山口真弘の電子辞書最前線

新型「EX-word」全機種にカラー液晶を搭載した狙い




 カシオ計算機の電子辞書「EX-word(エクスワード)」の新ラインナップが16日に発表された。今回発表された新ラインナップでは、すべてのモデルがカラー液晶を採用していることが大きな特徴だ。

 カラー液晶を搭載した電子辞書は、同社のライバルであるシャープが先行しており、同社としては初の投入になる。これまでモノクロモデルに取り組んできた同社がカラー液晶モデルを投入するに至ったきっかけ、そして意図はどこにあるのか。カシオ計算機 羽村技術センターコンシューマ事業部第二開発部商品企画室室長・大島淳氏に話を聞いた。

●独自のカラー液晶「Blanview液晶」で乾電池による長時間駆動を実現

 電子辞書のシェアトップを走るカシオ計算機では、長らくモノクロモデルを柱にすえ、カラー液晶モデルの投入を見送ってきた。

 その理由は、カラー液晶の搭載は駆動時間や重量とトレードオフになり、電子辞書本来の利便性を損なうと考えてきたからだ。競合他社のような多機能化および付加価値の追加に目を向けず、電子辞書本来の機能を追求してきた同社にとって、それは当然の判断だった。

 今回カラー液晶の投入に至ったのは、まさにそれらトレードオフとなる要因の払拭に目処が立ったからだと、大島氏は語る(以下、「」の発言は大島氏)。

 「カラー液晶をやろうと決めたいちばんのきっかけは、乾電池での長時間駆動に目処が立ったことです。技術的には、乾電池でも長寿命を実現できるカラー液晶を開発できたことが一番大きな要因です」とカラー液晶モデル開発のきっかけを語る。

 同社は電子辞書の第1号機以来、乾電池駆動を貫いてきた。これは外出先で電池が切れた際の入手性を重要視しているからに他ならない。それゆえに、今回のカラー液晶モデルの開発にあたっても、乾電池での駆動が可能なカラー液晶パネルを開発するところからスタートした。

 その結果誕生したのが、今回のラインナップに搭載されるBlanview(ブランビュー)液晶だ。これは白の発色に優れ、従来の透過型カラーTFT液晶と比べてバックライトの消費電力を抑えた、同社独自の液晶パネルである。業務用としては2年ほど前にすでに市場に出ているが、今回初めて乾電池駆動に対応したことで、電子辞書への搭載が可能になった。

 「量産化の目処が立ったため、電子辞書に採用しましょうということになりました。本体の大きさも損なうこともなく、完成度の高い製品に仕上がったと自負しています」。

 従来モデルの単4電池×2から単3電池×2に変更されたため、普通に考えると本体重量が増してもおかしくはないが、設計を見直した結果、本モデルは従来製品とほぼ変わらない重量およびサイズを実現しているというから驚きだ。もちろん堅牢性についても、従来製品と変わらないという。

 しかも、カラー液晶パネルの搭載にも関わらず、電池寿命は従来モデルの約130時間から約150時間に伸びている。これは「単4から単3に変えたことによる副産物」とのこと。電子辞書を日々持ち歩くユーザにとっては、うれしい進化だと言えるだろう。

カシオ計算機 大島淳氏新ラインナップの1つ、XD-A6500(手前)。カラー液晶を搭載し、かつ単4から単3電池に変更されたにも関わらず、外見上は従来製品(奥)とほぼ変わらない

●画面左端のソフトアイコンにより、さらに使い勝手を向上

 カラー液晶の搭載と並行して、電子辞書本来の機能についても大幅にパワーアップしているのが、新ラインナップの特徴だ。

 その一例として「ソフトアイコン」が挙げられる。これは画面の左側、縦1例にわたって表示される操作メニューを指す。

 「使い勝手の面でも、さらなる使いやすさを追求しましょう、電子辞書の本質を見失わないように追求していきましょうということで、クイックパレットに加えて左側にソフトアイコンという機能を設けました。ソフト的に表示していますので、必要なときに必要な機能が表示されるようになっています」。

 従来モデルでも、画面の右側にクイックパレットという操作メニューが設けられ、ペンもしくは指先でタッチ操作を行なうことができた。しかし、表示内容が固定されているため「お年寄りを中心に使いにくいという声が寄せられていた」こともあり、今回のソフトパレットではコンテンツの内容に合わせて切り替わる、動的なメニュー体系に改められた。

 「例えば広辞苑であれば『50音キー』『手書き大』というキーが表示されます。50音キーを押すと50音のソフトキーボードが表示されるので、ローマ字入力が苦手な方でも入力が容易になります」。

 読めない漢字をメイン画面に手書きで入力できる「手書き大」機能については、従来モデルでは「漢語林」でしか利用できなかったが、今回は対応コンテンツも拡大され、「広辞苑」などでも利用できるようになった。これらの進化について、大島氏は「タッチパネルのポテンシャルをやっと引き出せるようになってきたと実感している」と語る。

画面左端に新たに追加された「ソフトアイコン」。横方向のドット数が増えているため、コンテンツ表示部分は従来の解像度を維持している「手書き大」キーを押すと、読み方が分からない漢字をタッチペンで検索できるウィンドウが表示される。従来は漢語林でのみ利用可能だったが、今回は広辞苑でも利用可能

 また、このソフトアイコンを用いた新しい機能に「ミニ辞書」がある。これは、コンテンツを開いたまま小さな画面を開き、語句の意味を手軽に調べることができる機能だ。例えば選んだ語句が日本語なら明鏡国語辞典、英語ならジーニアス英和辞典がそれぞれ起動し、すばやく意味を調べることができる。

 「これまでもジャンプ機能を使えば語句を調べることはできましたが、元の画面を残さずに全部切り替わってしまうため、前の文章がわからなくなってしまっていました。今回のミニ辞書では、元の画面を残しつつ、漢字や英単語の意味をちょっと知りたいという場合に、小窓を出して調べることができます」。

 カラー液晶ならではの機能も多数追加された。中でもカラー付箋機能やマーカー機能は、学習用途を想定した機能である。

 「学校現場を廻っている中で、紙辞書派の先生が多くいらっしゃいます。紙の辞書と同じようにマーカーを引いたり書き込みをしたいという要望に応えるため、これらの機能を搭載しました」。

 また、ノート機能もユニークだ。これは表示されている画面をキャプチャして、そこに注釈などを書き込んでしまう機能である。大島氏はカラー付箋機能やマーカー機能も含め「辞書に書き込みができる機能をフル活用していただきたいと思います」と語る。

ミニ辞書機能を使えば、元の画面を残したまま、漢字の読みや英単語の意味をすばやく検索できる。英単語の意味を調べながら世界文学作品を読む際に重宝するノート機能は、パレットに「ノート」というボタンが出ていればコンテンツを問わずいつでも利用することができる

●カラー対応コンテンツのほか、文学作品の収録数も大幅に増加

 カラー液晶の搭載に伴い、コンテンツも大幅に進化している。

 共通コンテンツとしては、「ビジュアル大世界史」、さらに「日本語コロケーション辞典」が新たに搭載されている。前者にはカラー図版が約4,000点収録されており、カラー液晶ならではのコンテンツといった体裁だ。

 また、従来モデルに搭載されていたコンテンツについても、図版のカラー化が推し進められている。例えば「ブリタニカ国際大百科事典」では、約9,400点のカラー写真やイラスト、図版が収録されている。このほか広辞苑第六版やデジタル大辞泉についても、それぞれ図版のカラー化が行なわれている。

 一部の機種では、レシピ系のコンテンツも新たに搭載されている。「今日の夕ごはん365日」、「きれい食ダイエット」がそれだ。これらもカラー化の恩恵を受けたコンテンツだと言えるだろう。

 このほか、1つ前の世代のモデルから標準搭載となった文学作品についても、収録数が大幅に増えている。新ラインナップに採用されているBlanview液晶は白の発色に優れていることから、従来のモデルに比べ、白地の書籍を読む感覚にさらに近づいたと言える。

 「従来は日本文学のみ100作品を搭載していましたが、今回それらを300作品に増やしたほか、さらに海外文学100作品を追加しました。英語の文学についてもブックスタイルで表示ができますし、センサーで振ってページをめくることもできます。いまは電子ブック、Kindleが話題になってきていますので、そういった要素も取り入れようという意図です」。

 これらの文学作品コンテンツは、電車の移動中など、余った時間を活用するために使われるケースが非常に多いとのことだが、同社では今回搭載されたミニ辞書機能と効果的に組み合わせ、英語学習にも役立ててもらうことを期待している。

カラー図版を豊富に搭載する。ノート機能を使って注釈を書き込むことも可能材料からの検索も可能なレシピコンテンツを搭載。カラー液晶により「料理のレシピも美味しそうに見えますよ」

●ラインナップを再編成し、コンテンツの内容による差別化を打ち出す

 今回のカラー液晶モデルの投入に合わせて、同社の電子辞書のラインナップは大きく再編成される。これまでは画面サイズの違いによって、5.5型の「XD-GFシリーズ」と5.0型の「XD-SFシリーズ」の2つのシリーズが存在したが、新モデルの投入を機に5.0型の「XD-Aシリーズ」に一本化される。

 また総合モデルについては「コンテンツ数の違いだけでなかなかモデルごとの特色が出せていなかった」という反省をもとに、「プロフェッショナル」「ビジネス」「趣味」「生活・総合」という4ジャンルに大きく名称をくくり直している。例えばビジネスモデル「XD-A8500」では、社会人が使うことを想定して資格試験がらみのコンテンツを多数搭載するといった具合に、コンテンツの数ではなく、内容による差別化が図られている。

 また、外国語に分類されていた英語モデルを大学生モデルに位置づけたほか、中高生モデルも中学生、高校生にそれぞれ型番を分けるなど、ユーザセグメントごとに商品を投入していくという方向性が徹底されている。さらにターゲット層に合ったカラーバリエーション展開も、積極的に推し進めていく方向だ。

 2010年1月下旬から市場に投入されるこの新ラインナップ。従来よりも早いタイミングで報道発表を行なったのも、新ラインナップに対する同社の自信の表れとみてよいだろう。「とにかくカラー液晶を1度店頭で観てほしい」と語る大島氏の言葉に、その自信の一端を垣間見た気がした。

新ラインナップの本体色は定番である白のほか、レッド、ピンク、フラッシュピンクなど豊富。「同じ女性でも高校生と20代30代の女性では(色の)嗜好が違います。そこに明確にターゲットを当てて商品を作っています」。メニュー画面。白が鮮やかなことがBlanview液晶の特色だ。暗所での視認性も高い