Hothotレビュー
ASUS「TransBook Trio」
~WindowsとAndroidを切り替えて使える3-in-1ノート
(2013/11/14 06:00)
ASUSは、液晶部着脱式ノートPC「TransBook」シリーズの新モデル「TransBook Trio」を発売した。見た目こそ、これまでのTransBookシリーズと大きく変わらないが、キーボード部にWindows PCシステム、液晶部にAndroidシステムを搭載し、Windows 8とAndroidの両方が利用可能という、独特の仕様を実現している点が最大の特徴となる。価格はオープンプライスで、実売価格は139,800円前後。
Windows 8とAndroidが同時に動作する
ASUS得意のTransBookシリーズ新モデルとなる「TransBook Trio」には、一般的な液晶着脱式ノートPCとは異なる大きな特徴がある。それは、液晶部にAndroidシステム、キーボード部にWindows PCシステムを内蔵することで、液晶部単体でAndroidタブレット、液晶部とキーボードをドッキングさせるとWindows 8 PCとAndroidを切り替えて利用できるという点だ。加えて、液晶部を外した状態でもWindows PCシステムは動作するようになっており、別途外部液晶ディスプレイに接続することで、液晶部のAndroidシステムとWindows 8を独立して利用することも可能。つまり、液晶部単体、キーボード部単体、ドッキング状態と3つのパターンで利用できるのだ。そのためASUSは、TransBook Trioを3-in-1 PCと呼んでいる。
このデュアル仕様は、TransBook Trioが初ではない。ASUSが5月に発売したオールインワンPC「TransAiO P1801」は、着脱可能な液晶部にAndroidシステム、ベース部分にWindows PCシステムを内蔵し、Windows 8とAndroidを切り替えて利用したり、液晶部単体で大型Androidタブレットとして利用できるようになっていた。だが、ノートPCでこの仕様を実現したのは、TransBook Trioが初となる。
それぞれのシステムは独立して動作するため、Windows 8とAndroidを同時に動作させつつ、双方が干渉することなく任意に切り替えて利用可能。例えば、Windows 8で動画エンコードなどの処理の重い作業を実行している状態で、Androidに切り替えてWebアクセス、といったことが簡単に行なえるし、Androidの動作によってWindows 8の処理能力が落ちるといったこともない。独立したノートPCとAndroidタブレットを使い分けるような感覚だが、1つの液晶画面で双方が利用できるため、いちいち機器を持ちかえる必要がなく、作業効率が落ちることもない。
ドッキング時のWindows 8とAndroidとの切り替えは、キーボードに用意されている切り替えキーを押すだけだ。切り替わりは瞬時で、ストレスがない。キーボードとタッチパッドは、Windows 8だけでなくAndroid側でも利用でき、こちらも同時に切り替わる。ちなみに、Androidシステムがシャットダウンしている状態で切り替えキーを押した場合には、Androidシステムの起動を待って切り替わることになる。
液晶部は、ヒンジ中央に用意されているボタンを押しながら引き抜くことで取り外せる。Androidシステムが起動している状態では、液晶部を切り離すと自動的に画面がAndroidシステムに切り替わる。液晶部とキーボード部双方にバッテリを内蔵しているため、ACアダプタを接続しない状態で切り離しても、双方とも問題なく動作する。
切り離された液晶部からはAndroidのみが利用可能で、Windows 8側にはアクセスできなくなる。別途リモートデスクトップアプリを活用すれば、この状態でもWindows 8の遠隔操作が可能になるが、標準ではリモートデスクトップアプリはインストールされていない。その間もキーボード側のWindpws 8システムはそのまま動作しているので、再度液晶部をドッキングさせれば、Windows 8とAndroidを切り替えて利用可能となる。液晶部の取り外しは、それほど大きな力を必要とせずスムーズだ。それに対し、装着時にはヒンジに用意されている2本のガイドを、液晶部底面の溝に合わせる形で押し込んで装着する。強い力は不要だが、ガイドの位置合わせが少々やりにくい印象だった。
サイズは一般的な液晶着脱式ノート同等だが重量はやや重い
仕様は非常に特異ではあるが、製品の外観は従来のTransBookシリーズと大きく変わらない。本体サイズは、フットプリントが液晶部、キーボード部とも304.92×193.78mm(幅×奥行き)となっている。11.6型液晶搭載のノートPCやタブレットとしてほぼ標準的だ。
高さは、液晶部が9.7mm、キーボード部が13.4mmとなっている。液晶部は、Androidタブレットとしてなかなかの薄さだ。ドッキング時の高さは、双方を合わせた高さよりもわずかに厚い23.6mmとなる。数字的にはUltrabookの範疇を超えるが、この程度であれば厚いという印象は少ない。
重量は、公称では液晶部が約700g、キーボード部が約1kgとされている。実測では、液晶部が712.5g、キーボード部が990gであった。液晶部をAndroidタブレットとして考えるとやや重いが、液晶が11.6型ということを考えると、納得できる範囲内だろう。
ただ、双方を合わせた重量は、公称が約1.7kg、実測では1,702gとなる。これは、モバイルノートとして考えるとかなりぎりぎりの重量だ。実際に持ってみてもずっしり重い。軽量なUltrabookが数多く登場していることを考えると、この重さは少々不利と言えそうだ。
フルHD対応の11.6型IPS液晶を採用
液晶は、1,920×1,080ドット表示対応の11.6型パネルを採用。パネルの方式はIPS方式で視野角が広く、視点を移動させても明るさや色合いの変化は少ない。液晶単体でAndroidタブレットとして利用する場合でも、どの角度からでも見やすいのは嬉しい。発色も鮮やかで、このクラスの液晶としては十分満足でき表示品質が備わっていると感じた。ただし、液晶表面は光沢処理で、外光の映り込みは激しい。
液晶表面には、10点マルチタッチ対応の静電容量方式タッチパネルを配置。Androidはもちろん、Windows 8のタッチ操作も快適に行なえた。ただし、タッチ操作を多用していると指紋の痕が気になるようになるため、定期的に拭う必要がある。
キーボードの使い勝手は良好
キーボードは、キーの間隔が開いたアイソレーションタイプ。キーピッチは縦がわずかに狭いものの、横は約18.5mm(実測)あり、余裕を持ってタッチタイプが可能。ストロークはUltrabookの薄型キーボード同等以上の深さがあり、しっかりとしたクリック感があるため打鍵感は良好。変則的な配列も少なく、全体的には扱いやすい。ただし、ファンクションキーの列の右端のキーが電源ボタンとなっており、[Back Space]キーを押す時など、間違えて押してしまう場合がある。
ポインティングデバイスは、クリックボタン一体型のタッチパッドを採用。面積は11.6型液晶搭載ノートとしては十分に広く、ジェスチャー操作にも対応しており操作性は申し分ない。タッチパネルも搭載しているため、Windows 8の操作はタッチパネルとタッチパッドの併用で十分に軽快だ。
Windows PCはHaswell、AndroidはCrover Trail+
TransBook Trioでは、Windows PCとAndroid双方のシステムが搭載されているため、それぞれのスペックを確認していこう。
まず、キーボード側に搭載しているWindows PC側のスペックだ。CPUはCore i7-4500U、メインメモリはDDR3L-1600を4GB搭載。性能的には標準的なUltrabookとほぼ同等といえる。ストレージは500GBのHDDを採用。無線機能はIEEE 802.11ac(ドラフト)/a/b/g/n準拠の無線LANとBluetooth 4.0を標準搭載。OSはWindows 8(64bit)を採用。
キーボード側の外部接続ポートは、左側面にヘッドフォン/マイク共用ジャックとUSB 3.0ポート、右側面にMicro HDMI出力とMini DisplayPort、USB 3.0ポート、電源コネクタをそれぞれ備える。Mini DisplayPortからは、最大2,560×1,440ドットの出力が可能だ。有線LANが用意されない点は少々残念だ。
次にAndroid側のスペックだ。CPUはCrover Trail+ことAtom Z2560を採用。メインメモリはLPDDR2-1066を2GB搭載。ストレージは16GBのeMMCを採用。無線機能は、IEEE 802.11a/b/g/n準拠の無線LANとBluetooth 4.0を標準搭載。センサー類は、電子コンパス、加速度センサー、ジャイロスコープを搭載。OSはAndroid 4.2.2を採用。
外部接続ポートは、下部側面に集約されており、ヘッドフォン/マイク共用ジャックとキーボード側との接続用ポート、Micro USB 2.0ポート、microSDカードスロットを備える。
TransBook Trioは、キーボード部と液晶部双方にバッテリが搭載されており、それぞれ独立して充電が可能。製品にもキーボード部と液晶部それぞれ単体で充電できるよう、ACアダプタを2個同梱している。ドッキング時には液晶部のバッテリはキーボード側から充電される。
WindowsとAndroidは完全に独立して動作するわけではなく、双方の連携もきちんと考慮されており、ドッキング時にはWindows 8のエクスプローラーからAndroidの内蔵ストレージにアクセスできるようになっている。Windows 8で作成したOfficeファイルをAndroid側に転送し、液晶部のみを持って行き会議やプレゼンをこなす、といった活用も簡単だ。
HDDのためWindows 8の動作はやや重く感じる
ベンチマークもWindowsとAndroidでそれぞれ計測した。
まず、Windows 8のベンチマークテストの結果を見ていこう。利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark 7 v1.4.0」、「PCMark Vantage Build 1.2.0」、「PCMark05 Build 1.2.0 1901」、「3DMark Professional Edition v1.1.0」、「3DMark06 Build 1.1.0 1901」、カプコンの「モンスターハンターフロンティアベンチマーク【大討伐】」の6種類。比較用として、日本HPの「HP ENVY 14 TouchSmart 14-k023TX Sleekbook」と、NECの「LaVie Z PC-LZ750NSB」の結果もあわせて掲載しておく。
結果を見ると、PCMark7やPCMark Vantageのスコアがかなり低くなっていることがわかる。これは、ストレージが500GB HDDでアクセス速度がかなり遅いためだ。PCMark05から分わかるように、CPUやメモリのスコアは申し分ない。しかし、最近ではUltrabookでもSSDを採用する製品が多くなっていることもあり、実際に使っていると、かなり遅く感じてしまう。特にOSやアプリの起動はかなり待たされる。コストと容量からHDDを採用したものと思われるが、できればハイブリッドHDDを採用してもらいたかった。
TransBook Trio | HP ENVY 14 TouchSmart 14-k023TX Sleekbook | LaVie Z PC-LZ750NSB | ||
---|---|---|---|---|
CPU | Core i7-4500U (1.80/3.00GHz) | Core i5-4200U (1.60/2.60GHz) | Core i7-4500U (1.80/3.00GHz) | |
チップセット | ― | ― | ― | |
ビデオチップ | Inte HD Graphics 4400 | Inte HD Graphics 4400/GeForce GT 740M | Inte HD Graphics 4400 | |
メモリ | PC3-12800 DDR3 SDRAM 4GB | PC3L-12800 DDR3L SDRAM 8GB | PC3L-12800 DDR3L SDRAM 4GB | |
ストレージ | 500GB HDD | 750GB HDD + 24GB SSD Hybrid | 256GB SSD | |
OS | Windows 8 | Windows 8 | Windows 8.1 | |
PCMark 7 v1.4.0 | ||||
PCMark score | 2958 | 4096 | 4713 | |
Lightweight score | 1442 | 2723 | 5108 | |
Productivity score | 954 | 2151 | 4258 | |
Entertainment score | 2942 | 2969 | 3309 | |
Creativity score | 5896 | 7428 | 9077 | |
Computation score | 16247 | 12642 | 14772 | |
System storage score | 1523 | 4377 | 5329 | |
Raw system storage score | 330 | 2193 | 5183 | |
PCMark Vantage x64 Build 1.2.0 | ||||
PCMark Suite | 6195 | 10927 | 13177 | |
Memories Suite | 4402 | 5344 | 7185 | |
TV and Movies Suite | N/A | N/A | N/A | |
Gaming Suite | 4969 | 9310 | 9042 | |
Music Suite | 5298 | 12196 | 15519 | |
Communications Suite | 9329 | 13128 | 17266 | |
Productivity Suite | 3912 | 14137 | 16765 | |
HDD Test Suite | 2890 | 17109 | 44003 | |
PCMark05 Build 1.2.0 | ||||
PCMark Score | N/A | N/A | N/A | |
CPU Score | 9403 | 8103 | 9468 | |
Memory Score | 8812 | 6098 | 7558 | |
Graphics Score | 3263 | 3058 | 3107 | |
HDD Score | 5649 | 27405 | 43741 | |
3DMark Professional Edition v1.1.0 | ||||
Ice Storm | 37620 | 14035 | 24797 | |
Graphics Score | 40614 | 13244 | 24860 | |
Physics Score | 29906 | 17749 | 24579 | |
Cloud Gate | 4637 | 4573 | 3958 | |
Graphics Score | 5809 | 6190 | 4674 | |
Physics Score | 2718 | 2389 | 2578 | |
Fire Strike | 656 | 986 | 552 | |
Graphics Score | 717 | 1080 | 593 | |
Physics Score | 3514 | 3285 | 3677 | |
3DMark06 Build 1.1.0 0906a | ||||
3DMark Score | 6019 | 8991 | 4798 | |
SM2.0 Score | 2096 | 3872 | 1504 | |
HDR/SM3.0 Score | 2505 | 3548 | 2049 | |
CPU Score | 3276 | 3065 | 3534 | |
モンスターハンターフロンティアベンチマーク【大討伐】 | ||||
1,280×720ドット | 2819 | 3992 | 2256 |
次にAndroid側のベンチマーク結果だ。こちらは、「AnTuTu Benchmark 4.0.4」と「3DMark」の2種類のベンチマークソフトを利用。比較用として、ソニーの「Xperia Tablet Z Wi-Fi」の結果も加えてある。
結果を見ると、こちらはスペック相応の結果となっている。スコアは、Snapdragon S4 Pro(1.5GHz)搭載のXperia Tablet Zに劣っているが、実際に使っていて動作の重さを感じる場面はなく、十分快適に利用できると考えていいだろう。
TransBook Trio | Xperia Tablet Z | |
---|---|---|
OS Version | 4.2.2 | 4.1.1 |
AnTuTu Benchmark 4.0.4 | ||
総合 | 17069 | 20242 |
UX Multitask | 2849 | 3732 |
UX Dalvik | 1257 | 1772 |
CPU integer | 1361 | 2185 |
CPU float-point | 1512 | 2072 |
RAM Operation | 1126 | 1024 |
RAM Speed | 1819 | 939 |
GPU 2D graphics | 1294 | 1484 |
GPU 3D graphics | 4223 | 5243 |
IO Storage I/O | 1095 | 1158 |
IO Database I/O | 532 | 633 |
3DMark | ||
Ice Storm score | 3378 | 6345 |
Graphics score | 2904 | 5701 |
Physics score | 7877 | 10503 |
Graphics test 1(FPS) | 16.6 | 29 |
Graphics test 2(FPS) | 10.2 | 21.6 |
Physics test(FPS) | 25 | 33.4 |
次は、バッテリ駆動時間のチェックだ。TransBook Trioでは、キーボード部と液晶部双方にバッテリが搭載され、それぞれ単独で利用可能。とはいえ、キーボード部単体では画面表示が不可能なので、Windows 8は液晶部をドッキングさせて利用するのが基本となる。そこで、Windows 8での駆動時間はキーボード部と液晶部をドッキングさせた状態で計測。Androidは液晶部単体と、キーボード部をドッキングさせWindowsシステムをシャットダウンした状態の2パターンで計測した。
Windows 8ではWindowsの省電力設定を「省電力」に設定し、バックライト輝度を40%、無線LANを有効にした状態で、BBenchでキー入力とWeb巡回にチェックを入れて計測。Androidでは、液晶輝度を50%、無線LANを有効にした状態で、内蔵ストレージに保存したフルHDのH.264動画(映像ビットレート4Mbps)を「MX動画プレーヤー」を利用して連続再生させて計測した。
結果は、Windows 8利用時が6時間14分、液晶部単体でのAndroidが約4時間50分、ドッキング時のAndroidが約11時間38分であった。Windows 8時の駆動時間は、標準的なUltrabookと大きく変わらない。できればもう少し駆動時間が長ければ嬉しいが、まずまずといったところだ。それに対し、液晶単体でのAndroidの駆動時間はかなり短い。液晶が一般的なAndroidタブレットよりも大きく、キーボード部とドッキングさせると11時間以上と長時間の駆動が可能となるとはいえ、できれば単体で8時間前後の駆動時間は欲しいところ。全体的に、バッテリ駆動時間はもう少し頑張ってもらいたいように思う。
WindowsノートとAndroidタブレットの両方が欲しい人におすすめ
TransBook Trioは、見た目こそ一般的な液晶着脱式ノートPCだが、液晶側にAndroidシステムを搭載することで、ノートPCとしてもAndroidタブレットとしても、外部液晶を用意してデスクトップPCとしても活用できるというように、他とは異なる活用方が可能という点が大きな魅力と言える。スペック面でも、Windows 8、Androidとも十分満足できるレベルという点も嬉しい。
細部を見ると、WindowsシステムのストレージがHDDとなっており、アクセス速度の遅さからやや動作が重く感じる点や、バッテリ駆動時間がやや短い点など、気になる部分もある。それでも製品としての完成度は悪くなく、単なるキワモノではなく、しっかりと使える製品に仕上がっている。
Windows 8ノートPCとAndroidタブレットを同時に持ち歩くことを考えると、重量も妥協できる範囲内。もしこれからWindows 8ノートPCとAndroidタブレットを揃えたいと考えているなら、TransBook Trioは十分考慮に値する製品と言える。