森山和道の「ヒトと機械の境界面」

2020年「国際ロボット競技大会」は“インスパイアされる大会”になるか

~第1回実行委員会諮問会議を開催

第1回「国際ロボット競技大会」実行委員会諮問会議 事後ブリーフィング

 経済産業省は、2016年2月2日、2020年に開催予定の「国際ロボット競技大会」実行委員会諮問会議を開催し、終了後にプレスブリーフィングを行なった。「国際ロボット競技大会」とは、昨年(2015年)2月10日に日本経済再生本部が決定した「ロボット新戦略」に基づいて開催予定のロボコンである。主催は経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)。

 2020年は56年ぶりの日本でのオリンピック開催年であり、世界中から日本に注目が集まると予想される。ロボットの活用シーンを競技会形式で広く公開することで、ロボットの研究開発や活用を促進し実社会への導入、普及を図り、またロボットについて理解してもらうことを目的としている。当初は「ロボットオリンピック」と仮称されていた。

 「ロボット国際競技大会」は、2016年中に具体的な開催形式と競技種目を決定し、2018年にプレ大会を開催、そして2020年後半に本大会を実施する予定。具体的な競技内容、参加チーム、運営組織の詳細、予算や開催規模、開催場所などは未定だ。なお「国際ロボット競技大会」というのもあくまで暫定名称であり、大会の正式名称は変わる可能性がある。

 組織としては、2015年末に実際に競技内容等を検討する実行員会、その結果を諮問する諮問会議が設置されている。諮問会議及び実行委員会の事務局はNEDOが務める。今後、月に1回程度のペースで実行委員会が開かれて、7~8月頃に第2回実行委員会諮問会議、11月に第3回の同会議が行なわれて競技内容をフィックスする予定とされている。

 実行委員会諮問会議の委員長は、カーネギーメロン大学 教授の金出武雄氏。メンバーには元「DARPA ロボティクスチャレンジ」のプログラムマネージャーで、今はトヨタ・リサーチ・インスティチュートCEOを務めるギル・プラット(Gill Pratt)氏らが名前を連ねている。一覧はNEDOのサイトに掲載されている

DARPA ロボティクスチャレンジの様子

競技は産業用、サービス用、レスキューの3分野で実施

 競技の詳細は未定だが、ロボットの稼働領域や利用シーンから、以下の3分野に分かれて行なうとされている。

  1. BtoB中心の分野(ものづくり、農林水産業・食品産業分野)
    人とロボットの共同作業、セル生産の自動化、自動車へのハーネス組み付け、食品の弁当詰め等
  2. BtoC中心の分野(対人サービス、介護・医療分野)
    人と協働での店舗での陳列、接客、外出支援等
  3. インフラ・災害対応・建設分野
    プラント点検、プラント内の人の発見・救助等

 概ね、産業用ロボット分野、サービスロボット分野、公共ロボット分野の3つに分けられている。このように分けることで、既存のロボコンのノウハウを活かしたり、参加者コミュニティへのアプローチが容易になることで、国際参加を呼び込みやすくなるという。また、競技だけではなく、ロボット・ショーケースとしてのデモも行なう予定だ。

 競技種目は、

  1. 社会訴求力・発信力(国際的な注目度合い、社会にもたらされる便益)
  2. 研究開発加速力(技術的難易度、波及効果)
  3. 社会実装加速力(現場での技術定着性、ロボット導入に伴う経済的効果)
  4. 国際性(参加者数、国際交流の可能性)
  5. 継続性(技術革新が継続できるか)
  6. 人材育成性

 の6つの軸を考慮して想定されるという。何度も繰り返すが競技内容は全くの未定であり、単独のロボットが複数の作業をこなしていくようなタイプのものなのか、単独のロボットが単独の作業を行なうのかも決まっていない。「どちらもあり得るだろう」とのことだった。

国際ロボット展2015での川崎重工の双腕ロボットによる弁当詰めデモの様子

多くの人をインスパイアする大会に

 ロボット国際競技大会は、一般を対象として、開かれた形で行なわれる。海外のメンバーも委員に含まれているため、英語で行なわれたこの日の諮問会議(諮問会議自体は記者たちには非公開で実施された)では、委員からは「誰かをインスパイアする大会にすべきだ」という意見が出たとのことだった。若年層、高齢者、産業界などの各ステイクホルダーを、それぞれ何らかの形でインスパイアすることができるような大会にすべきだという意味だ。

 例えば若年層にはロボットの実際について理解力を向上させたり、あるいは研究目標としてイメージしてもらうことでインスパイアする。高齢者にはロボットがどれだけ生活を助けられるものか感じてもらってインスパイアする。政府や産業界に対してはロボットに対する投資を活発にさせるようにインスパイアすべきであり、そのような競技分野にすべきだという意見が出たという。

 また、具体的な競技種目を作る上での留意点としては、以下の4つの点が指摘されたとのこと。

  1. 効果的なパフォーマンスの設定方法。時間を競うのか正確性を競うのかなど、定量測定できる指標の設定。
  2. 国際性を確保すること。既存の「ロボカップ」などのロボット競技大会を巻き込んで参加者を募ったり、既存学会を通して認知度を上げる。
  3. 教育とのリンク。大学生や高校生への教育につながるような設計が必要。
  4. ソフトウェアの重視。ハードウェアよりもむしろソフトウェアで競ったほうが、より高度な競技大会になるのではないか。シミュレーションで参加者のレベルをあげていくことも有効なのではないか。

 2015年12月の「国際ロボット展2015」内で行なわれた災害対応ヒューマノイドのデモンストレーションは、シミュレーションベースで行なわれた「ジャパンバーチャルロボティクスチャレンジ(JVRC: Japan Virtual Robotics Challenge)」の実機版という位置付けだった。この大会はJVRCの後継としても位置付けられるようだ。

「絵に描いた餅」で終わらせないために

 前述のように、具体的競技内容も予算規模も決まってない状況で開かれたプレスブリーフィング。経済産業省 製造産業局 安田篤ロボット政策室長は「単なる技術を競う競技大会ではなく、社会問題を解決するロボット技術の競技会であることに意味がある」と述べ、高齢化社会への対応や、人とロボットの協調を見てみたいといった声が諮問会議委員からもあったと説明したが、記者たちからは戸惑いの声が上がった。

 今後、具体的な競技内容が協議されるとのことだが、予算規模が分からないと、大会規模からして想像し難い。そもそも、どのあたりの予算から支援が実施される大会になるのかも未定とのことで、ある記者からは、それでは社会実装云々といった文言も「絵に描いた餅」ではないかと指摘されていた。イメージ映像、キービジュアルの類も示されていないので、筆者に言わせれば、むしろ「絵にすら描かれてない」といった段階だ。

 ブリーフィングで名前の挙げられた既存ロボコン「ロボカップ」に対しては、「サッカーをやっているだけではないか」という声も別の記者から上がった。実際の「ロボカップ」はサッカーだけではなく、災害救助を目指す「レスキュー」、家庭用サービスロボット実現を目指す「@Home」といった競技から構成されている複合的な大会だが、ロボカップに毛が生えただけではないかという印象は、委員会の顔ぶれを見ても感じることである。

 しかし「ロボカップの特別版」ではなく、敢えて「国際ロボット競技大会」とするのであれば、せめて、どの程度の運営規模の大会を目指すのかくらいは早々に決定する必要があるだろう。でないと参加を想定する大学や企業も検討のしようもないし、競技内容を決める実行委員たちも困ってしまうのではないだろうか。

ロボカップ@homeの様子

 また、参考資料として「海外での主要なロボット競技会」という紙ペラ1枚が記者たちに配られたのだが、それには、最近企画されている賞金700万ドルで海洋地図を作成することを目指す「Shell Ocean Discovery Xprize」や、賞金総額100万ドルのドローン大会「World Drone Prix in Dubai」、また、補装具を使った選手たちによるスポーツ競技会「Cybathlon」、ネット通販最大手のアマゾンによる倉庫用マニピュレーションのロボコン「Amazon Picking Challenge」などは掲載されておらず、経済産業省による既存ロボコンのイメージは古いのではないかと思わざるをえなかった。

Shell Ocean Discovery Xprize
Cybathlon
三菱電機による、Amazon Picking Challenge出場ロボットのデモ

 DARPAによる自動運転車のコンテスト「URBAN Challenge」が自動運転の技術研究の潮流を一気に変化させたように、上手くデザインされたロボコンは、一気に新たな時代を作り得る。世界に伍し、アピールしていきたいのであれば、少なくともそれなりの構想規模と、参加者のみならず一般人にとっても魅力的に感じる競技を設定する必要があるだろう。でなければスポンサーも集まらない上、そもそも2020年に開催する意味が薄くなる。

 競技内容として現在想定されている「利用シーン」ベースでは技術的には興味深いかもしれないが、既存のロボコン、あるいはロボット展でのデモ展示の枠を出ておらず、競技それ自体にそれほどの魅力は感じられないというのが率直な感想だ。だが、それも予算規模が決まらないと思案しようがない。大会実施が5年後となると、現在注目度が高く、今後の大きな伸びが予想されるAIや、IoTといったほかの技術の進歩をどの程度想定するかといった課題もある。

 オリンピックの年に開催するということで、大規模な大会となることが想像されるのだが、そもそも日本には広く一般に開かれたロボコンをイベントとして運営するノウハウもない。多くのロボコンは公開されてはいるが、イベントとして整備されているかというとそうではなく、内輪向けの感が否めない。今後、どうやって運営ノウハウを積み重ねるかも重要となりそうだ。

 また、オリンピックの年には他の同種の大会の開催も予想される。折角の機会なのでどこまで取り込んでいくか、棲み分けるかといったことも考慮する必要がありそうだ。

 少し考えただけでも課題が山積みで、今後が大変そうだと感じざるを得なかったが、逆に言えば、今からなら一般からの意見によって面白い大会にしていくことも可能なのかもしれない。読者諸氏も、どんな大会なら見てみたいか、参加してみたいかと考えてみて欲しい。

(森山 和道)