~キーボード搭載のWindows 7スレートPC |
富士通は、OSにWindows 7を採用するスレートPCの新モデル「LIFEBOOK TH40/D」を発売した。一般的なスレートPCと異なり、スライド式のキーボードが搭載され、ノートPCと同等の使い方も可能となっている点が大きな特徴だ。
●キーボード搭載ながら、薄形ボディを実現LIFEBOOK TH40/D(以下、TH40/D)は、見た目はいわゆるピュアタブレットスタイルのスレートPCだ。しかし、液晶部分を後方にスライドさせつつ引きあげると、下部からキーボードが現れ、液晶部を立てることによって、ノートPCスタイルで利用できるという点が大きな特徴となっている。
液晶を180度回転させ、クラムシェルスタイルとピュアタブレットスタイル双方で利用できる、いわゆるタブレットPCでは、液晶の回転機構などを搭載する必要があるため、どうしても薄形にするのが難しい。それに対しTH40/Dは、高さが17.4㎜と、キーボードを搭載しないスレートPCとほぼ同等の薄さを実現している。この薄さを実現する最大の要因は、キーボードの収納方式にある。
冒頭でも紹介したように、TH40/Dのキーボードと液晶パネル面は、スライドしながら引きあげるという方法によって開いたり収納できるようになっている。キーボードと液晶パネル面を開いて機構を確認してみると、幅の狭い薄い板を利用したヒンジで双方がつなげられているだけということが分かる。ヒンジは、固定部が前後に移動したり、長さが調節できるようにはなっておらず、キーボードを開いた状態での液晶パネル面の角度は1カ所固定。それでも、キーボードを開いた状態では、ちょうどいい角度に液晶パネル面が固定され、使いづらさを感じることはない。また、薄く幅の狭い板1枚で固定されているだけだが、キーボードを開いた状態では、液晶パネル面下部がキーボード上方の溝にはまるようになっており、ぐらつきや強度の弱さを感じることもほとんどない。構造自体は単純だが、よく考えられていると感じた。
本体のフットプリントは、274×188mm(幅×奥行き)と、10.1型液晶を搭載するスレートPCとしてはやや大きい。同じ10.1型液晶を搭載するAndroidタブレット「MOTOROLA XOOM Wi-Fi TBi11M」と比較してみると、幅、奥行きともかなり大きいことがわかる。液晶サイズに比べ本体がやや大きく、液晶画面が小さく感じてしまう点は少々残念だ。本体重量は、カタログ値で約1.1kg、実測で1,007gだった。スレートPCとしては特別軽いというわけではないが、実際に手にしても重いと感じるほどではなく、常に持ち歩くことを考えても十分満足できる重量だ。
本体正面。高さは17.4mmと、キーボード搭載のスレートPCとしては圧倒的な薄さを実現 | 左側面。前方から後方まで、ほぼフラットな形状となっている |
背面。中央部に凹みが見えるが、ここが液晶部と本体部をつなぐヒンジだ | 右側面。中央部の溝から上部が液晶面、下部がキーボード搭載の本体部となる |
キーボードを開いた状態。液晶面下部がキーボード上部の溝に収まり、しっかりと固定される | キーボードを開いて側面から見た様子。奥のヒンジは液晶面中央部と本体部後方で固定されている。液晶面の細かな角度調節は行なえない | 薄く幅の狭い板状のヒンジを採用することで、キーボード搭載ながら薄いボディを実現 |
【動画】キーボードを開いている様子 |
フットプリントは、274×188mm(幅×奥行き)と、10.1型液晶搭載のスレートPCとしてはやや大きい | 同じ10.1型液晶を搭載するMOTOROLA XOOM(手前)より幅・奥行きとも一回り大きい | 本体重量は、実測で1,007gだった |
●やや窮屈だが実用的なキーボード
キーボードは、比較的コンパクトなものが採用されている。キートップは平面だが、いわゆるアイソレーションタイプではない。キーピッチは、横が約16.2mmで、縦は若干狭くなっている。小型のネットブックに搭載されているキーボードに近いと考えるとわかりやすいだろう。ストロークは約1.4mmとやや短く、タッチもやや軽めだ。筆者はやや手が大きいため、少々窮屈に感じたが、慣れればタッチタイプも十分に可能なレベル。このサイズに搭載されているキーボードとしては、十分実用的なものであると言っていいだろう。
ポインティングデバイスとしては、「指先ポインター」と呼ばれる、光学式のポインティングデバイスがスペースキーの右に用意されている。光学センサー上で指を動かすことでカーソル操作が行なえる。また、光学センサー自体を押すと左クリック、光学センサーの右のキーが右クリックとなる。この指先ポインターは、指を動かしながら押し込むという独特の操作となるため、やや使いづらさを感じてしまう。特に、ドラッグ操作はほぼ不可能に近い。個人的には、指先ポインターを利用するより、液晶画面を直接タップしたほうが操作しやすいと感じた。
また、指先ポインターが用意されているために、スペースキーが狭く、やや左に寄った位置に配置されている。これも少々使いづらく感じる。もちろん、ノートPCの形状で利用する場合には、ポインティングデバイスは不可欠だが、TH40/Dは基本的にはタッチパネルを搭載するスレートPCなので、あえてポインティングデバイスを搭載しないという選択肢があっても良かったのではないだろうか。
●10.1型液晶を搭載
液晶パネルは、1,024×600ドット表示対応の10.1型ワイド液晶を採用している。バックライトはLEDで、輝度は特別高いというわけではないものの、利用上暗いと感じることはなかった。パネル表面は光沢処理が施されており、発色はまずまず鮮やかだが、外光の映り込みはやや気になる。また、視野角は狭く、特に上下の視野角がかなり狭く感じた。表示品質的には、低価格なノートPCやネットブックに搭載されるものに近いと言っていいだろう。
液晶パネル表面には、静電容量方式のタッチパネルを配置。マルチタッチにも対応しており、拡大/縮小や回転などのジェスチャー操作が可能。タッチでの操作性は軽快で、Webブラウザの利用や簡単なファイル操作などであれば、かなり快適だ。
1,024×600ドット表示対応の10.1型ワイド液晶を搭載。表面は光沢処理で発色は比較的鮮やかだが、映り込みと上下の視野角の狭さが気になる。バックライトはLEDで、明るさもまずまず | 液晶パネル上部中央には、約30万画素のWebカメラを搭載 |
●タブレット向けAtom、「Oak Trail」を採用
CPUはタブレット向けとして用意された最新の「Atom Z670(1.50GHz)」、チップセットはIntel SM35 Expressを採用。これは、コードネーム「Oak Trail」として開発された、タブレットデバイスなどをターゲットとした最新プラットフォームだ。CPUコアはシングルだが、Hyper-Threadingテクノロジー対応で2スレッド処理が可能。従来のAtom Zシリーズより省電力化および小型化が実現されている。また、統合グラフィックス機能は「Intel GMA 600」となり、1080pの動画がスムーズに再生できるよう動画再生能力が強化されている。メインメモリは、標準でPC2-6400対応DDR2 SDRAMが1GB搭載されているが、オンボード搭載のため増設は不可能だ。
内蔵ストレージは、容量120GBのHDD(4,200rpm)を搭載。デバイスマネージャで確認したところ、東芝製の1.8インチドライブ「MK1235GSL」が採用されていた。
側面のポート類は、左側面にHDMI出力とSDカードスロット、ヘッドフォン端子が、右側面にはUSB 2.0×2ポートと電源コネクタがそれぞれ用意されている。コネクタ類は全てフル形状だ。
左側面には、HDMI出力とSDカードスロット、ヘッドフォン出力を用意。ヘッドフォン出力の横には音量調節ボタンがある | 右側面には、USB 2.0×2ポートと電源コネクタを用意。ポート類は全てフル形状だ |
本体底面。バッテリは内蔵で、メインメモリもオンボード搭載のため、底面にフタなどは用意されていない | 底面左右側面部にステレオスピーカーが搭載されている | 液晶面の左下には、各種インジケータとマイクを搭載 |
ACアダプタは小型・軽量のものが付属している | ACアダプタ自体は軽量だが、長めの電源ケーブルが付属していたため、総重量は実測314.5gとやや重かった |
●キーボードで快適入力が行なえるスレートPCを探している人にオススメ
では、ベンチマークテストの結果をチェックしていこう。利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark05 (Build 1.2.0)」と、HDBENCH.NETの「HDBENCH Ver3.40beta6」、スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」の3種類。また、比較用として、オンキヨーのスレートPC「TW317A7」と、ASUSTeK ComputerのEee PC T101MTの結果も掲載してある。
LIFEBOOK TH40/D | TW317A7 | Eee PC T101MT | |
---|---|---|---|
CPU | Atom Z670 (1.50GHz) | Atom N450 (1.66GHz) | Atom N450 (1.66GHz) |
ビデオチップ | Intel GMA 600 | Intel GMA 3150 | Intel GMA 3150 |
メモリ | 1GB | 2GB | 2GB |
OS | Windows 7 Home Premium SP1 | Windows 7 Home Premium | Windows 7 Home Premium |
PCMark05 Build 1.2.0 | |||
PCMark Score | 1126 | 1432 | 1617 |
CPU Score | 987 | 1204 | 1420 |
Memory Score | 1482 | 2140 | 2419 |
Graphics Score | 372 | 433 | 528 |
HDD Score | 2569 | 4957 | 4933 |
HDBENCH Ver3.40beta6 | |||
All | 25729 | 36998 | 41339 |
CPU:Integer | 74248 | 90180 | 96256 |
CPU:Float | 53912 | 63568 | 70057 |
MEMORY:Read | 44066 | 50162 | 55263 |
MEMORY:Write | 43577 | 50295 | 55660 |
MEMORY:Read&Write | 76029 | 88518 | 97660 |
VIDEO:Recitangle | 5196 | 7594 | 8142 |
VIDEO:Text | 2334 | 9186 | 3580 |
VIDEO:Ellipse | 2080 | 2316 | 3092 |
VIDEO:BitBlt | 86 | 77 | 182 |
VIDEO:DirectDraw | 3 | 13 | 14 |
DRIVE:Read | 32170 | 67590 | 64321 |
DRIVE:Write | 26249 | 36649 | 60735 |
DRIVE:RandomRead | 11474 | 36454 | 22475 |
DRIVE:RandomWrite | 13422 | 7749 | 24491 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3 | |||
LOW | 934 | 1125 | 1250 |
Windowsエクスペリエンスインデックス | |||
プロセッサ | 2.0 | 2.3 | 2.3 |
メモリ | 4.1 | 4.6 | 4.4 |
グラフィックス | 2.9 | 3.1 | 3.1 |
ゲーム用グラフィックス | 3.0 | 3.0 | 3.0 |
プライマリハードディスク | 4.4 | 5.2 | 5.7 |
結果を見ると、Atom N450を搭載するTW317A7やEee PC T202MTよりも、CPU自体の処理能力だけでなく、ほぼ全体的にパフォーマンスが劣っていることがわかる。ただ、Atom Z670は、Atom N450より動作クロックが低いため、これは順当な結果と言っていいだろう。また、Atom N450と比べて大幅に消費電力が低減されていることを考えると、省電力CPUながらこれだけのパフォーマンスを発揮しているという点は評価できる。
とはいえ、実際に利用してみると、さすがにかなり動作が重く感じてしまう。ソフトの起動だけでも、長時間待たされるという印象だ。ただ、これはシステムの処理能力が低いというよりも、メインメモリが1GBしか搭載されていないことのほうが大きく影響しているものと思われる。おそらく、メインメモリが2GB搭載されていれば、もう少し快適に利用できるはずなので、この点は少々残念。ちなみに、WordやExcelなどのOffice系のソフトは、起動後は快適に利用できた。
次に、バッテリ駆動時間のチェックだ。Windows 7の省電力設定を「省電力」に設定するとともに、バックライト輝度を40%に設定し、無線LANを有効にした状態で、BBenchを利用してキー入力とWeb巡回にチェックを入れて計測したところ、約4時間16分の駆動を確認した。TH40/Dでは、容量23Whのリチウムポリマーバッテリが本体に内蔵されているが、容量を考えるとかなり健闘していると言える。さすが省電力性に優れるOak Trailを採用しているだけのことはある。とはいえ、バッテリは交換できないので、できれば6時間以上の駆動時間を確保してもらいたかったように思う。
TH40/Dは、一般的なスレートPCと同等のサイズ、重量ながら、十分タッチタイプが可能なキーボードを搭載していることで、スレートPCの中でも操作性に優れる製品と言っていいだろう。もちろん、処理能力は低いため、一般的なモバイルPCのように、さまざまな作業を快適にこなすツールとして活用するのは少々厳しいだろう。ただ、通常はタッチオペレーションの専用ソフトを利用し、報告書などの文書を入力する場合にはキーボードを利用して快適に入力を行なうというように、処理能力を問わない特定ビジネス用途ではかなり魅力的な製品となるだろう。処理能力よりも、Windowsが動作し、Windows用ソフトが利用できるという点を重視する人や、キーボードを搭載するスレートPCを探している人にオススメしたい。
(2011年 9月 5日)
[Text by 平澤 寿康]