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Ryzen搭載でLTE対応も選べる14型モバイルワークステーション「ZBook Firefly 14inch G10 A」をレビュー

日本HP「HP ZBook Firefly 14inch G10」

 日本HPは14型ノートPC「HP ZBook Firefly 14 inch G10」と、16型ノートPC「HP ZBook Firefly 16 inch G10」を5月中旬に発売した。両製品は「モバイルワークステーション」という位置付けのノートPC。14型と16型の2サイズが用意され、さらに14型にはインテルCPU版とAMD CPU版の2種類がラインナップされている。どちらもISV認証が取得されており、ビジネスの現場で安心して利用可能だ。

 今回は本シリーズの中から、AMD CPU版の「HP ZBook Firefly 14 inch G10 A」(価格は24万2,000円から)を借用したので、スペック、使い勝手、パフォーマンスについてレビューしていこう。

CPUは「Ryzen 5/7」、WWAN搭載モデルも用意

 「HP ZBook Firefly 14inch G10」(以下、Firefly)のAMD CPU搭載版は、OSにWindows 11 Pro/Windows 10 Pro、CPUにRyzen 5 PRO 7640HS/Ryzen 7 PRO 7840HSを採用。メモリは16GB/32GB(DDR5-5600)、ストレージは512GB/1TB(PCIe 4.0 x4接続SSD)を搭載している。

 ディスプレイは2種類。14型WUXGA液晶(1,920×1,200ドット)という点は同じだが、タッチ対応で最大輝度250cd/平方mと、タッチ非対応で400cd/平方mのディスプレイが存在する。400cd/平方mのディスプレイはブルーライト軽減、周辺光センサー、省電力型対応という利点も備えているので、長時間連続利用するなら慎重に選ぼう。

本体天面。ボディは「MIL-STD 810H」のテストをクリア
本体底面。SO-DIMMスロットを2基内蔵しており、最大64GBのメモリを搭載可能
今回の貸出機のディスプレイは14型WUXGA液晶(1,920×1,200ドット、最大輝度250cd/平方m、LEDバックライト、タッチ対応、非光沢)
キーボードは日本語配列

 インターフェイスはThunderbolt 4×2、USB 3.0×2、HDMI、Nano SIMカードスロット、スマートカードリーダ、3.5mmコンボジャック。ワイヤレス通信はWi-Fi 6E、Bluetooth 5.3をサポート。WWAN対応モデルはIntel XMM 7560 R+LTE-Advanced Pro(GPS機能付き)を搭載している。

本体前面(上)と本体背面(下)
右側面にはNano SIMカードスロット、ナノセキュリティロックケーブル用スロット、USB 3.0、3.5mmコンボジャック、左側面にはHDMI、USB 3.0(パワーオフUSB充電対応)、Thunderbolt 4×2、スマートカードリーダを用意
ディスプレイはほぼフラットまで展開可能
Nano SIMカードを1枚装着可能。トレイはプッシュイン・プッシュアウト方式
パッケージには本体、ACアダプタ「HP 65W USB Type-Cアダプター」、電源ケーブル、電源プラグ、説明書、保証書が同梱
ACアダプタのコード長は実測181cm、電源ケーブルの長さは実測100cm
ACアダプタの型番は「TPN-LA22」。仕様は入力100~240V~1.6A、出力5V/3A、9V/3A、12V/5V、15V/4.33A、20V/3.25A、容量65W

 本体サイズは315.6×224.3×19.9mm、重量は約1.5kg。51Whのリチウムイオンポリマーを内蔵しており、バッテリ駆動時間は14時間46分(JEITA Ver2.0)と謳われている。このほかの細かなスペックについては表を参照してほしい。

本体の重量は実測1,526g
ACアダプタと電源プラグの合計重量は実測237g
ACアダプタと電源ケーブルの合計重量は実測304g
【表1】HP ZBook Firefly 14inch G10のスペック
製品名HP ZBook Firefly 14inch G10
OSWindows 11 Pro/Windows 10 Pro(ダウングレード)
CPURyzen 5 PRO 7640HS(6コア/12スレッド、最大5GHz、35~54W)
Ryzen 7 PRO 7840HS(8コア/16スレッド、最大5.1GHz、35~54W)
GPURyzen 5:Radeon 760M
Ryzen 7:Radeon 780M
メモリ16GB/32GB(DDR5-5600)
ストレージ512GB/1TB(PCIe 4.0 x4接続SSD)
ディスプレイ14型WUXGA液晶(1,920×1,200ドット、最大輝度250cd/平方m、タッチ対応、非光沢)
14型WUXGA液晶(1,920×1,200ドット、最大輝度400cd/平方m、タッチ非対応、非光沢、ブルーライト軽減、周辺光センサー、省電力型)
ワイヤレス通信Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.3
WWANなし/Intel XMM 7560 R+LTE-Advanced Pro(GPS機能付き)
インターフェイスThunderbolt 4×2、USB 3.0(パワーオフUSB充電対応)、USB 3.0、HDMI、Nano SIMカードスロット、スマートカードリーダ、3.5mmコンボジャック
入力デバイス日本語キーボード(キーピッチ18.7mm、キーストローク1.5~1.7mm、バックライト搭載、防滴機能付き)
カメラ500万画素(視野角88度、プライバシーシャッター付き)、IRカメラ(Windows Hello対応)
サウンドステレオスピーカー(Audio by Bang & Olufsen)、マイク×2
バッテリ容量51Wh(リチウムイオンポリマー、3セル、充放電回数1,000回)
バッテリ駆動時間14時間46分(JEITA Ver2.0)
バッテリ充電時間50%まで約30~45分、90%まで約90分
本体サイズ315.6×224.3×19.9mm
重量約1.5kg
セキュリティナノセキュリティロックケーブル用スロット(約2.5×6mm)、顔認証、指紋認証
同梱品本体、ACアダプタ「HP 65W USB Type-Cアダプター」、電源ケーブル、電源プラグなど

【お詫びと訂正】初出時、2種類のディスプレイをどちらもタッチ対応としておりましたが、正しくは最大輝度250cd/平方mのパネルがタッチ対応、400cd/平方mのパネルがタッチ非対応となります。お詫びして訂正いたします。

キーボード、タッチパッドともに入力デバイスとして申し分のない仕上がり

 Fireflyはクラムシェル型のノートPCとしてはスタンダードな作りだ。しかしボディは「MIL-STD 810H」のテストをクリアしており、実際に持ったときの感触としても剛性が非常に高い。キーボード面は強く打鍵しても、ほとんどたわみはないし、ダイビングボード構造のタッチパッドは物理式ならではの絶妙なクリック感だ。

 キーピッチは18.7mm、キーストロークは1.5~1.7mmが確保されており、「-」、「^」、「¥」以外の文字キーはすべて等幅に揃えられ、密着しているキーもない。キーボード、タッチパッドともに入力デバイスとして申し分のない仕上がりだ。

キーピッチは18.7mm
キーストロークは1.5~1.7mm
キーボードバックライトは明るさを2段階で調節できる
文字キー(Fキー)の押圧力は0.58N
カーソルキー下には指紋認証センサーを搭載
タッチパッドの面積は実測120×80mm

 2種類用意されたディスプレイは輝度などの細かなスペックが異なる。タッチ対応であれば、Webブラウジングや画像閲覧時に細かな部分をピンチイン・アウト操作でズームできるのは便利だし、ちょっとした注釈などであれば指で書ける。タブレット用に開発されたカジュアルなゲームも、タッチ対応ディスプレイでこそ本来のプレイ体験を味わえる。クラムシェル型ノートPCであっても、タッチ対応ディスプレイのほうがビジネスでもエンターテイメントでも満足感は高い。

ディスプレイは10点マルチタッチ操作に対応。Web、画像閲覧が快適だ

 ちょっと残念だったのがディスプレイ画質。今回は250cd/平方mのディスプレイを搭載したモデルを借用したが、色域を実測してみるとsRGBカバー率は61.2%、AdobeRGBカバー率は46.1%、DCI-P3カバー率は45.8%と狭かった。一般的な用途であれば実用上問題はないが、クリエイティブ系アプリで色調整などをするのなら外部ディスプレイに接続したほうがよい。

デフォルトの発色はやや青みが強め
実測したsRGBカバー率は61.2%、sRGB比は62.2%
AdobeRGBカバー率は46.1%、AdobeRGB比は46.1%
DCI-P3カバー率は45.8%、DCI-P3比は45.8%
広視野角は特に謳われていないが、実用上十分な視野角を備えている

 一方、音質についてはかなりいい。Bang & Olufsenがカスタムチューニングしたスピーカーを搭載しているとのことだが、ボリュームと立体感のあるサウンドを再生してくれる。Windows搭載ノートPCの中では上位クラスに入るサウンド品質だ。

YouTubeで公開されている「前前前世(movie ver.) RADWIMPS MV」を最大ボリュームで再生した際の音圧レベルは最大83.6dB(50cmの距離で測定)

 Webカメラの画質については室内灯下ではややノイズが目立つものの、Windows 11の「カメラ」アプリで「HDR pro」を有効にすれば、暖かみのある健康的な色調で撮影できる。ビデオ会議用途であれば十分なクオリティだ。

ディスプレイ上部には5MP(視野角88度、プライバシーシャッター付き)、IRカメラ(Windows Hello対応)、マイク×2を内蔵
Windows 11の「カメラ」アプリで撮影(HDRオフ)
Windows 11の「カメラ」アプリで撮影(HDR proオン)

クリエイティブアプリはストレスなく使えそうだが、連続高負荷時は発熱に注意

 最後にパフォーマンスをチェックする。今回の貸出機はRyzen 7 PRO 7840HS/16GBメモリ/512GB SSD(PCIe 4.0 x4接続)という構成。比較対象機種としてはRyzen 7 7735HS(8コア/16スレッド、最大4.75GHz)/16GBメモリ/512GB SSD(PCIe 4.0 x4接続)という構成の「MINISFORUM UM773 Lite」(以下、UM773)を採用した。

 まずCPU性能だが、FireflyはUM773に対して、「Cinebench R23.200」のCPU(Multi Core)で約108.41%相当の14,505pts、CPU(Single Core)で約96.92%相当の1,566ptsとなった。Ryzen 7 PRO 7840HSはZen 4、Ryzen 7 7735HSはZen 3+とCPUコアのアーキクチャが異なるが、Multi Coreであまり差が開かず、Single Coreで逆転してしまった。ミニPCであるUM773のほうがFireflyよりも冷却効率が高いのかもしれない。

 ちなみに「HWiNFO64 Pro」でCPU温度の推移を見ると、34秒後には100℃に達して、56秒後まで100℃に張り付いていた。クリエイティブ系アプリで長時間高負荷をかけ続けるようなときは、冷却台などを組み合わせたほうがよさそうだ。

「HWiNFO64 Pro」で取得したシステムの概要
Cinebench R23.200
「Cinebench R23.200」を10分間連続実行中のCPU温度は平均95℃、最大100℃、クロック周波数は平均3,801.08MHz、最大4,126.8MHz(室温26℃で測定)

 3Dベンチマーク「3DMark v2.27.8160」では、FireflyはUM773に対して、Time Spyで57.11%相当の1,542、Fire Strike Ultraで67.86%相当の1,178、Fire Strike Extremeで68.23%相当の2,158、Fire Strikeで61.44%相当の3,816となった。

 内蔵グラフィックスは、Ryzen 7 PRO 7840HSはRDNA3世代のAMD Radeon 780M、Ryzen 7 7735HSはRDNA2世代のAMD Radeon 680Mを搭載しているが、スコアが逆転してしまっている。冷却効率の差が3DMarkではより顕著に表われている可能性がある。

3DMark v2.27.8160

 FireflyはSSDにPCIe 4.0 x4接続SSD「WD PC SN810 SDCQNRY-512G-1006」を搭載している。「CrystalDiskMark 8.0.4」のシーケンシャルリード(1M Q8T1)は6,907.095MB/s、シーケンシャルライト(1M Q8T1)は4,506.248MB/sとなった。SSDの仕様以上のリード、ライト性能が発揮されている。SSDには発熱などの影響はないようだ。

ストレージはPCIe 4.0 x4接続SSD「WD PC SN810 SDCQNRY-512G-1006」を搭載
CrystalDiskMark 8.0.4

 総合ベンチマーク「PCMark 10 v2.1.2636」では、FireflyはUM773に対して、PCMark 10 Scoreで95.02%相当の6,526、Essentialsで93.85%相当の10,134、Productivityで97.45%相当の9,193、Digital Content Creationで93.79%相当の8,097となった。総合ベンチマークでもFireflyはUM773に逆転されている。とは言え、スコア上はクリエイティブ系アプリをストレスなく動作させられるレベルに達している。

PCMark 10 v2.1.2636
「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」(1,920×1,080ドット、標準品質、ノートPC)のスコアは4,603(普通)

 ちょっと気になったのが本体の発熱。直接手を触れることが少ない排気口付近とは言え、キーボード面で最大62.5℃、底面で最大57.5℃に達していた。「Cinebench R23.200」を連続実行するような高負荷でなければこんな温度にはならないが、動画の書き出し、RAWファイルの連続現像などをする場合には熱がこもらないような配慮が必要だ。

「Cinebench R23.200」を10分間連続実行後のキーボード面の最大温度は62.5℃(室温24.9℃で測定)
底面の最大温度は57.5℃
ACアダプタの最大温度は45.1℃

ISV認証などによる安心を求めるビジネスユーザーに魅力的なマシン

 高負荷時に100℃に張り付くかなり攻めた設定はやや気になったが、この点については電源オプションの設定などで調整可能。前述の通りクラムシェル型ノートPCとしてはHPらしい手堅い作りであり、キーボードなどはしっかりとコストをかけて、英語配列からの流用ではない日本語配列が採用されている。

 WWAN対応モデルが用意され、ディスプレイをほぼフラットに開ける点も、屋外でのビジネスワークを想定した仕様だ。パーソナルユースには高めなのは確か。しかし、ISV認証などによる安心を求めるビジネスユーザーには魅力的なマシンと言えよう。