Hothotレビュー
富士通「LIFEBOOK SH90/M」
~13.3型WQHD IGZO液晶搭載で21時間駆動のモバイルノートPC
(2013/11/12 06:00)
富士通の個人向けPC冬モデルが発表されたが、その中でも特に注目したい製品が、13.3型IGZO液晶を搭載したモバイルノートPC「LIFEBOOK SH90/M」だ。高精細で省電力性能に優れたIGZO液晶の採用により、2,560×1,440ドット表示が可能なだけでなく、公称バッテリ駆動時間も約21.1時間と長い。
もちろん、タッチパネル搭載でWindows 8.1も快適だ。2-in-1デバイスのようにタブレットとしても使えるわけではないが、キーボードの使い勝手を重視する人に向いた製品である。
今回は、そのLIFEBOOK SH90/Mを試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。なお、試用したのは試作機であるため、製品版とは細部の仕様などが異なる可能性がある。
ユーザーによるバッテリ交換やメモリ増設が可能
LIFEBOOK SH90/Mのボディデザインは、オーソドックスなクラムシェルタイプだが、額縁部分がかなり狭いので、13.3型液晶搭載ノートPCとしてはフットプリントが小さい。本体のサイズは、319×215×13.6~19.8mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約1.59kg(DVDスーパーマルチドライブ装着時)である。
本製品はUltrabookとは謳っていないが、厚さはUltrabookのガイドラインをクリアしており、重量はやや重いものの、十分携帯できる範囲だ。ボディカラーは、アーバンホワイトとスパークリングブラックの2色が用意されている。
ほとんどのUltrabookは、メモリの増設やバッテリの交換ができないが、LIFEBOOK SH90/Mの底面には、メモリスロットカバーやバッテリカバーがあり、ユーザーによってメモリの増設(実際には交換になるが)やバッテリの交換ができることも評価できる。
店頭モデルは1モデルのみだが、直販サイトのWEB MARTではカスタムメイドモデルも用意されており、仕様を選べる。店頭モデルのCPUはCore i5-4200U(1.6GHz)で、標準実装メモリは4GBだが、メモリは2GBオンボード+2GB SO-DIMMという構成になっており、2GB SO-DIMMの代わりに8GB SO-DIMMを装着することで、最大10GBまでメモリを増設できる。
ストレージは、500GBハイブリッドHDDが採用されている。ハイブリッドHDDは、HDDに小容量のNANDフラッシュメモリを組み合わせ、NANDフラッシュをキャッシュとして利用することで、アクセス性能を高めた製品である。ストレージ性能は純粋なSSDには及ばないが、それ以外の基本スペックは、2013年冬モデルとして登場したほかのUltrabookとほぼ同等といえるだろう。OSは、Windows 8.1 64bit版が導入されている。
フルHDの約1.8倍の情報量を表示できるWQHD IGZO液晶を搭載
LIFEBOOK SH90/Mのウリの1つが、ディスプレイに13.3型IGZO液晶を採用していることだ。IGZO液晶はシャープが開発したもので、シリコン半導体ではなく、インジウムとガリウム、亜鉛、酸素から構成される酸化物半導体を利用していることが特徴だ。IGZOは、シリコンに比べて、電子移動度が高いというメリットがあり、TFTの小型化が可能になる。そのため、液晶の高精細化が容易になる。さらに、リーク電流も小さいため、省電力性能も高い。富士通は、IGZO液晶の採用に積極的であり、夏モデルのLIFEBOOK UH90/Lでも、14型IGZO液晶を採用していた。
LIFEBOOK SH90/Mに搭載されている13.3型IGZO液晶の解像度は、2,560×1,440ドットのWQHDであり、フルHD(1,920×1,080ドット)の約1.8倍の情報量を一度に表示可能。発色やコントラストも優秀だ。液晶には、10点マルチタッチ対応のタッチパネルが搭載されており、Windows 8.1の新UIも快適に利用できる。高解像度液晶を活かすためのユーティリティとして「ぴったりウインドウ」がプリインストールされている。ぴったりウインドウを使えば、デスクトップ画面をいくつかの領域に分割し、ウィンドウを整列させることができる。
液晶上部には、約92万画素のWebカメラが搭載されており、ビデオチャットなどに利用可能だ。
光学ドライブや増設用バッテリなどを装着できるモバイル・マルチベイを搭載
LIFEBOOK SH90/Mは、DVDスーパーマルチドライブを標準搭載しているが、一般的な光学ドライブ搭載ノートPCとは異なり、DVDスーパーマルチドライブを着脱できることが特徴だ。DVDスーパーマルチドライブは、本体右側面に用意されているモバイル・マルチベイに装着されており、工具を使わずに簡単に着脱できるようになっている。
モバイル・マルチベイは、富士通のモバイルノートPCでは以前から採用されており、TPOに応じて、マシンの構成を変えられることが魅力だ。例えば、光学ドライブが不要なら、光学ドライブを外して、付属のモバイル・マルチベイ用カバーを装着することで、重量を110gほど軽減できる。また、バッテリ駆動時間を延ばしたいなら、オプションの増設用内蔵バッテリユニットを装着すればよいし、ストレージ容量を増やしたいのなら、オプションの増設用内蔵ハードディスクユニットを装着すればよい。さらに、モバイルプロジェクターユニットを装着すれば、映像をスクリーンに出力することが可能なので、プレゼンテーションなどに便利だ。
指紋センサーを搭載し、高いセキュリティを実現
キーボードは全86キーで、キーピッチは約19mm、キーストロークは約1mmである。ストロークがやや短い感はあるが、キーの配置は標準的であり、キーピッチが狭くなってる部分もないので、快適にタイピングが可能だ。
ポインティングデバイスとしては、タッチパッドが採用されている。タッチパッドは、Ultrabookでよく見られるパッドとボタンが一体化したタイプだ。パームレスト右側にスライド式の指紋センサーが搭載されていることも魅力だ。指先を滑らせるだけで、指紋認証によるログイン操作などが可能であり、セキュリティを重視する業務用途にも向いている。
インターフェイスも充実しており、USB 3.0×3とHDMI出力、SDカードスロットに加えて、アナログRGB出力やGigabit Ethernetも搭載する。USB 3.0ポートのうち1つは、本体の電源がオフでも給電可能な、電源オフUSB充電機能付きである。
会議や学会発表などで、用意されているプロジェクターにPCを繋ぐ場合、アナログRGBしか対応していないこともある。Ultrabookでは、薄さを重視してアナログRGBやGigabit Ethernetといった、コネクタの厚みが大きいインターフェイスを搭載しない製品が多いが、きちんとこうしたインターフェイスを備えていることも評価できる。
ワイヤレス機能としては、IEEE 802.11a/b/g/n準拠の無線LAN機能とBluetooth 4.0+HSをサポートする。
6セルバッテリ搭載で公称約21.1時間の長時間駆動を実現
LIFEBOOK SH90/Mは、バッテリ駆動時間が長いこともセールスポイントの1つだ。バッテリは、前述したように交換可能であり、10.8V/7,100mAhの6セル仕様である。公称バッテリ駆動時間は、約21.1時間とトップクラスであり、モバイル・マルチベイにオプションの増設用内蔵バッテリユニットを装着すれば、公称約28.1時間もの長時間駆動が可能になる。付属のACアダプタは、スティック状で重量も軽いので、携帯しやすい。
参考のために、ベンチマークテストを行なってみた。利用したベンチマークソフトは、「PCMark05」、「PCMark Vantage」、「PCMark 7 v1.4.0」、「3DMark03」、「3DMark」、「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」、「FINAL FANTASY XIV 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」、「ストリーム出力テスト for 地デジ」、「CrystalDiskMark 2.2」である。比較用として、ソニー「VAIO Fit 13A」、パナソニック「Let'snote LX3」、ソニー「VAIO Pro 11」、ソニー「VAIO Duo 13」のスコアも掲載した。
結果は下の表に示したとおりで、CPUやグラフィック周りのスコアは、ほかのCore i5-4200U搭載機と比べても高いが、ストレージ性能がSSDを搭載した製品に比べて低いため、総合パフォーマンスはやや奮わない。CrystalDiskMark 2.2の結果を見ると、シーケンシャルリードが異様に遅いことが気になる。通常の2.5インチHDDでも、シーケンシャルリードは90MB/sec程度は出るので、この結果はあまり信頼しない方がよさそうだ。
LIFEBOOK SH90/M | VAIO Fit 13A | Let'snote LX3 | VAIO Pro 11 | VAIO Duo 13 | |
---|---|---|---|---|---|
CPU | Core i5-4200U (1.6GHz) | Core i7-4500U (1.8GHz) | Core i7-4500U (1.8GHz) | Core i5-4200U (1.6GHz) | Core i5-4200U (1.6GHz) |
ビデオチップ | Intel HD Graphics 4400 | Intel HD Graphics 4400 | Intel HD Graphics 4400 | Intel HD Graphics 4400 | Intel HD Graphics 4400 |
PCMark05 | |||||
PCMarks | N/A | N/A | N/A | N/A | N/A |
CPU Score | 8011 | 8815 | 9379 | 7864 | 8203 |
Memory Score | 7555 | 8190 | 8599 | 9978 | 7302 |
Graphics Score | 2473 | 2057 | 3302 | 2144 | 2590 |
HDD Score | 17590 | 70848 | 56040 | 55122 | 36043 |
PCMark Vantage 64bit | |||||
PCMark Score | 8948 | 12144 | 15540 | 12881 | 13238 |
Memories Score | 5807 | 6976 | 8493 | 7106 | 7758 |
TV and Movie Score | Failed | Failed | Failed | Failed | Failed |
Gaming Score | 7493 | 8465 | 11030 | 7025 | 10782 |
Music Score | 9561 | 13560 | 18077 | 15744 | 13969 |
Communications Score | 12027 | 12633 | 17972 | 14934 | 15330 |
Productivity Score | 7658 | 16852 | 21503 | 16209 | 17391 |
HDD Score | 17879 | 55788 | 47907 | 50784 | 40338 |
PCMark Vantage 32bit | |||||
PCMark Score | 8634 | 11065 | 14111 | 11944 | 12335 |
Memories Score | 5593 | 6919 | 8104 | 6994 | 7517 |
TV and Movie Score | Failed | Failed | Failed | Failed | Failed |
Gaming Score | 6643 | 7220 | 9699 | 7554 | 9670 |
Music Score | 9670 | 10658 | 16543 | 14962 | 13198 |
Communications Score | 10649 | 11154 | 16043 | 13508 | 11095 |
Productivity Score | 7355 | 15146 | 19719 | 15325 | 15487 |
HDD Score | 18451 | 55496 | 48117 | 51157 | 40919 |
PCMark 7 v1.4.0 | |||||
PCMark score | 3715 | 計測不可 | 5310 | 4016 | 4468 |
Lightweight score | 2154 | 計測不可 | 5789 | 4892 | 3145 |
Productivity score | 1568 | 計測不可 | 4724 | 3835 | 2418 |
Entertainment score | 3039 | 計測不可 | 3816 | 2645 | 3316 |
Creativity score | 6946 | 計測不可 | 9986 | 8312 | 8039 |
Computation score | 13990 | 計測不可 | 16901 | 9970 | 11219 |
System storage score | 3243 | 計測不可 | 5491 | 5317 | 5075 |
Raw system storage score | 1276 | 計測不可 | 6121 | 5679 | 4387 |
3DMark03 | |||||
1,024×768ドット32ビットカラー(3Dmarks) | 14128 | 計測不可 | 12856 | 10128 | 8677 |
CPU Score | 2389 | 計測不可 | 2072 | 1655 | 1560 |
3DMark | |||||
Ice Storm | 33724 | 17950 | 44155 | 27312 | 15150 |
Cloud Gate | 4113 | 2040 | 4900 | 3461 | 4399 |
Fire Strike | 601 | 202 | 721 | 469 | 654 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3 | |||||
HIGH | 計測不可 | 7677 | 7598 | 6732 | 6397 |
LOW | 計測不可 | 10121 | 10899 | 9938 | 8882 |
FINAL FANTASY XIV 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編 | |||||
1,280×720ドット 最高品質 | 1480 | 1325 | 1580 | 未計測 | 未計測 |
1,280×720ドット 高品質(デスクトップPC) | 1535 | 1191 | 1598 | 未計測 | 未計測 |
1,280×720ドット 高品質(ノートPC) | 2172 | 1793 | 1894 | 未計測 | 未計測 |
1,280×720ドット 標準品質(デスクトップPC) | 3254 | 1597 | 3350 | 未計測 | 未計測 |
1,280×720ドット 標準品質(ノートPC) | 3243 | 1677 | 3279 | 未計測 | 未計測 |
ストリーム出力テスト for 地デジ | |||||
DP | 100 | 99.97 | 100 | 99.97 | 99.97 |
HP | 100 | 100 | 100 | 100 | 99.97 |
SP/LP | 99.97 | 100 | 100 | 99.97 | 99.97 |
LLP | 100 | 100 | 100 | 100 | 99.97 |
DP(CPU負荷) | 14 | 16 | 42 | 12 | 21 |
HP(CPU負荷) | 2 | 4 | 34 | 6 | 15 |
SP/LP(CPU負荷) | 5 | 2 | 28 | 4 | 10 |
LLP(CPU負荷) | 2 | 1 | 27 | 3 | 7 |
CrystalDiskMark 2.2 | |||||
シーケンシャルリード | 35.19MB/sec | 979.3MB/sec | 513.8MB/sec | 481.2MB/sec | 477.9MB/sec |
シーケンシャルライト | 121.1MB/sec | 828.6MB/sec | 455.1MB/sec | 139.3MB/sec | 134.3MB/sec |
512Kランダムリード | 35.11MB/sec | 617.1MB/sec | 454.6MB/sec | 419.4MB/sec | 418.7MB/sec |
512Kランダムライト | 83.74MB/sec | 763.5MB/sec | 444.9MB/sec | 140.7MB/sec | 132.4MB/sec |
4Kランダムリード | 0.564MB/sec | 30.14MB/sec | 24.57MB/sec | 33.36MB/sec | 22.47MB/sec |
4Kランダムライト | 0.773MB/sec | 80.04MB/sec | 56.09MB/sec | 99.30MB/sec | 48.69MB/sec |
BBench | |||||
標準バッテリ | 8時間59分 | 7時間45分 | 19時間16分 | 8時間5分 | 12時間58分 |
標準バッテリ+シートバッテリ | 未計測 | なし | なし | 未計測 | なし |
また、バッテリベンチマークソフトの「BBench」(海人氏作) を利用し、1分ごとに無線LAN経由でのWebアクセス、10秒ごとにキー入力を行なう設定でバッテリ駆動時間を計測したところ、8時間59分の駆動が可能であった(電源プランは「バランス」、液晶輝度は「中」)。公称駆動時間に比べると半分以下だが、無線LANをオフにしたり、液晶輝度をさらに下げれば、駆動時間は延びるだろう。
なお、この駆動時間はDVDスーパーマルチドライブを外して、モバイル・マルチベイ用カバーを装着したときの結果であり、DVDスーパーマルチドライブ装着時に同条件で計測したところ、駆動時間は8時間17分となった。公称駆動時間が約21.1時間ということで、もう少し持つかと期待していたのだが、無線LAN常時オンで9時間持つのであれば、1日たっぷり使うことができるだろう。オプションの増設用内蔵バッテリユニットを装着すれば、同条件でも12時間程度は持ちそうだ。
高解像度液晶と光学ドライブを備えたモバイルノートPCが欲しい人に最適
LIFEBOOK SH90/Mは、最近流行りの変形機構や合体/分離機構を備えた2-in-1タイプの製品ではなく、昔からあるシンプルなクラムシェルタイプのモバイルノートPCであるが、WQHD解像度のIGZO液晶やモバイル・マルチベイを採用していることがウリだ。
特に、モバイル・マルチベイは、以前は他社のマシンでも似たような機能を備えた製品があったが、現行機種ではほとんど見かけない。薄さを重視したUltrabookは、光学ドライブを搭載していない製品がほとんどなので、光学ドライブ搭載のモバイルノートPCが欲しいという人には最適な製品である。
派手な機能を備えているわけではないが、質実剛健なノートPCであり、業務利用で使いたいという人にもお勧めできる。