実録! 俺のバックアップ術

クラウドストレージにあるデータこそが“正データ”。ローカルファイルはキャッシュとして扱う

~笠原一輝編

 バックアップはIT機器を使うユーザーにとって頭が痛い課題である。しかし、発想を転換することで、バックアップを簡単に行なって、古いPCから新しいPCへの引越しといったデバイス移行も簡単にできる方法がある。それがクラウドストレージを活用する方法だ。

 全てのデータをクラウドストレージに集約し、デバイス上に置いているファイルはそのキャッシュに過ぎないという運用をすれば、バックアップはおろか、従来は数日を要したデバイス移行もあっという間に終わってしまうというおまけまで付いてくるのだ。

PCをスマートフォンのように運用できるWindows 10の「回復」機能が便利

 筆者がPCを含むIT機器を使う上で常に意識しているのは、生産性を上げることだ。生産性向上の目的を実現するために起こって欲しくないことは「機器に何らかのトラブルが発生して使えなくなる」あるいは「機器に問題が発生してお金に換えられないデータが消えてしまう」、この2つにある。

 そうしたことを避けるための具体的な手段としては、前者なら機器のバックアップを常に用意しておくことだし、後者の意味では複製をいくつも用意しておき、機器が故障してもバックアップからデータを書き戻せるようにしておくことになる。

 筆者の場合は、大体1~2年に一度PCやスマートフォンを更新することが多い。そして、古い機器はバックアップに回して、壊れた時にはそちらに戻って仕事を継続しながら、その間に故障した機器を修理するという体制でやっている。

 バックアップツールとしては、Windows 7時代までは、AcronisのTrue Imageのようなシステムをイメージごとバックアップできるバックアップツールを利用していた。理由はシンプルで、Windowsのシステムが壊れてしまった時に、イメージでバックアップを取っておけば、壊れる直前の状態に書き戻して仕事が再開できるからだ。

 特に、Windows 7時代までのノートPCは、2.5インチHDDやSSDをネジ1本で交換できるものがほとんどだったので、ストレージが壊れてしまっても、すぐに交換してTrue Imageのバックアップイメージから書き戻して仕事再開という使い方をしていた。

 しかし、近年の薄型ノートPC用のストレージのように、M.2やmSATAのようなマザーボード上のコネクタに直接接続されているものが増えてからは、この方法は採らなくなった。

 特に2in1デバイスはストレージの交換がそもそもできない製品が少なくない。Surfaceシリーズのように、筐体が接着剤で封印されていてそもそもできないというのもそうなのだが、筐体を開けると保証の対象外になり、仕事で使うPCには短くても2年、長ければ3年の保険をかけることを考えると、賢い選択ではない。

 ということで、現在ではPCもスマートフォンやタブレットと同じような運用方法で利用している。具体的には、何かがあった時にイメージから書き戻すのではなく、常にOSリカバリ機能を利用して、初期状態に戻して、そこから再度セットアップする。

 Windows 10では、OSの初期化機能である「回復」が用意されており、その時点での最新のアップデート(現在で言えばWindows 10 Aniversary Edition)の初期状態に戻してくれる。ソフトウェアなり、ハードウェアなりに問題が起きた時には、まず「回復」機能を利用して、初期状態に戻してみる。

 それでも問題が発生すればハードウェアが原因だし、それで問題が発生しなければソフトウェアの問題だったと原因の追及が容易なこともメリットとして挙げられる。

Windows 10の「回復」機能。「このPCを初期状態に戻す」というメニューを利用すると、最新のアップデート、ドライバなどは当たった状態の初期状態に戻してくれる。スマートフォンのリセットと同じような機能だと思えば良い。何かあったらこの機能を使って戻すと、PCの初期状態に戻ってくれるので便利
「このPCを初期状態に戻す」は個人用ファイルを保持したままのリセットを全てを削除するという2種類のリセットが選べる。前者はアプリケーションとWindowsフォルダを初期状態に戻し、後者は全て初期状態に戻す
自分用にリセットする時には前者を、デバイスを誰かに譲渡する時には後者を選択する

 以前ならこうした初期化の後、環境構築には半日は時間がかかったものだが、筆者の環境ではアプリもかなりUWPへの移行が進んでおり、Win32アプリで導入しているのはMicrosoft Office、Adobe Creative Cloud、ジャストシステムのATOKくらいなので、それほど時間はかからない。これらのアプリは各社のクラウドサーバーからインストールし、Windowsストアから必要なものをダウンロードすれば、仕事環境は完成だ。

 WebブラウザはMicrosoft Edgeへの移行を済ませているので、ブックマークやWebサイトのID/パスワードなどはWindowsが勝手に同期してくれる。インターネット回線で十分な速度さえ出せていれば、リカバリしてから1時間程度で仕事環境が構築できるようになっている。

Microsoft Officeも、Adobe Creative Cloudもクラウドから直接インストールが可能。昔のように外付けDVDドライブを探して……という時代ではもうない

大事なのはローカルにしかないデータは持たないこと。クラウドストレージこそがメインのストレージ

 Windows 10の「回復」機能は、このようにPCをスマートフォンやタブレット的に使えるという意味で、非常に良いと思うのだが、ユーザーのデータが常にPCのローカルにだけ保存されていると、そうした回復を行なう前にデータを何らかの形でバックアップする必要がある。

 Windows 10の「回復」機能には、ユーザーデータを消さずにリカバリできる機能が用意されているのだが、本当に全部大丈夫なのか常に不安を感じながらリカバリするのも気分的に良くないし、リカバリそのものも中途半端な感じがあるので、どうせなら綺麗さっぱりゼロに戻す「ユーザーデータも消す」というやり方でリカバリしている。

 この問題に対処するため、筆者は常にこう考えることにしている。自分のユーザーデータの”正”データは、クラウドストレージに置いておき、デバイス上に置いてあるデータは”キャッシュ”だと。キャッシュであれば、いつ消えても問題はなく、必要に応じてクラウドストレージにある”正データ”からコピーすればいい。

 では、PC上ではどうしているかと言えば、クラウドストレージの同期ツールを利用して常時同期しておき、PCでデータを編集する時には、このクラウドストレージが同期するフォルダ上のファイルを編集する。こうしておけば、常にクラウドストレージとの同期が保たれており、最新のデータはクラウドストレージ上にあるという状況が保たれることになる。

 クラウドストレージだが、OneDrive for Businessを利用している。筆者の場合、法人向け(厳密に言うと、筆者のような個人でも契約できるので微妙な言い方だが、ビジネス向けという意味でこう表現しておく)Office 365をビジネスのインフラとして利用しており、Office 365 Business Premiumというプラン(年契約で月額1、360円)を契約している。50GBのメールと、5台までのOfficeアプリケーションの利用権、1TBのOneDrive for Businessが利用できる。

OneDrive for Businessの同期ツール。現在は一般消費者向けのOneDriveと同じ機能が実装されている。
以前のバージョンでは同期を停止する手段がなかったのだが、今のバージョンでは手動で同期を停止する機能が実装されている。バッテリ駆動時などにはこれを利用して同期を一時停止すれば良い

 OneDrive for Businessは一般消費者向けのOffice 365サービス(Office 365 SoloやOffice Premiumに付属してくるサービス)にバンドルされているOneDriveとは異なる。一般消費者向けのOneDriveが、Microsoftによるコンテンツの検閲(成人向けのコンテンツや違法なコンテンツが含まれているかどうかなど)があるのに対して、OneDrive for Businessにはそうした検閲はなく、機密情報を含むような情報を扱う企業ユーザーにも配慮されている。

 また、OneDriveはサーバーがどこにあるのか、また障害が発生している時にその情報が公開されないのに対して、OneDrive for Businessは日本で契約しているユーザー用に国内にサーバーが置かれており、障害発生時には管理者に対して障害発生情報が公開されるので、ビジネスユーザーでも安心して利用できるのが特徴だ。

 以前のOneDrive for Businessは、同期ツールが一般消費者向けのOneDriveに比べて時代遅れで、2万アイテムしか同期できないという制限が付いていたが、2015年の末にOneDrive for BusinessとOneDriveの同期ツールは統合化され、現在ではほぼ同じ機能が利用できるようになっている。

 このOneDrive上に仕事に必要なデータ(過去5年分の記事の元データや写真、資料)を置いておき、それをPCのストレージと同期している。OneDrive for Businessの同期ツールでは、フォルダ単位で同期する/同期しないを設定できるので、常に全部のデータを同期するのではなく、例えば写真なら3年分などとデータ容量を200~300GB程度に収まるように設定している。

 これは、PCのSSDの容量がハイエンドPCだと512GB程度であることを考慮しているためで、現在では224GBのファイルを常にPCのストレージに”キャッシュ”するようにしている。

OneDrive for Businessの同期ツールではフォルダごとに同期するしないを選択できる

 こうした運用にしておけば、Windows 10の「回復」機能を利用して、リカバリしても、同期ツールで書き戻せば簡単に元の環境に復帰できる。

 ただし、言うまでもないことだが、224GBを全部クラウドから書き戻すのは膨大な時間がかかる。このため、可能であれば、リフレッシュする前に、高速なUSBストレージなどにバックアップして、同期する前にOneDrive for Businessのフォルダに書き戻しておけば、同期にかかる時間を短縮できる。

 クラウドに置いておけばバックアップは完璧という話しとはやや矛盾するが、回線の速度が十分ではない環境にいて、筆者のように同期するデータ量が200GBを超えてしまっているような上級者にはそうした方法をお勧めする。

家庭用の写真、動画、音楽データなどはSynologyのNASにいれ、Amazon Cloud Driveに同期

 多くのユーザーにとっては、おそらくクラウドを正、デバイス上のデータをキャッシュとするだけで、バックアップの代替としてはほぼ十分だと思う。しかし、これで安全で万全かと言えば、そうではない。より念には念を入れたいユーザーにとっては、もう1段階の対策をしておくと安心できるのではないだろうか。

 クラウドストレージを使う上での課題は、サービスを提供する企業のクラウドサーバーが何らかの形で落ちてしまい(例えばデータセンターが火事になってしまったなど)、データが復旧されないことへの対処と、ランサムウェアのようなウイルスへの対策が難しいことだ。

 ランサムウェアはコンピュータ上のストレージを改竄して暗号化してしまうが、OneDrive for Businessの同期フォルダもやられてしまうと、改竄されて暗号化されてしまった状態でクラウドストレージへの同期が行なわれてしまい、クラウドストレージ上のデータが使えなくなるということも想定されるのだ。

 OneDrive for Businessの場合にはどのタイプのファイルでも、何世代かは復元可能になっている(一般消費者向けOneDriveのOfficeファイルのみ可能)が、それでも限界はあるので、やはり別途バックアップを取っておくことが大事だと考えている。

 そこで、筆者の場合はOneDrive for Business上のデータ全てを自宅に置いてあるデスクトップPCと同期するように設定してある。具体的にはOneDrive for Businessのフォルダを、Acronis True Image 2017を利用して、Acronisのクラウドストレージにバックアップを取っている。

 先週からTrue Image 2017がバージョンアップされて、True Image 2017 New Generationになり、データ改竄対策としてブロックチェーン技術などが実装されたため、現在ではそれを利用してバックアップしている。バックアップの頻度も1週間に2度にしており、何らかの形でデータが改竄されても、True Image 2017 New Generationでバックアップしているデータは無事だということを期待して、このようになっている。

True Image 2017 New Generation、公証するファイルというのがブロックチェーン技術を利用したバックアップ
どこのクラウドサーバーを選択するかは意外と重要。標準では米国になっているので、日本のユーザーは日本のクラウドサーバーを選択した方が良い。バックアップの速度の桁が違う。日本を選んだ場合には写真のような速度だったが、米国を選んだ時は2日間かかった
クラウドサーバーに日本を選んだ時のバックアップ速度。36Mbpsとかかなり速い速度が出ていた

 また、ビジネスには使っていないデータ、例えば家庭での写真、動画、音楽などのファイルは自宅に設置しているNAS(Synology DS415+)に保存してある。Synology DS415+には標準で外付けHDDなどにバックアップを取る機能が用意されており、基本的にはこれを利用してバックアップをしている。

 それと同時に、Synology NASの特徴の1つであるクラウドストレージとの同期機能を利用して、クラウドストレージへの同期を行なっている。利用しているのはAmazon DriveのUnlimitedストレージ プラン(年間13,800円)で、ほかのサービスのように1TBまでというデータ容量に制限がない。既に900GBをアップロードしているが、今のところエラーもなく利用できている。

 本来であれば、NAS上のデータもランサムウェア対策をした方がいいのだろうが、ビジネス用のデータほどは重要度は低いと考えてそこまでの対策はしていないというところだ。

自宅でNASとして使っているSynologyのDS415+
Amazon Driveの利用状況、900GBを既に超えている
SynologyのNASに用意されているAmazon Driveとの同期ツール

クラウドストレージを活用すると、プラットフォームを跨いだマシンの移行も容易になるという副産物もある

 このように、筆者が構築しているシステムは、シンプルにクラウド上にあるデータを“正データ”として扱い、ローカルのデバイス上のデータを”キャッシュ”と考えて構築されている。この仕組みにしておくと良いことは、バックアップは取らなくて良いというのはもちろんなのだが、クライアント側のプラットフォームに依存せずに、その時々に良いと思えるデバイスを自由に選択できることだ。

 今プライマリのデバイスとして使っているのは、Windows 10デバイスのSurface Bookだが、明日MacBookに移行しようと思えば、既に移行する体制が整っている。OneDrive for Businessの同期ツールがmacOSに対応していて、Office 365/Creative Cloud、そしてATOKなどのWin32アプリも、サブスクリプション契約をしておけばmacOSと同じアカウントで両方のプラットフォームで利用できるようになっているからだ。

 また、PCからiOSやAndroidのタブレットなどに移行することも可能で、既にOneDrive for Business、Office、Creative Cloudのモバイルアプリも出揃っている。このため、PCはWindows PC、タブレットはiPad Pro、スマートフォンはiPhoneとWindows 10 Mobileと異なるプラットフォームを混在させてマルチデバイス環境で利用できている。もはや、筆者にとってどのプラットフォーム(OS)を利用するかは問題ではなく、どのデバイスが一番生産性が高いかの視点で選ぶようになっている。

 そうした観点からも、”正データ”をクラウドストレージにしておくというのは、より高い生産性を実現していく上で今後鍵になっていくと考えており、バックアップのソリューションの1つとしてだけでなく、そうした生産性の向上という観点からも、クラウドストレージへの移行を積極的に進めていくべきだ。

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