山口真弘の電子辞書最前線

シャープ「受験Brain(PW-GX500)」
~代ゼミのセンター試験講座動画を収録した5型タブレット



「受験Brain(PW-GX500)」

8月8日 発売
価格:オープンプライス



 シャープの電子辞書「受験Brain(PW-GX500)」は、動画コンテンツや辞書などを搭載したタブレット型の学習ツールだ。代々木ゼミナールのセンター試験講座の動画を本体に収録しており、隙間時間を用いて視聴できるほか、普段は電子辞書や暗記ツールとしても利用できるという製品である。

 「受験Brain」という名称、さらにカタログなどに表示されている「モバイル学習ツール」という名が示すように、純粋な電子辞書ではなく、センター試験の受験を目的とした機能特化型モデルである。一方で従来の電子辞書にあったキーボードを廃してタッチ操作のみで辞書検索を行なう仕様になっており、電子辞書の進化形としても気になる存在である。

 今回はメーカーから試作機を借用することができたので、実際に試用してその特徴をチェックする。なお、市販される製品とは若干相違がある可能性があることを予めご了承いただきたい。

●見た目は5型カラータブレット。タッチ操作は感圧式

 まずは外観と基本スペックをチェックしておこう。

 見た目はずばり「左右にキーがついた5型カラータブレット」である。従来のクラムシェル型の電子辞書と違ってキーボード部がなく、操作はタッチスクリーンおよび画面左右のキーを用いて行なう。文字入力が必要な場合は、画面上にソフトキーボードないしは手書きのパレットが表示される仕組みだ。

製品本体。見た目は5型のタブレット画面の左右に操作ボタンが用意されている同じBrainシリーズのPW-A9200(右)との比較
iPhone 4S(右)との比較文字入力時はソフトキーボードが表示される左側のボタン。利用頻度が低めの操作ボタンが集められている
右側のボタン。HOMEキーや戻る、決定、上下移動など利用頻度が高いボタンが並ぶ暗記ツールなど一部のコンテンツは縦向きでの利用にも対応する。センサーではなく手動で回転させる方式

 タッチ操作は指先でも可能だが、静電容量式ではなく感圧式なので軽く触れただけでは反応せず、また細かいメニューにピンポイントで触れるのが難しいため、基本的には付属のタッチペンを使うことになる。

 このタッチペンは、本体上面にマグネットでくっつく仕様になっている。本体側面から抜き差しするタイプのペンに比べて着脱がすばやく行なえる上、径が太いため握り心地も良好だ。悪くないギミックだ。

タッチペンを分離させた状態。マグネットでパチンとくっつくクリップ部分をスライドさせると先端が露出するタッチペンを外した位置にmicroSDスロットがある

 本体色はブラックで、ややゴツゴツした印象。重量は約220gで、ほぼ同じサイズの液晶(5.3型)を持つGALAXY Noteが約184gなので、本体サイズが一回り大きいことを考えると密度的にはほぼ同等といってよい。実際に手で持っても、見た目相応の重さという印象だ。

本体上面。タッチペンが合体した状態本体下面。特に端子類はない左側面。イヤフォンジャック、ストラップホールを備える
右側面。音量調節キー、電源キー、microUSBスロットを備える背面。中央にスピーカーがある。乾電池ではなく充電池で駆動する

 PCを経由してダウンロードした動画コンテンツを転送する仕様であるため、本体のメモリ容量は1GBとそこそこ大きい。同じBrainシリーズのビジネスマン向けモデル「PW-A9200」の本体メモリ容量が約150MBであるのに比べると、いかに潤沢かが分かる。これに加えてmicroSDカードを追加して容量を増やすこともできる。

 リチウムイオン充電池で駆動し、microUSBケーブルから付属のAC変換アダプタ経由で充電を行なう。PCなどのUSBコネクタでの充電もサポートしているが、試した限りでは充電速度は速いとはいえないので、あくまでも非常用であり、原則としてAC変換アダプタ経由での充電となるだろう。なおフル充電の状態で150時間の連続利用が可能とされているが、これは電子辞書としての利用が前提の数値であり、動画再生時はこれよりも短くなる。詳しくは後述する。

 添付のケースはホワイトで、カバーを後ろに折りたたんだスタイルはかつての同社の「ザウルス」を彷彿とさせる。カバーを後方に折りたたむとスタンドになるとされているが、iPadのスマートカバーのようにかっちりとした角度で固定できるわけではなく、やや不安定なのは気になる。

ホワイトのカバーが付属するカバーを後ろに折りたたむことで手に持って使用できるスタンドのように使うこともできるが、やや不安定

●センター試験対策の講義動画を収録。動画再生機能はごく一般的

 センター試験対策の講義動画を再生する学習ツールということで、動画再生に必要な仕様および機能について見ていこう。

 動画のフォーマットは、従来のBrainシリーズでも採用されているmobiclip形式を採用している。本体内に収録されているのは、代々木ゼミナールの「センター試験標準講座」15講座のうち英語(文法・語法)、数I・A、古文の3講座で、残る12講座は専用サイトであるBrainライブラリーから必要に応じてダウンロード(有料)し、PC経由で転送して利用する。価格の妥当性については後ほど考察する。

代々木ゼミナールの「センター試験標準講座」15講座のうち英語(文法・語法)、数I・A、古文の3講座を収録する残りの12コンテンツはBrainライブラリーからダウンロードして利用する。1講座5,000円で、標準講座につづく「センター試験完成講座」も発売予定とされている

再生中の様子。この画像ではタイトルバーやメニューバーを表示しているが、全画面表示も可能。なお1.5倍速、2.0倍速での再生にも対応するが、音程が変わってしまうためあまり実用的ではない

 再生のメニューはごく一般的なメディアプレーヤーのそれと同じで、再生/停止、一時停止、早送りや巻戻し、頭出し、シークバーによる再生位置移動といったインターフェイスを備える。機能的に大きな不足は感じないが、コンテンツの性格上、気になる位置にマーカーをつけておく機能はあってもよかったかもしれない。

 多少気になるのはレジューム機能で、再生を一時停止した状態でスリープさせると解除後も続きから再生できるのだが、いったんホーム画面に戻ってしまうと最初からの再生になってしまう。もちろんシークバーをタップするなどして目的の位置を呼び出すことはできるのだが、過去に再生履歴のあるコンテンツは再生開始時に最初/続きのどちらかを尋ねるくらいの仕組みはほしいと感じた。

 これら動画コンテンツの音声については、本体裏面のスピーカー、もしくはイヤフォンで聞くことになる。音量の大小キーについては本体右側面に搭載されている。利用頻度を考えるとソフトウェアではなく物理的なキーを選んだのは正解だろう。感触だけだと電源ボタンと間違えやすいのが、ややネックといえばネックだ。

 スピーカーは背面にレイアウトされているのだが、本体を机上に直接置くと塞がれて聞こえづらくなるので、前述のカバーを使って若干背面が浮くように置くとよい。なお液晶は左右および上方向に比べて下方向だけ視野角が狭いため、机上に置いて動画を観ようとすると色が反転した状態になってしまう。これらの仕様から、真上を向く状態で机上にセットして動画を鑑賞するのは困難だ。カバーはやや不安定で使いづらいので、個人的には改善して欲しい。

上下左右から画面を見たところ。下方向から見上げるアングルのみ、液晶の色変化が激しく実用的でないことが分かるスタンドなしで机上に置き、下方向から見上げる角度で見ようとするとこのような状態になるので、上部を持ち上げてやる必要がある。付属のカバーは不安定で角度調整もしづらいので、個人で置き方を工夫したほうがよさそうだ

 動画の再生時間については、ループ状態のまま放置してみたところ、およそ6時間再生したところで再生が停止した。前述した150時間という駆動時間はあくまでも辞書として使用した場合の数値であり、動画連続再生時の6時間という実測値とはかなりのギャップがあるが、このクラスのタブレットとして見た場合はそれほど違和感はなく、隙間時間を利用して視聴するには特に問題はないだろう。再生が停止してももうしばらくの間は辞書機能などが使えるほか、いざという時はUSB給電も可能なので、とくに問題はないというのが個人的な所感だ。

 なお、外部出力機能は搭載していない。外部出力が可能であれば講義をTVの大画面で再生するといったことが可能なはずだが、ライセンス的にも難しいであろうことは容易に想像がつくし、そもそも動画の解像度からしても難しいだろう。

●カラーシートを用いた暗記ツールを収録

 動画まわりについてチェックしたところで、その他のコンテンツ、および全体的なメニュー構成などを見ていこう。

 電源をオンすると表示されるホーム画面には、前述の学習動画のほか、暗記ツール、辞書、アクセサリといったメニューが並ぶ。同社の従来のクラムシェル型の電子辞書と同じく、辞書を選択するメニューがすぐに呼び出されるのではなく、辞書も含めた複数のコンテンツが並列に並んでおり、具体的な辞書コンテンツは1つ下の階層に配置される形だ。

 学習動画以外で面白いのが暗記ツールだ。「英単語ターゲット1900」、「漢字ターゲット1700」などの暗記系のコンテンツ5つが収録されているのだが、赤および緑色のカラーシートを重ねることにより、語句の暗記チェックが行なえるようになっている。赤のシートを表示すると赤文字の箇所が見えなくなり、緑色のシートを重ねると緑文字の箇所が見えなくなるという学生おなじみの学習方法を、画面上で切り替えて再現できるのだ。

 従来もマーカー機能を使えば暗記学習を行なうことはできたが、直感的にはこちらのカラーシートのほうが分かりやすいだろう。いかにも学生向けといったルックスは好き嫌いがわかれそうだが、個人的には社会人向けの辞書、例えばTOEIC系のコンテンツにも採用してほしいと感じる。

カラフルなホーム画面。アイコンの大きさからも、学習動画と暗記ツールが本製品の機能の柱であることが分かる暗記ツール。「英単語ターゲット1900」など5種類のコンテンツが収録されている「英単語ターゲット1900」のメイン画面
赤色のカラーシートを表示すると、赤字で書かれた日本語訳が見えない状態になる緑色のカラーシートを表示すると、緑字で書かれた英単語が見えない状態になる手で書かなければ覚えられないという人のために、タッチペンで書き取りをする機能も用意されている

●電子辞書はタッチ操作による独特の使い勝手に注意

 辞書コンテンツの総数は51となっているが、これはセンター試験標準講座の動画およびテキストも含めた数なので、それを差し引いたコンテンツ数は36となる。内訳はさきの暗記ツール5つのほかに、センター試験関連が7つ、TOEICや漢検、数検などの資格検定関連が6つ、英和/和英辞典やブリタニカ、スーパー大辞林などの基礎学習関連が18となっており、高校生の学習用途に特化したコンテンツ編成になっている。

辞書メニュー。従来の同社電子辞書とはやや異なるルックスで、上段に主なコンテンツのアイコン、下段には履歴が並ぶ下部のタブをタップすると、「国語」、「英・数」、「理・社」といったカテゴリ別にコンテンツが表示される。こちらは従来の同社電子辞書のメニュー表示形式を踏襲している各コンテンツの検索画面および検索結果の画面は従来と同じ。ただし文字入力の際はソフトキーボードや手書き画面などを表示する必要があり、やや窮屈
文字サイズ変更や単語帳登録などの機能を使う際は、画面右側の「機能」ボタンを押してコンテクストメニューを表示する。従来とは異なる操作方法だが、慣れると分かりやすいセンター試験に特化したコンテンツ群が並ぶ漢検やTOEICなど、資格試験向けのアプリもいくつか用意されている
手書き暗記メモやフォトスライド、電卓などのアクセサリも用意される

 操作性については、すべての操作をタッチで行なうことから、従来の同社電子辞書の画面とほぼ同じデザインながら、使い慣れるまではかなり苦労する。具体的には、文字入力の際に表示されるソフトキーボードやコンテクストメニューを表示する機能キーが従来の画面の上にポップアップするので、表示領域が狭くなったように感じられてしまうのだ。従来機種から買い替えた場合、違和感を感じることは多そうだ。

●動画学習プレーヤーとしては合格点。辞書利用は判断が分かれる

 以上、目についた問題点をいろいろと列挙したが、動画学習を前提としたプレーヤーとしては悪くないと感じる。というのも、動画はいったん再生をスタートしてしまえば一時停止や音量調整くらいしか行なわないので、細かい操作性のアラはあまり目立たないからだ。これが辞書のようにキー操作を繰り返し行なうのであれば、現状の操作性ではやや厳しいと感じるが、こと動画再生機能が中心であれば、許容範囲ではないかと思う。

goo動画の「代ゼミTVネット」では同じコンテンツが別の料金体系で提供されている

 それ以上に、こうしたコンテンツをいつでもどこでも隙間時間に観られるという点で本製品は極めて小回りが利く上、価格的にもリーズナブルで、視聴条件も悪くない。というのも、本製品に収録されているのと同じ3講座×各10回を「代ゼミTVネット」で視聴すると5回ごとに30日間という視聴期間が定められており、総受講料は3講座トータルで31,500円(税込)となる。これに対して本製品は視聴期間ではなく再生時間の上限(各100時間)が設定されている。1講座が計10時間なので、それぞれ10回は通して観られる計算だ。

 つまり30日という短期間に繰り返して観るか、それともトータル100時間という制限つきで期限を定められずに観るかの違いだが、個人的には期限を超えなければ1年後でも観られる本製品の方が復習には適しているように思う。さらに本製品は現時点ですでに実売価格が3万円を切りつつあるので価格的にもメリットもあり、また有料でダウンロードできるセンター試験標準講座については視聴時間の制限がない。これに暗記ツールや辞書機能もついてくるとなれば、本製品を選ぶのは悪くない判断だと思えるのだが、いかがだろうか。

 ただしこれは、上記は本体収録の3講座がすべて要るという前提での試算なので、不要な講座があれば差し引く必要はある。持ち歩いて隙間の時間に観ることよりも、PCで観られることにメリットを見出す人もいるだろう(筆者が調べきれていないだけで、ほかの視聴コースもあるかもしれない)。また、有料コンテンツをダウンロードできるのがWindows PCのみであることも、環境によってはネックになる可能性もある。

 またこうした問題とは別に、画面が1つしかないという物理的な制限から、講座を観ながら辞書を引くといった使い方ができないので、本格的に辞書機能を使うのであれば、本製品はセンター試験対策の動画再生機と割り切り、別にもう1台電子辞書を買った方が合理的なように感じなくもない。機能そのものを否定するわけではないが、オールインワンであるがゆえに使い方が限定されることは、注意したほうがいいだろう。

●電子辞書はタッチ操作特化の方向に向かうのか

 最後に、本製品を「電子辞書の発展形」として見た場合の評価をまとめておこう。

 昨今はタッチ操作と物理キーボードの両方のインターフェイスを備える電子辞書が多いが、どちらか一方だけで満足に使える製品は少ない。文字入力はキーボードから行なうが項目選択はタッチ操作の方が便利だが、決定キーだけはついつい物理キーを使ってしまうといった具合に、行ったり来たりになることもしばしばだ。よく言えば便利な方を選んで使える、悪く言えば統一されていないというのが、ここ何年かの電子辞書のインターフェイスを取り巻く状況だ。

 その点、キーボードを廃してタッチ操作に特化した本製品は、電子辞書の未来像として1つの方向性を提示したものではあるが、やや大胆に省略しすぎたきらいはある。というのも、物理キーがない以前に、すべてのインターフェイスを画面内に突っ込みすぎたため、窮屈な感が否めないからだ。

 中にはコンテクストメニューを表示する機能キーのように、使い込んでいくとむしろ従来よりも便利だと思えるインターフェイスもあるが、画面上にポップアップするソフトキーボードをはじめ、本来の表示スペースが隠されていて見づらいと感じることの方が多い。コストなどの問題はさておき、画面サイズおよび解像度をもう1段階引き上げるか、あるいはクラムシェル型は維持したまま2画面液晶にするのも1つの方法かもしれない。これであれば、画面を見やすい角度に立てて使うこともできるからだ。

 また、外見がタブレットに似たことで、スマートフォンやタブレットで主流の静電容量式ではなく感圧式であることについて、これまで以上に違和感を感じるようになった。もちろんペン操作である限り感圧式になるのは分かるし、もし静電容量式にするならば指先での操作を前提に現行のメニューを一から作り直さなければいけないので、それはそれで冒険だろう。しかしながら静電容量式の方がさらに普及し、違和感を感じるユーザーが増えてくれば、検討すべき課題であることは間違いない。難しいところだ。

 今回はあくまで動画学習ツールとしての登場だったが、将来的にメインストリームの電子辞書にフィードバックされた際、どのような形をとるのが理想なのか、その姿はまだ見えてこない。現状ではまだ従来のインターフェイスにつぎはぎをしたような状態なので、ひとまず次のモデルでブラッシュアップされた姿が見られることを期待したい。

【表】主な仕様
製品名PW-GX500
メーカー希望小売価格オープンプライス
ディスプレイ5型カラー
ドット数480×320ドット
電源リチウムイオン充電池、ACアダプタ
使用時間約150時間
拡張機能microSD、ブレーンライブラリー
本体サイズ(突起部含む)151.0×99.6×10.5mm(幅×奥行き×高さ)
重量約220g(電池含む)
収録コンテンツ数51(コンテンツ一覧はこちら)