略した。本機も「プリントヘッドを付け」、「インクをセット」、「ヘッドクリーニング」、「ヘッド調整用のテストパターン印刷」、と一般的な手順で、特に難しい部分は無い。

 ドライバやアプリケーションのインストールは付属のCD-ROMから行なう。対応しているOSはWindows 2000/XP/Vista、Mac OS X 10.3.9以降となっている。おまかせインストールの場合、単純に選択していくだけで、非常に簡単なものだ。これなら初心者でも間違いなくインストールできる。

インストーラ。CD-ROMをセットすると自動起動する。今回は「おまかせインストール」を選択したインストールするソフトウェア一覧。プリンタドライバーも含め、12種類ものソフトウェアがインストールされる接続方法の選択。ここではUSB経由での接続を選んだ
インストール中。MP990の売りの1つである「Easy-WebPrint EX」はネットからのダウンロードだプリンタへ接続。ここで実際にUSBを使ってプリンタへ接続するセットアップの終了。試したPCはAtom 230プロセッサの遅めのマシンで時間はそれほどかからなかった。

 USBでの接続は従来どおりであるが、ネットワーク経由の接続はMP980と手順がかなり違う。MP980では、ネットワークの設定を本体側ではできず、いったんUSBで接続し、SSID/パスフレーズ、もしくはDHCPやIPアドレスなどをPC側で入力しなければならなかった。はじめに1回するだけの設定とは言え、USBで接続しなければならないのは手間だ。

 しかし、MP990は本体のみでネットワークの設定ができ、これらを使って接続済みの状態にした上で、インストールプログラムを実行する。パスフレーズの入力はイージースクロールホイールで「0~9/A~Z/a~z」とグルグル回しながら選ぶ。若干まどろっこしいものの、一度設定すると頻繁には変更しないので問題にはならないだろう。無線LANを使った場合のインストールに関しては画面キャプチャを参考にしてほしい。

接続方法の選択。今度はネットワーク/無線LANを使って接続する先にプリンタ本体でSSIDを検出、パスフレーズの設定などを事前に行ない、ネットワークには接続済みの状態にしておく検出したプリンタ一覧。無事、MP990が検出された
通信状態の測定1。アクセスポイントとの接続状況などを調べる通信状態の測定2。アクセスポイントへの距離は数mと近いので電波状況は良いCanon IJ Netowrk Tool。接続しているプリンタのIPアドレスなど設定状況などがわかる

●単独使用/プリント

 単独使用でのプリント機能は多機能だ。レイアウト印刷やDPOF印刷、インデックス印刷、証明写真サイズ印刷、シール紙印刷、撮影情報印刷、全ての写真を印刷、カレンダーの印刷はもちろん、写真に手書き文字を合成して印刷(CD/DVDに印刷も可能)、写真やフィルムから印刷などがある。画像補正に関しては、お任せオートの自動写真補正か、手動補正が選択できる。

 この手動補正には、赤目補正、VIVIDフォト、オートフォトモード、ノイズ除去、顔明るく補正、携帯画像補正、明るさ、コントラスト、色合い(肌色赤色+1/+2、黄色+1/+2)、加工(セピア/イラスト)と、必要そうなものはほぼ全て入っている。

 実は筆者もインジェット複合機を使っているが、写真に関してはPCから印刷する事が非常に少なくなった。撮ったままの写真をデータを触らずメディアからダイレクトにL判へプリント、もしくは色などを修正した複数の画像をメディアへまとめて保存してダイレクトプリント。このケースがほとんどだ。PCを経由しないので、他の仕事をしながら気が付けば印刷が終わっていると言った感じである。これだけ機能が豊富であれば、かなりこだわった作品でも作らない限り、もうPCは不要だと思うほどだ。

メディアから写真を選択。編集メニューでトリミングなどができる印刷条件の設定。詳細設定では日付設定や自動写真補正などにも対応L判の印刷。約15秒。色の傾向などはMP980と同じである

 さらにレポート用紙や方眼紙、原稿用紙、五線譜など、定型フォームを印刷する機能も持っている。これらの用紙が必要なユーザーには欠かせない機能と言えよう。なお、本体正面右下にUSBポートと赤外線ポートがあり、PictBridgeを使ったカメラからのダイレクトプリントや携帯電話から赤外線通信を使って印刷も可能だ。

●単独使用/スキャナ

 スキャナは、フォーマットがJPEGかPDF、出力先はUSBか各種メディア、そしてPCが選べる。原稿の種類はおまかせスキャンか文書、写真、フィルムとなる。フィルムに関しては、台紙カバーの裏にフィルムガイドが入っているのでそれを使用する。スリーブ/マウントどちらも利用でき、カラーネガ/ポジフィルム、白黒ネガフィルムに対応している。詳細設定ではプレビュー/輪郭強調/モアレ低減/原稿裏写り防止の、それぞれON/OFFが設定できる。

 特にフィルムスキャン機能は、最近単機能のフィルムスキャナ自体が市場からほぼ無くなりつつある状況なので、素材を多く持っているユーザーにとっては貴重な存在になりそうだ。

スキャン結果をメモリカードへ保存を選ぶ。もちろんPCへ保存もできるスキャン条件などを設定。ダイレクトでPDFとして保存可能だプレビュー画面。イージースクロールホイール中央の[OK]ボタンでスキャンを開始する。約数秒で終了した

●単独使用/コピー

 単独使用時のコピーは、基本的に単独プリントと単独スキャナの組み合わせによるものだ。ほか、レイアウトによる指定が可能だ。レイアウトは両面コピー、縦原稿長辺とじ、縦原稿短辺とじ、横原稿長辺とじ、横原稿短辺とじ、フチなしコピー、2-in-1/4-in-1コピー、繰り返しコピー、枠消しコピー、トリミングコピー、マスキングコピー、と十分なパターンが選べる。

[いろいろコピー]では、2-in-1や4-in-1など、いろいろなパターンが選べるプレビュー画面スキャン終了まで約25秒ほどだった。オリジナルと色の傾向は違うものの綺麗な印刷だったので驚いた

●PCからの使い勝手

 付属するソフトウェアはMP980とほぼ同じだ。「Solution Menu」、「MP Navigator EX」、「Easy-PhotoPrint EX」、「らくちんCDダイレクトプリント」、「ArcSoft PhotoStudio」、「読取革命Lite」、そしてTWAINドライバの「ScanGear」がその主のものとなる。インストーラやドライバも含め、ソフトウェアに関しては既に何世代にも渡って使われている実績があるもので、その使いやすさや安定感は非常に高く、ホビー用途でもビジネス用途でも満足できる内容となっている。

Solution MenuMP Navigator EX/スキャナから。USB接続、無線/有線LAN接続、どのパターンでもスキャナからデータを取り込めるMP Navigator EX/メディアから。本体のメディアリーダーからも取り込める。この時、ネットドライブとしてZ:ドライブが割り当てられた
らくちんCDダイレクトプリント。DVD/CDへプリントする時に使うツール。簡単に背景の写真や文字を設定できるArcSoft PhotoStudio/TWAIN入力。簡易レタッチソフトとは言え、ほぼ必要な機能全てが含まれる。またTWAIN入力の方がスキャン時に細かい設定が可能だ読取革命Lite。雑誌から適当に文字認識してみた。なかなか正確に読み取っているのが解る

 そして新しく加わったのが「Easy-WebPrint EX」だ。IE7以上の対応となっている。資料によるとユーザーの不満点として「Webページが見たままに印刷できない」と言うのがかなりの割合を占めているが、それに対する回答がこのEasy-WebPrint EXとなのだ。

 試しにプレビューでPC Watchの画面を確認したところ、IE8では左下(DELLの赤いノートPCの横)と右上(ThinkPadの二画面見えるノートPCの横)の広告の文字レイアウトが崩れている。対して「Easy-WebPrint EX」では文字が崩れず見たままの表示となった。

 ただこの機能は、インストールの部分でも少し触れたが、今回試した状態では、付属のCD-ROMにモジュールが含まれず、ネットからダウンロードで入手する。インストール時にネット接続が必要なので、そこだけ注意が必要だ。

IE8のプレビュー。左下と右上の広告部分の文字が崩れている印刷時に問題のある部分。DELLとThinkPadの広告横の文字が崩れるEasy-WebPrint EXのプレビュー。該当箇所は、崩れずIE8でみたまま表示している

●MP990の完成度は高い

 MP980とMP990のハードウェア的な差は極僅かだ。逆に言えば、それだけMP980の基本性能が高かったのだろう。そのMP980をベースにして、3.8型の液晶パネルを搭載し、操作性の向上。「無線LAN設定の簡素化」や「Easy-WebPrint EX」など、ソフトウェア面を強化してより使い勝手の良いインクジェット複合機に仕上がっている。非常に完成度の高いシステムと言えよう。