実録! 俺のバックアップ術

バックアップも機器も「複線化」を旨とせよ

~西田 宗千佳編

 バックアップは必須だが、痛い目にあった人でないとなかなかやっていない、というのが実情かもしれない。

 筆者は実際、もう10年以上前に痛い目ににあっている。幸いにもサルベージが可能だったので大事には至らなかったが、ノートPCが壊れて、締め切りが近いのに焦ったことがある。しかも隣には担当編集者がいる状況で、だ。なんか原稿が遅れた時の言い訳のようだが、いや、本当にあったのだ。

 以来、バックアップは必ずやっているし、「特定の機器が壊れても数分でなんとかなる」ようにしている。

 基本は「自分はあんまりなにもしない」ことと「複線化」。クラウドがあることを前提にした、ローカルとクラウドのミックスによるバックアップである。

「どんな機器でも仕事ができる」「トラブルがあっても数分で切り換え」がポリシー

 現在自宅でバックアップに使っている機器は2つある。あ、いや、正確には3つか。

 1つは、QNAPのNAS「TS-231」。さらに、そこに繋いでいるUSB HDD。そして、Appleのバックアップ用NASでありルーターである「AirMac Time Capsule (2013年モデル)」だ。自宅の実機写真を、と思ったのだが、周囲がちょっと雑然としている(穏当な表現)ので、その辺はご容赦いただきたい。

 が、正直なところ、これらの機器を使っていることは、もはや自分のバックアップにとって中心的な話ではない。クラウドまで含め、「日常的に使っていて、あまり意識することなくバックアップがなされている」ことが眼目だと思っている。

 その辺をきちんと説明するには、自分が使っている仕事用機材とその運用ポリシー、すなわち「西田がどう日常的に仕事をしているか」を理解してもらう必要がある。

 現在、西田は複数の機材をメインに使っている。本当のメインは「MacBook Pro (2016年秋モデル)+iPhone 7 Plus+iPad Pro」だが、特定のOSだけを使っていては全体が見えなくなるので、WindowsマシンとしてMicrosoft「Surface Pro 4」、AndroidスマートフォンとしてMotorola「Moto Z」を併用し、時に入れ替え、時に同時に持ち歩いて使っている。最近はここに「HoloLens」が加わっていて、「PC+HoloLens+スマートフォン」の組み合わせで仕事していることも多い。端から見ればずいぶん変な風景かも知れない。

 これだけ機器が入り乱れると色々大変なのでは……と思われるかもしれないが、そうでもない。もちろんUIは多少違うが、やることはそう変わらない。そして、そのために必要な情報の共有には「クラウドサービス」があり、それを積極的に使うことで、機器が変わっても作業は変わらない、という状態を維持している。実際、作業効率もあまり変わらない。

 「PCが壊れたので締め切りに遅れます」という定番の言い訳があるが、筆者にはもはや使えない。機器を入れ換えるだけで同じ仕事ができるので、数分で元の仕事に戻れる。仮にゼロから環境を構築しても、2時間は掛からない。

 しかも、筆者は常に自宅で仕事をしているわけではない。ここ数年は、出張先もしくは借りているコワーキングスペースで仕事をしている時間の方がずっと長い。すなわち「自宅のサーバーに依存しない」時間の方が多いのだ。

バックアップは「機器」、「クラウド」、「ローカルNAS」で複線化

 次の図は、筆者の作業環境とクラウド、自宅サーバーの関係を描いたものである。重要なデータは「文書」、「写真」、「取材録音」、「スケジュールとメール」と、ざっくり4つに分けておこう。

筆者の利用環境。複数の機器でクラウドを跨ぐ形で同期し、利用している

 どうも複雑なように見えるが、そうでもない。

 書類は基本、Dropboxに保存する。PCやスマートフォンなどから同じようにアクセスし、使えるからだ。文書については、すべての機器からDropboxにアクセスしている状態だ。もちろんPC/Macにはローカル保存されている。

 原稿は現在Microsoft Wordで書いているのだが、これは、スマートデバイス版Microsoft Word/Excelの完成度が上がり、どのデバイスでも原稿を書くのには適切なソフトになったから、という理由が大きい。以前はテキストで書いていたが、今は文字コード問題に悩まされたくない、という意味もあり、Wordに移行している。Dropbox上のドキュメントフォルダにWordの原稿がたまっていき、それを各デバイスで編集している状況である。

 またQNAPのNASにはDropboxへアクセスし、その内容を自動取得する機能がある。だから、文書をDropboxへ保存すると、自動的に自宅のNASにもバックアップが保存される。NAS側はあくまでバックアップであり、普段直接触ることはない。

QNAPのNASのデスクトップ(WebUI)画面。登録しているアプリ数は少なく、標準アプリ以外には、クラウドサービスと連携する「Cloud Drive Sync」くらいしか入れていない

 Apple系は、同社のクラウド「iCloud」を使う。写真は基本的にこれが管理する「写真」アプリに集約する。iPhoneのカメラ性能が上がったこともあり、iPhoneで取材写真を撮ることも増えた。だから、「写真」アプリに入れておくのが楽なのだ。こうするだけで、機器同士で同じ写真が共有される。デジカメで撮った写真も、今はまず「写真」アプリに入れる。PC/Macからでも、iPadからでも同じだ。すなわち、撮影は基本的にJPEGである。

 RAW撮影して現像すれば、品質が上がることはよく分かっている。だが、多数の写真を保存する負荷に加え、日常的に大量の写真を加工するのは、筆者にとって手間がかかりすぎる。そもそも、トリミングと色調補正、傾き補正くらいしかしないので、「写真」アプリでもなんとかなる。もう少しきちんと加工する時には、もちろん「Adobe Lightroom」を使うが。iPadではもっぱら「MaxCurve」というアプリを使っている。

 iCloudへの同期はクラウドへのバックアップも兼ねている。iOS機器のバックアップも考え、iCloudは容量を200GBに増やし、有料契約にしている。

 Androidでは、Google PhotoとDropboxの併用だ。Google Photoは、写真を1,920×1,080ドットへ解像度変更して保存した場合、「無制限」に保存できるので、これが「バックアップ」になる。このことの意味は後ほど解説する。撮影写真のフル解像度版はDropboxに保存されるようになっていて、基本的にはこちらで使う。

 もともと、メールはGmail派。予定管理もGoogleカレンダーで行なっている。別にメールのホスティングは借りているのだが、そこからGmailに転送して使っている。Google Appsにしない理由は、メールのデータを複数の場所に残したいため。Gmailが落ちても、最悪元々のホスティングへアクセスすればいい。ただし、コスト的にもっと有利な方法はあると思っているので、見直しを常に考えているのだが、今のところ手をつけるに至っていない。

 こうやって書き出すとなにやら複雑だが、要は皆、一般的にスマートフォンで行なわれていることに過ぎない。動作もほぼすべて自動だ。だから、普段はほとんど動作のことを気にすることがない。この状態で「機器」、「クラウド」に必ず最新のデータが存在する状況になっており、それ自体がバックアップともなっている。

Mac+Time Machineを介して「自動バックアップ」して複線化

 もちろん、これだけでは終わらない。

 大量の写真(少ないとはいえ、年間で200GB程度)と取材録音データ(こちらは年間数GB。ここ数年は動画化していたのでやはり100GBくらいある)は、クラウドにすべてを保存するのは難しい。過去にはNASから低価格なAmazon Web Serviceの「Glacier」へと自動バックアップすることを試したが、動作の信頼性が今ひとつだし、トータルでTB級のデータを全部アップロードするのは、回線負担も大きい。今はそこまでやっていない。

 現在は時期を見て、大容量のデータは自宅のNASへとコピーしている。「写真」アプリ内の写真も、案件ごとに改めてフォルダに写し、データ量を削減している。ただし、人に話す時などに見せることもあるので、すべてを削除してしまうわけではなく、ある程度は残している。

 また、原稿を執筆時に入稿した画像ファイルについても、フォルダ毎にNASへとバックアップしている。これは手動だ。NASのバックアップフォルダに、毎月手作業で移動する。移動自体はiPadからでもできる作業なので、別にMacやWindowsを介する必要はない。これにはだいたい小一時間かかるが、月に1度程度、案件が落ち着いた段階で行なうようにしている。

 なお、原稿類については、容量も小さいことから、年末にまとめて「終了原稿」フォルダに移動し、さらにNASへとコピーするようにしている。NAS側には、年ごと・大型案件ごとにフォルダ分けしてバックアップが行なわれている。

NAS内の「Backup」フォルダ。年ごとに原稿や画像などが整理してバックアップしてある

 QNAPのNASには、特定のフォルダの中身を監視し、外付けのHDDへとミラーリングする機能がある。これを使い、NASの「Backup」フォルダはUSBの外付けHDDへと自動ミラーリングされている。これは「バックアップのバックアップ」というか本当に保険で、「NASと外付けは同時にドライブがダメになることはないだろう」くらいの判断である。状況を見て、1~2年に一度、新しいものに交換している。「保険」なので2TBもあれば余るくらいだ。

 一方、「Macを介する」ことは自動的にバックアップを「複線化」することにもなっている。

 Macには都合、「スケジュール」、「メール」、「文書」、「写真」のデータが、クラウドとの同期キャッシュのような形で残っている。これを丸ごと逐次バックアップしていれば、クラウドも機器もダメになったような最悪の事態でもなんとかなる。macOSには「Time Machine」という自動バックアップ機能があり、これを使っている。QNAPのNASは、Time Machineの対象にすることもできるのだが、物理的に分けておいた方が機器トラブルの際にダメージが減るので、わざと「データアーカイブ用のNAS」であるQNAPと、「デイリーのキャッシュとしてのバックアップ」としてのTime Machine対応・Time Capsule、という風に分けてある。

 さらにMacに関しては、Google Photoへと写真を自動アップロードするアップローダーも入れてある。これを使うと、特定のフォルダや「写真」アプリ内のファイルが自動的にGoogle Photoへとアップロードされる。この時の設定は「容量無制限」のもの。解像度は落ちるが、Macを経由した画像は、すべてGoogle Photoへとバックアップされている。これも、そのまま使うことはなく「保険」である。

 Amazon Prime Photoに切り換えては……と思っているのだが、そういえばまだやっていなかった。この記事を書きながら、この運用の変更を思い出したくらいだ。「保険」のようなものなので、正直忘れていた、という部分がある。

 ちなみに、Google Photoへ写真を自動アップロードするアプリだと、自動アップロードに失敗する画像も出ているのだが、あまり気にしていない。これが「バックアップの保険」だからだ。Prime Photoへの移行は、この辺の状況も勘案して行なおうと思っている。

Google Photoアップローダーの設定。写真や画像フォルダの中身を「容量無制限」の設定で自動アップロードするようにしている

 この「写真バックアップの保険」を効かせるために、iCloudから写真を取得する際には「オリジナルをこのMacにダウンロード」を選び、解像度の高いデータが保存されるようにしている。

Mac側での「iCloud」設定では、オリジナル解像度の写真をダウンロードするようにしている。ドライブの容量は食うが、バックアップを楽にするにはこれが一番だ

 なんだか面倒くさそう……と文字で読むと思うが、これもそうでもない。これらの動作は基本「自動」。特にTime Machineは、MacBook Proを閉じた状態でも、電源さえ入れてあれば自動的に立ち上がって働くようになっている。だから、日常的には「使ってさえいれば複数の場所にバックアップができている」状態になる。唯一手動なのは写真や音声の移動だが、これは「自分がやった仕事の整理」も兼ねており、特に問題とは感じていない。

ローカルでのバックアップ状況。複線化されており、日常的には「自動」でバックアップが終わるよう工夫してある

 と、このように、「クラウドとローカル機器」、「NASとガジェット」、「ガジェット同士」、「ガジェットとクラウド」それぞれが複線化され、どれを選んでも、どれが一時的にダメになってもデータは消えない、という風に工夫しているのが、私のバックアップ法になる。なんのことはない、デバイス毎にクラウドを追加し、ついでにちょっとだけNASの運用を工夫したらできあがってしまっただけである。

 この手法の欠点は「海外出張時」だ。海外出張で満足な回線がモバイルしかない場合、各機器からクラウドへの写真のバックアップ容量が大きくなり、通信費がかさむ可能性がある。今はその時だけ、Macからクラウドへの写真バックアップを止める処理を行なっている。ホテルの回線が十分なら問題ないのだが、何回か、2日で数GBの容量を「溶かした」ことがある。

 ちなみに日本では、自宅やコワーキングスペースの利用が多いので、そこまでモバイル回線を酷使することはない。また、容量が20GB+繰り越し量、という感じになってきたため、そうそう問題も起きない。

 将来的にはNASのアーカイブをクラウドと複線化したいが、その辺は、Amazon Prime Driveあたりと相談しながらやろうか、と思っている。

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