■森山和道の「ヒトと機械の境界面」■
早稲田大学高等研究所主催で、最先端・次世代研究開発支援プログラム シンポジウム『失われた感覚を取り戻す 脳との対話によるリハビリ支援ロボットテクノロジー』が3月1日、行なわれた。
ロボット技術を使って失われた脳機能を再活性化させる技術「知覚支援RT」の研究開発を目指す研究プログラムの紹介のほか、脳と機械を直接繋ぐブレインマシンインターフェイス(BMI)を利用した最先端神経科学、認知神経科学、そして磁気刺激を利用した新たな次世代リハビリテーション医療などの研究が紹介された。シンポジウム参加者は多岐に渡り、情報技術と神経科学との融合分野の広がりを感じさせた。読者各位の身近にも、脳出血で倒れてリハビリを行なっている人は少なくないと思う。現在の研究現場でどんな試みが行なわれようとしているのか、レポートしてご紹介したい。
早稲田大学高等研究所 准教授 岩田浩康氏 |
なお、このシンポジウムは、「将来、世界の科学・技術をリードすることが期待される若手・女性・地域の研究者への研究支援」と「『新成長戦略』に掲げられたグリーン・イノベーション及びライフ・イノベーションの推進」を目的とした内閣府総合科学技術会議の「最先端・次世代研究開発支援プログラム」の研究者・研究課題の1つとして、早稲田大学高等研究所の准教授・岩田浩康氏が選ばれたことで開催されたもの。研究課題は「低侵襲な知覚・運動支援により脳神経系の再構築を促す心身覚醒RT」。
岩田浩康氏は、基本的な視点について「ロボット技術を使うことで人に気づきを与えるようなリハビリを行なうことができるのではないか」と紹介。「ロボット技術を使って何らかの外的刺激を与え、それが患者に主観的にどう受け止められるのか。そして脳にどのような影響を与えるのか。リハビリ理学療法の観点からどう見えるのか」と今回のシンポジウム講演者たちのポイントをまず紹介した。
早稲田大学副総長の橋本周司氏は「人と機械の新しい関係を築くという観点から、早稲田大学はロボット工学の研究を50年間やってきた。情報技術の進展でライフテクノロジーへの応用が現実味を増している。工学的見地から医療や看護にアプローチしているのが早稲田のロボット工学の特徴。アイデアを出して現場とキャッチボールする中から医工学連携研究が成り立ってきていて、成果が上がってきている」と挨拶した。
内閣府政策統括官(科学技術政策・イノベーション担当)付参事官(最先端研究開発支援プログラム担当)の川本憲一氏は「最先端・次世代研究開発支援プログラム(英語名はFunding Program for Next Generation World-Leading Researchers (NEXT Program))」について解説。近年の日本の科学技術分野での遅れのとりかたに危機感があることを改めて強調。次世代の医療現場への応用に繋がることを期待すると述べた。
早稲田大学副総長 橋本周司氏 | 内閣府政策統括官(科学技術政策・イノベーション担当)付参事官(最先端研究開発支援プログラム担当) 川本憲一氏 |
●脳活動をデコードし直接学習させる「DecNef法」
株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報通信総合研究所所長 川人光男氏 |
「ブレイン・マシン・インターフェイス~最新動向と未来展望~」と題して基調講演を行なったのは理論と実験双方からBMI研究を進めている株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報通信総合研究所所長の川人光男氏。ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)は考えただけで機械を動かすといったアプリケーションとセットで語られることが多いが、それだけがBMIの可能性ではない。川人氏は、BMIをはじめとしたこれからのシステム神経科学には「医療と福祉への応用」、「イノベーション」、そして「脳科学の革新的手法」の3つの可能性があり、また脳科学は、異分野でノーベル賞を穫るほど一度成功を収めた研究者たちが新たに参入してくるほど魅力的なものだと話を始めた。そして、2011年12月にATRから発表のあった「デコーディッドニューロフィードバック法」と呼ばれる手法を用いた新たな視覚知覚学習実験について解説を行なった。
川人氏らは20年ほど前に「視覚の内部モデル理論」を提案した。これは一次視覚野と高次視覚野で構成される階層構造のモデルで、ざっくり言うと、一次視覚野では、網膜から入力される2次元画像データと、学習や成長によって獲得された高次視覚野にある外界のモデルとが中間表現として処理されているとするものだ。つまり我々は目から入って来た外界情報を処理するために、高次視覚野からの予測モデルと確率計算で、よりもっともらしく解釈して世界を知覚していると考えるわけだ。こうすることで世界をスムーズに知覚することができる。当時はこのような抽象的なモデルが神経科学で証明されることは難しいだろうと考えていたという。しかしながら今ではBMI技術の発展により、このようなモデルを実験で直接証明することができるようになっている。
脳には「自発脳活動」と呼ばれる活動がある。これはたとえば目を閉じているときにも自然に起こる脳活動のこと。第一次視覚野は線分の方位に鋭敏に反応することが分かっているが、このような活動を視覚野で調べると、真っ暗闇で何も見ていない時にも、外界を見ているのと同じような反応が起きていることが分かった。また、イタチを使った実験で、自然画像のムービーと真っ暗闇のムービーを見せたときの脳活動を調べると、年をとった、すなわち経験を積んだイタチの場合は若いイタチに比べて、自然画像のムービーを見ているときと自発脳活動の反応が近かった。その他の研究も視覚野の自発脳活動は、視覚野の活動に外界の知識、視覚世界の内部モデルが取り込まれていることを示唆している。
視覚には「視覚知覚学習」と呼ばれる効果があることが知られている。また世間には非常に高い視覚知覚能力を学習で獲得している人たちがいる。たとえば縞模様の検出のような作業をやらせると、多数回見せていると、ごく薄いコントラストでも判別できるようになる。学習後には第一次視覚野や第二次視覚野のような低次の部位だけでなく、脳のさまざまな部位でも活動の変化が見られ、学習の座がどこなのかは議論があった。
このような混乱が起きている理由には、これまでの脳科学の限界があった。例えば、ある課題をやらせて訓練前よりも成績が上がったとしよう。そのときに訓練前後で変化があったのはこの部位です、と言ってみても、それはつまるところ相関関係を見ているだけであり、原因なのか結果なのか、あるいは単なる現象を見ているだけなのかさえ分からない。「なかなかスパッと物事を明らかにできないうらみがあった」と川人氏は語る。
視覚の内部モデル理論 | 縞模様の検出。学習するとより薄い縞でも見出せるようになる | 学習の座がどこなのか、混乱があった |
相関関係ではなく因果関係を調べるためには、知覚学習を脳の神経細胞群に直接引き起こして、その後の学習課題の成績を見ればいい。しかしながら従来はこのようなことは全く不可能だった。ところが今や、これがある方法で可能になった。それが2011年末に「新たに開発したデコーディッドニューロフィードバック法を用いて、ヒト大脳皮質視覚野に、空間的な活動パターンを引き起こし、意識や視覚刺激を伴わずに、視覚知覚学習を生じさせることに成功」と題してプレスリリースされた研究である。
当時のプレスリリースにはこうあった。以下引用。
努力や、注意や、集中あるいは場合によっては意識さえせずにいろんな学習ができたらよいと思いませんか。
あるいは、仕事や人間関係でストレスがたまっているときに、 一人で静かにしているときにでもストレスを解消できると良いと思いませんか。
将来このような夢を叶えてくれるかも知れない、新しい脳科学の方法、DecNef法(decoded fMRI neurofeedback)を開発しました。
DecNef法によって、視覚の刺激図形も見ていないし、学習していることも全く意識していないのに、知覚能力が向上することが分かりました。DecNef法は、一般には、脳活動から欲しい情報をとりだして、それをいろんな方法でユーザに帰すことで、薬などを使わなくても脳の状態を望ましい方向に導いてくれる方法と言えます。
今後、脳の機能の理解を深めるための重要な方法になると期待されますし、これまでなかなか良い治療手段がなかった脳の病気の全く新しい治療法につながることも期待されます。
ポイントは、「視覚の刺激図形も見ていないし、学習していることも全く意識していない」のに、知覚能力を向上させることができたという点である。
被験者には、fMRIの中で方向の異なる3種類の縞模様を区別する課題を行なわせる。ただし被験者にはそれを意識させずに視覚野を訓練させる。具体的には被験者には固視点を見るようにいう。その固視点を中心に円盤が広がるので、その円盤が、できれば固視点の外側の外周に達するようにするように、と伝える。外周に達すると報酬は最大になる。実は被験者の第一次視覚野の活動を計測しており、その脳活動をATRがこれまでに開発した「MSLR(Multinomial Sparse Logistic Regression)デコーダ」で解析。被験者それぞれに割り振られた縞刺激画像の方位の確率を計算する。そしてその確率で報酬の大きさが決められている。
つまり、被験者の一次視覚野の脳活動が、ターゲットの縞を見たときと同じ脳活動とたまたま同じになると、報酬がもらえるのである。直接、ターゲットとなる画像を見て訓練するわけではない。この「デコーディッド・ニューロフィードバック訓練」を一日180回、5日から10日間繰り返した。すると、ニューロフィードバック訓練をした分だけ学習成果が出た。学習できる被験者とできない被験者はいたそうだが、10人の被験者に対して、試行にわたってデコーダーが足しこんだ尤度の総和を見ると、きれいな線形関係になった。実験の詳細はこちらで解説されている。
被験者には縞模様の三方位弁別課題をやらせた | 「MSLRデコーダ」で脳活動を解析 | 被験者の知覚と脳の特定部位の活動を分離して訓練できる「DecNef訓練」を行なわせた |
ちなみに「脳の状態を操作しなさい」と言われた被験者は、どんなことを想像したのだろうか。ターゲットとなった縞のようなものを心の中で描いていたら意味がない。なぜならそれだけでも学習が可能であることは既に分かっているからである。実際には、例えばアニメのワンシーンを繰り返し想像するなど、まったく関係のないことをみんな語ったそうだ。縞や線分の方位をレポートした人は1人もいなかったという。また被験者は、学習後もターゲットとされた方位を当てることはできなかった。つまり自分ではまったく意識もしていないのだが、特定の方向の縞模様の弁別が「デコーディッド・ニューロフィードバック(DecNef)」によってうまくなったわけだ。
そのほかの可能性の検証も行なって、確かに第一次視覚野や第二次視覚野での活動が知覚学習を引き起こすことを確かめた。脳が原因で行動が変わるという実験は今までのシステム神経科学ではできなかったが、この研究はそのようなことを可能にしたものだ。脳の活動パターンを目標の状態に誘導して、そのパターンを繰り返すことで、行動が変化するというのは実に面白い。DecNef法には、これまで相関実験や破壊実験しか行なえなかった脳科学に対して、神経符号から機能への因果関係を直接調べることができる新たな実験道具となることが期待されている。また脳卒中の患者の大量の脳活動をとってターゲットにするなど、臨床応用への可能性も考えられるという。
DecNef法のまとめ | これまでは無理だった因果関係のはっきりした実験が行なえる | 臨床応用への可能性も |
このほか、川人氏は「脳科学研究戦略推進プログラム」でのBMI研究(課題A)の現状やこれからについても解説した。これまでの脳への電気的アプローチには電気ショックのような粗っぽい方法しかとることしかできなかったが、これからはBMIによって脳を見ながら限局した場所に対して操作することが可能になるだろうと述べて、人工網膜技術や脳深部刺激、経頭蓋磁気刺激などを紹介。また基礎研究や機能補填から始まっているアメリカに対して、日本の強みとして治療や臨床から始まっており、機能回復、治療を目指している点を強調。「臨床、神経科学、工学の研究者たちが本気になってやらないといいものはできない」と述べて、ロボット技術を活用した神経リハビリテーションや下肢サポート用の外骨格ロボットなど、各研究を紹介した。
皮質脳波を利用するワイヤレス埋め込み装置も開発中 | BMIを使った「神経リハビリ」 | ATRで開発中のBMIで制御される外骨格ロボット |
●リハビリの常識を変える「NEURO(集中リハ+経頭蓋磁気刺激療法)」
東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座主任教授 安保雅博氏 |
続けて、東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座主任教授の安保雅博(あぼ・まさひろ)氏が「脳卒中上肢麻痺に対するNEURO(反復性低頻度経頭蓋磁気刺激と集中リハビリテーションを組み合わせたリハビリ法)」と題して講演した。「経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation, TMS)」という手法を使って脳に刺激を与えたところ、これまではもう良くならないと考えられているような上肢麻痺にも改善が見られた、というものである。
具体的には神経活動を抑制する作用があると考えられているrTMS(低頻度反復性TMS)を健側(健康な方)の脳に与えることで、健側から病側への半球間抑制が弱くなり、そして病側の脳が活動性を増す。それと同時に集中的なリハビリを並行して行なうことで、運動能力が向上するという。たとえば指がガクガクしてあまり開かない人でも、リハビリ後には筋肉のつっぱりが取れたような状態になり、開くようになる。腕を回旋する動作も改善する。2008年から始められた「NEURO」は現在、全国8施設で施行されており、中にはこの手法が使えない人もいるが、効果が出る人ではQOL(生活の質)はかなり上がるという。
脳卒中は、読者の皆さんにとっても身近な疾患だろう。ある程度の年齢を超えた読者ならば、ごく身近な職場の同僚や親戚のなかに脳卒中で倒れた人が必ずいるはずだ。継続的に医療を受けている人だけで約150万人もいるという。脳卒中の急性期治療は、血栓溶解療法(t-PA療法)などの保険収載、画像診断や手術など、飛躍的な進歩を遂げている。だが問題は急性期から回復期、そして維持期へと移行していく中でのリハビリにある。脳卒中の患者や家族が聞いてくることは「歩けるようになるのか」、「手が使えるようになるのか」、「話せるようになるのか」の3つに絞られるという。だが脳卒中の予後を見ると、最初の90日の間にはリハビリなどの効果があるが、その後にはほとんど状態が良くならない。そのため今は座れるようになれば速やかに回復期担当の病院に転院して濃厚なリハビリを受けることが肝心だという。
だが、それでも3カ月、4カ月を超えてしまうと、リハビリを行なっても麻痺は良くならなくなってしまう。その結果、歩くことはできても、手が使えない人が非常に多いという現状が続いている。リハビリは現状維持のために行なわれているのが現実だが、本来の「治療を目的としたリハビリ医学の確立が重要だ」と安保氏は語る。脳卒中に対する今までの考え方を捨てて、2000年以降の進展目覚しい神経科学から単に方法論の裏付けをするのではなく、「神経科学の知見から神経リハビリテーションの方法論の創造」という新しい流れを作ることを目指すことが重要だと語り、「NEURO」を実際に行なった患者のビデオを示した。
このNEUROにも課題はあって、脳の半球間抑制を弱めるためにTMSを行なうのだが、もともと半球間抑制が少ない人もいて、そういう人には効果があまり出にくいそうだ。現在もどのような手法で磁気刺激を与えるのがいいのか探っている段階だという。生理学的にどのようなことが起きているのかも大変気になるところである。
NEUROの概要。経頭蓋磁気刺激と集中リハビリテーションを組み合わせる | rTMSをあてる例。過剰な働きを抑える | 健側の脳から病側の脳への半球間抑制を抑えることで病側の脳の活動をあげる |
●脳は道具を身体の一部として表象している 体性感覚と皮膚兎錯覚
山口大学 時間学研究所 宮崎真教授 |
山口大学時間学研究所の宮崎真教授は「身体知覚の時空間的適応性」と題して、経験に基づいた時間の知覚の最適化と、脳における道具の身体化について講演した。脳が身体における時間と空間をどのように扱っているかに関する研究だ。
人間には「時差順応」と呼ばれる、頻繁に入力された時差を同時と感じてしまう仕組みがある。これは光と音のように大気中での伝達速度や、神経の伝達速度の異なる現象を1つにまとめて「同時」と認識するためにあると考えられている。では左右の指先など、体を直接さわったときの時間感覚知覚だとどうなるか。この場合は、時差順応で埋める時差は最初からあまりない。宮崎氏らの研究によれば、体性感覚の時間順序判断は「ベイズ統合」というモデルで説明できることが分かった。人体は、経験に基づいて身体時間知覚を最適化しているという。
ただし時差順応の仕組みが使われていないわけではない。時差順応とベイズ統合は拮抗関係にある。視覚と聴覚のバインディングのように時差順応が大きく働いているとベイズ統合はキャンセルされて表に出ないのではないかという。
このほか宮崎氏は、「皮膚兎錯覚」と呼ばれる体性感覚刺激での錯覚が、身体を飛び越えて起こるという研究を紹介した。皮膚兎錯覚は、腕などの離れた2点をポンポンポンとあるタイミングで連続して刺激すると、本来触られた部分ではない部分に触覚が生じるというものだ。皮膚の上を兎がはねていくようだということで、皮膚兎と呼ばれている。もっともらしいタイミングで刺激が生じたと感じるように脳が刺激を再構成した結果だと考えられている。あとに起こった3つ目の刺激が、時間をさかのぼって2つ目の刺激の位置を変えているように思われるところが実に面白いところだ。
宮崎氏らの研究では、このような刺激が体を飛び越えても起こることが分かった。具体的には人差し指の上を板を渡し、板の上から指に刺激を与える。左の指に0.8秒感覚で2回、そのあとに右の指に刺激を加えると、2回目の刺激が指と指とのあいだの板の上で起きたように感じたというものだ。この研究をベースに、人の脳に特異的な道具の身体機序を明らかにしていきたいという。また使いやすい道具や義手などの開発にも繋がるとされている。
皮膚兎錯覚 | 手にしたスティックにも皮膚兎錯覚が起こる | 今後、身体の神経表象との関連を調べていく予定 |
●身体感覚を再学習させる知覚支援ロボットテクノロジー
早稲田大学高等研究所准教授 岩田浩康氏 |
最後に、早稲田大学高等研究所准教授の岩田浩康氏は「認知神経リハビリのためのバイオフィードバック型知覚支援RT」と題して、知覚支援ロボットテクノロジー研究のこれまでとこれからについて講演した。患者に気づきを与えながら身体感覚を再学習させる認知神経リハビリの新たなスキームを目指しているという。これまでに、麻痺した足底の感覚を、麻痺していない対側の背中などにフィードバックすることで、麻痺側への注意を喚起してリハビリ効率を上げるデバイスなどを開発している。このような「知覚支援RT(ロボットテクノロジー)」の設計論を導き出すことが研究目標だという。
このような知覚支援RTを岩田氏は「PARTY(パルティ、Perception-Assisting Robotics TechnologYの略)」と呼んでいる。ダメになった部分をバイパスさせることで、これまで分からなかった麻痺側の状態を知り、環境へ出力したあとのリアクションをもう一度受け取れるようになる。そのことから患者も不安が減って、本来の力を出させたりすることができるようになるという。これまでの研究からfNIRSなどで脳の状態を見ると、バイパス刺激を与えて1カ月後には麻痺側の脳の感覚部位が賦活されていることが分かっている。また興味深いことだが、一度装置をつけて訓練すると、装置を外した状態でも学習効果が残っているという。今後の研究成果に期待したい。
知覚支援RT「PARTY」。麻痺した足底の感覚を背中に伝える装置 | 知覚支援RTを使って刺激をバイパスしてやることで脳機能が再建できる | 麻痺した足にどのくらいの力をかけているかが分かるようになったことで不安が軽減され杖への依存度も減少 |