Hothotレビュー

考えるな、感じろ。Ryzen Threadripper 9980X/9970Xの驚異的な性能をテスト

 AMDは、最大64コアのCPUを擁するZen 5世代のハイエンドデスクトップ(HEDT)向けCPU「Ryzen Threadripper 9000」シリーズの出荷を7月31日より開始する。

 今回は、同シリーズ最上位の64コアCPU「Ryzen Threadripper 9980X」と、32コアCPUの「Ryzen Threadripper 9970X」をテストする機会を得られたので、これら新世代のHEDT向けCPUの実力をベンチマークテストで確かめてみた。

Zen 5世代のHEDT向けCPU「Ryzen Threadripper 9000」

 Ryzen Threadripper 9000シリーズは、AMD最新のCPUアーキテクチャであるZen 5を採用したHEDT向けCPU。リリース時点では、最上位の64コアCPU「Ryzen Threadripper 9980X」以下、3モデルがラインナップされている。

 対応CPUソケットはSocket sTR5で、先行して発売されたワークステーション向けCPUの「Ryzen Threadripper PRO 9000WX」シリーズと同じCPUソケットに対応しているが、対応チップセットは「TRX50」のみとなっており、ワークステーション向けの「WRX90」には非対応だ。

【表1】Ryzen Threadripper 9000 シリーズの主なスペック
モデルナンバーRyzen Threadripper 9980XRyzen Threadripper 9970XRyzen Threadripper 9960XRyzen 9 9950X(参考)
CPUアーキテクチャZen 5Zen 5Zen 5Zen 5
製造プロセスCCD=4nm、IOD=6nmCCD=4nm、IOD=6nmCCD=4nm、IOD=6nmCCD=4nm、IOD=6nm
チップレット構成8×CCD+IOD4×CCD+IOD4×CCD+IOD2×CCD+IOD
CPUコア数64322416
CPUスレッド数128644832
L2キャッシュ64MB (8MB×8)32MB (8MB×4)24MB (6MB×4)16MB (8MB×2)
L3キャッシュ256MB (32MB×8)128MB (32MB×4)128MB (32MB×4)64MB (32MB×2)
ベースクロック3.2GHz4.0GHz4.2GHz4.3GHz
最大ブーストクロック5.4GHz5.4GHz5.4GHz5.7GHz
iGPU非搭載非搭載非搭載Radeon Graphics
対応メモリDDR5 RDIMMDDR5 RDIMMDDR5 RDIMMDDR5 UDIMM
対応メモリ速度DDR5-6400/4チャネルDDR5-6400/4チャネルDDR5-6400/4チャネルDDR5-5600/2チャネル
PCI Express 5.0PCIe 5.0 x80PCIe 5.0 x80PCIe 5.0 x80PCIe 5.0 x28
TDP350W350W350W170W
PPT350W350W350W200W
TDC175A (×2)175A (×2)175A (×2)160A
EDC235A (×2)235A (×2)235A (×2)225A
TjMax95℃95℃95℃95℃
対応ソケットSocket sTR5 (TRX50)Socket sTR5 (TRX50)Socket sTR5 (TRX50)Socket AM5
推奨小売価格4,999ドル2,499ドル1,499ドル649ドル

 Ryzen Threadripper 9000シリーズでは、デスクトップ向けのRyzen 9000シリーズで採用されているものと同規模のCCD(CPU Core Complex Die)を採用しており、最上位のRyzen Threadripper 9980Xは8基のCCDで64コア/128スレッド、Ryzen Threadripper 9970Xは4基のCCDで32コア/64スレッドを実現している。

 I/O機能を集約したIODには、Registered DIMM(RDIMM)のDDR5-6400/4チャネル動作に対応したメモリコントローラや、最大80レーンのPCIe 5.0などを統合。TDPは350Wで統一されており、電力指標のPPTはTDPと同じ350W、電流リミットはTDC=175A、EDC=235A、温度リミットのTjMaxは95℃に設定されている。なお、Ryzen Threadripperは電流を2系統で管理しているため、CPUパッケージ全体ではTDC/EDC値の2倍の電流が許容されることになる。

 AMDは、Ryzen Threadripper 9000シリーズの推奨小売価格について、最上位のRyzen Threadripper 9980Xが4,999ドル、Ryzen Threadripper 9970Xが2,499ドル、Ryzen Threadripper 9960Xが1,499ドルとしている。

Ryzen Threadripper 9000シリーズの上位2モデルをテスト

 今回テストするのは、Ryzen Threadripper 9000シリーズの上位2モデルである「Ryzen Threadripper 9980X」(以下9980X)、および「Ryzen Threadripper 9970X」(以下9970X)だ。

64コア/128スレッドCPU「Ryzen Threadripper 9980X」
Ryzen Threadripper 9980XのCPU-Z実行画面
32コア/64スレッドCPU「Ryzen Threadripper 9970X」
Ryzen Threadripper 9970XのCPU-Z実行画面

 AMDから借用した両CPUは、販売されるものと同等の製品パッケージに収められた状態で到着しており、パッケージ内にはCPUをソケットに固定する際に用いるトルクレンチと、Asetek製簡易水冷クーラー互換のブラケットが同梱されていた。

Ryzen Threadripper 9000シリーズの製品パッケージ
CPUをソケットに固定するためのトルクレンチと、Asetek製AIO水冷互換のブラケットが同梱されていた

 AMDからはCPUのほか、GIGABYTEのSocket sTR5対応マザーボード「TRX50 AERO D」と、DDR5-6400動作に対応するG.SkillのRDIMM「F5-6400R3239F32GQ4-T5N」、Socket sTR5(およびSP6)向けに設計されたSilverStoneの360mm簡易水冷クーラー「XE360-TR5」も合わせて借用した。9980Xと9970Xに関しては、これらの機材を使用してテストを行なう。

GIGABYTEのSocket sTR5対応マザーボード「TRX50 AERO D」。今回のテストではレビュアー向けBIOS「NA2n」を導入している
DDR5-6400対応のG.Skill製オーバークロックRDIMM「F5-6400R3239F32GQ4-T5N」。32GBメモリモジュール×4枚組の128GBキットだ
SilverStoneの360mmオールインワン水冷クーラー「XE360-TR5」
XE360-TR5は、Ryzen Threadripperのヒートスプレッダ全面をカバーする大型の水冷ヘッドを採用している

テスト機材と比較用CPU

 Ryzen Threadripper 9000シリーズの検証を行なうにあたり、デスクトップ向けのハイエンドに位置する16コア/32スレッドCPU「Ryzen 9 9950X」(以下9950X)を比較用CPUとして用意した。

 Ryzen Threadripper 9000シリーズと9950Xはまったく価格帯の異なるCPUではあるが、HEDT向けCPUとデスクトップ向けCPUの間にどれだけの性能差があるのかという観点で参考にしてもらいたい。

Ryzen Threadripper 9980X(左)とRyzen 9 9950X(右)
Ryzen 9 9950XのCPU-Z実行画面

 各CPUのテスト環境は以下の表の通り。

【表2】テスト環境
CPURyzen Threadripper 9980XRyzen Threadripper 9980X (SMTオフ)Ryzen Threadripper 9970XRyzen 9 9950X
コア数/スレッド数64C/128T64C/64T32C/64T16C/32T
L2キャッシュ64MB (8MB×8)64MB (8MB×8)32MB (8MB×4)16MB (8MB×2)
L3キャッシュ256MB (32MB×8)256MB (32MB×8)128MB (32MB×4)64MB (32MB×2)
PPT350W350W350W200W
TDC175A (×2)175A (×2)175A (×2)160A
EDC235A (×2)235A (×2)235A (×2)225A
CPU温度リミット95℃95℃95℃95℃
マザーボードGIGABYTE TRX50 AERO DASUS ROG STRIX X870-F GAMING WIFI
BIOSvNA2nv1512
CPUファームウェアCombo SP6 PI 1.0.0.1aCombo AM5 PI 1.2.0.3e
メモリ128GB DDR5-6400/4チャネル (32GB×4、32-39-39-102、1.35V)DDR5-5600/2チャネル (16GB×2、46-45-45-89、1.1V)
メモリコントローラ1,600MHz2,800MHz
Infinity Fabric1,920MHz2,000MHz
ビデオカードGeForce RTX 5080 Founders Edition
GPUドライバGRD 576.88 (32.0.15.7688)、Resizable BAR=有効
システム用SSDCrucial T705 1TB (PCIe 5.0 x4)Samsung 990 PRO 1TB (PCIe 4.0 x4)
アプリケーション用SSDCFD CSSD-M2B2TPG3VNF 2TB (USB4 40Gbps)
CPUクーラーSilverStone XE360-TR5 (ファン速度=100%)Fractal Design Celsius S36 Blackout (ファン速度=100%)
電源玄人志向 KRPW-PA1200W/92+ (1,200W/80PLUS Platinum)
OSWindows 11 Pro 24H2 (build 26100.4652、VBS有効)
電源設定(OS)電源プラン「最適なパフォーマンス」、電源モード「バランス」
計測HWiNFO64 Pro v8.28、ラトックシステム RS-BTWATTCH2
室温約26℃

 今回のテストでは各CPUの標準動作設定に加え、9980XのみSMTを無効化した64コア/64スレッド動作でのベンチマークテストも実行している。これは、CPUを最大64論理コアごとに分割管理するWindowsのプロセッサー・グループという仕組みの影響を調査するのが目的で、プロセッサー・グループの壁を超えられないアプリでも、SMTを無効にした9980Xなら64基の物理コアをフルに活用することができる。

 また、AMDのレビュアーズガイドの推奨設定に基づいてメモリのEXPO設定を有効化したほか、Windowsの電源モードを「最適なパフォーマンス」に設定した。なお、AMDはWindowsのコントロールパネルに存在する旧来の「電源プラン」について、標準の「バランス」から変更しないことを推奨している。

ベンチマーク結果

 ここからは、ベンチマークテストの結果を確認していく。今回実施したベンチマークテストは以下の通り。

  • Cinebench 2024
  • Cinebench R23
  • 3DMark「CPU Profile」
  • Blender Benchmark
  • やねうら王
  • Adobe Camera Raw
  • DaVinci Resolve 20
  • HandBrake
  • PCMark 10 Extended
  • PCMark 10 Application
  • UL Procyon「Office Productivity Benchmark」
  • UL Procyon「Photo Editing Benchmark」
  • UL Procyon「AI Computer Vision Benchmark」
  • MicroBenchX
  • AIDA64 Cache & Memory Benchmark
  • 3DMark
  • ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク
  • VALORANT
  • Call of Duty: Black Ops 6
  • オーバーウォッチ 2
  • Forza Horizon 5
  • サイバーパンク2077
  • モンスターハンターワイルズ
  • Microsoft Flight Simulator 2024

Cinebench 2024

 Cinebench 2024では、CPU性能を計測するMulti CoreとSingle Coreを実行した。

Cinebench 2024「CPU (Multi Core)」

 マルチスレッド性能を計測するMulti Coreのスコアは、9980Xが「6,618」を記録して全体ベストを獲得。9950Xのスコアを基準に各CPUのスコアを指数化すると、9980Xは約304%、9980X(SMTオフ)は約246%、9970Xが約190%となっており、HEDT向けのメニーコアCPUが圧倒的なパフォーマンスを発揮している。

Cinebench 2024「CPU (Single Core)」

 一方、シングルスレッド性能を計測するSingle Coreでは、デスクトップ向けの9950Xが「138」を記録して全体ベストを獲得。9950X比のスコアは9980Xが約95%、9980X(SMTオフ)は約94%、9970Xが約95%となっており、僅差ではあるものの最大ブーストクロックで勝る9950Xの強みが反映された格好だ。

Cinebench R23

 Cinebench R23でも、CPU性能を計測するMulti CoreとSingle Coreを実行した。

Cinebench R23「CPU (Multi Core)」

 Multi Coreのベストスコアは9980Xが記録した「115,723」。9950X比のスコアは9980Xが約282%、9980X(SMTオフ)は約233%、9970Xが約184%となっている。

Cinebench R23「CPU (Single Core)」

 Single Coreのベストスコアは9950Xが記録した「2,282」。9950X比のスコアは9980Xが約97%、9980X(SMTオフ)は約97%、9970Xが約97%だった。

3DMark「CPU Profile」

 CPU性能をスレッド数ごとに計測する3DMarkのベンチマークテスト「CPU Profile」では、各CPUのスコアをまとめたグラフと、9950Xのスコアを基準に指数化したグラフを作成した。

3DMark「CPU Profile」│ベンチマークスコア
3DMark「CPU Profile」│Ryzen 9 9950X比

 16コアを超える物理コアを有するRyzen Threadripperの強みは「最大スレッド」のスコアに反映されており、9950X比のスコアは9980Xが約187.0%、9980X(SMTオフ)は約185.1%、9970Xが約144.1%と、デスクトップ向けの9950Xを圧倒している。

 一方、16スレッド以下になると9950Xが優位な結果が多く、9950X比のスコアは9980Xが93.4~96.1%、9980X(SMTオフ)は96.2~98.9%、9970Xが96.2~102.4%となっている。ベースとなっているアーキテクチャが同じZen 5であるため、物理コア数の優位が生かせない場面ではデスクトップ向けCPUと大差のない性能になるようだ。

Blender Benchmark

 Blender Benchmarkでは、CPUテストを実行して3つのシーンでレンダリング速度(Samples per Minutes)を計測した。

Blender Benchmark

 Blender Benchmarkでは9980Xがすべてのシーンで最速を記録。9950X比の速度は9980Xが326~334%、9980X(SMTオフ)は247~254%、9970Xが193~195%となっている。

やねうら王

 将棋ソフトの「やねうら王」では、ベンチマーク機能を利用してマルチスレッドテストとシングルスレッドテストを実行した。

やねうら王「マルチスレッド」

 マルチスレッドテストでは「123,027kNPS」を記録した9980Xが全体ベストを獲得。9950X比の速度は9980Xが約320%、9980X(SMTオフ)は約257%、9970Xが約193%だった。

やねうら王「シングルスレッド」

 一方、シングルスレッドテストでは「2,212kNPS」を記録した9950Xが全体ベストを獲得。9950X比の速度は9980Xが約95%、9980X(SMTオフ)は約94%、9970Xが約95%だった。

Adobe Camera Raw「RAW現像」

 Adobe Camera Rawにて、デジタルカメラで撮影した2,400万画素のRAWファイル100枚をJPEGファイルに現像するのにかかった時間を測定し、1分間あたりの処理枚数(fpm)を比較する。

 なお、今回のテストでは「CPUのみ」で処理を行なった場合と、GPUを最大限活用する「CPU+GPU」設定で、それぞれ速度の計測を行なった。

Adobe Camera Raw「RAW現像」

 CPUのみで処理を行なった場合、最速を記録したのは9980X(SMTオフ)の「342.86fpm」。9950X比の速度は9980Xが約183%、9980X(SMTオフ)は約228%、9970Xが約192%だった。

 CPUのみを用いる処理において、9980X(SMTオフ)がSMTが有効な9980Xを明確に上回ったのはプロセッサー・グループの壁による影響と思われる。タスクマネージャー上ではSMT有効時の9980Xで128スレッドすべてにある程度の負荷がかかっている様子は見られていたのだが、実際の処理速度をみるとAdobe Camera Rawは2つのプロセッサー・グループをうまく活用できなかったようだ。

 一方、GPUをフル活用して処理を行なった場合、最速を記録したのは「323.80fpm」の9970X。9950X比の速度は9980Xが約109%、9980X(SMTオフ)は約115%、9970Xが約116%だった。

 GPUを活用する場合、GeForce RTX 5080の性能が処理速度に与える影響はかなり大きく、9950XとHEDT向けCPUの差はかなり縮んでいる。ただし、最速を記録した9970Xの323.80fpmは、CPUのみで最速だった9980X(SMTオフ)の342.86fpmを下回っており、必ずしもGPUを使ったほうが処理が速くなるというわけではないことが分かる。

DaVinci Resolve 20

 DaVinci Resolve 20では、カメラで撮影した2160p60(4K60p)動画を素材として約60秒の動画に編集し、H.264 Masterプリセット(4K60p)で書き出した場合の処理速度(fps)を計測した。

DaVinci Resolve 20「動画の書き出し」

 最速は「133.3fps」を記録した9970X。9950X比の速度は9980Xが約128%、9980X(SMTオフ)は約132%、9970Xが約137%だった。

HandBrake

 HandBrakeでは、約60秒の2160p60(4K60p)動画をH.264、H.265、AV1の各形式でエンコードした場合のエンコード速度(fps)を計測した。

HandBrake「動画エンコード」

 x264を用いるH.264形式へのエンコードでの最速は「206.2fps」を記録した9970X。9950X比の速度は9980Xが約135%、9980X(SMTオフ)は約138%、9970Xが約143%だった。

 x265を用いたH.265形式へのエンコードでの最速は「71.3fps」を記録した9970X。9950X比の速度は9980Xが約134%、9980X(SMTオフ)は約140%、9970Xが約142%だった。

 SVTを用いたAV1形式へのエンコードでの最速は「85.3fps」を記録した9980X(SMTオフ)。9950X比の速度は9980Xが約154%、9980X(SMTオフ)は約161%、9970Xが約160%だった。

PCMark 10 Extended

 PCMark 10標準のテストの中でもっとも詳細な「PCMark 10 Extended」を実行した結果が以下のグラフ。

PCMark 10 Extended

 総合スコアでの全体ベストは「14,674」を記録した9950X。9950X比のスコアは9980Xが約82%、9980X(SMTオフ)は約74%、9970Xが約86%だった。

 PCMark 10の標準テストはCPUのシングルスレッド性能がスコアに反映されやすい傾向があるためHEDT向けCPUのメニーコアがあまり活用できていないうえ、サブスコアのGamingで利用される3DMark: Fire StrikeベースのテストはメニーコアCPUとの相性が悪く、異常に低いスコアが計測されやすい。定番テストであるため実行しているが、メニーコアCPUの計測ではベンチマークテスト側に不具合がある点を考慮して参照してほしい。

PCMark 10 Application

 Microsoft OfficeやWebブラウザのEdgeを使ってパフォーマンスの計測を行なう「PCMark 10 Application」の実行結果が以下のグラフ。

PCMark 10 Application

 総合スコアでの全体ベストは「19,663」を記録した9970X。9950X比のスコアは9980Xが約93%、9980X(SMTオフ)は約96%、9970Xが約101%だった。

 HEDT向けCPUはExcelで9950Xを上回る一方、WordとPowerPointでは9950Xを下回っている。特にWordでの9980Xのスコアは9950X比で79%、SMTオフでも84%となっており、顕著な差が見られた。

UL Procyon「Office Productivity Benchmark」

 Microsoft Officeを使ってパフォーマンスの計測を行なうUL Procyon「Office Productivity Benchmark」を実行した結果が以下のグラフ。

UL Procyon「Office Productivity Benchmark」

 総合スコアでの全体ベストは「8,507」を記録した9950X。ただ、スコアの差はごく僅差で、9950X比のスコアは9980Xが約99%、9980X(SMTオフ)は約99.8%、9970Xが約99.6%だった。

 PCMark 10 Applicationで見られた9980XのWordにおける低調なパフォーマンスは確認できず、逆にExcelにおけるHEDT向けCPUの優位性も縮小している。同じMicrosoft Officeを用いるテストであっても、実行する処理次第でパフォーマンスの良し悪しは変わってくるということなのだろう。

UL Procyon「Photo Editing Benchmark」

 Adobeの画像編集系ソフト(Photoshop、Lightroom Classic)を使ってパフォーマンスの計測を行なうUL Procyon「Photo Editing Benchmark」を実行した結果が以下のグラフ。

UL Procyon「Photo Editing Benchmark」

 総合スコアでの全体ベストは「10,560」を記録した9950X。9950X比のスコアは9980Xが約98%、9980X(SMTオフ)は約99%、9970Xが約98%だった。

UL Procyon「AI Computer Vision Benchmark」

 AI推論のパフォーマンスを計測するUL ProcyonのAI Computer Vision BenchmarkをWindows MLで実行した場合のスコアが以下のグラフ。

UL Procyon「AI Computer Vision Benchmark」

 思いのほかメニーコアCPUのマルチスレッド性能はスコアに反映されないようで、Float32で9970Xが全体ベストの「282」を記録したものの、Float16とIntegerではデスクトップ向けの9950Xが全体ベストを獲得している。

CPUコア間のレイテンシ

 MicroBenchXの「CoherencyLatency」でCPUコア間のレイテンシを計測した結果が以下のマトリックス表だ。

 なお、MicroBenchXはプロセッサー・グループの壁を超えられないため、SMTが有効な標準状態ではプロセッサー・グループ1に割り当てられたCCD0~CCD1までの32コア/64スレッド分しか計測できていない。SMTをオフにすることで全64コアのCPUコア間レイテンシを計測できるので、CPUパッケージ全体のレイテンシを確認したい場合は9980X(SMTオフ)のデータを参照してほしい。

Ryzen Threadripper 9980XのCPUコア間レイテンシ
Ryzen Threadripper 9980X(SMTオフ)のCPUコア間レイテンシ
Ryzen Threadripper 9970XのCPUコア間レイテンシ
Ryzen 9 9950XのCPUコア間レイテンシ
CPUコア間のレイテンシ

 Ryzen Threadripper 9000シリーズのCPUコア間レイテンシは、SMTによる同一物理コア間で20ns弱、同一CCD内のコア間で25ns弱、CCDを跨いだコア間で110~120ns程度となっている。CCDを跨ぐ場合のレイテンシはほぼ一律といった印象で、CCDの組み合わせによるレイテンシの顕著な増減は確認できない。

 なお、9980X(SMTオフ)の平均値がほかのRyzen Threadripperより大きめなのには、もっとも低レイテンシになる同一コア間のレイテンシが計測されないことと、CCDを跨ぐコアの組み合わせが多いことも影響している。

AIDA64 Cache & Memory Benchmark「メインメモリ性能」

 AIDA64 Cache & Memory Benchmarkで、メインメモリの帯域幅とレイテンシを計測した。

AIDA64 Cache & Memory Benchmark「メインメモリの帯域幅」

 メインメモリがDDR5-6400/4チャネルで動作し、4~8基のCCDがメモリにアクセスするRyzen Threadripperのメモリ帯域幅は150GB/sを超えており、DDR5-5600/2ch動作のメモリを搭載する9950X比の帯域幅は、9980Xが267~288%、9980X(SMTオフ)は267~288%、9970Xが267~273%となっている。

AIDA64 Cache & Memory Benchmark「メインメモリのレイテンシ」

 Ryzen Threadripper環境ではメモリタイミング「32-39-39-102」で動作する低レイテンシなDDR5-6400メモリを使用しているが、AIDA64で計測されたメモリタイミングに関しては100ns前後となっており、JEDEC標準のDDR5-5600(46-45-45-89)メモリを使用する9950Xより大きなレイテンシが生じている。

 この理由として考えられるのが、メモリコントローラの動作クロック(UCLK)だ。Ryzen Threadripper環境はDDR5-6400メモリを搭載すると、UCLKがメモリクロック(MCLK)の半分の速度になる「1:2モード」が適用されるため1,600MHzで動作している。これは、DDR5-5600(MCLK=2,800MHz)と「1:1」で同期している9950Xのメモリコントローラよりずいぶん低速であるため、より大きなメモリレイテンシの原因となっていると考えられるわけだ。

AIDA64 Cache & Memory Benchmark「キャッシュ性能」

 AIDA64 Cache & Memory Benchmarkで、CPUが備えるキャッシュメモリの帯域幅とレイテンシを計測した結果が以下のグラフ。

AIDA64 Cache & Memory Benchmark「キャッシュの帯域幅 (Read)」
AIDA64 Cache & Memory Benchmark「キャッシュの帯域幅 (Write)」
AIDA64 Cache & Memory Benchmark「キャッシュの帯域幅 (Copy)」

 キャッシュの帯域幅はCPUコア数に応じて増加しており、もっとも高速なのは9980Xまたは9980X(SMTオフ)となっている。9950X比の帯域幅は9980Xが311~422%、9980X(SMTオフ)は318~449%、9970Xが175~282%だった。

AIDA64 Cache & Memory Benchmark「キャッシュのレイテンシ」

 キャッシュメモリのレイテンシに関しては、Ryzen Threadripperと9950Xの差がほぼついていない。キャッシュメモリはすべてCCD内に実装されており、そのCCDはHEDT向けもデスクトップ向けもZen 5ベースかつ同規模のものであることを考えれば、特に違和感のない結果だ。

3DMark「Speed Way」

 3DMarkのDirectX 12 Ultimateテスト「Speed Way」を実行した結果が以下のグラフ。

3DMark「Speed Way」

 GPU負荷が極めて高いテストであるため、CPUの違いはほとんどスコアに反映されていない。別の言い方をすれば、Ryzen Threadripper 9000シリーズのCPUとそのプラットフォームは、デスクトップ向けの9950Xと同じように、GeForce RTX 5080のパフォーマンスを最大限に引き出せているとも言える。

3DMark「Steel Nomad」

 3DMarkのDirectX 12テスト「Steel Nomad」では、GPU負荷の高い通常版Steel Nomadと、より軽量なSteel Nomad Lightを実行した。

3DMark「Steel Nomad」

 高負荷なSteel Nomadでは、先に紹介したSpeed Wayと同じように各CPUのスコアが横並びになっている。これはGPUであるGeForce RTX 5080の性能がボトルネックとなった結果だ。

3DMark「Steel Nomad Light」

 GPU負荷の軽いSteel Nomad Lightに関しても、各CPUのスコアが横並びになっている状況は変化はない。このテストでも、CPU性能の差がパフォーマンスに影響を及ぼすよりも先にGPU性能の限界が来ているようだ。

3DMark「Port Royal」

 3DMarkのDXR(DirectX Raytracing)テスト「Port Royal」を実行した結果が以下のグラフ。

3DMark「Port Royal」

 3DMarkのGPU系テストは、基本的にGPU性能を効率的に引き出せるものが多いこともあり、Port Royalに関してもCPU性能の差はスコアにほぼ反映されていない。

3DMark「Solar Bay」

 3DMarkの軽量レイトレーシングテスト「Solar Bay」を実行した結果が以下のグラフ。

3DMark「Solar Bay」

 Solar Bayでは9980Xが9970Xや9950Xより若干高いスコアを記録。9950X比のスコアは9980Xが約102.0%、9980X(SMTオフ)は約102.2%、9970Xが約100.5%だった。

3DMark「Wild Life」

 3DMarkのVulanテスト「Wild Life」では、通常版のWild Lifeと高負荷版のWild Life Extremeを実行した。

3DMark「Wild Life」

 軽量な通常版Wild LifeではSMT有効時の9980Xのパフォーマンスが低調で、9950Xが全体ベストを獲得。9950X比のスコアは9980Xが約91%、9980X(SMTオフ)は約96%、9970Xが約95%だった。

3DMark「Wild Life Extreme」

 高負荷版のWild Life Extremeでは各CPUのスコアが横並びとなっており、CPU性能の差がスコアにほとんど反映されなかった。

ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク

 ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマークでは、グラフィックスプリセットを「最高品質」に設定して、3つの画面解像度でスコアと平均フレームレートを計測した。なお、超解像は無効にしている。

ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク「スコア」
ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク「平均フレームレート」

 このテストではHEDT向けCPUであるRyzen Threadripperのパフォーマンスが全体的に低調で、9950Xがすべての条件で全体ベストを獲得。GPU負荷が軽い低解像度になるほどスコア差は拡大している傾向が見られており、9950X比のスコアは9980Xが77~91%、9980X(SMTオフ)は82~91%、9970Xが83~90%だった。

VALORANT

 VALORANTでは、グラフィックス設定をできる限り高く設定して、3つの画面解像度で平均フレームレートを計測した。なお、この計測はCPUボトルネックが生じやすい射撃場の全景が見渡せる場所で行なっている。

VALORANT

 VALORANTではRyzen Threadripperが9950Xを凌駕しており、すべての解像度で全体ベストを獲得したのは9970Xだった。9950X比のスコアは9980Xが102~103%、9980X(SMTオフ)は104~106%、9970Xが106~114%だった。

Call of Duty: Black Ops 6

 Call of Duty: Black Ops 6では、グラフィックスプリセットを「極限」、超解像を「DLSS(バランス重視)」に設定して、3つの画面解像度でゲーム内ベンチマークモードを実行。また、高fps設定としてグラフィックスプリセットを「バランス重視」に落としたフルHD/1080pでも計測を行なった。

Call of Duty: Black Ops 6

 グラフィックスプリセット「極限」では、各CPUの平均フレームレートはかなりの僅差となっており、いずれもGeForce RTX 5080の性能を十分に引き出せていると言える結果が得られた。

 一方、高fps設定ではRyzen Threadripperが9950Xをわずかに上回っており、9970Xが全体ベストを獲得。9950X比のフレームレートは9980Xが約103%、9980X(SMTオフ)は約101%、9970Xが約105%だった。

オーバーウォッチ 2

 オーバーウォッチ 2では、グラフィックスプリセットを「エピック」に設定して、3つの画面解像度でカタスムマッチを実行、平均フレームレートを計測した。また、高fps設定としてグラフィックスプリセットを「NORMAL」に落としたフルHD/1080pでも計測を行なった。テスト時のAPIはDirectX 12。

オーバーウォッチ 2

 計測の結果、最大のフレームレートを記録したCPUは条件によって異なる結果となった。カスタムマッチで計測を行なっている都合上、計測結果には計測条件によるバラつきが生じてしまうため誤差の範囲内と言えなくもない。9950X比のフレームレートは9980Xが96~101%、9980X(SMTオフ)は96~99%、9970Xが99~101%だった。

Forza Horizon 5

 Forza Horizon 5では、グラフィックスプリセットを「エクストリーム」に設定して、3つの画面解像度でゲーム内ベンチマークモードを実行。また、高fps設定としてグラフィックスプリセットを「中」に落としたフルHD/1080pでも計測を行なった。

Forza Horizon 5

 グラフィックスプリセット「エクストリーム」のWQHD/1440p以上では、計測誤差レベルの差しかついていない一方、フルHD/1080pでは9980Xがややフレームレートを落としており、9950X比で9980Xが98~100%、9980X(SMTオフ)は98~100%、9970Xが約101%となっている。

 高fps設定では、デスクトップ向けの9950Xが明確な差をつけてトップに立っており、9950X比のフレームレートは9980Xが約83%、9980X(SMTオフ)は約86%、9970Xが約92%だった。

サイバーパンク2077

 サイバーパンク2077では、グラフィックスプリセットを「レイトレーシング: オーバードライブ」に設定して、3つの画面解像度でゲーム内ベンチマークモードを実行。また、高fps設定としてグラフィックスプリセットを「ウルトラ」に落としたフルHD/1080pでも計測を行なった。

 なお、すべての条件で超解像を「DLSS(パフォーマンス)」に設定しており、フレーム生成は「オフ」に設定している。

サイバーパンク2077

 グラフィックスプリセット「エクストリーム」のWQHD/1440p以上では、各CPUのフレームレートが僅差である一方、フルHD/1080pでは9950Xがやや差をつけてベストを獲得。9950X比で9980Xが93~99%、9980X(SMTオフ)は89~99%、9970Xが97~101%だった。

 高fps設定では9950XがRyzen Threadripperを大きく引き離して全体ベストを獲得。9950X比のフレームレートは9980Xが約76%、9980X(SMTオフ)は約74%、9970Xが約80%だった。

 余談だが、CPUボトルネックが顕著になる条件において、9980X(SMTオフ)が9980Xを下回っている様子は興味深い。デスクトップ向けの9950X同様、Ryzen Threadripperでもゲーム中は1つのCCDに処理を集中するという挙動が見られるのだが、サイバーパンク2077のようにマルチコアCPUへの最適化が進んだタイトルでは、SMTの有無による論理コア数の差がパフォーマンスに影響するようだ。

モンスターハンターワイルズ

 モンスターハンターワイルズでは、グラフィックスプリセットを「ウルトラ」に設定して、3つの画面解像度で平均フレームレートを計測。また、高fps設定としてグラフィックスプリセットを「中」に落としたフルHD/1080pでも計測を行なった。

 なお、すべての条件で超解像を「DLSS」、レイトレーシングを「高」、フレーム生成を「オフ」に設定しているほか、DLCの「高解像度テクスチャパック」は適用していない。

モンスターハンターワイルズ

 グラフィックスプリセット「ウルトラ」では、4K/2160pでこそ差がついていないものの、WQHD/1440p以下ではRyzen Threadripperが9950Xをやや上回っており、9970Xが全体ベストを獲得している。9950X比のフレームレートは9980Xが100~106%、9980X(SMTオフ)は100~105%、9970Xが100~109%だった。

 高fps設定でもRyzen Threadripperが9950Xをやや上回っており、全体ベストを獲得したのは9970X。9950X比のフレームレートは9980Xが約104%、9980X(SMTオフ)は約103%、9970Xが約106%だった。

 ただ、Ryzen Threadripperのほうが9950XよりGeForce RTX 5080のパフォーマンスを引き出せていること自体は確かではあるが、高fps設定の結果がグラフィックスプリセット「ウルトラ」のフルHD/1080pと同程度であることから伺えるように、CPUがボトルネックになってGPUの性能を十分に発揮できていないことは明らかだ。

Microsoft Flight Simulator 2024

 Microsoft Flight Simulator 2024では、グラフィックスプリセットを「ウルトラ」に設定して、3つの画面解像度で平均フレームレートを計測。また、高fps設定としてグラフィックスプリセットを「ミドル」に落としたフルHD/1080pでも計測を行なった。

 なお、すべての条件で超解像を「DLSS(バランス)」、フレーム生成を「オフ」に設定している。

Microsoft Flight Simulator 2024

 グラフィックスプリセット「ウルトラ」では、9970Xがすべての解像度でベストな平均フレームレートを記録。9950X比のフレームレートは9980Xが99~101%、9980X(SMTオフ)は100~101%、9970Xが105~107%だった。

 高fps設定でも全体ベストは9970Xが獲得。9950X比のフレームレートは9980Xが約97%、9980X(SMTオフ)は約99%、9970Xが約102%だった。

消費電力とワットパフォーマンス

 ラトックシステムのワットチェッカー「RS-BTWATTCH2」を使用して、アイドル時の最小消費電力とベンチマーク実行中の平均消費電力および最大消費電力を計測した。

システム消費電力 (平均/最大)│[1/2]
システム消費電力 (平均/最大)│[2/2]

 アイドル時の最小消費電力は、9980Xが124.1W、9980X(SMTオフ)は120.9W、9970Xは116.0W、9950Xは92.2W。ULCKが低いクロックで動作しているとはいえ、Ryzen ThreadripperとTRX50プラットフォームのアイドル時消費電力は低くない。

 グラフ[1/2]にまとめたCPU処理が中心のベンチマークテストでは、電力リミットが350Wに設定されているRyzen Threadripperが500Wを超える電力を消費している様子が目立つ一方、プロセッサー・グループの制約を受けるAdobe Camera RawやHandBrakeでは9980Xの消費電力が低くなっている様子を確認できる。

 グラフ[1/2]にまとめた3DMarkやFF14ベンチマークの計測結果は、Ryzen Threadripperと9950Xの消費電力差が小さくなっており、性能が奮わなかったFF14ベンチマークのフルHD/1080pでは9950Xのほうが高い消費電力を記録している。

 これらの計測結果をもとに、システムの平均消費電力でベンチマークスコアを割ることでワットパフォーマンスを算出し、9950Xを基準に指数化したものが以下のグラフ。

ワットパフォーマンス (Ryzen 9 9950X比)│[1/2]
ワットパフォーマンス (Ryzen 9 9950X比)│[2/2]

 CPU系のテストでの消費電力は9950Xを大きく上回っていたRyzen Threadripperだが、電力効率にしてみると9950Xを上回っているものが多く、特にプロセッサー・グループの制約を受けないテストでは9980Xが傑出した電力効率を発揮している。

 一方、3Dゲーム系のテストでは基本的に9950Xの電力効率を下回っており、9950X比の電力効率は9980Xが84~95%、9980X(SMTオフ)は87~95%、9970Xが91~98%だった。

Cinebench 2024実行中のモニタリングデータ

 HWiNFO64 Proを使って計測したCinebench 2024「CPU (Multi Core)」実行中のモニタリングデータをまとめたものが以下のグラフ。テスト時の室温は約26℃。

CPU温度 (平均/最大)│Cinebench 2024
電力/電流リミット (平均/最大)│Cinebench 2024
動作クロック (平均/最大)│Cinebench 2024
Ryzen Threadripper 9980Xのモニタリングデータ│Cinebench 2024
Ryzen Threadripper 9980X(SMTオフ)のモニタリングデータ│Cinebench 2024
Ryzen Threadripper 9970Xのモニタリングデータ│Cinebench 2024
Ryzen 9 9950Xのモニタリングデータ│Cinebench 2024

 Cinebench 2024実行中、Ryzen Threadripperの9980X、9980X(SMTオフ)、9970Xは、いずれもCPU消費電力が350Wの上限いっぱいに達しており、テスト中は電力リミットスロットリングが発動していることが伺える。

 その結果、CPU温度は9980Xが平均60.8℃(最大62.8℃)、9980X(SMTオフ)は平均60.4℃(最大62.2℃)、9970Xは平均71.9℃(最大73.6℃)となっている。

 ちなみに、ほぼ同じ消費電力(=発熱量)であるにも関わらず、9980Xより9970XのほうがCPU温度が高いのは熱密度の違いが影響している。9980Xの発熱源は8基のCCDかつ64基のCPUコアに分散しているのに対し、9970Xは4基のCCDかつ32基のCPUコアというより狭い面積から同等の熱が生じていることになるため熱密度が高く、同等の熱量を伝導するのに必要な温度差が大きくなるため、CPUコアの温度がより高くなるというわけだ。

FF14ベンチマーク実行中のモニタリングデータ

 HWiNFO64 Proを使って計測した「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク(フルHD/1080p、最高品質)」実行中のモニタリングデータをまとめたものが以下のグラフ。テスト時の室温は約26℃。

CPU温度 (平均/最大)│FF14ベンチマーク
電力/電流リミット (平均/最大)│FF14ベンチマーク
動作クロック (平均/最大)│FF14ベンチマーク
Ryzen Threadripper 9980Xのモニタリングデータ│FF14ベンチマーク
Ryzen Threadripper 9980X(SMTオフ)のモニタリングデータ│FF14ベンチマーク
Ryzen Threadripper 9970Xのモニタリングデータ│FF14ベンチマーク
Ryzen 9 9950Xのモニタリングデータ│FF14ベンチマーク

 いずれのCPUも、テスト実行中の温度、電力、電流はいずれもリミットの範囲内に収まっており、スロットリングは発生していないことが伺える。また、今回計測したモニタリングデータを確認したところ、すべてのCPUがFF14ベンチマークの処理をCCD-0に集約して実行している様子が確認できたので、CPU全体のクロックに加え、CCD-0が備えるCPUコアのクロックをまとめてみた。

 各CPUで記録されたCCD-0の平均クロックは、最高のスコアを記録していた9950Xがもっとも高く、以下9970X、9980X(SMTオフ)、9980Xの順に低くなっている。このクロックの順位とベンチマークスコアの順位は一致しており、FF14ベンチマークでRyzen Threadripperのパフォーマンスが低調だった原因の1つは、CCD-0内CPUコアの低クロック動作にあると考えられる。

 なお、CCD-0内の各CPUコアのクロック、およびCPUコアごとの使用率をまとめたものが以下のグラフで、9950XではCCD内のCPUコアが満遍なく稼働して高クロック動作をしているが、Ryzen Threadripperでは一部に使用率の著しく低いCPUコアが存在しており、そのコアが低クロック動作することでCCD全体の平均クロックを押し下げている。9950Xほどうまく処理を割り振れていないことが、パフォーマンスに影響しているように思われる。

CCD-0内の各CPUコアクロック (平均/最大)│FF14ベンチマーク
CCD-0内の各CPUコア使用率 (平均/最大)│FF14ベンチマーク

圧倒的なマルチスレッド性能を実現する新世代のHEDT向けCPU

 Zen 5アーキテクチャを採用したRyzen Threadripper 9000シリーズの上位2モデルは、デスクトップ向けの9950Xを圧倒するマルチスレッド性能を実現していた。また、マルチスレッド性能を十分に生かせないアプリやゲームでも、デスクトップ向けCPUに見劣りしない結果が多く得られており、幅広い用途で高いパフォーマンスが得られるCPUに仕上がっている。

 64コア/128スレッドCPUである9800XをWindows 11で使う場合、プロセッサー・グループの制約が依然として存在している点に注意は必要だが、デスクトップ向けCPUのマルチスレッド性能に満足できないユーザーにとって、一般的なデスクトップPCと同じように自作や導入ができるRyzen Threadripper 9000シリーズは、扱いやすく高い性能が得られる強力な選択肢となるだろう。

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提供: AMD

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