Hothotレビュー
Snapdragon 7c Gen2採用のWindowsタブレット「ExpertBook B3 Detachable」
2022年10月5日 11:00
ASUSから、Arm版Windows 11採用のタブレットPC「ExpertBook B3 Detachable B3000DQ1A」が登場。SoCにQualcommのSnapdragon 7c Gen2を採用することで、性能と省電力性のバランスに優れた製品となっているという。
今回、評価機を試用する機会を得たので、ハード面を中心に紹介する。なお今回の試用機は発売前の検証機だったため、実際の製品とは異なる部分が存在する可能性がある点はご了承願いたい。発売は10月5日からで、価格は8万9,800円。
タブレットPCとしてオーソドックスなデザイン
ではまず、「ExpertBook B3 Detachable B3000DQ1A」(以下、B3000DQ1A)の外観から見ていこう。
B3000DQ1Aは、着脱式のキーボード一体型カバーを利用する、いわゆるデタッチャブルスタイルのタブレットPCだ。本体は、キックスタンドを備えないオーソドックスなデザインを採用。背面は、カメラ部分が1mmほど突起しているものの、それ以外はフラットで、ASUSロゴ以外に目立つ装飾はない。側面が、ディスプレイ面から背面に向かってわずかに斜めに切り込まれていることで、ディスプレイ面を前にして手に持つと、しっかりとホールドできるという印象を受ける。カラーはマット調のスターブラックで、落ち着いた印象だ。
本体素材にアルミニウム合金を採用することで、強度が高められている。ASUSによると、米国国防総省の調達基準「MIL-STD-810H」に準拠した、落下や加圧、振動などの堅牢性テストをクリアする優れた堅牢性を備えているという。タブレットPCは持ち出して利用する機会が多いことを考えると、優れた堅牢性を備えている点はありがたい。
サイズは、260.3×172.1×8.99mm(幅×奥行き×高さ)。重量は本体のみで595g、付属スタイラスペン収納時には600g。実測では601gだった。10.5型のタブレットPCとしてはやや大きく重いという印象だ。それでも、競合製品ではほぼ実現できていないスタイラスペンを収納できる構造や、優れた堅牢性を実現していることを考えると、まずまず納得できる。
縦横両対応のキックスタンドにもなる背面カバー
先ほど紹介したように、背面にキックスタンドは備えないが、その代わりキックスタンドとしても利用できる専用の背面カバー「フレックスアングルスタンドカバー」が付属する。
背面カバーは、本体背面にマグネットで装着することで本体を保護。同じく付属するキーボードカバーと併用することで、本体の表と裏のほぼ全体をカバーでき、本体に傷がつく心配なく持ち歩ける。
その上で、背面カバーには十字型のヒンジが備わっており、本体を横画面だけでなく縦画面でも支えられるキックスタンドとして活用できる。本体内蔵のキックスタンドでは横置きのみに対応する場合がほとんどで、これがフレックスアングルスタンドカバーの大きな特徴となっている。Webページ閲覧時など、縦画面で本体を立てかけて利用できる点は、かなり便利に感じる。
スタンドの開閉角度は、縦横とも最大100度ほどで、無段階で角度調節が可能となっている。水平に近い角度で本体を保持できるわけではなく、ペンで絵を描く場合などは、もう少し深い角度で保持してほしいと感じるかもしれない。ただ、個人的には縦横どちらでも本体を保持できるという点が利用の自由度を大きく高めており、その部分を十分補うほどの魅力があると感じる。
なお、背面カバーの重量は実測で177.6g。スタイラスペンを収納した本体と合わせた重量は実測で778gに達する。さらに、キーボードカバーも加えた重量は実測で1,020.5gと1kgを超えてしまう。実際に背面カバーとキーボードカバーを装着した状態で手に持ってみると、ずっしり重く感じる。背面カバー、キーボードカバーとも十分な剛性が必要となり、そのぶん重くなってしまうのは仕方がないが、機動性という点では、この重さはやはり残念に感じる。
SoCが旧世代でWWAN非搭載なのは少々残念
B3000DQ1Aの主な仕様は、以下の表にまとめたとおりとなっている。これを見ると分かるように、SoCにはQualcommのSnapdragon 7c Gen2を採用している。Qualcommからは、すでに次世代のWindows向けSnapdragonが登場済みとなっていることを考えると、このタイミングでSnapdragon 7c Gen2を採用して登場するのは少々残念な気もする。ただ、B3000DQ1A自体、海外では数カ月前に発売済みだったことを考えると、しょうがないだろう。
プロセッサ | Snapdragon 7c Gen2 |
---|---|
メモリ | 8GB LPDDR4X-4266 |
内蔵ストレージ | 512GB PCIe 3.0 SSD128GB eMMC |
ディスプレイ | 10.5型液晶、1,920×1,200ドット NTSCカバー率87% 10点マルチタッチ、光沢 |
無線LAN | IEEE 802.11ac(Wi-Fi 5) |
Bluetooth | Bluetooth 5.1 |
ワイヤレスWAN | なし |
キーボード | 日本語キーボードカバー、キーストローク約1.5mm |
カメラ | インカメラ:503万画素 アウトカメラ:1,297万画素、オートフォーカス |
生体認証 | なし |
インターフェイス | USB 3.2 Gen1 Typa-C×1 オーディオジャック |
OS | Arm版Windows 11 Home 64bit Sモード |
駆動時間 | タブレット時:約18.6時間 キーボードカバー装着時:約15.7時間 |
サイズ | 本体のみ:260.3×172.1×8.99mm 本体+背面カバー:260.4×172.2×12.74mm 本体+背面カバー+キーボードカバー:260.4×178.44×18.89mm |
重量 | 本体のみ:約595g、スタイラスペン収納時約600g 本体+背面カバー:約767g 本体+背面カバー+キーボードカバー:約1,011g |
メモリは試用機ではLPDDR4X-4266を8GB搭載していたが、4GB搭載モデルも用意されている。利用時の快適度を考えると4GB搭載モデルはあまりお勧めできない。内蔵ストレージは容量128GBのeMMCを搭載する。
OSは、標準状態ではArm版Windows 11 Home 64bit Sモードとなっている。購入後にSモードを解除すれば、Windows 11 Homeとして利用可能となり、任意のアプリをインストールできるようになるが、Sモードを解除するとSモードには戻せなくなる。なお、今回の試用ではSモードを解除して利用した。
無線機能は、IEEE 802.11ac(Wi-Fi 5)準拠の無線LANと、Bluetooth 5.1を標準搭載。ただ、ワイヤレスWANは非搭載。おそらく、コストの観点で非搭載になったものと考えられるが、Snapdragon採用のArm版Windows PCではLTEや5G準拠のワイヤレスWAN搭載も期待される部分であり、やはり残念だ。
生体認証機能も非搭載。おそらくこれもコストを考慮してのものだろう。タブレットPCということもあるので指紋認証センサーの搭載は難しかったかもしれないが、顔認証カメラは搭載してもらいたかった。
カメラは、インカメラが503万画素、アウトカメラが1,297万画素で、アウトカメラはオートフォーカスに対応。なお、Webカメラ利用時には、オリジナルの高画質化機能「3Dノイズリダクションテクノロジー」が利用可能だという。カメラで撮影した映像のノイズを除去するとともに明るさを補正するため、Web会議アプリ利用時に効果的とのこと。ただ今回の試用機では設定アプリがインストールされていなかったため、効果は確認できなかった。
同時に、マイクで集音した音からバックグラウンドノイズを除去し、人の声だけをクリアに届けるAIノイズキャンセリング機能も搭載。カメラの3Dノイズリダクションテクノロジーと合わせ、テレワークで便利に活用できる機能と言えるが、こちらも今回の試用機では効果を確認できなかった。
外部ポートは、右側面にUSB 3.2 Gen1 Type-C×1と3.5mmオーディオジャックを用意。USB Type-CはDisplayPort ALT Modeもサポート。ただし内蔵バッテリの充電にもUSB Type-Cを利用するため、周辺機器を利用しつつ電力供給を行なう場合には、電力供給機能を備えるポートリプリケータを利用するなどの工夫が不可欠だ。
付属ACアダプタは出力45WのUSB Type-C接続タイプのものが付属する。サイズ自体はそこまで大きくないが、付属電源ケーブルがややかさばる印象。軽快に持ち歩きたいなら、より小さく軽い出力45W以上の汎用USB PD ACアダプタを利用した方が良さそうだ。
1,920×1,200ドット表示対応の10.5型液晶を搭載
ディスプレイは、アスペクト比16:10、1,920×1,200ドット表示対応の10.5型液晶を採用。パネルの種類は非公開だが、IPSレベルの広視野角を確保。また、320cd/平方mの高輝度表示に対応。実際に晴れた屋外でも十分な視認性を確認できた。
表示性能としては、NTSCカバー率87%の発色性能を備えているとしており、このクラスのタブレットPCのディスプレイとして標準的な発色性能を備えている。実際に写真や動画を表示してみても、十分満足できる発色の鮮やかさが感じられる。これは、ディスプレイ表面が光沢処理となっている点も影響しているだろう。
このほか、ブルーライト軽減とフリッカーフリーでTÜV Rheinland認証を取得しているという。これによって、長時間利用する場合でも目に優しい表示環境を実現している。
ただ、ディスプレイを見て気になるのは、ベゼル幅がやや広い点だ。タブレットPCは手に持って使うという性質上、ノートPCのディスプレイに比べてややベゼル幅が広くなるものだ。ただ近年はタブレットPCでもベゼル幅が狭められる傾向で、それらと比較するとやや旧世代の製品という印象を受けるのも事実。できればもう少しベゼル幅を狭めて欲しかったように思う。
4,096段階の筆圧検知に対応する本体収納型スタイラスペンが付属
タブレットPCということで、ディスプレイには10点マルチタッチ対応のタッチパネルが備わっている。同時に、Microsoft Pen Protcol(MPP)対応のスタイラスペンにも対応。そして、標準で4,096段階の筆圧検知に対応するスタイラスペン「ASUS Pen」が付属する。
ASUS Penは、ASUS製のほかのタブレットPCで採用されているものと同じように、本体上部に収納できるようになっている点が大きな特徴。同等クラスの競合製品では、スタイラスペンが使えても本体内に収納できず、背面にマグネットで装着したり、キーボードカバーに収納スペースを用意するといったものが多い。それに対しB3000DQ1AではASUS Penを本体に収納できるため、必要な時に本体から取り出し、使い終わったら本体に収納することで、紛失や持ち出し忘れといったトラブルを防止できるという意味でも魅力的だ。
加えて、本体に収納するとペンのバッテリが充電されるようになっている。それも、15秒で45分間使用できるだけの容量を充電可能とのことで、万が一ペンを長時間外したままで、いざ使おうと思ったときにバッテリ切れだったとしても、短時間の充電で問題なく利用可能だ。
とはいえ、本体収納型ということでペンが細く、太さは実測で約6mm。B3000DQ1AのASUS Penが特別使いづらいわけではないが、やはりもう少し太いペンだとより扱いやすかっただろうと感じる。とはいえこれは、本体に収納できるかどうか、という部分との取捨選択になるわけで、本体収納の利便性を考えると、ペンの細さも納得できる。
ペンは細いものの、書き心地は悪くない。どちらかというと摩擦が少なく滑るような書き心地で、紙にペンで書く場合とはやや感触が異なってはいるが、スラスラと軽快に書き込める。ペン先が細いので書いている部分がしっかり視認できるのはもちろん、素早いペンの動きにもしっかり追従し、思い通りに書けるという印象だ。
キーボードの使い勝手は、カバー型キーボードとして標準的
キーボードは、先にも紹介しているようにカバー型のキーボードが付属する。本体下部側面にマグネットで装着することで利用するという、オーソドックスなスタイルだ。また、キーボード後方が折れ、本体側にマグネットで固定できるようになっているため、キーボードはフラットな状態とやや角度を付けた状態の2スタイルで利用可能だ。
カバー型キーボードということで、クラムシェルノートPCのキーボードと比べると剛性に劣るものの、ふにゃふにゃということはなく、必要十分な剛性は備わっている。そのため、キーボード面に角度を付けて利用する場合でも、剛性不足で使いづらいと感じることはなかった。
このほか、水滴などがこぼれても内部への侵入を防ぐ防滴仕様を実現するとともに、銀イオン素材を含む抗菌皮膜処理も施されているので、安心して利用可能だ。
重量は、実測で242.6gだった。ある程度の剛性を確保するために、やや重くなっているのだろう。ただ、競合製品のキーボードカバーと比較しても重くはなく、標準的な重量だ。
キー配列は日本語配列。全体のキー配列自体はまずまず標準的だが、よく見るとスペースキー左右やEnterキー付近の一部キーが、もともとあったキーを分割して搭載していることが分かる。これは英語キーボードをベースにキーを分割して日本語化しているためだ。キーの間隔が開いているように感じるよう、隣のキーと隣接する部分が深く削り取られるなどの工夫は見られるが、やはりどうせならきちんとした日本語キーボードを用意してもらいたかったように思う。
主要キーのキーピッチは約17.5mmと、本体サイズが小さいこともありやや狭いが、それほど窮屈と感じることなくタイピングできた。またストロークや約1.5mmとまずまずの深さを確保。タッチはやや硬めで、しっかりキーを押し込みながらタイピングするといった印象。ただ、打鍵感はカバー型ということも合わせて比較的静かなので、やや強めの力でタイピングしてもうるさいと感じることはなさそうだ。
ポインティングデバイスはクリックボタン一体型のタッチパッドを搭載。サイズはそこまで大きくないが、ジェスチャー操作など大きな不満なく操作できる。B3000DQ1Aはタッチ対応ということで、タッチ操作と併用することで操作性を高められるはずだ。
それよりも、ポインティングデバイスの搭載位置がキーボードのホームポジション中心ではなく本体中心になっている点はかなり気になる。利便性を考えると、やはりホームポジション中心に搭載してもらいたかった。
アプリ起動時など待たされる印象が強く、動作が重く感じる
B3000DQ1Aは、Arm版Windows 11機ということで、気になるのはアプリの動作だ。
Arm版Windows 11では、当初から搭載されていたx86エミュレーションに加えて、2021年11月16日よりx64エミュレーションも提供が開始された。これにより、Arm版Windows(Arm64)向けにコンパイルされた、いわゆるARM64ネイティブアプリに加えて、x86アプリ、x64アプリが利用可能となっている。
実際にx64アプリをあれこれ試してみたところ、どのアプリも基本的には問題なく動作し、利用が可能だった。Arm版Windows登場当初は、x64アプリが動作しないことで利用できないアプリが多く存在していたものの、その問題は現在は全く心配無用と言える。
ただし、動作することと、快適に利用できることとはまた別だ。実際にアプリを利用して見て感じたのは、どうしても動作が重い、という点だ。
x86/x64アプリを利用する場合には、ARM64で動作するように変換することで動作するようになっている。アプリ初回起動時にこの作業を行なうために起動まで時間がかかるものの、そのデータはキャッシュされるため、2回目以降の起動は初回ほど遅くはならない。それでも、アプリアイコンをダブルクリックしてアプリが起動するまで待たされる時間が長い印象だ。
x86/x64アプリも、起動してしまえばそれほど重いと感じることなく利用できるものが多かった。おそらく、B3000DQ1Aがターゲットとするビジネスシーンで利用されるアプリの多くは、起動してしまえばそれほど重さが気になることなく利用可能と思われる。とはいえ、やはり起動時に待たされるのはかなり気になるとともに、動作が重く感じる大木内要因となっている。
それに対し、EdgeやTeams、zoomなどのArm64ネイティブアプリは、素早く起動し、きびきび動作する。これなら大きな不満なく利用できると感じた。これが本来のパフォーマンスであり、利用するアプリが全てArm64ネイティブアプリであれば、おそらく動作が重いと感じることなく利用できると思われる。とはいえ、現状ではArm64ネイティブアプリはいまだに絶対数が少なく、x86/x64アプリを利用する場面が多くなる。そのため、やはり動作が重いと感じる場面が多くなるはずで、この点は非常に残念だ。
さて、今回の試用機は発売前の評価機ということもあって、製品版とは仕様が異なる可能性が残されているとともに、ベンチマークテストの動作についても一部問題が出る可能性あるとのことだった。念のためいくつかのベンチマークテストは実行してみたが、結果は製品版とは異なる可能性も十分考えられるので、あえて批評はせずに、結果だけ掲載しておく。
ネイティブアプリのさらなる拡充に期待
ここまで見てきたようにB3000DQ1Aは、SoCにSnapdragon 7c Gen2を採用しつつも、ワイヤレスWANを搭載していなかったり、生体認証機能も非搭載など少々残念な部分もある。それでも全体的にはArm版WindowsタブレットPCとしてまずまずまとまった仕様を実現。
加えて、本体収納可能な4,096段階筆圧検知対応のスタイラスペンや、縦横両対応のキックスタンドとしても利用できる背面カバー、キーボードカバーを標準添付しつつ、価格が8万9,800円と安価に抑えられている。一般的に、それらを別売で揃えるとすると2万円は下らないことがほとんどだ。そう考えると、B3000DQ1Aは仕様面にも納得でき、逆にかなりお買い得と言えるだろう。
性能に関しては、Arm64ネイティブアプリの少なさが大きく足を引っ張っていると言える。事実Arm64ネイティブアプリは快適に利用できるものの、x64/x86アプリを利用する場合の動作の重さは気になる部分だ。
残念ながらArm64ネイティブアプリは、以前に比べて増えてはいるものの、まだまだ少ないのが現状。Arm64ネイティブアプリの提供が遅々として進まない要因としては、Arm版Windowsのシェアの低さがあるのだろう。それでも、今後Arm64ネイティブアプリが拡充すれば、本来の性能が発揮できる環境が整い、より快適に利用できるようになる。そういった意味でも、業界を挙げてArm64ネイティブアプリの拡充を早急に進めてもらいたいと思う。それによってB3000DQ1Aの魅力も高まっていくはずだ。
なお、B3000DQ1Aには搭載メモリが4GBの下位モデルが用意され、そちらは価格が6万9,800円とさらに安価となっている。とはいえ、やはりメモリ4GBではWindows 11の快適動作は望めないため、可能な限り今回試用したメモリ8GB搭載の上位モデルの購入をお勧めしたい。