後藤弘茂のWeekly海外ニュース

【Google I/O現地レポート】音楽サービスとAndroidを家庭のハブに



●アップデートが満載のGoogle I/Oカンファレンス

 Googleは米サンフランシスコで開発者向けカンファレンス「Google I/O」を開催した。今回は、初日(5月10日)の基調講演がAndroid、2日目(5月11日)がChrome/Chrome OSと、Googleの2つのプラットフォームを2日に分けて説明した。

 初日の基調講演は、タブレット用のOSアップデート「Android 3.1」(Honeycomb)や、次期Android「Ice Cream Sandwich」について説明。クラウドベースの音楽サービスのベータ版「Music Beta」や、Androidによってさまざまな機器を制御する「Android Open Accessory」や、家庭の電気機器を制御する「Android@Home」イニシアチブを発表した。

 2日目は、Chrome OSを搭載したChromebookの正式発売が6月15日になることが発表された。これによって、GoogleはPCクラスのデバイスのOSでも、MicrosoftやAppleと対抗することになる。また、ChromeへのWebGLの実装などで、Webアプリケーションの幅が広がったことも示された。

●世界への展開も視野にいれた音楽サービス

 Googleの音楽サービスのベータ版「Music beta」は初日の基調講演の中で発表された。Music betaサービスは一言で表せばiTunesのクラウド版。ネット側に音楽データソースをユーザーがアップロードし、クライアント側のプレーヤーソフトでストリーミング再生する。プレーヤー上でプレイリストを作ることができるほか、自動的にプレイリストを生成させることもできる。


 クラウドベースであるため、ファイルを転送することなく、どの端末からも同じ自分のライブラリを利用できる。デバイスのストレージ容量を気にする必要もない。また、新しいAndroid機器を買った場合も、音楽データの転送をすることなく、すぐに自分のライブラリをプレイし始めることができる。また、例えば飛行機の中のようなオフラインの環境で聞きたい音楽も、端末側にキャッシュすることで、聞くことができる。

 Music betaは、Google I/Oの前にかなり噂になっていた。クラウドベースである点は、Amazonが始めたCloud Playerサービスと似通っている。基調講演後の質疑応答では、音楽サービスの合法性や音楽業界との関係への質問も出た。それに対してGoogleは「我々のサービスはクラウド上のユーザーのコレクションとなるため、完全に合法だ」と強調した。

 Google I/Oの基調講演では、iTunesのそれと似ているが、より立体的で洗練されたカバーフロー画面などがデモされた。また、コンピュータ上とAndroidデバイス上で同じカバーフローが動作する様子も示された。音楽は最大320kbpsまでがサポートされるという。


 ベータサービスであるMusic betaは、最大20,000曲までのライブラリ化が可能で、ベータ期間中は無料。クラウドのストレージ容量で魅力を出す戦略だ。ただし、当面は米国のみで、招待が必要となる。質疑応答では合法ならなぜ世界全体でサービスを開始しないのかという質問が出た。それに対して、Googleは「世界的に立ち上げるのは難しい。しかし、招待ベースで始めて、将来はもっと改善して行く」と展望を示した。

 Googleは音楽サービスのベータと同時に、映画レンタルサービスをスタートしたことも発表した。30日間の視聴が可能で料金は1本が1.99ドル。日本の感覚からは安いように見えるが、米国では映画ストリーミングサービスの価格破壊が進んでいる。例えば、大手のNetflixが月7.99ドルで見放題のサービスを提供している。


 基調講演では、こちらもオフライン環境で観たい映画を“ピン”しておくことで、バックグラウンドでダウンロードして置き、飛行機の中などで観ることができることが説明された。下のスライドで、映画の下にピンマークがあるが、これで端末側にダウンロードが可能になる。Xoomのほか、Android 2.2(Froyo)とAndroid 2.3(Gingerbread)のデバイスでも観ることができるようになる。


●Android OSのアップデートを18カ月間保証

 Android上に次々に新サービスと機能を増やして行くGoogle。そのため、Androidでは後方の互換性が大きな問題になっている。OSのアップデートがあまりに急速であるため、ユーザーの多くは、最新バージョンのAndroid OSがインストールされたデバイスを持っていない状態にある。そして、自分のAndroid機器を次期バージョンのAndroid OSにアップデートできるのかどうかが不鮮明な場合がある。そのため、Androidの世界では、OSバージョンの分断化が進んでいる。

 そこで、Googleはデバイスベンダーと提携し、OSのアップデートを保証できるようにした。基調講演では、Verizon、HTC、Samsung、Sprint、Sony Ericsson、LG、T-Mobile、Vodafone、Motorola、AT&Tのパートナー各社とGoogle自身が、アップデートを保証すると発表した。新しいAndroid機器は、ハードウェアが出てから18カ月は、ハードウェアスペックが許す限り最新OSへのアップデートが可能になるという。

 基調講演後のQAでは、現行のハードウェアで次期AndroidであるIce Cream Sandwichへのアップデートが可能になるのかという質問に対して、Googleは、それも考慮していると説明していた。

●Androidがさまざまな機器と連携可能になるAndroid Open Accessory

 Android基調講演の後半では、Androidの新しい展開として周辺機器や家庭の電気機器の制御、あるいは組み込み機器へのAndroidの搭載が説明された。これは4つの方向/段階に分かれる。

 (1)USBホスト機能を持つAndroid機器からのUSBデバイスの制御、(2)「Android Open Accessory」によるUSBホスト機能を持たないAndroid端末からのUSB機器の制御、(3)Androidによる家庭電気機器などの制御を行なう「Android@Home」、(4)Android OSを搭載したスマートフォンやタブレット以外の組み込み機器。
 Android 3.1(Honeycomb)からGoogleはUSBホストAPIを実装した。そのため、MotorolaのXoomのようにUSBホスト機能を持つ機器からは、USB周辺機器を接続できるようになった。しかし、実際には多くのAndroid機器がUSBデバイス機能しか搭載していない。USBはホスト-デバイスモデルでありピア・ツー・ピア型でないため、そうしたAndroid機器には、USBデバイスを接続できない。

 そこで、Googleは、Android Open Accessoryと呼ぶプロトコルを用意した。これは、Android機器に接続するアクセサリ側にUSBホスト機能を持たせて通信させる仕組みだ。アクセサリ側がUSBホストとなり、Android側がUSBデバイスとなり通信する。Open AccessoryはAndroid 3.1(Honeycomb)に提供されるほか、Android 2.3(Gingerbread)でも2.3.4でNexus oneやNexus Sなどに互換APIが提供される。


 アクセサリ側にはUSBホストコントローラが必要になるが、Googleは今回、これを簡単にテストできるリファレンスデザインキット「Accessory Development Kit」(ADK)を用意した。オープンソースのソフトウェアとハードウェアのセットで、ハードウェア部分の実態は、オープンソースの電子プロトタイプ制作プラットフォーム「Arduino」の基板だ。


 基調講演では、ADKを使った「迷路ボール」ゲームのデモが行なわれた。これは、Androidタブレットのセンサーで検知したタブレット傾きを迷路ボードの制御モーターに伝えて、現実の迷路を操作するゲーム。Google I/Oの会場では、これを超巨大化したバージョン「Labyrinth」が展示され、参加者が実際にプレイできるようになっていた。


●Androidで家庭の電気機器を制御する

 また、講演では、Android機器と外部機器の連携の例として、スマートフォンとエクササイズバイクの連携のデモが行なわれた。これは、バイクにAndroidスマートフォンをUSBで接続すると、バイクでの運動量に応じたゲームがプレイできるというもの。接続と同時にAndroidスマートフォンに、自動的に必要なアプリがダウンロードされる仕組みだ。


 このように、Googleは、Android機器に既存のUSB機器を接続するだけでなく、USBを使ってよりもっとデバイスを接続しようとしている。Android機器をコントローラにした、新しい機器の世界を創り出そうという試みだ。Googleは、Android Open Accessoryについて、オープンでライセンス料もなく、認証プロセスもないと説明しており、ベンダーが自由にアクセサリを開発できる。また、Googleは近い将来にはUSBだけでなく、Bluetoothでも接続できるようにするという。

 さらにGoogleは一歩踏み込んで、Androidで家庭のさまざまな電気機器を制御するビジョンAndroid@Homeを示した。基調講演では、部屋の照明を制御するデモが行なわれた。人間がスイッチで制御するほか、アプリと連動させて、例えば時間で制御したり、ゲームなどと連動させてフラッシュさせるといったこともできるという。また、温度センサーや時計などもAndroidと連動させることを考えているようだ。


 GoogleはAndroidを組み込んだホームメディアハブ「Project Tungsten」も公開した。これは、Music betaと連動して音楽を再生できるAndroid組み込み機器で、家中のどこでも音楽を同期させることができる。タブレットやスマートフォンではない、組み込み型の音楽機器だ。基調講演では、NFC(Near Field Communication)を使って、Android組み込み機器にCDをタッチするだけで、そのCDの音楽をクラウドから取ってきて流す様子をデモして見せた。


 Googleは、スマートフォンでの成功を足がかりに、Androidの世界をどんどん広げようとしている。多様な機器がAndroidに接続され、Androidのための新しい機器が開発され、Androidを内蔵した端末が登場する。Googleが描いているAndroidの世界は、そうした広大なビジョンに広がりつつある。