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7万円台で買える折りたたみスマートフォン「Blackview HERO 10」の実力

Blackview HERO 10

 Blackviewの「HERO 10」は、折りたたみ可能なディスプレイを搭載しながら、AliExpressやAmazonなどで7万円台から購入できる低価格を実現したスマートフォンだ。日本国内で使える技適やPSEも取得されており、国内でも安心して利用できる。今回サンプル提供があったので、一通り使い勝手を検証していこう。

 ディスプレイが折りたためるスマートフォンといえばSamsungの「Galaxy Z Flip」や「Galaxy Z Fold」シリーズが有名。また、モトローラの「motorola razr 40」シリーズなどもあるが、価格は10万円台スタートと高価だった。しかし最近になってソフトバンク傘下のワイモバイルが、6万円台で買えるZTE製の「Libero Flip」を投入するなど、ミドルレンジの価格帯にも降りつつある。HERO 10もそうした価格帯の1モデルだ。

折りたたみのメリットを再確認

 もともと携帯電話といえば折りたたみが当然であったのだが、キーボードを廃したスマートフォンが主流になってからは折りたためないのが常識になった。折りたたむことは、使う際に一手間増えるというデメリットはあるが、携帯時にフットプリントが削減できるほか、画面の保護が得られるという副次的なメリットもある。

 スマートフォンは近年、没入感と操作感向上のため、ディスプレイが大型化の一途をたどっている。フットプリント増加も当然避けられず、「スーツやYシャツのポケットに入れられた携帯電話が入りにくくなった」と感じる人も少なくないだろう。実は筆者は、過去は極力かばんを背負わない手ぶら主義だったのだが、スマートフォン全盛になってからかばんは必須になってしまった。

 それでも近場のコンビニに行く程度、すぐに使う予定があるといった場合、ズボンのポケットならギリギリ入るので、入れておくことはある。ただ、姿勢やポケットの裏地素材によっては滑り出したりして危険だ。特に筆者の場合、車のセンターコンソールと運転席の間の隙間にスマートフォンを落として「あ~」となった回数は数知れず。車から降りる際に1台地面に落として画面を割ったこともあった。

ファッションによってはポケットからはみ出してしまうスマートフォン

 そういう意味では、かばんの必要性はさておき、スマートフォンは持ち運ぶ際にはきっちりポケットに収まってくれるサイズで、使う時は大きく使えるのが理想的……そう考えると、折りたたみは理にかなった構造だと言える。ただ、折り曲げ可能な上に開閉動作を伴いながら、耐久性も持たせたディスプレイの実現はそう簡単ではなかった。

 これが近年になって技術の進歩によって可能になったわけが、ディスプレイ自体のコストはもとより、ヒンジ機構の設計や耐久性試験も伴うためコストが高く、メインストリームになかなか降りてこなかった。これがようやくメインストリーム価格帯になったのが、HERO 10のトピックだと言えるだろう(ちなみに一時期は5万円台で販売されていた)。

 たとえばスーツの外側のポケットなど、筆者手持ちのスマートフォンのほとんどがはみ出すが、HERO 10はしっかり収まる。筐体外側のビーガンレザーの滑り止めの効果もあって、浅いズボンポケットでも低い位置に座ったり、しゃがんだりしても、滑り出すことはない。どのポケットにも入る安心感は、ほかのスマートフォンでは得られない。

HERO 10ならどのポケットにも難なく収まる

 実際にこの数日間、日常生活でもHERO 10を持ち歩いて使ったのだが、特に電子決済が使えると分かってる近場の店に行くとか散歩程度なら、「(高性能なメイン端末はさておき)HERO 10だけ持って行こう」と思うようになったほど。ビーガンレザーの外観も少しばかりか高級感があっていい雰囲気だ。

製品パッケージ
保護ケースとACアダプタ、USB Type-Cが付属する(試用機のACアダプタは海外仕様だが、日本向けに出荷されるモデルは日本向けのACアダプタとなる)
保護ケースを装着したところ

ただ、折りたたみならではの課題も

 こう書くといいことづくめだと思われるかもしれないが、現在の技術では以下のような制約がある。

  1. ヒンジ部分は完全に平坦にはならない
  2. ヒンジ部分の寿命がある
  3. ディスプレイの外側にフレームがある凹構造

 1)に関して、HERO 10は画面中央に幅9mmほどの凹部分がある。ただその凹みは0.17mm未満とされておりごくわずか。これは画面オフにして見たり、その部分を触ったりしてようやく気づく程度であり、画面オンで正面から見たり、普通に下部分を操作するといった使い方では気づかない。

 ちなみにディスプレイ表面は耐衝撃性を高めるための超薄型ガラス(UTG)を採用しているものの、その上に保護フィルムが貼付されている。この保護フィルムは比較的キズも付きやすい。現時点では貼り替えサービスなどもなさそうなので、スライド操作を多用するゲームには向かないということになろう。

 2)は可動構造である以上避けられない問題だが、Blackviewによれば25万回の開閉試験にクリアしたとのこと。1日45回の折りたたみで15年間使える計算だというが、そもそもスペックが先に寿命になりそうだ。機構そのものの耐久性よりも、ゴミの混入なども気になるところだ。

 そして3)は最近のスマートフォンにしては珍しい、液晶が周囲フレームより低くなっている点。おそらくフレキシブルディスプレイをフレームに固定するためやむを得ない構造なのだろう。しかし高さは最小限に抑えられているため、フレームによってエッジスワイプがしにくいといったことはない。中央ヒンジ部分だけは別パーツで盛り上がっているため、ここだけがネックだろうか。

完全にフラットにした際もヒンジ部付近にどうしても凹みできるが、わずか0.17mm未満
ヒンジ部はやはり複雑な構造のため、チリなどが入らないか若干心配ではある。ただ、閉じた際のデザインはなかなか秀逸だ
周囲のフレームがディスプレイ部分よりも高いという、今となっては珍しい設計(ちなみにGalaxy Z Flip5なども同様)だが、エッジからのスワイプインなどの操作で気になることはまったくなかった
ただ、ヒンジ部の左右にやや高い出っ張りがある

 こうした弱点はあるものの、ゲーム以外の通常の操作では凹凸や表面処理が気になることはやはり少ない。せっかくの低価格モデルなので、あまり細かいことは気にせず、ラフに持ち歩いて、カジュアルに使うのが本来のスタイルだとは思う。

ディスプレイや特徴的な機能

 HERO 10のディスプレイは6.9型のAMOLED。解像度は2,560×1,080ドットで、10億7,000万色表示、P3広色域の対応や、最高1,300cd/平方mの輝度、1,920Hzの高速PWMディミングによる低輝度でのチラツキ低減、240Hzの高速タッチサンプリングレートなどが謳われている。実際に見ても公称の通り美しいディスプレイであり、屋外でも十分視認性がある印象だ。一方、部屋を暗くした際の自動輝度は明るめに出る傾向にある印象だった(手動で下げることは可能)。

どの角度からみても色変化が少なく高い水準を誇るAMOLED。指紋センサー兼電源ボタンや音量調節は右側面、SIMカードスロットとUSB Type-Cは底面に装備されている
指紋センサーは閉じた状態でも開いた状態でもアクセスしやすい位置にある

 ディスプレイは完全フラットのほか、ヒンジを30度~150度の間に曲げた状態を保持可能となっている。他社の製品と同様に、別途スタンドを用意しなくても、机に置いてずっと動画を撮っておく、ビデオ通話を続ける、三脚なしで写真を撮るといった使い方が可能。カメラアプリに関しては上下半分にUIを分ける機能もあることから、こうした使い方を想定していることが分かる。

卓上に置いて、三脚やスタンド不要で自立して撮影できるのはいい
カメラアプリはこのように折りたたみに特化したUIに変更できる

 現時点では残念ながらカメラ以上にこのスタイルを活用したと言えるアプリが用意されていないのだが、Androidの上下画面分割機能を使えば活用できる。たとえば上画面で動画を再生しておきながら、下の画面でWebブラウジングをしたり友人とチャットしたり、(対応であれば)放置系のゲームを上にして、下で別のゲームを操作したり……といった具合である。机の上に置いても普通のスマホで2分の1のスペースで済み、邪魔になりにくいので、ぜひ活用してみてほしい。

ゲームを2つ同時に立ち上げて上下分割して両方放置するプレイ、OKである
机に置いた際のフットプリントは普通のスマートフォンより小さい

 余談だが、HERO 10のデジタル著作権管理機能であるWidevineはL3止まりとなっているため、NetflixやAmazon Prime VideoはSD画質でしか再生できない。そのためPrime Videoを半分分割して表示するのはある意味アリだ(Netflixに関しては画面分割のみならず、なぜかPiP表示もできなかった)。

 HERO 10は背面に円形のサブディスプレイを搭載している点もユニークだ。これによりメイン液晶を閉じたまま時刻の確認、通知の確認、音楽の操作、運動の状態の確認(アプリで有効にしている場合)、天気の確認、そして背面カメラを使った撮影が可能となっている。

独自の「Doke 4.0」OSを搭載しており、Androidをベースに多少カスタマイズが加えられている
バックスクリーンの設定
選べる盤面は以前にレビューしたTickTockシリーズとほぼ同じ
不要な機能は省くこともできる

 サブディスプレイの機能は固定であり、汎用アプリが追加できたりするわけではないのだが、時計のフェイスを変更したり、制御するメディアソフトの変更といった最低限のカスタマイズ機能は備わっている。内容的にはUnihertzの「TickTock」シリーズとほぼ同じで、設定画面の「バックスクリーン」を介して行なう形だ。

サブディスプレイに時計を表示させているところ

 なお、サブディスプレイは何もしない状態でのタッチでは時刻表示しかできない。通知などにアクセスするためには指紋センサーでロックを解除する必要がある。幸い、指紋センサーは電源ボタン兼用で本体右側面にあるため、閉じたままでもアクセスしやすい。ただ、せめてロック解除しなくとも、カスタマイズした時計と天気ぐらいは表示させても良かったのではないかとは思う。

 ちょっと変わった機能としては、iOSの「Dynamic Island」に似た「Dynamic Live View」機能が挙げられる。これは上部のWebカメラ周囲に必要に応じてアプリのポップアップを表示するもので、たとえばYouTube再生中は、上部に細長い黒いバーが表示され、タップすると拡大し、次のビデオに飛んだり閉じたりできるといった具合のもの。通知領域のように上からスワイプインする必要がないので、若干操作の煩雑さが若干軽減される。

Dynamic Live View機能。一部操作がワンタップで呼び出せる

 なお、内蔵スピーカーについてはステレオではあるものの、全体的に高音寄りの印象。折りたたみではスピーカーハウジングのサイズに制限があるだろうからここは致し方ないところだろう。

カメラもそこそこ健闘。ただ夜景は諦めたほうがいい

 カメラセンサーについては、背面のメインが1億800万画素となるSamsungの「ISOCELL HM6」、広角が800万画素のSamsung「ISOCELL 4H7」、前面が3,200万画素のSK Hynixの「HI3231Q」(詳細不明)となっている。そしてソフトウェア処理のアルゴリズムとしてArcSoftの技術が採用されている。

 実際の絵だが、昼間晴れているようなシーンでは「思ったより良い仕上がり」という印象。非大手メーカーではない安価なスマートフォンでは、画質チューニングしている(と思うような)ことは稀なのだが、HERO 10はちょっとエモい絵を吐いてくれる。若干全体的に青っぽい気もするが、撮影した日は本当によく晴れていてさわやかな初夏の陽気。この青っぽさが良い空気感となっている。

 なお、ご多分に漏れずデフォルトでは9つのピクセルを1つにするため、実質1,200万画素相当の出力(4,000×3,000ドット)となり、1億800万画素モード(108M、12,000×9,000ドット)は手動で選ぶ必要がある。108Mモードではアスペクト比やHDRが選択できないので、実質ソフトウェアによる後補正はされないと考えていい。

 108Mは100%表示にするとさすが塗りつぶしたような感じとなり、HDRも効かないためコントラストも高くなるが、大きく色味が変わるといったことはない。ちょうど縦横50%の6,000×4,500ドット(2,700万画素)に縮小すると解像感が抜群に向上するので、シーンによっては活用するといい。

作例※大きい元画像で開きます
屋外で初夏の陽気の日(この時はちょうど曇がかかっていた)。文句なしの画質だ
1億800万画素モードでの撮影。100%表示はさすがに厳しいが、50%だとちょうどいい、情報量の多い画像だ
通常の1,200万画素で撮影
1億800万画素モードで撮影。光量が十分あるシーンでは、画質差はほとんどない
1,200万画素で撮影
1億800万画素モードで撮影。1,200万画素と比較するとコントラストが高く、黒く沈むところが多い
メインカメラで撮影
800万画素の広角カメラで撮影。色が若干濃い印象
広角カメラは画質的にはどうしてもメインに劣るので、パースを効かせた構図で勝負といったところ

 室内で食事を撮影しても、光さえよければそれなりの見栄えにはなっており、メシマズ写真にはならない。一方、屋外の夜向けに「ナイトモード」なるものも用意されていたりするのだが、全体的にのっぺりとした写真となり、黒が完全に浮いてしまい、色もまったくといっていいほど載らないので諦めたほうがいいだろう。

室内光が十分であれば、ノイジーになったり精細感が欠けたりするようなこともないので、食べ物などを撮影してもメシマズ写真にはならない
一方、夜景は諦めたほうが賢明だ

 本機は折りたたみ機構を活用して、あたかもハンディビデオカメラのように動画を撮影することもできるし、縦位置でも横位置(この際は接地面の角度で固定されるが)でも、三脚なしで机の上に置いて撮影できるのは便利。ちょっとした旅行のお供には持っていきたい1台だ。

折りたたみを活かしてハンディカメラのような持ち方が可能。だいぶプロっぽい……というのもあるが、姿勢が自然なので撮影しやすいのもメリット

通信は4G止まりだが比較的高性能なHelio G99

 HERO 10に搭載されているプロセッサはMediaTekのHelio G99となっている。Helio G99は残念ながら4G LTE対応止まりとなっており、5G通信には非対応。とは言えほとんどの場面で通信速度に不満を覚えることはないだろう。また、CPU/GPU処理性能的にはミドルレンジクラスとなっており、重い3Dゲームなどを除けばプレイ可能だ。

 なお、ゲームプレイ中でも温度を44℃未満に抑えるという冷却システムを採用している。実際にゲーム(崩壊:スターレイル)を20分プレイしてみたが、カメラ付近のフレームが熱くなった。触れられないほどではないが、気になるなら付属のカバーを用いると良いだろう。

 実際に「PCMark」、「3DMark」、「Geekbench 6」などで計測してみたが、Helio G99の性能そのものだった。Helio G99はUnihertzの「Jelly Star」のようなさらに小さいデバイスにも搭載できるし、Teclastの13型Androidタブレット「T65 Max」のような巨大デバイスにも搭載されている。それらと比較しても性能ほぼ同等かやや上なので、十分に性能を引き出していると言っていい。

PCMark Work 3.0 performance scoreは10,264
PCMark Work 3.0の詳細
PCMark Storage 2.0 scoreは25,686
3DMark Wild Lifeのスコアは1,247
Geekbench 6のCPUスコア。Single-Coreが728、Multi-Coreが2,028。このあたりはミドルレンジらしい結果
Geekbench 6 GPUのスコアは1,328(Vulkan)

 ちなみにメモリが12GB搭載されているほか、標準でさらに10GBものストレージを仮想メモリに割り当てていることもあって、バックグラウンドに回したタスクが気づいたら終了されていて立ち上げたらスプラッシュ画面から起動したことも少なかった。

 ちなみに4Gの対応バンド帯は1/2/3/4/5/7/8/12/17/17/18/20/26/28A/28B/38/40/41/66と豊富。国内のキャリアもほぼ問題なくカバーする。SIMカードはNano SIM×2だ。一方無線LANはWi-Fi 5止まりとなるが、こちらもほとんどのシーンでストレスになることはない。

 バッテリに関しては、下部に2,700mAh、上部に1,300mAhの2ピース、合計4,000mAhとなっている。昨今5,000mAh搭載モデルが多いのでそれと比べると見劣るが、本機は45Wの急速充電をサポートしているため、1日~2日程度の中程度の利用なら不満を覚えることはない。

折りたたみの楽しさを再発見

 正直、筆者も折りたたみスマートフォンを入手する前は「折りたためるだけだろう」と思っていたのだが、実際に使ってみるとポケットへの収まりの良さ、定位置での撮影のしやすさ、折りたたみならではの持ち方などを再認識させられた。

 もちろん、折りたたみ機構自体はまだまだ進化の余地が残されているし、機構上どうしても避けられない弱点はあるため、スマートフォン市場全体が折りたたみへ向かうとは思えないが、多様なフォームファクタを示すうちの1つとして定着はするだろう。その中でHERO 10はユーザーの裾野を広げる製品のうちの1つになるのは間違いない。「折りたたみは触ってみたいけど価格が……」と躊躇していたユーザーに手にしてもらいたい1台だ。