Hothotレビュー
6GHzのマイルストーンに達したCore i9-13900KSの性能をチェック
2023年2月14日 06:24
1月12日、最大6GHz動作を実現した第13世代Coreの最上位モデル「Core i9-13900KS」が発売された。
今回、このCore i9-13900KSをテストする機会が得られたので、同じ第13世代CoreのハイエンドモデルであるCore i9-13900Kと、AMD最新の16コア32スレッドCPUであるRyzen 9 7950Xとの比較を通して、6GHz動作を実現したIntelのデスクトップ向け最上位CPUの実力をチェックしてみた。
最大6GHz動作を達成したRaptor Lake-Sの最上位CPU
Core i9-13900KSは、Raptor Lake-Sこと第13世代Coreプロセッサの新たな最上位モデルとなる新CPUで、8基のPコアと16基のEコアを備えた24コア/32スレッドCPUだ。
CPUコア数などは従来のCore i9-13900Kと同等だが、Thermal Velocity Boost時の最大動作クロックが6GHzに引き上げられたほか、Turbo Boost Max 3.0やベースクロックも引き上げられており、これに伴って電力指標のPBPも150Wに上昇している。なお、MTPについては253Wに据え置かれている。
【表1】Core i9-13900KSの主な仕様 | ||
---|---|---|
モデルナンバー | Core i9-13900KS | Core i9-13900K |
CPUアーキテクチャ | Raptor Cove + Gracemont | Raptor Cove + Gracemont |
製造プロセス | Intel 7 | Intel 7 |
Pコア数 | 8 | 8 |
Eコア数 | 16 | 16 |
CPUスレッド数 | 32 | 32 |
L2キャッシュ | 32MB | 32MB |
L3キャッシュ | 36MB | 36MB |
ベースクロック | Pコア=3.2GHz、Eコア=2.4GHz | Pコア=3.0GHz、Eコア=2.2GHz |
Turbo Boost 2.0 | Pコア=5.4GHz、Eコア=4.3GHz | Pコア=5.4GHz、Eコア=4.3GHz |
Turbo Boost Max 3.0 | Pコア=5.8GHz | Pコア=5.7GHz |
Thermal Velocity Boost | Pコア=6.0GHz | Pコア=5.8GHz |
CPU内蔵GPU (iGPU) | UHD Graphics 770 | UHD Graphics 770 |
Execution Units | 32基 | 32基 |
GPU最大クロック | 1.65GHz | 1.65GHz |
対応メモリ | DDR5-5600(2ch)、DDR4-3200(2ch) | DDR5-5600(2ch)、DDR4-3200(2ch) |
PCI Express | PCIe 5.0 x16、PCIe 4.0 x4 | PCIe 5.0 x16、PCIe 4.0 x4 |
PBP | 150W | 125W |
MTP | 253W | 253W |
TjMAX | 100℃ | 100℃ |
対応ソケット | LGA1700 | LGA1700 |
ブースト動作時の最大消費電力指標であるMTPはCore i9-13900Kと同じ253Wに設定されているCore i9-13900KSだが、新たに追加された「Extreme Power Delivery Profile」では、電力リミットを「PL1=PL2=320W」、電流リミットを「IccMAX=400A」に設定することが認められている。Core i9-13900Kは同プロファイルでも電力リミットが「PL1=PL2=253W」となっているので、Core i9-13900KSの方がより多くの電力消費を許容されていることになる。
なお、Extreme Power Delivery Profileとは、Intelが定めた電力リミットと電流リミットの仕様であり、これらの数値はCPUの動作仕様内であるとされている。ただし、全てのマザーボードがExtreme Power Delivery Profileのリミット値をサポートしているわけではない点には注意が必要だ。
テスト機材と比較環境
Core i9-13900KSの比較機材には、同じ第13世代Coreの24コア/32スレッドCPU「Core i9-13900K」と、AMDの16コア32スレッドCPU「Ryzen 9 7950X」を用意した。
Core i9-13900KSとCore i9-13900Kの電力/電流リミットは、先に紹介したExtreme Power Delivery Profileに基づいて設定したほか、メインメモリについては各CPUの最大メモリクロックに調整している。その他の機材については以下の通り。
【表2】テスト機材 | |||
---|---|---|---|
CPU | Core i9-13900KS | Core i9-13900K | Ryzen 9 7950X |
コア数/スレッド数 | 8P+16E/32T | 8P+16E/32T | 16C/32T |
CPU電力リミット | PL1=PL2=320W | PL1=PL2=253W | PPT=230W |
CPU電流リミット | IccMAX=400A | IccMAX=400A | TDC=160A、EDC=225A |
CPU温度リミット | 100℃ | 100℃ | 95℃ |
マザーボード | GIGABYTE Z790 AORUS ELITE AX [UEFI=F3l] | ASUS TUF GAMING X670E-PLUS [UEFI=0821] | |
メモリ | DDR5-5600 16GB×2 (2ch、40-42-42-78、1.3V) | DDR5-5200 16GB×2 (2ch、40-42-42-78、1.3V) | |
CPUクーラー | ADATA XPG LEVANTE 360 ARGB (ファンスピード=100%) | ||
ビデオカード | GeForce RTX 4080 (16GB) | ||
GPUドライバ | GRD 528.02 (31.0.15.2802)、Resizable BAR=有効 | ||
システム用SSD | CORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4) | ||
アプリケーション用SSD | CFD CSSD-M2B2TPG3VNF 2TB (NVMe SSD/USB 10Gbps) | ||
電源 | 玄人志向 KRPW-PA1200W/92+ (1,200W/80PLUS Platinum) | ||
OS | Windows 11 Pro 22H2 (build 22621.1105、VBS有効) | ||
電源プラン | バランス | ||
計測 | HWiNFO64 Pro v7.36、ラトックシステム RS-BTWATTCH2 | ||
室温 | 約24℃ |
ベンチマーク結果
それでは、ベンチマークテストの結果をみていこう。
実施したベンチマークテストは、「Cinebench R23」、「Blender Benchmark」、「やねうら王」、「Adobe Photoshop」、「DaVinci Resolve 18」、「HandBrake」、「TMPGEnc Video Mastering Works 7」、「PCMark 10」、「SiSoftware Sandra」、「3DMark」、「VRMark」、「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」、「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」、「Forza Horizon 5」、「オーバーウォッチ 2」、「フォートナイト」、「エーペックスレジェンズ」、「サイバーパンク2077」、「モンスターハンターライズ:サンブレイク」、「Microsoft Flight Simulator」。
Cinebench
CPUの3DCGレンダリング性能を測定するCinebench R23では、Multi CoreとSingle Coreを実行した。
Multi Coreでは、39,978を記録したCore i9-13900KSが全体ベストを獲得しており、Core i9-13900Kを約4%、Ryzen 9 7950Xを約8%上回った。
Single Coreでも、2,294を記録したCore i9-13900KSが全体ベストで、Core i9-13900Kを約3%、Ryzen 9 7950Xを約14%上回った。
3DMark「CPU Profile」
3DMarkの「CPU Profile」では、Ryzen 9 7950Xを36%下回った16スレッドを除き、Core i9-13900KSが全体ベストを記録しており、Core i9-13900Kを1~3%、Ryzen 9 7950Xを2~10%上回った。
なお、16スレッドでRyzen 9 7950XがCore i9-13900KSを大きく上回ったのは、Pコアを8基しか搭載していないCore i9-13900KSに対し、Ryzen 9 7950XはPコア相当の物理コアを16基備えていることが影響しているものと考えられる。
Blender Benchmark
Blender Benchmarkでは、Core i9-13900KSがRyzen 9 7950Xに次ぐスコアを記録しており、Ryzen 9 7950Xを3~7%下回った一方で、Core i9-13900Kを2~3%上回った。
将棋ソフト「やねうら王」
将棋ソフトの「やねうら王」では、ベンチマーク機能を利用してマルチスレッドテストとシングルスレッドテストを実行した。
マルチスレッドテストでは、Core i9-13900KSは全体2番手のスコアを記録しており、Ryzen 9 7950Xを約5%下回り、Core i9-13900Kを約3%上回った。
シングルスレッドテストでは、Core i9-13900KSが全体ベストのスコアを記録しており、Core i9-13900Kを約4%、Ryzen 9 7950Xを約1%上回った。
Adobe Photoshop(Camera RAW)
Adobe Photoshopでは、プラグインのCamera RAWを使用して2,400万画素のRAWファイル×100枚を最高画質のJPEGファイルに変換するのにかかった時間から、その変換速度を比較した。
Core i9-13900KSの変換速度は3.75fpsで、Core i9-13900Kの3.45fpsを約9%、Ryzen 9 7950Xの2.94fpsを約27%上回った。
DaVinci Resolve 18
DaVinci Resolve 18では、カメラで撮影した2160p60(4K60p)動画に字幕を追加したものを、YouTube向けプリセットでレンダリングした際の処理速度を比較した。
ここではCore i9-13900KSとCore i9-13900Kのレンダリング時間が同じだったため差はついていないが、Ryzen 9 7950Xを1080p60設定で約19%、2160p60設定で約14%上回っている。
動画エンコードソフト「HandBrake」
オープンソースの動画エンコードソフト「HandBrake」では、フルHD(1080p)と4K(2160p)の動画ソースをCreatorプリセットでエンコードして、その処理速度を比較した。
条件によって比較用CPUとの差はついたりつかなかったりだが、いずれの条件でもCore i9-13900KSが最速または最速タイを記録している。
動画エンコードソフト「TMPGEnc Video Mastering Works 7」
動画エンコードソフトのTMPGEnc Video Mastering Works 7では、フルHD(1080p)と4K(2160p)のソース動画をH.264形式とH.265形式に変換した際のエンコード速度を計測した。
H.264形式への変換では、フルHDからフルHDへの変換でRyzen 9 7950Xを約3%下回り、Core i9-13900Kと同等となっているが、その他の条件ではCore i9-13900KSが全体ベストを記録しており、Core i9-13900Kを約2%、Ryzen 9 7950Xを4~7%上回った。
H.265形式への変換では、Core i9-13900KSはRyzen 9 7950Xに次ぐ全体2番手の速度を記録しており、Ryzen 9 7950Xを9~20%下回り、Core i9-13900Kを1~2%上回った。
PCMark 10
PCMark 10では、もっとも詳細なテストである「PCMark 10 Extended」を実行した。
Core i9-13900KSが記録した総合スコアの13,930は、Ryzen 9 7950Xの14,148に次ぐ全体2番手のスコアで、Ryzen 9 7950Xを約2%下回り、Core i9-13900Kを約2%上回った。
Core i9-13900KSはGaming以外のサブスコアでRyzen 9 7950Xを1~4%上回っているが、3DMark Fire StrikeをベースにしたGamingテストでRyzen 9 7950Xを13%も下回っており、これが総合スコアでRyzen 9 7950Xの後塵を排する決定打となっている。
SiSoftware Sandra 「CPUベンチマーク」
SiSoftware SandraのCPUテストから、「Arithmetic」、「Multi-Media」、「Image Processing」の結果を紹介する。
CPUの演算性能を測定するArithmeticでは、Core i9-13900KSがCore i9-13900Kを1~7%上回った。Ryzen 9 7950X相手にはDouble-Floatで約7%下回ったものの、それ以外のテストでは6~12%上回っている。
マルチメディア性能を測定するMulti-Mediaでは、整数演算(Integer)テストでCore i9-13900KSがCore i9-13900Kを2~3%上回った一方、浮動小数点テストではほぼ同等だった。全体ベストを獲得したのは、比較製品の中で唯一AVX-512をサポートしているRyzen 9 7950Xで、Core i9-13900KSを21~51%と大きく上回った。
画像処理性能を計測するImage Processingでは、Core i9-13900KSはCore i9-13900Kと同等~5%ほど上回るスコアを記録している。Ryzen 9 7950Xとはテスト毎に得手不得手が別れており、Core i9-13900KSが有利なテストでは6~83%も上回っている一方、Ryzen 9 7950Xが有利なテストでは30~58%も下回っている。
SiSoftware Sandra「メモリベンチマーク」
SiSoftware Sandraで、メインメモリの帯域幅とレイテンシの計測を行なった。
メモリ帯域幅については、メモリクロックをDDR5-5600動作に設定しているCore i9-13900KSとCore i9-13900Kは約69GB/sで横並びとなっており、DDR5-5200動作のRyzen 9 7950Xが記録した49.39GB/sを約40%上回っている。
メモリレイテンシについては、86.2nsを記録したCore i9-13900KSは、86.8nsだったCore i9-13900Kよりやや良好だが、68.3nsを記録したRyzen 9 7950Xより26%もレイテンシが大きいと言う結果になっている。
SiSoftware Sandra「キャッシュベンチマーク」
CPU内蔵キャッシュのレイテンシや帯域幅を測定した結果が以下のグラフだ。
Core i9-13900KSとCore i9-13900Kのキャッシュ構造は同じであるため、レイテンシについてはほぼ同等となっている。帯域幅についても差がついているのは512KB未満のL1キャッシュの領域で、これは両CPUの動作クロックの差が反映されたものと考えられる。
3DMark
3DMarkでは、「Speed Way」、「Port Royal」、「Time Spy」、「Fire Strike」、「Wild Life」を実行した。
Core i9-13900KSとCore i9-13900Kは各テストで同程度のスコアを記録しており、はっきりと優劣が分かれるほどの差はついていない。
Ryzen 9 7950Xに対しては、Time Spyで約5%、Wild Life(無印)で約6%上回っているが、Fire Strikeでは逆に17%も下回っている。その他のテストについてはほぼ差がついていない。
VRMark
VRMarkでは、「Orange Room」、「Cyan Room」、「Blue Room」を実行した。
Orange RoomとBlue Roomでは各CPUのスコアが横並びとなっており、有意な差はみられない。
DirectX 12テストのCyan Roomについては、Core i9-13900KSが全体ベストを記録しており、Core i9-13900Kを約4%、Ryzen 9 7950Xを約93%上回った。Cyan Roomについては2CCD構成のRyzenが性能を発揮できないことが知られており、大きなスコア差はRyzen 9 7950XとVRMarkの相性によって生じたものだ。
ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク
ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマークでは、描画品質を「最高品質」にして、3種類の画面解像度でテストを実行した。
Core i9-13900KSのスコアはCore i9-13900Kを僅かに上回っており、Ryzen 9 7950Xを6~15%上回った。
FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク
FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークでは、描画品質を「高品質」にして、3種類の画面解像度でテストを実行した。
ファイナルファンタジーXIV同様、Core i9-13900KSはCore i9-13900Kを僅かに上回り、Ryzen 9 7950Xを2~6%上回っている。
Forza Horizon 5
Forza Horizon 5では、描画品質を「エクストリーム」に設定したフルHD~4Kの画面解像度と、フルHD解像度で描画品質を「中」に引き下げた高fps設定で、ゲーム内ベンチマークモードを実行した。
描画品質「エクストリーム」設定では各CPUのフレームレートがほぼ横並びとなっている。高fps設定では240fpsを記録したCore i9-13900KSが全体ベストで、Core i9-13900Kを約1%、Ryzen 9 7950Xを約6%上回った。
オーバーウォッチ 2
オーバーウォッチ 2では、描画品質を「エピック」に設定したフルHD~4Kの画面解像度でフレームレートを計測した。テスト時の上限フレームレートは600fps。
フルHDではCore i9-13900KSがCore i9-13900Kを約1%、Ryzen 9 7950Xを約6%上回っているが、WQHD以上になると各CPUの差は誤差程度となっている。
フォートナイト
フォートナイトでは、グラフィックプリセット「最高」をベースにNaniteやLumenを無効化した設定で、フルHD~4Kの画面解像度と、アンチエイリアスを「TAA」と「TSR最高」に設定した場合のフレームレートを計測した。テスト時のグラフィックスAPIはDirectX 12。
アンチエリアス「TAA」では、Core i9-13900KSとCore i9-13900Kの差は誤差と言える程度となっている。Ryzen 9 7950Xとの比較では、フルHDで約11%、WQHDで約5%上回っているが、4Kではほぼ同等のフレームレートとなっている。
アンチエリアス「TSR最高」では、Core i9-13900KSがCore i9-13900KをフルHDで約3%、WQHDで約1%上回っているが、4Kでは逆に1%下回った。Intelの両CPUについては、WQHD以上では同程度の結果と言ってよいだろう。Ryzen 9 7950Xに対しては、フルHDで約15%、WQHDで約11%、4Kで約3%上回っている。
エーペックスレジェンズ
エーペックスレジェンズでは、描画品質を可能な限り高く設定して、フルHD~4Kの画面解像度でフレームレートを計測した。テスト時の上限フレームレートは300fps。
Core i9-13900KSはCore i9-13900Kを約1%、Ryzen 9 7950Xを1~2%ほど上回っているが、Core i9-13900KSが明らかに有利と言えるほどの差ではない。
サイバーパンク2077
サイバーパンク2077では、グラフィックプリセットを「レイトレーシング:ウルトラ」にして、フルHD~4Kの画面解像度でベンチマークモードを実行した。
Core i9-13900KSとCore i9-13900Kのフレームレートはほぼ同等だが、Core i9-13900KSはRyzen 9 7950Xを2~11%上回っている。
モンスターハンターライズ:サンブレイク
モンスターハンターライズ:サンブレイクでは、描画品質を「高」にして、フルHD~4Kの画面解像度でフレームレートを計測した。
4Kでは全てのCPUが155fpsほどで横並びとなっているが、WQHD以下ではCore i9-13900KSがCore i9-13900Kを約3%上回り、Ryzen 9 7950Xを21~22%上回った。
Microsoft Flight Simulator
Microsoft Flight Simulatorでは、描画設定を「ウルトラ」にしたフルHD~4Kの画面解像度と、フルHD解像度で描画品質を「ミドル」に引き下げた高fps設定でフレームレートを測定した。グラフィックスAPIは「DirectX 12」で、羽田空港から関西国際空港へのルートをエアバスA320neoでAIに飛行させ、離陸から3分間の平均フレームレートを計測している。
Core i9-13900KSはCore i9-13900KをWQHDで約2%、高fps設定で約1%上回っているが、他の設定では差がついておらず、誤差程度の差と言っても差し支えない。一方で、Core i9-13900KSはRyzen 9 7950Xを6~11%上回った。
CPUベンチマーク実行中のシステム消費電力と電力効率
ワットチェッカーを使ってシステムの消費電力を測定し、アイドル時の最小消費電力と、CPUベンチマーク実行中の平均消費電力および最大消費電力をグラフ化した。
アイドル時消費電力がもっとも低かったのは62.3WのCore i9-13900Kで、64.0WのCore i9-13900KSは全体2番手だった。Core i9-13900KSとCore i9-13900Kは僅差だが、Ryzen 9 7950Xは両CPUから30W以上高い99.5Wとなっており、マザーボードなどが異なるとはいえ、アイドル時消費電力についてはIntelの方が明らかに省電力だ。
CPUベンチマーク実行中の平均消費電力については、340.2~429.3Wを記録したCore i9-13900KSがPhotoshop以外でもっとも高く、350.2~390.6WのCore i9-13900Kがそれに続き、277.4~337.4WのRyzen 9 7950Xが全てのテストでもっとも低い消費電力を記録していた。
CPUベンチマークのスコアを平均消費電力で割ったワットパフォーマンスを比較したグラフと、Core i9-13900Kを基準に指数化したグラフを用意した。なお、PhotoshopとTMPGEnc Video Mastering Works 7のワットパフォーマンスについては数値が小さくなりすぎるため1,000倍にしてグラフ化している。
Core i9-13900KSのワットパフォーマンスは、Core i9-13900K比で94~112%となっているが、消費電力自体がCore i9-13900Kを下回ったPhotoshopでのRAW現像を除けば、ワットパフォーマンス的にはCore i9-13900Kと同等以下と言った印象だ。なお、もっともワットパフォーマンスが高かったのはRyzen 9 7950Xで、こちらはCore i9-13900K比で108~130%の電力効率を実現している。
ゲームベンチマーク実行中のシステム消費電力と電力効率
ワットチェッカーを使って計測した、ゲームベンチマーク実行中の平均消費電力および最大消費電力をグラフ化した。
Core i9-13900KSの平均消費電力は311.1~449.7Wで、これは310.9~451.0Wを記録したCore i9-13900Kとほぼ同程度の結果だった。もっとも平均消費電力が高かったのは330.3~474.8Wを記録したRyzen 9 7950Xで、全てのテストでCore i9-13900KSを平均消費電力で上回った。
ただし、最大消費電力に関してはFINAL FANTASY XVでCore i9-13900KSが記録した616.3Wが最大値となっている。平均消費電力はともかく、Core i9-13900KSの最大消費電力には注意が必要だ。
ゲームベンチマークのスコアを平均消費電力で割ったワットパフォーマンスを比較したグラフと、Core i9-13900Kを基準に指数化したグラフを用意した。
Core i9-13900KSのワットパフォーマンスはCore i9-13900K比で100~104%で、ほぼ同等と言った印象の結果ではあるが、一応比較製品の中ではもっとも優れたワットパフォーマンスを発揮している。CPUテストでは最高のワットパフォーマンスを示していたRyzen 9 7950XはCore i9-13900K比で86~98%となっており、一転して最下位となっている。
CPU温度とモニタリングデータ(Cinebench R23)
モニタリングソフトのHWiNFO64 Proを使って取得した、Cinebench R23のMulti Coreテスト実行中のモニタリングデータをまとめてみた。
ベンチマーク実行中のCPU温度は、Core i9-13900KSが最大96.0℃(平均93.7℃)、Core i9-13900Kが最大85.1℃(平均89.0℃)、Ryzen 9 7950Xが最大94.1℃(平均92.5℃)で、いずれもTjMAX以下の温度を保っている。
一方、CPU消費電力についてはCore i9-13900KSが最大321.4W(平均282.9W)、Core i9-13900Kが最大289.8W(平均251.8W)、Ryzen 9 7950Xが最大224.0W(平均222.0℃)となっており、Intel製CPUの平均値と最大値の差が大きいことが分かる。
Raptor Lake-Sの電力リミットが作動している時は、センサー値を平均するとリミット値になるような制御が行なわれており、電力リミットが253WのCore i9-13900Kの計測結果はその通りの印象だが、Core i9-13900KSの平均消費電力はリミット値の320Wよりもだいぶ低い。IntelのExtreme Tuning Utilityで確認したところ、ベンチマーク実行中のCore i9-13900KSは400AのIccMAXに基づく電流リミットスロットリングが作動しており、これによってCPUクロックや消費電力が抑制されている状態だった。
結果的として、Core i9-13900KSのCPUコアは、Pコアが平均5,480MHz、Eコアは平均4,282MHzで動作しており、それぞれ5,213MHzと4,192MHzのCore i9-13900Kより高いCPUクロックを実現していた。
CPU温度とモニタリングデータ(ファイナルファンタジーXIVベンチマーク)
Cinebench R23と同じように、ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマークを「フルHD/最高品質」設定で実行した際のモニタリングデータをまとめてみた。
Core i9-13900KSとCore i9-13900KのCPU温度は平均で約51℃、最大でも60℃台となっており、サーマルスロットリングが発動するTjMAXの100℃までには相当な余裕があることが分かる。この時のCPU消費電力は平均75W弱、最大でも100W弱であり、電力リミットが作動していないことが確認できる。
Core i9-13900KSのCPUクロックは、Pコアが平均5,589MHz(最大5,601MHz)、Eコアが平均4,300MHz(最大4,301MHz)で、推移グラフからもベンチマーク中は最大限のブーストクロックを維持していたことが分かる。
内蔵GPUの性能はCore i9-13900Kと同等で、Ryzen 9 7950Xより優勢
最後に、CPUに統合されている内蔵GPUのパフォーマンスを確認する。テスト環境は以下の通り。
【表3】内蔵GPUテスト機材 | |||
---|---|---|---|
CPU | Core i9-13900K | Core i9-13900K | Ryzen 9 7950X |
コア数/スレッド数 | 8P+16E/32T | 8P+16E/32T | 16C/32T |
CPU電力リミット | PL1=PL2=320W | PL1=PL2=253W | PPT=230W |
CPU電流リミット | IccMAX=400A | IccMAX=400A | TDC=160A、EDC=225A |
CPU温度リミット | 100℃ | 100℃ | 95℃ |
内蔵GPU | UHD Graphics 770 | UHD Graphics 770 | Radeon Graphics |
GPUドライバ | 31.0.101.4034 | Adrenaline 22.11.2 (31.0.12029.10015) | |
マザーボード | GIGABYTE Z790 AORUS ELITE AX [UEFI=F3l] | ASUS TUF GAMING X670E-PLUS [UEFI=0821] | |
メモリ | DDR5-5600 16GB×2 (2ch、40-42-42-78、1.3V) | DDR5-5200 16GB×2 (2ch、40-42-42-78、1.3V) | |
CPUクーラー | ADATA XPG LEVANTE 360 ARGB (ファンスピード=100%) | ||
システム用SSD | CORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4) | ||
アプリケーション用SSD | CFD CSSD-M2B2TPG3VNF 2TB (NVMe SSD/USB 10Gbps) | ||
電源 | 玄人志向 KRPW-PA1200W/92+ (1,200W/80PLUS Platinum) | ||
OS | Windows 11 Pro 22H2 (build 22621.1105、VBS有効) | ||
電源プラン | バランス | ||
室温 | 約24℃ |
Core i9-13900KSが内蔵するUHD Graphics 770のパフォーマンスは、同じGPUを備えるCore i9-13900Kと同等で、DXR非対応のため3DMark Port Royalは実行できていないが、多くのテストでRyzen 9 7950Xと内蔵GPUのRadeon Graphicsを上回っている。ただし、Ryzen 9 7950Xとの比較に関しては、VRAMとして利用するメインメモリのクロックが異なるため、GPUコア性能だけが反映された結果では無い点も考慮すべきではある。
とはいえ、Core i9-13900KSにしてもRyzen 9 7950Xにしても、ゲームをプレイするのに十分な性能を備えたGPUコアを内蔵しているわけではない。GPU負荷の軽いゲームや低画質設定なら動かせる可能性がある程度の性能であると考えておくべきだろう。
6GHzというマイルストーン到達にこそ価値がある「SPECIAL EDITION」
Core i9-13900KSは、最大で6GHzに達するブーストクロックの引き上げに加え、Extreme Power Delivery Profileによって320Wの電力消費が許されたことで従来のCore i9-13900Kより動作仕様の範囲内で高いパフォーマンスを発揮できるCPUとなっている。
もっとも、電力リミットや電流リミットについては、ミドルレンジ以上のマザーボードではデフォルトで無制限となっている製品も多く、そうした環境では今回のテストでCore i9-13900KSが記録したパフォーマンスをCore i9-13900Kが上回る場合もあるだろう。また、記事執筆時点で9万円割る価格で販売されているCore i9-13900Kに対し、Core i9-13900KSは11万円前後と2万円ほど高価であり、定格動作でのパフォーマンス差を考えると割高感も否めない。
とはいえ、Core i9-13900KSは「SPECIAL EDITION」である。PC向けのCPUで初めて6GHzというマイルストーンに到達した記念すべきCPUであり、その実現のために高クロック動作が可能なダイを選別して作られた最上位モデルであることにこそ価値があり、それを理解できるユーザーのための製品なのである。