西川和久の不定期コラム

Intel「Compute Stick(STK2M364CC)」

~Core m3を搭載したスティックPC!

 去年(2015年)辺りからAtomプロセッサを搭載したスティックPCが出回りはじめ、PCの1カテゴリを築いたが、されどプロセッサはAtom。性能的に不満があった。そんな中、IntelからCore mを搭載したスティックPCが登場。編集部からAtom搭載機と共に送られて来たので、比較も交えながらの試用レポートをお届けしたい。

スティックPCでも実用的に使えるCore m搭載

 スティックPCは、本連載のバックナンバーで確認すると、2015年5月にファンありとファンレスの2つを掲載しているのが初となる。プロセッサはAtom Z3735F。そして、今年(2016年)3月にプロセッサがCherry Trail世代になったモデルを2機種扱っている。

 ただいずれもAtomということもあり、性能的には、エントリークラスのタブレットと同程度で、ライトな用途なら……といったところ。最近、スティックPC用のドッキングステーションも少し出ているが、メインPCとして使うには難しい感じだ。

 そんなところへ、IntelからCore mを採用したスティックPCが投入された。(m3だと)ヘビーな用途は厳しいにしても、通常用途であれば問題なく使えそうだ。気になる仕様は以下の通り。

Intel「Compute Stick(STK2M364CC)」の仕様
SoCCore m3-6Y30(2コア4スレッド、クロック 900Mz/2.2GHz、キャッシュ 4MB、TDP 4.5W)
メモリ4GB(DDR3-1866MHz)
ストレージ64GB/eMMC
OSなし
グラフィックスプロセッサ内蔵Intel HD Graphics 515、HDMI(音声出力はHDMI経由のみ)
ネットワークIEEE 802.11ac無線LAN、Bluetooth 4.2
インターフェイスUSB 3.0×3(本体×1、ACアダプタ×2)、microSDカードスロット(SDXC)、USB Type-C(電源用)
サイズ38×114×12mm(幅×奥行き×高さ)
価格42,800円(税込)

 プロセッサはCore m3-6Y30。2コア4スレッドでクロックは900MHzから最大2.2GHz。キャッシュは4MBでTDPは4.5Wとなる。先に書いたように、これまでのスティックPCは、Atomプロセッサばかり(加えてメモリも2GB)だったので軽い処理にしか向いていなかったが、Core mとなったことで、一気に利用範囲が広がった。

 メモリは4GB/DDR3-1866MHz、ストレージはeMMCだが64GB搭載している。2GBで32GBだと心もとないが、倍あればそれなりに余裕もあるだろう。OSはプリインストールされていない。

 グラフィックスはプロセッサ内蔵Intel HD Graphics 515。音声出力も兼ねたHDMIを装備している。

 そのほかのインターフェイスは、IEEE 802.11ac無線LAN、Bluetooth 4.2、USB 3.0×3、microSDカードスロット(SDXC)と、電源用のUSB Type-C。興味深いのは、付属のACアダプタがUSB 3.0のHubにもなっており、本体にUSB 3.0が1つ、ACアダプタ側にUSB 3.0が2つあり、計3ポート扱えること。キーボードやマウスなどHIDデバイスはもちろんだが、USB 3.0なので大容量で高速なストレージも接続可能だ。

 サイズは38×114×12mm(幅×奥行き×高さ)。スティックPCとしては少し大き目か。価格は42,800円。2万円未満で購入可能なAtomクラスと比較すると割高感はあるものの、おそらく自作しても同程度はかかり、小型な分、アドバンテージになると言ったところだろう。

 なお、AKIBA PC Hotline!によると、Core m3-6Y30/OSなしの「STK2M364CC」以外にも、Core m5-6Y57/OS別売りの「STK2MV64CC」、Core m3-6Y30/OSあり(64bit版Windows 10 Home)の「STK2M3W64CC」の2つのタイプが流通しているようだ。後者は今回ご紹介している「STK2M364CC」のOSあり版だ。価格は69,800円と57,800円。さすがにCore m5モデルは高い。

表/左/上。上部にHDMI出力、左側面に電源ボタンとUSB 3.0。Intelのロゴの上に電源LED
裏/右/上。下部にストラップホール。右側面にmicroSDカードスロットと電源用のUSB Type-C
ACアダプタなど付属品。各国用のACプラグアダプタ、電源ケーブル、HDMI延長ケーブル、ACアダプタ。ACアダプタにUSB 3.0が2つある。右側のUSB Type-Cは電源用
Atom搭載スティックPC、Chromecastとの比較。左Core m搭載、中央Atom搭載、右Chromecast。同社の同じシリーズだけあって、細かいレイアウトなどは違うがほぼ同じサイズ。さすがにChromecastは小さい
重量は実測で64gと超軽量級のPC

 筐体は扉の写真からも分かるように、スティックタイプとしては結構大きめだ。Chromecastと比較するとその差歴然。コネクタへの負荷などを考えると、おそらくディスプレイのHDMIへダイレクトに接続するより、HDMI延長ケーブルを使うケースの方が圧倒的に多いだろう。重量は実測で64gと超軽量級のPCと言える。

 ただし、付属のACアダプタのサイズは50×80×30mm(プラグ含まず)、重量140g(プラグ込み)。加えて電源ケーブルだけでも102gあり、これらを合計するとそれなりの重量でまた嵩張ることになる。

 IntelのロゴとHDMI出力を上にした時、左側面には電源ボタンとUSB 3.0。またIntelのロゴの上に電源LED。右側面にはmicroSDカードスロットと電源用のUSB Type-Cを配置。放熱用のスリットが上下左右にあるのが分かる。さらにACアダプタ側にUSB 3.0が2つと、電源+USB Hubの役割を担っている。

 ACプラグは着脱式で、各国の形状に合わせることが可能。4タイプが標準で付属する。出力は、Type-Aで5V/0.9A×2、Type-Cで5.2V/2.2Aとなっている。

 ちょっと気になるのは、電源用のUSB Type-Cコネクタが結構簡単に外れることだ。OS起動中に突然電源が切れるとトラブルの原因にもなるので、何か工夫が欲しかったところだ。

 ノイズや振動は皆無だが、発熱は結構ある(温かいより熱い感じ)。ただAtom搭載モデルも同様だったので、これはスティックPCの宿命とも言えよう。試用した範囲でサーマルスロットリングは発生しなかったので、総合的な熱対策はできているようだ。

Core m3でもAtomよりかなり高性能

 OSなしだと評価できないので、64bit版のWindows 10 Homeをインストールした。詳細など画面キャプチャは掲載しないが、Windows 10が起動した後、Intelのサイトから「Intelドライバー・アップデート・ユーティリティ」をダウンロード、スキャン/ダウンロード/インストールの手順でドライバー類をインストールすればよい。

 ただ素のWindows 10では、Wi-Fiモジュールを認識せず、別途Windows 10が標準で認識できるUSB/Ethernetアダプタなどを使って、一旦インターネットに接続してドライバをダウンロードしたり、microSDカードを使ってほかのPCからドライバを転送する必要がある。この辺りは1台目ならハードルが高いかも知れない。

 ストレージは64GB/eMMCの「Kingston M52564」。C:ドライブのみの1パーティションで約56.45GBが割り当てられ、今回のパターンだと39GBが空きだった(ただし最新のWindows Updateを行なった後の容量)。Wi-FiとBluetoothは(当たり前だが)Intel製だ。

Intelドライバー・アップデート・ユーティリティ。シリアルI/O、チップセット、グラフィックス、Bluetooth、Wi-Fiドライバなどがインストールされる
64bit版Windows 10 Homeをインストール。この時期なのでAnniversary Updateに近い最新プレビューBuildを入れてもよかったのだが、とりあえずTH2版のWindows 10とした
デバイスマネージャ/主要なデバイス。ストレージは「Kingston M52564」、Wi-FiとBluetoothはIntel製
eMMCのパーティション。C:ドライブのみの1パーティションで約56.45GBが割り当てられている

 ベンチマークテストは「winsat formal」コマンドと、PCMark 8 バージョン2、CrystalMarkのスコア(2コア4スレッドで条件的には問題ない)、Google Octane 2.0の結果を見たい。ただしPCMark 8 バージョン2はHome/acceleratedだとAtom搭載機が途中で止まってしまうため、Home/conventionalでテストしている。

 winsat formalの結果は、総合 5.6。プロセッサ 6.5、メモリ 5.9(15986.3887MB/s)、グラフィックス 5.6、ゲーム用グラフィックス n/a、プライマリハードディスク 6.4。PCMark 8 バージョン2のHome(conventional)は2141、CrystalMarkは、ALU 21734、FPU 30747、MEM 40633、HDD 21820、GDI 11347、D2D 3879、OGL 8751。Google Octane(Edge)は16705。

winsat formalコマンドの実行結果。総合 5.6。プロセッサ 6.5、メモリ 5.9(15986.3887MB/s)、グラフィックス 5.6、ゲーム用グラフィックス n/a、プライマリハードディスク 6.4
PCMark 8 バージョン2のHome(conventional)は2141
PCMark 8 バージョン2のHome(accelerated)/詳細。クロックは0.4GHzから最大の2.2GHzまでは行かず2GHzを少し切ったところが最大となっている。プロセッサの温度は56~68℃辺りと結構低めだ
CrystalMark。ALU 21734、FPU 30747、MEM 40633、HDD 21820、GDI 11347、D2D 3879、OGL 8751

 これに対してAtom x5-Z8300 32GB/eMMC(空き19.2GB/27.8GB)搭載モデルは、winsat formalの結果は、総合 4。プロセッサ 6.1、メモリ 5.5(6967.04199MB/s)、グラフィックス 4、ゲーム用グラフィックス n/a、プライマリハードディスク 6.9。PCMark 8 バージョン2のHome(conventional)は1109、CrystalMarkは、ALU 20010、FPU 17179、MEM 17498、HDD 20305、GDI 3467、D2D 2433、OGL 3009。Google Octane(Edge)は6984。また、PCMark 8 バージョン2の詳細を見る限り、こちらの方がプロセッサ温度は若干高めだ。

winsat formalコマンドの実行結果。総合 4。プロセッサ 6.1、メモリ 5.5(6967.04199MB/s)、グラフィックス 4、ゲーム用グラフィックス n/a、プライマリハードディスク 6.9
PCMark 8 バージョン2のHome(conventional)。1109
PCMark 8 バージョン2のHome(conventional)/詳細。クロックは0.6GHzから最大の1.8GHzまで振れているが割と真ん中辺りを使っている。プロセッサの温度は60℃少し切る辺りから70℃程度
CrystalMark。ALU 20010、FPU 17179、MEM 17498、HDD 20305、GDI 3467、D2D 2433、OGL 3009

 表にすると以下のようになる。ストレージだけ若干スコアが低い部分が見られるものの、メモリ、PCMark 8 バージョン2、Google Octane、グラフィックスは大差が付いているのが分かる。実際の試用感も上々で、何をしてもCore m3の方が快適だった。こうなるとさらに性能がアップするCore m5搭載モデルも俄然興味が沸いてくる。

Core m3-6Y30/4GBAtom x5-Z8300/2GB性能比
winsat formal
総合5.64
プロセッサ6.56.1
メモリ5.9(15986.3887MB/s)5.5(6967.04199MB/s)229%
グラフィックス5.64
プライマリハードディスク6.46.9
PCMark 8 v2 Home/conventional
2,1411,109193%
Google Octane(Edge)
16,7056,984239%
CrystalMark
ALU21,73420,010109%
FPU30,74717,179179%
MEM40,63317,498232%
HDD21,82020,305107%
GDI11,3473,467327%
D2D3,8792,433159%
OGL8,7513,009291%

 せっかくOSなしモデルをお借りしたので、Windows以外のOSも試してみた。以前ご紹介したRemix OSのPC版、Remix OS for PCだ。同社のサイトからダウンロードし、ZIPを展開するとイメージ書込みツールも付属するので、それを使いUSBメモリへ書込み、スティックPC起動時に[F10]でブートメディアを選択すれば起動する。少し操作してみたが、これはこれで快適な環境となった。

Remix OS for PCが起動した。Wi-Fi、Bluetooth、microSDカードスロットなど、デバイスは全て認識している。Google Playは標準ではインストールされないが、Remix CentralにGoogle Play Installerがあるので、これを入れれば問題無く使える(非PC版も同様)。Google Octaneは21,152とWindows 10/Edge環境よりもハイスコア

 以上のように、Intel「Compute Stick(STK2M364CC)」は、Intel Core m3-6Y30を搭載したスティックPCだ。加えてメモリ4GB、eMMC 64GBと、実用レベルの構成でWindows 10が利用できる。

 ただ本体はスティック型とは言え、付属のACアダプタと電源ケーブルはそれなりに嵩張り、また重量がある。価格面も含めて総合的考えると、手軽さが少し後退してしまう感じがしないではないが、それを差し引いても十分魅力的な超小型PCだ。従来のAtom搭載モデルでは性能的に不満があったユーザー全てに、お勧めしたい逸品だ。