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GeForce RTX 4060搭載でこの小ささ、この低騒音、この見た目。「ACEMAGIC M1A TANK 03」

ACEMAGIC M1A TANK 03

 ACEMAGICの「M1A TANK 03」は、GPUにデスクトップ版GeForce RTX 4060を搭載しながら、本体サイズを166.7×166.9×160.9mmに抑えたキューブ型のゲーミングミニPCだ。直販価格は18万2,900円となっている。今回サンプル提供があったため、簡単にレビューを行なっていこう。

 いきなり本題から多少それるが、中国発で歴史神話「西遊記」を題材にしたアクションRPG「黒神話:悟空」が登場して以来、中国国内でGeForce RTX 40シリーズに対する需要が高まっている。というのも、このタイトルでリアルタイムレイトレーシングをオンにした場合、現実的な性能でプレイできるのはGeForce RTX 40シリーズだからだ。そのため、中国の中小規模のメーカーからGeForce RTX 40を搭載したPCの投入ラッシュが続いている。本製品もそのうちの1つだ。

高性能なデスクトップ向けGeForce RTX 4060を凝縮

 2024年現在、ディスクリートGPUを搭載したミニ/スリムPCといえば、MINISFORUMの「AtomMan G7 Ti」や「AtomMan G7 Pt」などが先行して発売されているため、それほど珍しくないかもしれない。しかしACEMAGICのM1A TANK 03はやや異色の存在だ。

 というのも、M1A TANK 03に搭載されているGeForce RTX 4060は、モバイル向けの「GeForce RTX 4060 Laptop GPU」ではなく、デスクトップ向けのGeForce RTX 4060であるからだ。しかし4060の場合は、上位モデルの4090とは異なり、そのスペック差は可変な消費電力とクロック程度であるため、もともと差が小さい。上位モデルと比べれば、コンパクトな筐体に収めやすいGPUと言える。

 ミニPCと言えば概ね12cm CDケース程度のフットプリント前後の筐体のPCを指すと思うが、M1A TANK 03はそれよりやや大きい16cm四方でキューブ型であるため、さすがにそれよりは大きい。しかし、消費電力(TGP)115WのGeForce RTX 4060(と消費電力枠が別のCore i7-12900H)がこの筐体に入っている!と言われると、なかなか頑張っていると言えよう。

約16cm四方のキューブ型筐体がかわいい
かなりアグレッシブなデザイン

 さてその筐体だが、これまでレビューしたどのミニPCよりもアグレッシブな外観だ。確かにMINISFORUMのAtomMan G7 Ptも側面にRGB LEDで浮かび上がるロゴや、蜘蛛の巣状の吸気口を備えるなどそこそこインパクトが強かったが、本機はそれをも上回る強烈なデザインだ。

 角を切り落としたキューブ型筐体から、アグレッシブな幾何学パターンの吸気口を始め、いかにも「戦車の装甲ッ!」な雰囲気を持つシルク印刷が入ったサイドパネル、「ゲーミング~!」と言わんばかりのRGB LEDイルミネーション、「回してくれ~!」と主張するかのようなモードダイヤルなど、独特の世界観を醸し出している。

 ちなみに前面のダイヤル中央の「TANK」の文字は、後述するモードに合わせて光る。その周囲のRGB LEDはアドレサブルで、専用ユーティリティから変更するのだが、発光パターンが5つ用意されているのみでシンプル。細かなカスタマイズはできない。

RGB LEDがダイヤルの周囲に内蔵されている
【表】ACEMAGIC M1A TANK 03仕様
CPUCore i9-12900H(14コア/20スレッド)
メモリDDR5-4800 32GB(16GB×2)
GPUGeForce RTX 4060
SSD1TB NVMe SSD(PCI Express 3.0)
OSWindows 11 Home
インターフェイスUSB4、USB 3.2 Gen 2×3、USB 3.2 Gen 1×3、DisplayPort 1.4、HDMI 2.0出力×2、2.5Gigabit Ethernet×2、Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2、SDカードスロット、音声入出力
本体サイズ166.7×166.9×160.9mm

インターフェイス、よし。静音性、よし

 特徴の1つ目が、本体前面に用意された大きなダイヤル。このダイヤルはCPUの動作モード切替で、PL1およびPL2の値がダイナミックに変化する。「サイレントモード」は25W/35W、「バランスモード」は35W/45W、「ビーストモード」は45W/65Wといった具合だ。切替時は周囲のRGB LEDがそれぞれブルー、グリーン、レッドに数秒間変わるので分かりやすい。

 なお、変化するのはCPUの消費電力のみで、GPUは一貫して115Wとなるため、ゲーム性能への影響は抑えられている(ただしマルチコアを駆使するゲームではもちろん影響がある)。また、MSRやMMIOに書き込まれているPL1/PL2の値は一貫して45W/65Wで変化がないようで、ほかで制御していると思われる。

ダイヤルは360度回転するのではなく、3段階で切り替える仕組み

 小型筐体に高性能CPU/GPUを押し込めていることもあって、静音性について気になる読者は少なくないだろう。しかし本機に関してはほぼ心配無用。いずれのモードもアイドル時の静音性はすこぶる高く、もはや無音に近い。ゲームなどの高負荷をかけるとようやくファンが回り出すのだが、ミニPCとしてはトップクラスだ。

 騒音の成分は風切り音がメインで、それもサイズの割には甲高い成分が抑えめ。静かな深夜でエアコンを切った部屋において聞いてみても、一般的なゲーミングデスクトップPCが動作しているレベルの騒音レベルに収まっていると感じた。

 製品説明によれば、CPUは2本、GPUは5本のヒートパイプが用いられており、前面と底面にファンが2基備わっている。また、側面にも 通気口から覗く限り、GPU側にはかなり大型のヒートシンクが装備されており、口径85mm前後のファンによるサイドフロークーラー推測される。このあたりが功を奏しているようだ。筆者の主観で述べると、AMD Advantage Premiumに準拠して高い静音性を実現しているAtomMan G7 Ptよりも静かだ。

本体上部はほぼ通気口だ
熱いエアーは背面から排出される

 これについて広報に尋ねたところ、「この高い静音性は開発としても予想外の結果だった」とのこと。いずれにしても、ゲームプレイ中に騒音で気が散ってしまうようなことはなく、ゲーミングPCとしては優秀な類だと言える。

 また本機はSSDやメモリの増設/換装が容易なのも特徴。向かって左側面はSO-DIMM、右側面はM.2のスロットが2基ずつ備えられており、後部のレバーを下げて前にスライドさせるだけで、ツールレスで開けられる。メモリに関しては2スロット埋まっているため、容量を増やそうとすると換装になるが、SSDに関してはM.2スロットが1基空いているため、ゲーム保存用など、ストレージを容易に拡張できるのはうれしい。

本体左側面
本体右側面
左側面パネルを開けるとメモリスロットにアクセスできる
右側面パネルはM.2スロットにアクセス可能。無線LANモジュールの手前1基が空いている

 インターフェイスだが、背面にUSB 3.2 Gen 2(向かって右下)、USB 3.2 Gen 1×3(残り3ポート)、2.5Gigabit Ethernet、HDMI 2.0出力×2、DisplayPort、音声入出力を装備。前面はUSB 3.2 Gen 2×2、USB4、SDカードスロット、音声入出力を備える。このほか、Wi-Fi 6およびBluetooth 5.2に対応する。

 やや残念なのは、ディスプレイ出力のいずれもCore i9-12900Hの内蔵GPU(Intel Xe Graphics)に接続されている点だ。このためGeForce RTX 4060が使えると言っても、PCI Expressバスを経由してレンダリングされた映像がIntel Xe Graphicsに戻ってきて、それを介して出力することになり、性能がスポイルされる。このような構成は特にハイリフレッシュレートを要求するゲームでは不利となる。

 また、デスクトップ向けGPUであるがゆえにNVIDIA Optimusが使えず、GeForce RTX 4060未使用時にオフになって省電力化を図る……といった仕組みもなく常時オンとなる。おそらくだが、背面のディスプレイ出力端子や、USB4で映像出力もサポートしようとした関係で、設計を煩雑にさせないためにこうなったものだと思われる。

本体背面のインターフェイスはUSB 3.2 Gen 2(写真のUSBポートのうち右下)、USB 3.2 Gen 1×3(残り3基)、HDMI 2.0出力×2、2.5Gigabit Ethernet、DisplayPort、音声入出力
本体前面はUSB 3.2 Gen 2×2(左右)、USB4、SDカードスロット

GeForce RTX 4060搭載ゲーミングPCとして性能は優秀

 最後にベンチマークを実施してみた。今回テストしたのはCPU性能を計測する「Cinebench R23」、PC全体の速度を計測する「PCMark 10」、3D関連性能を計測する「3DMark」。そしてゲームベンチとして、「ファイナルファンタジーXIV 黄金のレガシー ベンチマーク」、「黒神話:悟空」内のベンチマークを実施した。

 比較用として、Core i9-14900HXとGeForce RTX 4070 Laptop GPUを搭載したAtomMan G7 Ti、およびRyzen 9 7945HXとRadeon RX 7600M XTを搭載したAtomMan G7 Ptの結果を加えてある。いずれも省スペースのPCなので参考にはなるはずだ。

 結果としてはスペックに比例するようなものとなった。M1A TANK 03はCPUがCore i9-12900Hとクラスの中でもっとも古く、コア数が少なく不利である。このためCinebench R23のようなベンチはもちろんのこと、PC全体の性能を計測するPCMarkでも遅れを取っている。ただ、PCMarkでスコア6,000以上あれば、一般的な利用では大差がない。本機がほかに劣っているのは写真編集やレンダリングの類である。

Cinebench R23
PCMark 10
3DMark Speed Way
3DMark Steal Nomad
3DMark Steal Nomad Lite
3DMark Port Royal
3DMark Solar Bay
3DMark Time Spy
3DMark Night Raid
3DMark Fire Strike
3DMark Wild Life
ファイナルファンタジーXIV 黄金のレガシー ベンチマーク
黒神話:悟空 ベンチマーク

 一方で注目のゲーム周りのスコアだが、

  • 非レイトレーシングのゲームはRadeon RX 7600M XT全般が優勢
  • レイトレーシング対応だとGeForce RTX 40シリーズが優勢
  • さすがにGeForce RTX 4070 Laptop GPUよりは遅い
  • ゲームやるなら「バランス」か「ビースト」に設定すべし
  • 内蔵GPUを経由して出力するため、高リフレッシュレートタイトルには向かない(かも)

 とまとめることができる。1~3についてはもう分かりきっていることなので省略する。4番目はCore i9-12900HにとってTDP 25Wの足枷はかなりあると言ってよく、Cinebench R23においてシングルコアの性能までも落ちていることが、ゲーム性能に悪影響をおよぼしていることを示している。ゲーム中の主なノイズ源はCPUファンではなくGPUファンなので、バランス以上に設定しない理由はないだろう。

 5番目については、3DMarkの中でも特に軽量ベンチマークであるNight Raidでは顕著で、直にGPUから出力しているAtomMan G7 Tiの半分程度のスコアにとどまっている。一応、テスト中のフレームレート的には300fpsに達しているので、ほとんどの環境ではオーバーキルと言えるのだが、タイトルによってはクリティカルになるかもしれない。

 よって、eスポーツのような絶対的なゲーム性能を求めるユーザーではなく、カジュアルな形で最新AAAゲームタイトルを、比較的高いグラフィックス設定でプレイしたいユーザー向けの製品だと位置づけることができるだろう。

ゲームやクリエイティブ用途に

 黒神話:悟空をプレイするか否かに関わらず、純粋にGeForce RTX 4060を搭載したコンパクトなゲーミングPCがほしい場合、本製品は最適解の1つだ。GeForce RTX 4060搭載PCとしてみれば、それほどコストパフォーマンスが高いとは言えない。しかし、コンパクトで場所を取らない筐体、必要十分なCPU性能とメモリ/SSD容量、そして何よりも高い静音性が魅力的。クリエイティブ用途にも十分活躍し得る1台だと言えるだろう。

 このところ中国のメーカーがやたらと力を入れているミニPCの分野。ここは日本では人気が高いジャンルなのだが、やや大型になったとは言え「ついに実用的なゲーム性能を持つGeForce RTX 40シリーズ搭載モデルも複数投入」となると、そろそろ国内メーカーや海外のメジャーメーカーにも注目してもらって、投入してほしいところ。ただ、既に完成度が上がってきている製品に、どう付加価値をつけるか、課題が残るのだが。