カシオ計算機が、電子辞書「EX-word(エクスワード)」の新製品として、「XD-SF6200」など4機種を23日から順次発売する。 今回の新製品は、EX-wordの製品コンセプトである、学習を支援するため、またビジネスを支援するための電子辞書として、正常進化を遂げたものだ。 その正常進化の意味とはなにか。そして、どんな想いをこの新製品に込めたのか。新EX-wordの開発に携わったカシオ計算機羽村技術センター開発本部コンシューマ統轄部第二開発部商品企画室リーダー・大島淳氏に新製品の狙いを聞いた。 ●辞書としての基本姿勢を守る
カシオ計算機は、'99年に電子辞書を発売して以来、学習支援およびビジネス支援のためツールというコンセプトを貫いてきた。 競合他社が、カラー液晶やワンセグ機能を搭載し差別化を図る一方で、EX-wordは、新製品でもモノクロ液晶を採用し、ワンセグ機能などの付加機能の搭載を見送った。 「商品企画の段階では、当然、カラー液晶の検討は行なう。ワンセグ機能の搭載もしかり。だが、学習支援やビジネス支援として活用する電子辞書の役割を追求する上で、本当に必要な機能なのかどうか。例えば、カラー液晶の場合、カラーを使って何かをしなければならないというものがない。カラー化によるコストの増大、消費電力の増加というトレードオフとなる要素を考えれば、カラー液晶の搭載は、EX-wordには必要がない。今回の新製品でも、カラー液晶搭載に関する検討については、早い段階で見送ることを決定した」と、大島リーダーは語る。 EX-wordは、第1号機から乾電池を採用している。海外での出張、旅行などに持ち運んだ際にも、アダプターを持っていく手間よりも、世界中どこででも手に入る乾電池で駆動させた方が利便性が高いと判断したからだ。そのコンセプトを維持するためにも、現在のカラー液晶の消費電力は現実的ではないといえる。 「技術トレンドはキャッチアップしている。だが、それを商品に採用するかどうかは別の問題。実用品として、いかに利用してもらえるか。これを機軸に進化を遂げたのが、今回の新製品」と大島リーダーが言うように、EX-wordの正常進化の考え方が、カラー液晶の搭載を見送る決断につながったともいえる。 2005年以降、ネイティブ発音の音声再生機能にMP3を採用せずに、TRUE VOICE機能を採用し続けているのも、TRUE VOICEが音声再生に最適化しているという理由に加え、MP3による音楽再生利用など、他の用途への広がりを制限するという意味もあるという。 「辞書機能は、携帯電話や携帯型ゲーム機などにも広がりを見せている。異業種製品との競合を考えた上でも、いまこそ、学習支援、ビジネス支援の辞書機能に特化したモノづくりが求められる」というのも頷ける。 EX-wordが第1号製品の投入時から掲げた開発コンセプトに、あくまでもこだわり抜いたのが今回の新製品ということになる。 ●ペン操作を改善した「クイックパレット」
その新EX-wordでは、大きく2つの進化を果たしている。 1つは、クイックパレット機能の採用である。 2008年モデルから採用したツインタッチパネルは、EX-wordならではの機能だ。 キーボード下に配置された手書き入力用の小型液晶パネルに加えて、メイン液晶にもタッチパネルを採用し、そこからもペン入力できるようにした。 だが、従来モデルでは、ジャンプボタンを押し、用語を選択し、ジャンプ先辞書を選んで、決定を押すまでに、キーボード部とメイン液晶部とを行ったり来たり、さらにペンでのタッチと、指でのタッチを交互に繰り返す操作となっていた。 「ツインタッチによる操作性の完成度という意味では、反省する部分。ユーザーからも、操作の煩雑性について指摘を得ていた」という。 これを2009年モデルではメイン液晶の右側部分に、新たにクイックパレットと呼ばれるアイコンを用意。メイン液晶部だけで、しかも、ペンでタッチするだけで、こうした操作を完結できるようにした。 「上は上、下は下。上はペンで操作し、下は指でのキーボード操作やボタンを操作を中心とした。操作のたびに上下を行き来しないように改良したことで、例えば、コンテンツ間のジャンプや、ネイティブ発音の音声再生は、すべて上のメイン液晶部だけで操作できる」 これにより、操作のために指やペンを移動する距離が大幅に短くなり、操作性を大幅に向上させることに成功したのだ。 しかも、クイックパネルは、従来のメイン液晶パネル部の大きさを変えずに付け足した。 「ドットを変えて見づらくすることはなんとしても避けたかった。同じ液晶パネルのサイズを維持しながら、クイックパレットを搭載する工夫を凝らした」 従来モデルに比べると、クイックパレットの分だけ、液晶部が、キーボードに対してやや左にずれる形になるが、「気にならない程度のもの」と同社では考えている。 ●アクションセンサー内蔵でテキストリーダーとしても機能向上
もう1つの新たな機能が、アクションセンサー機能だ。 加速度センターを搭載。EX-wordを上下、左右に振ることで、新たな操作性を実現したのだ。 そのなかでも、注目したいのが、「ブックスタイル表示」だ。 EX-wordを縦位置に傾けると、ブックスタイルによる縦書き表示に自動的に切り替わるのだ。対応しているコンテンツはXD-SF6200では、古典11作品、現代小説6作品、現代詩10作品、短歌31首が用意されている「朗読国語名作集」や、百人一首。さらには、7,000タイトルが無料で提供されている青空文庫などのテキストファイルにも対応している。 従来モデルに比べて2.2mm薄くなった最薄部19.7mm、15g軽量化した280gのスリム軽量ボディは、サイズ的にも、ちょうど文庫本を読む感覚で片手で操作ができるのだ。
「辞書と文芸は相性がいいと考えていた。わからない文字があったら、辞書機能を使って調べることもできる。文芸作品を縦書きで読むことができるブックスタイルの実現に際しては、ボタンを押して切り替えするという案もでたが、アクションセンサーを使った方が操作を煩雑にしないで済み、不慣れな人でも簡単に使える。どの角度で傾ければ、スムーズに画面が切り替わるか、何度も試行錯誤を繰り返しながら、自然に切り替わるようにした」という。 朗読機能を持つ朗読国語名作集は、上部に音声再生のためのアイコンが用意されていることから、1文字24ドット表示の文字サイズ「中」の場合で1行17字詰めの縦書きとなっているが、青空文庫などをテキストビューワで閲覧する場合は、文字サイズ「大」(24ドット)で1行19字詰めでの縦書き表示が可能となっている。なお、百人一首では、文字サイズ「中」(24ドット)で1行18字となっている。 ブックスタイルでのページ送りは、アクションセンサーを利用し、左右に傾けて行なえるほか、右手だけで持ったときに、親指の位置に来るクイックパレットによる操作、さらには、メイン液晶部を指でスライドすることでも操作できる。 「クイックパレットによるページ送りボタンの位置にも配慮した。ここでも試行錯誤を繰り替えしながら、最も操作しやすい位置にボタンを配置した」という。 日本では、電子ブックが事実上、消滅し、携帯電話やゲーム専用機に、その役割が移行している。EX-wordに縦書き表示機能がついたことで、いよいよ電子辞書がポスト電子ブックの市場に参入してきたともいえる。 「電子ブックを使いたいというユーザーは確実にいる。そうしたユーザーに対して、文芸と相性がいい電子辞書からも、回答を提示することができた」と、大島リーダーは語る。 そのほか、アクションセンサー機能では、本体を相手側に傾ければ、相手に外国語会話文を見せながら音声を聞いてもらえたり、英単語の暗記カード機能でも左右に傾ければ、次の単語に項目送りができるようにした。
「加速度センサーの機能を簡単に理解してもらえるという点では、ゲームなどでの利用が手っ取り早い。しかし、それではEX-wordのコンセプトから外れる。学習支援、ビジネス支援のためのツールとして、加速度センサーをどう利用できるかを徹底的に考えた結果の機能だけを搭載した」と、ここでも正常進化の上での機能であることを強調する。 電子辞書市場において、トップシェアを誇っているカシオ計算機。EX-wordが高い評価を得続けているのは、ブレない開発コンセプトに対する信頼感と安心感によるものなのかもしれない。 今回の新製品に対する姿勢を見て、それを強く感じた。
□カシオ計算機のホームページ (2009年1月14日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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