山口真弘の電子辞書最前線

シャープ「PW-GX300」

~英単語の発音を波形でチェックできる英語学習ツール

シャープ「PW-GX300」
1月25日 発売

価格:オープンプライス

 シャープの「PW-GX300」は、英語学習に特化したモバイル学習ツールだ。音声を中心とした英語学習のメソッド「ATR CALL」を搭載し、マイクで取り込んだ自分の英単語の発音をネイティブ音声と波形で比較する機能などにより、効果的な英語学習が行なえる。

 「受験Brain(PW-GX500)」に続くモバイル学習ツールの第2弾となる本製品は、センター試験コンテンツが中心であるがゆえに高校生向けに特化していた受験Brainとは異なり、英語学習が必要な全年齢のユーザー向けの製品である。カテゴリ的には電子辞書に分類されるが、実質的にはまったく異なるジャンルの製品と言える。

 今回はメーカーから試作機を借用することができたので、実際に試用してその特徴をチェックする。なお、市販される製品とは若干相違があるかも知れないことをあらかじめご了承いただきたい。

見た目は5型のカラータブレット。付属のイヤフォンマイクで音声入力が可能

 まずは外観と基本スペックから。

 液晶はタッチ対応で、サイズは5型。センター試験対応の受験Brainと同様、見た目は5型のカラー液晶タブレットである。解像度は480×320ドットと、このサイズの電子辞書としては一般的で、画面の左右には主要な操作を行なうためのタッチキーが付属する。文字入力が必要な場合は、画面上にソフトキーボードないしは手書きのパレットが表示される仕組みだ。

 タッチは静電容量式ではなく感圧式なので、昨今のスマートフォンやタブレットを使い慣れているとやや戸惑うが、慣れれば特に問題はなく、入力にあたってストレスも感じない。またタッチペンも使えることから、メニューの操作は指先、文字入力を中心とした細かい操作はペンといった具合に使い分けられる。タッチペンは本体上部にマグネットでくっつくギミックを採用しており、着脱しやすい。

製品本体。横向きの5型カラータブレットといった雰囲気。本体色はホワイト
画面の左右に操作ボタンが用意されている。なお視野角による色の変化はかなりある
iPhone 4S(右)との比較
左側のボタン。利用頻度が低めの操作ボタンが集められている
右側のボタン。ホームキーや戻る、決定、上下移動など利用頻度の高いボタンが並ぶ
タッチペンを分離させた状態。マグネットでパチンと上部にくっつく
クリップ部分をスライドさせるとペン先が露出する
タッチペンを外した位置にmicroSDスロットがある

 重量は約220g。リチウムイオン充電池で駆動し、150時間の連続利用が可能とされている。microSDスロットを搭載し、最大32GBまでをサポートする。ただ、センター試験対応の動画コンテンツをダウンロードする必要があった受験Brainとは異なり、大容量ストレージはあまり必要でない。現時点でmicroSDは、各種外国語の辞書カードを追加するのが主な用途ということになるだろう。ちなみに本体メモリは約700MBとなっている。

 付属の専用カバーを折り返せすことで、角度がついた状態でテーブルの上に置くことができる。本製品は移動中に電車の中で使うのではなく、おもに部屋で1人で使うシチュエーションが想定されるだけに、机上利用を前提としたこのギミックは正しい。

 音声関連の機能については、付属のイヤフォンマイクを使った入力に対応する。この音声入力機能は、次項で紹介する英語学習システム「ATR CALL」で多用することになる。もちろん出力にも対応していおり、イヤフォンのほか本体スピーカーで聴くこともできる。

本体上面。タッチペンが合体した状態
本体下面。特に端子類はない。これらの仕様は受験Brainと同様
左側面。イヤフォンジャック、ストラップホールを備える
右側面。音量調節キー、電源キー、Micro USBスロットを備える。電源ボタンは長押しが必要で、やや扱いにくい
背面。中央にスピーカーがある。乾電池ではなく充電池で駆動する
手帳風の専用ソフトカバーが付属。ガイドに沿って上から出し入れする
カバーはスタンドのように使うこともできる。あまり安定はしていないが、実用レベルではある
付属のイヤフォンマイクを使った入力に対応する

英単語の発音を波形レベルでネイティブと比較できる機能が秀逸

 さて、本製品の特徴はなんといっても、英語学習システム「ATR CALL for Brain(以下ATR CALL)」を搭載していることだ。これは音声を中心とした英語学習のメソッドで、従来の電子辞書はもちろん、この種のポータブルタイプの学習ツールにはない、いくつかの学習機能を備えている。

 代表的な機能としては、付属のマイクで英単語の発音を取り込み、それをネイティブの音声と比較できる機能が挙げられる。単に聴き比べるだけではなく、発音を波形で表示して比較でき、ネイティブスピーカーに比べて子音の発音が弱いとか、LとRの区別がついていないといった違いが、目視で理解できるのである。

「ATR CALL for Brain」の画面
まずは超初級/初級/中級/TOEICテスト入門のいずれかを選択
次いで課題を選択する。とくに順序通り進める必要はない。今回は2つ目の「発声練習」を選択
発声練習の画面。上段にはネイティブスピーカーの発音が、下段にはイヤフォンマイク経由で録音した自分の発音が表示され、どのくらい似ているかがスコアで表示される

 英語に限らず語学の学習では、シャドーイングやリピーティングと呼ばれる学習方法がある。シャドーイングは発音された単語を後から追いかけて実際に発声することで発音やイントネーションを学ぶ方法、リピーティングは少し長い文節を聞いたあとで発声することで文章単位でのリズムも含めて身に付ける方法だ。どちらも英語学習には効果的とされるが、誰かが採点するわけではないので、いくら真似をしていても自己流の癖が出てしまう可能性はある。

 この「ATR CALL」であれば、波形レベルでネイティブと異なる箇所をチェックできるので、シャドーイングやリピーティングに対応した英語学習アプリと異なり、客観的な採点が行なえるというわけだ。実際に試してみても、自覚のなかったおかしな発音が波形でばっちり分かって面白い。と同時に、これまで矯正されてこなかった癖があからさまに分かってしまうので、ややゾッとする。これまでほかの英語学習法がうまくいかなかった人にとっては、注目すべきツールだと言えるだろう。

 面白いのは、1人の話者のネイティブ音声に限らず、30名以上の話者のデータが収録されていることだ。もしこれが1人のネイティブスピーカーの音声しか収録されていなければ、その人個人の発音をコピーする形になってしまうわけだが、30人以上のサンプルがあることによって、限りなく標準化された発音をお手本とすることができるわけだ。

 また、これらの発音の正確さ、言うならば「ネイティブらしさ」はスコア化され、得点で表示できる仕組みになっている。カラオケの得点のようなもので、ゲーム的な要素を採用することで、飽きずに学習を続けられる仕組みになっている。ほかのユーザーオンラインでランキングを競うような機能こそないが、学習の履歴は記録されるので、飽きっぽい人にはとくにお勧めできる。

 ほかにも、タッチペンを使って手で書いて覚える機能や、リスニングによる判定クイズなどの機能を搭載しており、電子辞書はもちろんそれ以外の個人学習デバイスにまで枠を広げても、競合がないユニークなツールとなっている。1つの操作終了時や画面切り替え時にやたらと確認メッセージが出る点、また操作をキャンセルした際のレスポンスが遅い点は改善が必要だと思えるが、それを差し引いても十分に有用だ。前述の発音比較機能はイヤフォンマイクが必要なので販売店の店頭デモ機などで確かめられるかは分からないが、機会があればその仕組みを試してみることをお勧めしたい。

発音を聞いてタッチペンで単語の綴りを記入するレッスン。タッチが必要な回数が多く操作性は必ずしも洗練されていないが、書いて覚える試みとしては面白い
発音を聞き、正しい回答を選ぶレッスン。選択肢をタップする以外に発音で答えるレッスンもあり、そちらはうまく発音しないと回答したとみなされないなど、難易度も高い
発音を聞き、単語を並べ替える機能。このほかにもいくつかの学習機能がある
学習の履歴はいくつかの形式で記録される
学習履歴の記録機能の1つ、スタンプカード。その名の通り、学習が完了したらスタンプが押されるという仕組み。このほか一般的なグラフ形式での進捗表示もできる
TOEIC 750点クラスまでの単語をカバーしている。後述する「キクタン」も英検2級までのグレードとなっており、難易度的には初級~中級といったところ。個人的にはもうワンランク上、英検で言うと準1級クラスまでは欲しい気もする

ほぼ英語関連のコンテンツに特化。インターフェイスはアイコンを多用

 「ATR CALL」単体の紹介が先になったが、コンテンツ全般についてもざっとチェックしておこう。

 本製品の搭載コンテンツ数は40で、その内訳は英語関連が34、国語、百科事典、能力開発がそれぞれ2と、英語にフォーカスした構成になっている。ちなみに能力開発に分類されている2つも、それぞれ英検関連とTOEIC関連なので、あらゆる意味で英語漬けといったコンテンツ構成だ。

ホーム画面。「ATR CALL」がメインに、そのほかのコンテンツが下段に並ぶ
「英語検定」には、英検およびTOEIC関連のコンテンツが含まれる。ちなみにこの2つは英語関連コンテンツにはカウントされておらず能力開発コンテンツという位置付け
「新TOEICテスト完全攻略」。従来の同社電子辞書にも収録されていたアプリで、テスト本番を模した実力診断や模擬試験、パート別のトレーニングが可能

 ただこの40コンテンツには数え方のマジックがあって、英語関連の34のうち22は「OXFORD BOOKWORMSベストセラー厳選集」が占めており、「赤毛のアン」「オズの魔法使い」などの文学コンテンツを1つずつカウントした結果、22という数になっているのが実情だ。カタログやWebにはコンテンツの数え方について注釈がついてはいるが、個人的にこの数え方はあまり感心しない。他製品と比較する際は、電子辞書を選ぶ時の原則に立ち返って、コンテンツの「数」ではなく「中身」をチェックするよう心がけたい。

「OXFORD BOOKWORMSベストセラー厳選集」。要するに英語の文学全集だ
計22の作品を収録。この画面では「エレファントマン」「オペラ座の怪人」などが並んでいる
本文を表示した状態。読み上げ機能も使えるがネイティブではなくTTSであり、要するに純粋なテキストコンテンツである

 さて、電源を入れると表示されるホーム画面では、前述の「ATR CALL」のほか、「字幕リスニング」「辞書」「暗記ツール」などのメニューが表示され、ここで「辞書」をタップすると従来の辞書のホーム画面が起動する作りになっている。要するに起動してすぐに辞書が表示されるのではなく、上にもう1階層あるわけだ。電子辞書ではなくモバイル学習ツールとされるゆえんである。

辞書メニューはホーム画面の左下にアイコンが置かれているほか、独立したボタンとして画面外にも備わっている。それだけ利用頻度が高いという想定だろう
辞書コンテンツそのものはそれほど数が多くないこともあり、タブ切り替え式のメニューではなく一覧で表示される
辞書コンテンツの画面構成は従来の同社電子辞書のそれと同じ。文字入力はソフトキーボードを用いる。50音配列、QWERTY配列、手書き入力など複数の入力方法を切り替えられる

 ちなみにこのホーム画面は、アイコンを中心とした平易な表記になっている。本製品は社会人や受験生といった特定の層にターゲットを絞っているのではなく、英語学習を必要とする全てのユーザーを対象としているため、もっとも平易な表記が必要とされるユーザー、具体的には小学校高学年でも理解できるようにしてある。さすがに漢字はそのまま表示されているが、先の「ATR CALL」のように進行役としてアニメ調のキャラクターが表示されるなど、かなり親しみやすい作りになっている。

 そのため、社会人がこの本製品を使おうとすると、自分のような層を想定していない製品だと誤解する可能性がある。前知識なしで本製品に触れていれば、筆者もおそらくそう感じただろう。機能そのものに問題があるわけではなく、またキャラクターを使ったメニューはターゲット層によっては必ずしも悪くないと思えるだけに、複数のスキンを用意して切り替えられるようにするなど、なんらかの改善はほしいところだ。

そのほかのコンテンツも紹介しておこう。これは英検3級/準2級/2級向けの「キクタン」
キクタンの本文を表示したところ。覚えた単語にはチェックを入れることができる
赤シートや緑シートを使って、画面内の特定の文字色をマスクできる。センター試験モデルでも搭載されていた機能で、暗記ツールとして効果的だ
絵を見ながら英語音声を聞くことでリスニングの能力を鍛える「字幕リスニング機能」は、キクタンのほか「リトル・チャロ」を搭載する
表示は「絵とテキスト」「絵のみ」「テキストのみ」で切り替えられ、英語以外に日本語訳の表示も可能。テキストは読み上げの進捗に合わせて色が変わって表示されるので分かりやすい。ちなみに絵はフルアニメではなく静止画の紙芝居となる

専用デバイスとしての価値を持った製品

 今回のような製品を目にして真っ先に思うのが「スマートフォンやタブレットで代用できるんじゃないの」という疑問である。現在はタッチスクリーンを備えたポータブルデバイスが、スマートフォン、タブレット、ゲーム機、さらには電子書籍端末と全盛だ。こうした状況下では、デバイスはできれば統合したいというのが普通だろう。

 が、筆者は今回の製品には(初代の受験Brainもそうだが)肯定的な評価をしている。というのも、コンテンツの特性を考えると、どうしても専用のハードウェアが必要と思わせるだけのものがあるからだ。

 特に今回のPW-GX300は、発音を取り込んでネイティブ音声と比較する機能が目玉であり、これを市販の汎用タブレットで使えるようにユーザー側でチューニングするのはさすがに難しいと思える。もしネイティブ発音との比較でどう頑張ってもスコアが上がらない場合、自分の発音が悪いせいなのか、それとも機材のセッティングに問題があるためなのか、判断がつかないからだ。専用ハードウェアなら、こうした問題は排除できる。

 また現実問題として、同等のアプリは見かけないというのも理由の1つだ。もし本製品に搭載されているのと同等のアプリが存在したとしても、容量は下手をすると数GBクラスになり、価格もかなり効果になることが考えられる。そこに先のチューニングの問題も絡んでくるとなると、専用デバイスが最適解となるのは自然な流れだろう。発売時点では実売3万円台半ばとなるようだが、実際に使った限りでは十分に納得できる価格設定だ。

 気を付けたいのは、カテゴリ的には電子辞書に属する製品ながら、既存の電子辞書とはまったくの別物であることだ。本製品にも辞書機能は付属しており、画面構成や使用感は同社の電子辞書専用機とまったく同じなのだが、搭載されているのは利用頻度の高いコンテンツのみで、タッチ操作も慣れが必要だ。もちろん購入後は電子辞書機能をフルに活用すればいいのだが、新たに電子辞書を購入するつもりなのであれば、別枠で考えるべき製品であるということは、念頭に置いておいた方がよさそうだ。

【表】主な仕様
製品名PW-GX300
価格オープンプライス(店頭予想価格:35,000円前後)
ディスプレイ5型カラー
ドット数480×320ドット
電源リチウムイオン充電池、ACアダプタ
駆動時間約150時間
拡張機能microSD、ブレーンライブラリー
本体サイズ(突起部含む)151×99.6×10.5mm(幅×奥行き×高さ)
重量約220g(電池含む)
収録コンテンツ数40(コンテンツ一覧はこちら)

(山口 真弘)