井上繁樹の最新通信機器事情

ASUS「RT-N56U」

~全部入りな11n倍速&1Gbps有線対応な高速モデル

発売中

価格:13,000円前後

 日本でASUSと言えばPCパーツやPC、タブレット端末などがよく知られているが、この度無線LANルーターを投入してきた。オンラインストレージ機能を搭載した2.4GHz、5GHz両対応の無線LANルーターで、無線LAN部分は11n倍速モード対応で接続速度は最大300Mbps、有線LAN部分は1Gbps対応だ。VPNサーバーやプリントサーバーとしても使えるなど、いわゆる全部入り系の製品である。

概要

 ASUSのRT-N56Uは無線LANの接続速度が最大300Mbps、有線LANの接続速度が最大1Gbpsの無線LANルーターだ。無線LAN部分が利用できる周波数帯は2.4GHzと5GHzで、対応している規格はIEEE 802.11a/b/g/n。接続速度はどちらも最大300Mbps(11n倍速モード時)。有線LAN部分はGigabit Ethernetに対応しており、接続速度は最大1Gbpsだ。

縦置き用スタンドを装着して正面右上から。左下にロゴ。右側の側面にはポート類が集中する
背面から。不定形な形状であることがよく分かる。シリアル番号、MACアドレス、PINコードが記載されたシールが貼られている
正面から見て右側の側面。左からUSB2.0ポート×2、RESETボタン、1Gbps対応有線LANポート×4、1Gbps対応WANポート、ACコネクタ
縦置き時天面となる側面は排気のためのスリットで覆われている
縦置き時左側面にはWPSボタンがある
縦置き時底面になる側面にはスタンドを固定するための穴が2つある
同梱物一覧。本体、縦置きスタンド、ACアダプタ、LANケーブル、マニュアル、添付CD-ROM
接続後ブラウザでページを開くと初期設定画面へリダイレクトされる
最初は管理画面のパスワード設定。この後無線LANの暗号化キー設定へと続く。SSIDと暗号化キーは2.4GHz帯と5GHz帯で同じものに設定可能
ルーターというよりBIOSのような管理画面トップ。LANやUSBへの接続状態がわかりやすいデザインだ

 USBポートを2つ搭載しており、USBストレージ(FAT16/32、NTFS、Ext2/3形式に対応)を接続してNASとして使えるほか、プリンタを接続してプリントサーバーとしても使える。また、インターネット経由でアクセスできるオンラインストレージ機能や、インターネット経由でLANにアクセスできるVPNサーバー機能を搭載しており、自宅のPCやストレージを出先からアクセス可能にしてくれる。

 大きさは172×145×60mm(幅×奥行き×高さ)で重量は330g。形状は鋭角的かつ不定形で、同梱の縦置き用スタンドも同じく鋭角的であり、文字通り尖ったデザインとなっている。縦置き時には正面、横置き時に天面となる部分は平らではなく、市松模様を45度傾けたような凹凸のある立体的な加工が施されている。

ベンチマーク

 速度の測定は2.4GHz帯の11n倍速モードと5GHz帯の11n倍速モード(どちらも接続速度は300Mbps)、そして1Gbpsの有線LANについて行なった。測定方法は1台のPC(サーバー)のストレージに対して、もう1台のPC(クライアント)からLAN経由でアクセスしてその転送速度を計るもの。接続方式は、サーバーは常時1Gbpsの有線LANで、クライアントは測定する目的に応じて切り替えた。なお、クライアントは無線LAN子機としてエレコムの「WDC-867U3」をUSB 3.0で接続して使用した。

 測定に使用したソフトはCrystalDiskMark3.0とWindows同梱のFTPコマンド、vsftpd(FTPサーバー)の3種類。測定環境は鉄筋コンクリートのマンションの1室で距離は5m以内。近隣には2.4GHz帯のユーザーが複数確認できたが、5GHz帯ユーザーは確認できなかった。

 まず、CrystalDiskMarkによる測定だが、サーバーの共有フォルダをクライアントのネットワークドライブとしてマウントして行なった。結果はサーバーのOSがWindows 8 Proの場合、2.4GHz帯の11n倍速モードが104~167Mbps、5GHz帯の11n倍速モードが174~195Mbps、1Gbpsの有線LANが557~873Mbpsだった。なお、サーバーのOSをUbuntu 13.04 に切り替えた場合、2.4GHz帯は189Mbps、5GHz帯は215Mbps、有線LANは953Mbpsが最高速度だった。

【表1】CrystalDiskMarkによる速度測定結果(Windows 8 Proの共有フォルダ、単位:Mbps)
規格11n 2.4GHz11n 5GHz1000BASE
接続速度300Mbps300Mbps1Gbps
リード:SSD153.8179.9608.0
リード:RAMDISK166.5195.4873.3
ライト:SSD115.9173.6557.0
ライト:RAMDISK103.7192.9845.5
【表2】CrystalDiskMarkによる速度測定結果(Ubuntu 13.04の共有フォルダ、単位:Mbps)
規格11n 2.4GHz11n 5GHz1000BASE
接続速度300Mbps300Mbps1Gbps
リード:SSD114.9134.7612.8
リード:RAMDISK117.9132.6613.4
ライト:SSD141.5180.0464.5
ライト:RAMDISK189.0214.9952.8
5GHz帯11n倍速モード時のベンチマーク結果

 次に、FTPによる速度の測定だが、Ubuntu 13.04で起動したサーバー上のvsftpdに、クライアントからWindowsのFTPコマンドで接続してgetとputを交互に5回繰り返しそのログを採用した。結果は2.4GHz帯の11n倍速モードが81~176Mbps、5GHz帯の11n倍速モードが150~217Mbps、1Gbpsの有線LANが607~941Mbpsだった。

【表3】FTPによる2.4GHz帯11n-300Mbps速度測定結果(Ubuntu 13.04上のvsftpd、単位:Mbps)

Test1Test2Test3Test4Test5
リード(get):SSD158.2161.2161.5156.1149.0
リード(get):RAMDISK158.2162.1144.8146.8146.6
ライト(put):SSD93.884.480.7175.0175.6
ライト(put):RAMDISK94.694.294.994.690.0
【表4】FTPによる5GHz帯11n-300Mbps速度測定結果(Ubuntu 13.04上のvsftpd、単位:Mbps)

Test1Test2Test3Test4Test5
リード(get):SSD188.3168.5168.2192.8149.8
リード(get):RAMDISK169.7195.3163.8163.1173.1
ライト(put):SSD216.5212.4212.1217.0215.9
ライト(put):RAMDISK215.8214.5215.9216.1217.2
【表5】FTPによる1Gbps有線LANの速度測定結果(Ubuntu 13.04上のvsftpd、単位:Mbps)

Test1Test2Test3Test4Test5
リード(get):SSD892.9823.5693.7872.1798.2
リード(get):RAMDISK927.7609.9824.3607.3807.3
ライト(put):SSD940.9939.9937.8933.7932.7
ライト(put):RAMDISK938.9940.9941.9933.7929.7

 CrystalDiskMark、FTPの両結果を総合すると、2.4GHz帯倍速モードでは最大190Mbps近く、5GHz帯倍速モードでは約217Mbps、1Gbpsの有線LANでは約941Mbps出ており、11n倍速モード対応の無線LANルーターとしては高速な製品であることが分かる。

LAN ー WAN相互接続機能

 RT-N56Uに接続したUSBストレージはインターネット経由でLANの外からもアクセスできる。1つが「AiDisk」と呼ばれる機能で、RT-N56U上で起動したFTPサーバーを使うためのものだ。もう1つが「AiCloud」と呼ばれる機能で、PCであればブラウザUIで、AndroidやiOSなどスマートフォンであればアプリを使ってファイルアクセスやリモートからのPC起動ができる。こちらはVPNをより簡単なUIでラップしたものの様だ。

USBポートを使用する機能一覧。ここでは「AiCloud」を使って接続したUSBストレージにインターネット経由で外部からアクセスする手順を紹介
ストレージの選択画面。ここではUSB 3.0対応のUSBメモリを使った(RT-N56UはUSB 2.0対応)
インストールは使用するストレージに行なわれる。Linux系のシステムでよく見かけるファイルがインストールされていることがログから分かる
インストール完了後利用開始
AiCloudにPCからアクセスしたところ。「share」は著者が作成したフォルダで、「asusware」はインストールされたファイルの保存場所だ
UIの言語表示は日本語に変更できる。GUIはWindows 8のModern UIに似ている。ファイル閲覧とアップロード、ダウンロードができる
音楽ファイルの再生もできる。プレイリストの作成もできるので、回線が安定している場所であれば、本格的な利用もできそうだ
iOSアプリでLAN内のRT-N56Uに接続したところ
さらにUSBストレージに接続してmp3ファイルを保存した音楽ファイルを表示したところ

 どちらもLANの外からインターネット経由でアクセスするためにダイナミックDNSとの併用が前提となる。対応しているダイナミックDNSサービスは「www.asus.com」「www.dyndns.org」「www.tzo.com」「www.zoneedit.com」「www.dnsomatic.com」「www.tunnelbroker.net」「www.no-ip.com」の7種類。ダイナミックDNSは現在新規で無料で利用できるものは見当たらないので、無料で5~10GB利用可能なオンラインストレージと比べると割高感があるが、使用する回線次第で速度・容量・転送量は非常に充実したものになる。

 なお、FTPサーバーもVPNサーバーも「AiDisk」や「AiCloud」を使わず利用可能だ。VPNサーバーはPPTPのみ対応で、IPSecを始めとした他の規格については、LAN内にVPNサーバーを別途設置してパススルー機能を活用する。

その他の機能について

 ここまでで紹介していない主な機能として、NAS機能とセキュリティ系の機能、それからサーバー公開やNATの制約を越えた通信を行なうための機能や、BitTorrent形式に対応したファイルダウンロード機能、DLNA対応クライアントに動画や音楽、写真ファイルを配信できるメディアサーバーやiTunesサーバーがある。

管理画面でアカウントと共有フォルダを作成して読み書きできるように設定したところ
NASのストレージとして使用する場合、ルートフォルダに各種ファイルが保存される。このためかパスワードを設定するとルートにはアクセスできない
画面を開いた時点からのトラフィックをグラフ表示する「トラフィックモニター」。監視に使う場合は別タブや別ウィンドウで開くのがおすすめだ
ファイアウォール設定画面。ユーザーはオンにするだけで細かな設定は要らない
ダウンロードマネージャ。混雑時に威力を発揮するBittorrentを始めとしたP2P系の規格に対応している
メディアサーバーを有効にしたところ。iTunesサーバーと同じアプリで設定する
起動したメディアサーバーをPS3のクロスメディアバーから見たところ。アイコン画像として本体のものが使用されている

 まずNAS機能についてだが、接続したUSBストレージをLAN内で共有するための機能で、パスワードの設定も可能だ。パスワードを設定しない場合はルートフォルダ以下まるごと、パスワードを設定した場合はルートフォルダに作成されたサブフォルダ以下にアクセスできる。

 NAS機能でパスワードを設定した場合は、管理画面にログインするのに使うアカウントか、別途作成したアカウントを使ってログインする。作成できるアカウントは16。作成されたアカウント情報は接続したストレージのルートフォルダにアンダースコア「_」で始まるファイルとして保存されているだけなので、PC等に繋げばパスワードを入力することなくファイルやフォルダにアクセスできる。

 セキュリティ系の機能としては、細かな設定をすることなくオンにするだけで利用できるファイアウォールと、URLやキーワードによるフィルターがある。また、ほかにもLANからWANへのアクセスの遮断に特化したフィルターを搭載している。サーバー公開やNATを越えた通信を行なうための機能としては、「仮想サーバー」(ポートフォワーディング)、ポートトリガー、DMZ、それから前の項目でも紹介したダイナミックDNSといったお馴染みの機能を搭載している。

 ダウンロード機能はWebやFTPはもちろん、BitTorrentを始めとしたP2P系の規格に対応しており、時間のかかるファイルのダウンロードをRT-N56Uに任せておくことができる。メディアサーバーはRT-N56UをDLNAサーバー化する機能だ。iTunesサーバーも兼ねており必要に応じてオンオフできる。ダウンロード機能もメディアサーバー機能も接続したUSBストレージにインストールされる。この点はほかの「USBアプリケーション」と同じだ。

まとめと感想

 RT-N56UはIEEE 802.11acには対応していないが、2.4GHz帯、5GHz帯ともに倍速モード対応であり、既存の無線LAN対応機器の実効速度を考えるなら、当面現役で使える高速モデルと言ってよいだろう。有線LANについては1Gbps対応で実効速度も十分に速くこれもまた不満に感じることはないはずだ。

 インターネット経由でのファイル共有機能については、ダイナミックDNSを使うということで、アカウント名とパスワードの2つさえ覚えていれば使えるサービスと比べると、ダイナミックDNSのドメイン名や、ダイナミックDNS自体のアカウントの管理も必要になるので、少しとっつきにくいかもしれない。対応しているダイナミックDNSのサービスの利用では英語でやりとりする必要がある点もハードルだと言える。

(井上 繁樹)