西川和久の不定期コラム

Core Ultra 9と大容量メモリでLLMも動く。M.2スロット3基搭載のミニPC「GMKtec EVO-T1」

 GMKtecはCore Ultra 9 285Hを搭載した少し大きめのミニPC「EVO-T1」を販売中だ。編集部から実機が送られてきたので試用レポートをお届けしたい。

Core Ultra 9 285H/64GB搭載、M.2 2280 x3と少し大きめのミニPC!

 先月、Core Ultra 9 285Hを搭載したミニPC、GEEKOM「IT15」をご紹介した。サイズは0.46L(117×112×46mm)。ハイパフォーマンスの割に小型といった特徴を持つ1台だ。

 これ対してGMKtec「EVO-T1」は、同じプロセッサを搭載しながら154×151×73.6mmと40mm近く大きくなってる。プロセッサが同じなので性能は変わらないと思われるが、違いはミニPCとしては大きなファンが2つ(照明あり)、M.2 2280スロットが3つ(内1つはSSD装着済み)。大きくなった分、余裕ができ、このような構成が可能になった……といった感じだろうか。主な仕様は以下の通り。

GMKtec「EVO-T1」の仕様
プロセッサCore Ultra 9 285H(Pコア6基, Eコア8基, LPEコア2基/16コア16スレッド、クロック最大5.4GHz、キャッシュ24MB、TDP 45W、NPU最大13TOPS)
メモリ64GB(32GB DDR5-5600、SO0DIMM 2基、最大128GB/6400対応)
ストレージM.2 2280 SSD 1TB(PCIe x4.0/NVMe対応 x3/2つ空き)
OSWindows 11 Pro(24H2)
グラフィックスIntel Arc 140T GPU(8コア)/HDMI 2.1、DisplayPort、Type-C 2基
ネットワーク2.5GbE 2基、Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2
インターフェイスUSB 3.2 Gen 2 3基、USB 3.2 Gen 2 Type-C(USB PD/DisplayPort Alt Mode対応)、USB4、USB 2.0 2基、3.5mm音声入出力2基、OCuLink
サイズ/重量154×151×73.6mm(幅×奥行き×高さ)、910g
その他32B DeepSeekローカルAIモデル内蔵
価格14万6,999円(64GB+1TB、クーポン利用)、16万0,399円(64GB+2TB、クーポン利用)、17万3,999円(96GB+2TB、クーポン利用) ※Amazon調べ

 プロセッサはArrow Lake、Core Ultra 9 285H。Pコア6基/Eコア8基/LPEコア2基の16コア16スレッド。クロック最大5.4GHz、キャッシュ24MB、TDPは45W。13TOPSだがNPUも内包する。

 メモリは32GB SO-DIMM/DDR5-5600 2基の計64GB。ミニPCでは16GB~32GBが多い中、64GB標準搭載は特にAI系を使う時にありがたい。Amazonでは96GBモデルも用意されているほか、最大容量は128GBだ。

 ストレージはM.2 2280(PCIe x4.0/NVMe対応)スロットが3つあり、内1つにSSD 1TBが装着済み。+2スロットは用途によっては嬉しい構成ではないだろうか。

 グラフィックスはプロセッサ内蔵Intel Arc 140T GPU(8コア)。外部出力用にHDMI 2.1、DisplayPort、Type-C 2基を装備する。

 OSはWindows 11 Pro。24H2だったので、この範囲でWindows Updateを適用し評価した。

 ネットワークは2.5GbE 2基、Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2。そのほかのインターフェイスは、USB 3.2 Gen 2 3基、USB 3.2 Gen 2 Type-C(USB PD/DisplayPort Alt Mode対応)、USB4、USB 2.0 2基、3.5mm音声入出力2基、OCuLink。前面と背面どちらにも3.5mm音声入出力があり、OCuLink対応で外部dGPU接続可能が特徴となる。

 面白いのは、32bだがDeepSeekが標準で入っていること。後述するAIPCアプリでチャットが可能だ。

 サイズ154×151×73.6mm(幅×奥行き×高さ)、重量910g。価格は1TBモデルで18万9,999円、2TBモデルで19万8,999円(Amazon調べ)。なお同社のサイトにはベアボーンもあり、価格は999.99ドル(15万円ほど)となる。

前面。電源ボタン、USB 3.2 Gen 2 3基、USB 3.2 Gen 2 Type-C、3.5mm音声入出力
背面は電源入力、3.5mm音声入出力、HDMI、USB4、DisplayPort、OCuLink、USB 3.2 Gen 2、USB 2.0、2.5GbE 2基
背面の拡大。2.5GbE 2基の上に貼られているシールを拡大。「最初はLANケーブルを接続しないでください。~大規模なアップデートが始まり、デスクトップ画面に進むまでに時間がかかる…」とある
裏面とiPhone 16 Pro。ほぼ同じ高さ。一般的なミニPCだと約3分の2程度のことが多い
付属品はACアダプタ(サイズ約78×68×25mm、重量339g、出力19V/7.8A)、HDMIケーブル、VESAマウンタ
重量は実測で944g
BIOS / Main。起動時[ESC]キーで表示
BIOS / Advanced
いつものキーボード付きモバイルモニターへ接続。USB4があるのでType-Cケーブル1本で接続可能

 筐体はゴールドの部分が金属製、黒い部分がプラスチック製。iPhone 16 Proとの比較写真からも分かるように一般的なミニPCと比較して少し大きめ。重量も実測で944gある。ただ大きいとは言え、机などどこかに置いてしまえば、やはりミニPC。特に大きさが気になることもないだろう。

 前面は電源ボタン、USB 3.2 Gen 2 3基、USB 3.2 Gen 2 Type-C、3.5mm音声入出力。背面は3.5mm音声入出力、HDMI、USB4、DisplayPort、OCuLink、USB 3.2 Gen 2、USB 2.0、2.5GbE 2基を配置。

 気になるのは2.5GbEポートの上にある“最初はLANケーブルを接続しないでください。~大規模なアップデートが始まり、デスクトップ画面に進むまでに時間がかかる…”と書かれたシールだ。

 これに関しては筆者も毎回レビュー用のPCを初期起動する時に困ったおり、初期起動時にWindows Update、もしくはデスクトップをとりあえず出してからWindows Update。どちらでも同じような感じだが、とにかく時間がかかる。今回は後者のパターンだが、Windows Updateを全部適用するのに計3時間半もかかっている。これがもし前者のパターンだとユーザーはトラブルか?と思いメーカーに問い合わせが入るため、このようなシールを貼ったと思われる。

 筆者から言わせてもらえば、これは完全に欠陥OSだ。macOS、Ubuntu、iOS/iPadOSやAndroid、どれにしてもOSアップデートに(PC構成やOSリリースタイミングなどで程度はある)、こんな時間はかからないだろう。Microsoftは猛省すべきではないだろうか。

 話戻って、付属品はACアダプタ(サイズ約78×68×25mm、重量339g、出力19V/7.8A)、HDMIケーブル、VESAマウンタ。

 BIOSの表示は、起動時[DEL]キーではなく[ESC]キーなので要注意!Main→Power Mode SelectはBalance(デフォルト)、Quiet、Performanceと3モード設定可能。後述しているベンチマークテストはBalanceでの結果となる。なお、扉の写真右奥にボタンがあり[FAN-MODE]と書かれている。一見、このPower Mode Selectと連動しているのか?と思ってしまうが、全く無関係で、ファンの照明パターンがいろいろ変わる、ある意味ゲーミングPC的なものとなる。

 内部へのアクセスは筐体が大きい分、非常に簡単。まず金属部分にある足を外す。これはねじ止めしているだけなので回せば外れる。次に左右側面にネジが2つずつあるのでこれも外せばOK。写真から分かるようにミニPCとしては大きいファンが2つ付いている。

 内部はSO-DIMMスロットに32GB 2基。そしてM.2 2280スロット3つの内1つに1TBが乗っている。これまでいろいろなミニPCを触ってきたがM.2 2280スロット3つは初だと思う。

まず外側の金属部分を外す。裏の足3つを回せば取れるようになっている
次に側面にあるネジ2つずつを外す。これで筐体が開く
SO-DIMMスロットに32GB 2基。そしてM.2 2280スロット3つの内1つに1TB

 まず発熱だが、ベンチマークテストなどCPUに負荷をかけても全くと言って良いほど熱を持たなかった。これはミニPCとしては大きめのファン2つ、そして、内部に余裕があるためだと思われる。

 そしてファンが2つある割には静か。耳を近づけてもほとんど聞こえないレベルに抑えられている。

 以上のように、ミニPCで小さい筐体へいろいろ詰め込み過ぎで何かと面倒な機種より、本機の様に少し大きめで余裕を持たした方がいいのでは?と思う出来栄えだった。大きいと言ってもiPhone 16 Proの高さと同程度。机の上に置いてしまえば大差ない。

DeepSeek 32b標準搭載!

 初期起動時、デスクトップに「AIPC」アプリのアイコンがある。Windows 11 Pro標準まんまでないPCは久々だ。構成が構成だけあって何をしても快適。ストレスは全く感じない。

 1TB SSDはCrucial製「CT1000P3PSSD8」。仕様によると、シーケンシャルリード5,000MB/s、シーケンシャルライト3,600MB/s。CrystalDiskMarkのスコアは後者が高めに出ている。C:ドライブのみの1パーティションで約930GBが割当てられ空き753GB。ん?と思った人は正解。1TBの割に空き容量が少ない。

 これは、DeepSeek 32bやその関連が入っているためであり、不要な場合は、\users\default\AppData\Roaming\AIPC\enhanced-32bにあるモデルや、そのほかのコンポーネントを削除すれば空きが増える。

 2.5GbEはRealtek Gammin 2.5GbE Family Controller 2基、Wi-FiはIntel Wi-Fi6 AX201、BluetoothもIntel製だ。またタスクマネージャにNPUの項目が増えている。

初期起動時のデスクトップ。Windows 11 Pro標準に加えデスクトップにAIPCアプリのアイコン
デバイスマネージャー/主要なデバイス。1TB SSDはCrucial製「CT1000P3PSSD8」。2.5GbEはRealtek Gammin 2.5GbE Family Controller 2基、Wi-FiはIntel Wi-Fi6 AX201、BluetoothもIntel製
ストレージのパーティション。C:ドライブのみの1パーティションで約930GBが割り当てられている
タスクマネージャーにNPUの項目

 本機はこの手のミニPCとしては珍しく「AIPC」というアプリが1つ入っている。これはプリインストールのDeepSeek 32bを使うチャットアプリだ。アカウントを作ってログインすると、ほかのもモデルも使えるようだが、今回はDeepSeek 32bのみを試用した。

AIPCアプリでDeepSeek 32b作動中。NPUではなくGPUを使っている

 画面キャプチャからも分かるように、GPUを使用するようだ。共有メモリ32GB中22GBを使用する。この状態でメインメモリの64GBは約半分になっている。なるほど、ほかのアプリなどを併用する場合に32GBを残す格好となっているわけだ。速度は何も表示していないので分からないが、10~15tok/sは出ている感じでチャットであれば十分実用レベルにある。

 ベンチマークテストは、PCMark 10、PCMark 8、3DMark、Cinebench R23。冒頭に書いた同じプロセッサを搭載したGEEKOM「IT15」と比較するとPCMark 10は全般的に少しマイナス。逆に3DMarkは少しプラスという感じだった。いずれにしてもハイパフォーマンスには変わりなく、メインPCとして十分使えるスコアだ。

PCMark 10 v2.2.2737
PCMark 10 Score7,697
Essentials10,934
App Start-up Score14,061
Video Conferencing Score8,707
Web Browsing Score10,678
Productivity9,282
Spreadsheets Score11,962
Writing Score7,203
Digital Content Creation12,193
Photo Editing Score19,829
Rendering and Visualization Score11,046
Video Editting Score8,277
3DMark v2.31.8385
Time Spy4,379
Fire Strike Ultra2,128
Fire Strike Extreme3,864
Fire Strike8,193
Sky Diver32,982
Cloud Gate41,884
Ice Storm Extreme200,327
Ice Storm237,156
Cinebench R23
CPU17,524
CPU(Single Core)2,109
CrystalDiskMark 8.0.5
[Read]
  SEQ    1MiB (Q=  8, T= 1):  5102.416 MB/s [   4866.0 IOPS] <  1640.17 us>
  SEQ    1MiB (Q=  1, T= 1):  2589.259 MB/s [   2469.3 IOPS] <   404.68 us>
  RND    4KiB (Q= 32, T= 1):   843.528 MB/s [ 205939.5 IOPS] <   150.41 us>
  RND    4KiB (Q=  1, T= 1):    74.966 MB/s [  18302.2 IOPS] <    54.53 us>

[Write]
  SEQ    1MiB (Q=  8, T= 1):  4588.732 MB/s [   4376.2 IOPS] <  1821.28 us>
  SEQ    1MiB (Q=  1, T= 1):  4513.825 MB/s [   4304.7 IOPS] <   232.05 us>
  RND    4KiB (Q= 32, T= 1):   769.513 MB/s [ 187869.4 IOPS] <   170.06 us>
  RND    4KiB (Q=  1, T= 1):   248.494 MB/s [  60667.5 IOPS] <    16.39 us>

CPUとメモリだけでgpt-oss-20bがどこまで動くか?確認

 さてDeepSeek 32bが標準搭載だったので、では!ということでOpenAIがオープンウェイトでリリースしたgpt-oss-20bがどの程度動くか?確認してみたい。使用アプリは「LM Studio」。モデルの検索で「gpt-oss-20b」とするといくつか出てくるがopenaiのものを使っている。これだと入力枠の下にあるReasoning Effort(=考える度合い)でLow / Medium / Highが選択可能になる。

LM Studioで作動中のgpt-oss-20b。11tok/sほど出ている

 モデルロード時のコンテキスト長は確認できた範囲で最大30,000までは設定可能。速度は内容にもよるが15tok/s前後出る。つまり(個人差もあるだろうが)実用レベルだ。

 gpt-oss-20bは、筆者の知る限りこのパラメータサイズだとかなり優秀なモデルだ。たとえばMCPを使いデータベースに接続して自然言語で問い合わせできる。

 これまでこれが意外と難しく、「このテーブルのこのカラムとこのカラムを結合して……」と、SQL文に近い形であれば簡単なのだが、「顧客データから都道府県別平均年齢と性別一覧」となると、どのテーブルに何が入っているかを把握した上で集計する必要があり、それなりにLLMが賢くないとできないのだが、gpt-oss-20bはやってのける。強力なGPUなしでこの速度で動くのだから良い時代になったものだ。

 さて、本機64GBの構成のまま、実はgpt-oss-120bもギリギリ動くのだが、これは別の機会にまとめてご紹介したい。


 以上のようにGMKtec「EVO-T1」は、Core Ultra 9 285H/64GB/1TBを搭載した少し大きめのミニPCだ。大きい分、M.2 2280スロットが3つ、熱を持ちにくいなどのメリットがある。

 特に気になる部分もなく、Core Ultra 9 285Hを搭載し、いろいろな意味で少し余裕のあるミニPCを探しているユーザーに使ってほしい1台と言えよう。