山口真弘の電子辞書最前線

第36回 セイコーインスツル「SR-G7001M」
名刺データを取り込んで持ち歩けるコンパクトモデル



製品本体。いわゆるコンパクトモデルと呼ばれるサイズ。カラーバリエーション展開はない

11月末 発売
価格:オープンプライス



 セイコーインスツル株式会社(SII)の「SR-G7001M」は、英語を中心に24コンテンツを搭載したコンパクトタイプの電子辞書だ。USBで接続したPCから検索が行なえるPASORAMA機能を搭載するほか、名刺データを取り込んで持ち歩ける「名刺ビューアー機能」を備えたユニークな製品である。

 昨今の電子辞書、中でも各社のフラッグシップモデルにおいては、どのような付加価値を添付するかが1つのポイントになっている。シャープ製品であればコンテンツダウンロード機能やワンセグ機能、カシオ製品ではアクションセンサー搭載によるブックスタイル表示、そして今回取り上げるSIIの製品であればPCからコンテンツの検索ができるPASORAMA機能といった具合である。

 本製品では、コンパクトモデルとしては初めてPASORAMA機能を搭載するほか、PC側で管理している名刺データを取り込んで持ち歩ける「名刺ビューアー機能」を搭載している。電子辞書としては他に類を見ない機能であり、名刺をやりとりする機会の多いビジネスマンにとってはどんな使い勝手なのか気になるところ。電子辞書そのものの機能との相性も含めて、製品の使い勝手を見ていこう。

 なお、今回はメーカーより借用した先行量産品をベースに評価を行しているため、実際の製品とは一部仕様が異なる可能性があることをお断りしておく。なお、価格はオープンプライスだが、実勢価格は38,000円前後になる見込みだ。

●ワイシャツポケットにも収まるコンパクトサイズ。給電方法は多彩

 まずはSR-G7001Mの外観と基本スペックをおさらいする。

 筐体色はブラック。外観は従来モデル「SR-G7000M」と大きな変更はない。ただし表面は従来モデルのようなヘアライン加工ではなく、ピアノ調の光沢のある質感に改められた。高級感はあるが、指紋の付着がやや気になる。

 本体サイズはいわゆるコンパクトモデルと呼ばれる大きさであり、従来のPASORAMAモデルである「SR-G9001」や「SR-G10001」に比べると2回りほど小さい。ワイシャツのポケットにも充分に収まる大きさである。重量も約152gと軽量だ。

 画面サイズは4型ながら、解像度はVGA(640×480ドット)に対応している。コンパクトモデルとしては競合にあたるシャープの「PW-AM700」の480×240ドットに比べると圧倒的に高精細だ。視野角もかなり広いが、バックライトは搭載していないため、暗所で使うのは厳しい。

 キーボードは「カイテキーミニ」と呼ばれる新開発のキーボードが搭載されており、電子辞書をはじめとするガジェットのキーボードとしては出色の打鍵感を実現している。詳しくは後述する。なお、タッチ操作や手書き入力には対応しない。

 電源は充電式リチウムイオン電池、ACアダプタ、USB給電の3通り。従来モデルは充電式リチウムイオン電池のみだったので、新たに2つの給電方法がサポートされたことになる。特にUSB給電が可能な点については、PCと共用するユーザにとってはメリットが大きいだろう。使用時間は約25時間となっている。

 コンテンツ追加およびデータ保存用にSDカードスロットを備える。他社の電子辞書ではSDカードからmicroSDへの移行が進みつつあるが、同社の電子辞書は引き続きSDカードをサポートしており、従来のコンテンツカード(シルカカード)を引き続き利用できる。なお、SDカードの容量は最大2GBまでという制限があるので注意したい。

上蓋を閉じたところ左側面にはUSBポートのほか、拡張カードであるシルカカードを追加可能なSDカードスロットを備える右側面にはイヤフォンジャックと、再生一時停止/ボリュームUP・DOWNキーを備える
スーツの胸ポケットにもすっぽりと収まるサイズ電源キーは他のキーと同じ色で目立ちにくいリチウムイオン電池を交換する際はネジでカバーを取り外す必要がある
PASORAMA搭載モデル「SR-G9001」(右)との比較。ちなみに本製品はコンパクトモデルとしては初のPASORAMA対応シャープのコンパクトモデル「PW-AM700」(右)との比較
上蓋の後部にゴム足がついている。上蓋をあけるとここが接地する昨今の電子辞書では珍しくなったSDカードスロットを装備

●圧倒的に使いやすい、新開発のキーボード「カイテキーミニ」

 新開発のキーボード「カイテキーミニ」について触れておこう。同社の電子辞書で採用されている「カイテキー」ことパンタグラフ式のキーは、同社の電子辞書が支持される1つの要因だ。しかし、これが搭載されるのは標準モデルのみで、コンパクトタイプのモデルについては他社と同じボタン型のキーが搭載されており、それほど打鍵感がよいとは言えなかった。

 本製品では新たに「カイテキーミニ」という機構を採用することにより、このサイズのガジェットにはない快適な打鍵感を実現させている。構造的にはカイテキーのパンタグラフ構造に近いのだが、押し下げる際にキーの手前部分だけが沈み込む、ピアノの鍵盤に近い独特の機構である。ストロークの深さといい面積の広さといい、これが実に押しやすい。従来機種のユーザは、たとえ後述する名刺ビューアー機能を使わないにせよ、このキーボードを使うためだけに本製品に買い替えてもいいと思える。それくらい違う。

 キーボードについてマイナス点があるとすれば、ファンクションキーや上下左右キーが他と色分けされておらず、見分けがつきにくいことだろうか。同時発表の下位モデル「SR-G6001M」では色分けされているだけに、せめて電源キーは色分けをしてほしかったところだ。

 また、「決定/訳」キーが他のキーと同じサイズで間違えやすいのも気になる。利用頻度の高いキーだけに、手前のスピーカー部分を削除して、「決定/訳」キーと「戻る/クリア」キーを大きくするという方法もあったのではないだろうか。打鍵感では文句のつけようがないだけに、こうした細かい点についても改良を期待したい。

新開発の「カイテキーミニ」を搭載。きちんとストロークがあり、なおかつキーのどの位置を押してもちゃんと反応するというのは、このサイズのキーボードでは出色の出来。なお配列については「Q」「A」「Z」がタテにきっちり揃ってしまう仕様のため、実際に使ってみると多少違和感があるキーボード手前中央部にスピーカーを備える。決定/訳キーと戻る/クリアキーは他のキーとサイズが同じで判別しにくいファンクションキーは2列。上下幅はかなり広い

●コンテンツ数は24。PASORAMA機能によりPCからも利用可能

 続いてメニューとコンテンツについて見ていこう。

 コンテンツ数は24。英和/和英系で6コンテンツ、英英系で4コンテンツと、従来モデル「SR-G7000M」同様に英語関連が充実していることが特徴だ。また、後述のPASORAMA機能での利用を見越し、「英文ビジネスeメール実例集 Ver2.0」と「文例でわかる もっとうまいeメールの書き方」といった文例集コンテンツが追加されているのが目を引く。全体的にはビジネスマン向けのラインナップといえる。なお、SR-G10001やSR-G9001に搭載されていた広辞苑第六版は、本製品では搭載されていない。

 これらのコンテンツの多くはPASORAMA機能により、PCからも利用できる。PASORAMA機能とは、SR-G9001のレビューでも紹介しているが、USBケーブルでPCと接続することにより、電子辞書のコンテンツをPCから検索したり、例文などのコピーが行なえるという便利な機能だ。PCのキーボードを使っての検索語句入力、PCの広い画面での表示、さらにPC側のアプリケーションと連携できる点など、メリットは多い。

メニューは一般的な横向きのタブ方式英語コンテンツが充実していることが特徴
ビジネス向けコンテンツも多い。従来モデルからは文例集が追加されたのが目立つテキストビューアー、MP3プレーヤー機能も搭載

 本製品に搭載されるPASORAMA機能では、ブリタニカ国際大百科事典に含まれる図版のカラー表示に対応したほか、デジタル大辞泉の説明文中のURLをクリックすることでブラウザで関連ページを開けたり、またクリップボードにコピーした文字列の検索が行なえるなど、従来のPASORAMAにない機能がいくつも追加されている。カラー表示などはまだまだ数も少なく、あくまでマイナーバージョンアップという感が強いが、使い勝手を重視した進化の方向性は評価できる。

日本語キーワード文例検索では、日本語から英語の例文が検索される。これは「せかい」「かわる」の2語が日本語訳に含まれる英文を検索したところブリタニカ国際大百科事典は約9,600枚の図版を収録。これは「モールディング」の項
PASORAMAを用いてPCからもコンテンツを利用可能さきほどと同じブリタニカ国際大百科事典の「モールディング」の項を、PASORAMA機能を用いてPCで表示したところ。一部の図版ではカラー表示に対応
特定の文字列をドラッグで反転させ、ダブルクリックするとその項目を検索することができる
デジタル大辞泉の一部の項目は参考URLが表示されている。ダブルクリックするとブラウザでそのページが開く

 ちなみに本製品は、英語例文がおよそ90万個、日本語例文がおよそ81万個と、多数の例文が搭載されており、検索方法にも「日本語キーワード例文検索」なる機能が用意されている。これは例えば「せかい&かわる」と入力すると、日本語訳に「世界」「変わる(活用形を含む)」の2単語を含む英文を表示してくれる機能だ。英文メールや論文などを書く人にとっては、複数辞書一括検索機能とならび、便利に使えるはずだ。

文字サイズは最大5段階で可変する。高解像度であるため、他社に比べると小さい側に寄っている
行間を空けた表示や罫線表示にも対応
プレビュー表示は下・右の切り替えが可能

●PCから名刺データをインポートして、本製品単体で持ち歩きが可能

 さて、本製品の注目機能は、なんといっても名刺ビューアー機能だろう。PCで管理している名刺データをインポートし、本製品に取り込んで持ち歩ける機能である。

 PCにおける名刺データの管理には、メディアドライブ製の「やさしく名刺ファイリング PRO v.9.0」を使用する。このソフトで管理している名刺データを独自のデータベースファイル(.biz形式)に出力し、USBケーブルで本製品に転送すれば、本製品の画面上で名刺データが参照できるようになるというものだ。製品ページやリリースの説明だけではいまいち概要が把握しにくいが、本製品がスキャナ機能を備えているわけではなく、またPC側で使用する名刺管理ソフトも(無料体験版も含めて)バンドルされていないので、誤解のないようにしたい。

メディアドライブ社製の「やさしく名刺ファイリング PRO v.9.0」。本製品とは別売で、同社のホームページから30日の無料体験版をダウンロードできる。すでにファイルとして取り込まれている名刺画像を読み込むことも可能だ「エクスポート」→「SII電子辞書ファイルを出力」から独自のデータベースファイル(.biz形式)に出力する
出力したbiz形式のファイルを電子辞書のデータ領域にUSBケーブルで転送すれば、電子辞書の画面上で参照できるようになるデータにはパスワードをかけることができるが、英字のみで数字には対応しないという、やや変則的な仕様だ

 電子辞書に転送された名刺データは、メニュー画面の「名刺データ」というタブから参照することができる。PCの画面上で見る場合と同様に、上ペインにテキスト情報、下ペインに画像が表示される。言うまでもないが、本製品はモノクロ液晶なので、PC側でカラーで表示されている名刺画像も、本製品ではすべてモノクロで表示される。

 本製品で名刺を管理するメリットは、可搬性と検索性の高さだろう。辞書機能で語句を検索するのと同じ要領で、氏名や社名、住所など、さまざまな条件で検索が行なえる。なにせフルキーボードがついているわけで、操作性についてはPCと比べても遜色ない。そこに可搬性の高さが加わるとなると、大量の名刺データを管理する人にとっては、魅力的な機能だろう。

 もっとも、連絡先を参照するだけであれば携帯電話でこと足りるし、テキストによる検索が不要であればiPhoneなどのデバイスで撮影して画像ファイルとして持ち歩く方法もある。PCからエクスポートした名刺データベースを持ち歩く方法としては秀逸だが、連絡先を管理するポータブルデバイスとしての優位性はそれほど高くない。電子辞書を持ち歩く習慣が先にあってはじめて役立つ機能、という位置づけになるだろう。

 また、検索機能については、電子辞書の検索ロジックを流用していることから、一般的なアドレス帳とは使い勝手が異なるので要注意だ。例えば、氏名欄に「あ」と入力すると、「あ」が含まれる氏名ではなく、「あ」以降の氏名、つまり五十音全てのレコードが表示されてしまう。そのため、例えば「すずき」さんと探そうとして「す」を入力して該当レコードがなかった場合、五十音でそのあとに続くレコード、例えば「たなか」さんや「やまだ」さんがヒットしてしまい面食らうといった具合だ。

 こうしたロジックについて、説明書の「名刺ビューアー」のページにはまったく説明がないこともあり、理解しにくかった。もっとも、説明があればよいというものではなく、使い勝手の側を改めるのが正しいアプローチだろう。PASORAMA機能が登場してすぐの頃もそうだったが、まずは機能ありきで、使い勝手の面はまだまだこれからといった印象が強い。

 ちなみに、名刺データの保存件数の上限は6,000件。iPhoneの名刺管理アプリの口コミなどを見ていると、1,000件レベルでは少ないという声も見かけるので、この件数については多くのユーザーが満足するところだと言えそうだ。

名刺ビューアー機能のトップ画面。氏名もしくはキーワードでの検索が可能。電子辞書側からデータを編集することはできない検索条件に合致したレコードがリスト表示された状態。下部にテキスト情報が表示されている名刺データの表示画面。上部にテキストデータ、下部に名刺画像が表示される。ちなみにタテ型の名刺の場合は横いっぱいに広がって表示されるなど、やや難がある

●データメンテナンスが不完全でも支障なく使える名刺管理機能が欲しい

 筆者個人の話で恐縮だが、過去数年の名刺データについてはすべて画像ファイルとして管理をしている。テキスト化しない理由は、名刺管理ソフトのOCRの精度の低さ、それに伴うデータ修正の面倒さ、さらに日々刻々と変動する個人の連絡先や肩書のメンテナンスにいちいち時間をかけていられないからだ。

 本製品の名刺ビューアー機能は、名刺管理ソフト側でそれらのメンテナンスが完全に行なわれていることを前提にしており、実際それが完全であれば、便利なツールであることは間違いない。氏名やキーワードでの検索性の高さは(使い勝手はともかく)他のデバイスと比較しても上の部類に入るだろうし、可搬性も高い。携帯電話などと違って、名刺の画像をそのまま入れておけるメリットもある。ましてや本製品はVGAという高い解像度を誇っており、モノクロといえど視認性は高いことから、屋外での参照にも支障はない。

 ただ、データメンテナンスが不完全な状態での融通の利かなさは、どうしても気になってしまう。具体例を挙げると、社名が1文字違っただけで別の会社としてみなされてしまい、検索に引っかからなくなるといった類の問題だ。どちらかというと名刺管理ソフトの側の問題だが、データメンテナンスが不完全でも支障なく使えるモード、例えば画像だけをペラペラめくって探せるモードが実装されていれば、もっと手軽に利用できると思う。機能がいくら優れていても、ユーザーが次第に使わなくなってしまうのは、メーカーにとってもユーザにとっても不幸なことだ。

 また、それとも関連するが、説明書レベルで使い方が分かりにくいのは気になった。普段から同社の電子辞書に慣れているユーザーであれば、USBケーブルでPCにつないでリムーバブルディスクとして認識させて、といった前段階の操作手順は苦にならないかもしれないが、新規ユーザーにとっては未体験の操作であり、名刺ビューアー機能を利用する前に挫折しかねない。名刺ビューアー機能でこの製品に興味を持ったユーザのためにも、例えば本機能単体のチュートリアルを添付するといった、手引きの部分を強化してほしいと感じた。

 ともあれ、英語コンテンツの専門性の高さや多彩な検索方法、さらにキーボードの打鍵感は秀逸であり、PASORAMA機能も着実に進化しつつあるなど、見るべき箇所は多い製品だ。名刺ビューアー機能についても、データをしっかりメンテナンスして使うぶんにはメリットが大きく、電子辞書を日々持ち運ぶという習慣があれば、ビジネスシーンにおいて強力なパートナーとなってくれるだろう。実売想定価格が、ほかのPASORAMA搭載製品に比べて安価であることから、同時発表の下位モデルSR-G6001Mとともに、PASORAMAを安く使いたいというユーザにもおすすめしたい。

【表】主な仕様

製品名 SR-G7001M
メーカー希望小売価格オープンプライス
ディスプレイ4.0型モノクロ
ドット数640×480ドット
電源充電式リチウムイオン電池、ACアダプター、USB
使用時間約25時間
拡張機能SDカード、PASORAMA機能
本体サイズ(突起部含む)116.2×78.2×19.5mm(幅×奥行き×高さ)
重量約152g(リチウムイオン充電池含む)
収録コンテンツ数24(コンテンツ一覧はこちら)