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小型で静音、家庭内サーバーとしても活用できる「MINISFORUM U850」

MINISFORUM「U850」

 手のひらサイズのミニPCを多数販売しているMINISFORUMから、新モデル「U850」が登場した。近い手のひらサイズのコンパクト筐体ながら、第10世代Core i5を採用することで性能を強化。また、2.5インチドライブを2基装着できるなど拡張性の高さも魅力となっている。

 今回、いち早く評価機を試用する機会を得たので、ハード面を中心に見ていこう。2021年4月の発売を予定しており、直販価格は69,980円から。

超小型ボディながらメンテナンス性や拡張性に優れる

 ミニPCというカテゴリにはさまざまな製品が存在しているが、U850は、IntelのNUCシリーズに近い性格を持つミニPCだ。

 サイズが127×127×53.1mm(幅×奥行き×高さ)と、手のひらに収まる直方体の筐体を採用。カラーはメタリック調のグレーを基調としている。天板にはMINISFORUMのロゴが印刷されているが、それほど目立つものではなく、比較的落ち着いた印象だ。

 このようなコンパクト筐体のため、置き場所に困ることはない。ディスプレイ下部の隙間に置くのはもちろん、リビングルームのTVに接続して利用する場合でも、TV台やラックのちょっとした隙間に簡単に設置できる。重量は、実測で537.5gだった。

 また、製品には標準で100×100mmのVESAマウンタが付属している。ディスプレイ背面に装着することで、ディスプレイを一体型PC相当として活用可能。重量も軽いため、ディスプレイ背面に設置したとしても、ディスプレイが不安定になることはないだろう。

 そして、これだけのコンパクト筐体ながら、拡張性に優れる点がU850の大きな特徴となっている。

 一般的にU850と同等サイズのミニPCでは、内部に2.5インチドライブを1台のみ装着可能なものが標準的だが、U850では2.5インチドライブを2台装着可能となっている。装着可能な2.5インチドライブは厚さが7mmまでとなるが、現在市販されている2.5インチSSDは大多数が、2.5インチHDDでも厚さ7mmのものが多くなっており、問題なく2台の2.5インチドライブを装着できる。

 また、メンテナンス性の高さも特徴の1つ。従来モデルでも同様の機構を採用していたが、U850の天板は前方部分がクリッカブル仕様で簡単に外せるようになっている。内部の2.5インチベイは内部でネジ止めされており、2.5インチドライブも基本的にはドライブベイにネジ止めする必要があるため、スクリューレスでのメンテナンスが可能というわけではないが、VESAマウンタを利用してディスプレイ背面に装着している場合でも、本体を外すことなく簡単にドライブを増設可能だ。ドライブの装着や交換は頻繁に行なうことではないが、こういった扱いやすさはユーザーにとって嬉しい特徴と感じる。

天板部分。フットプリントは127×127mm(幅×奥行き)とミニPCとして申し分ない小ささだ
3.5インチHDDとの比較
手のひらにも余裕で乗る小ささだ
正面。高さは53.1mmと、こちらも十分な低さだ
左側面
背面
右側面
底面
重量は実測で537.5gだった
付属品。専用ACアダプタ、HDMIケーブル、2.5インチドライブ固定用ネジ、100×100mm用VESAマウンタなどが付属している
天板は手前左右を押し込むことで外せるようになっている
天板を開けると簡単に内部にアクセスできメンテナンスが可能だ

メモリやSSDなどスペックも充実

 U850は、標準でメモリやSSDを搭載するとともに、OSもプリインストールされた、完成形のPCだ。そのため、ベアボーンキットのようにメモリやストレージ、OSなどを別途用意する必要がなく、購入してすぐに利用可能だ。

 基本スペックは、CPUがCore i5-10210Uで、メモリはDDR4-2666を標準で16GBと十分な容量を搭載。内部にはメモリ用のSO-DIMMスロットが2本用意され、標準で8GBのSO-DIMMを2枚装着。試用機では、Kingston製の8GB DDR4-2666 SO-DIMM「CBD26D4S9S8K1C-8」を2枚採用していた。メモリの最大搭載量は64GB。

 内蔵ストレージはPCIe/NVMe準拠のM.2 SSDを採用しており、容量は256GBまたは512GB。試用機ではKingston製の256GB SSD「OM3PDP3256B-A01」を採用。

 このほか、標準でIEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)準拠の無線LANモジュールも装着。アンテナは2本で2×2通信に対応、通信速度は最大2.4Gbps。モジュールはIntel製の「Fi-Fi 6 AX200(AX200NGW)」を採用していた。

U850の標準モデルでは、標準でDDR4-2666を16GB、内蔵ストレージとして256GBのPCIe/NVMe SSDを搭載
メモリはKingston製の8GB DDR4-2666 SO-DIMM「CBD26D4S9S8K1C-8」を2枚搭載していた
内蔵SSDには、Kingston製の256GB SSD「OM3PDP3256B-A01」を採用していた
Intel製のWi-Fi 6無線LANモジュール「Fi-Fi 6 AX200(AX200NGW)」も標準搭載している

 先に紹介しているように、本体内部には7mm厚の2.5インチドライブを2台装着できるドライブベイを用意しており、接続インターフェイスはSATA 6Gbpsとなる。

 外部ポート類は、本体前面にUSB 3.1 Gen1準拠USB Type-C、USB 3.1 Gen1準拠 USB Type-A×2、オーディオジャックが、本体後方にUSB 3.1 Gen1準拠USB Type-A×2、Display Port、HDMI 2.0、Gigabit Ethernet、2.5Gigabit Ethernet(2.5GbE LAN)、電源専用のUSB Type-Cを用意。

 背面のUSB Type-Cが電源専用で周辺機器などの接続に対応していない点は残念だが、標準で2.5GbE LANを用意する点は、このクラスのミニPCとして大きなアドバンテージとなるだろう。

天板を開けると、7mm厚の2.5インチドライブを2台搭載できるベイが現れる
ドライブベイには上下に2台の2.5インチドライブを装着できる
2.5インチドライブ用のSATA 6Gbpsコネクタ
前面には、USB 3.2 Gen1準拠USB Tyoe-C(DisplayPort Alt Mode対応)、USB 3.2 Gen1準拠USB Type-A×2、オーディオジャックを用意。USBポートの表記は10Gbpsを示しているが製品版では5GbpsのUSB 3.2 Gen1準拠となる
背面には、USB 3.2 Gen1準拠USB Type-A×2、DisplayPort、HDMI、1GbE LAN、2.5GbE LAN、電源専用USB Type-Cの各ポートを用意

 映像出力は、背面のDisplayPortとHDMI、前面のUSB Type-Cを利用して3画面出力に対応。いずれも4K(3,840×2,160ドット)/60Hz出力に対応し、4Kの3画面環境を構築できる。

  ただ、今回の試用機は開発中の試作機ということもあってか、前面USB Type-C経由で正常な映像出力を確認できなかったのは少々残念。開発元によると、製品版では問題なく対応するという。

 ところで、付属のACアダプタはコネクタにUSB Type-Cを採用しているが、出力は19V/3.42Aのみとなる。おそらくUSB PD非対応で、機器間のネゴシエーション機能も搭載していない可能性が高い。そのため、スマートフォンなど一般的なUSB PD対応機器を接続した場合、正常に給電できないばかりか、過電圧によって接続機器が故障する可能性も十分に考えられる。この付属ACアダプタはU850専用と考え、ほかの機器では利用しないように注意すべきだろう。

 なお、65W出力対応の汎用USB PD対応ACアダプタをU850に接続した場合には、正常に動作した。

付属ACアダプタはUSB Type-Cコネクタ採用だが、出力は19V/3.42Aのみとなるため、U850専用として利用するよう注意したい

Core i5-10210U搭載PCとして申し分ない性能を発揮し、動作音も静か

 では、簡単にベンチマークテストの結果を紹介しよう。今回利用したベンチマークソフトは、UL LLCの「PCMark 10 v2.1.2508」、「3DMark Professional Edition v2.17.7137」、Maxonの「CINEBENCH R20.060」と「CINEBENCH R23.200」の4種類だ。

MINISFORUM U850
CPUCore i5-1020U(1.60GHz/最大4.20GHz)
ビデオチップIntel UHD Graphics
メモリDDR4-2666 SDRAM 16GB
ストレージ256GB SSD(NVMe/PCIe)
OSWindows 10 Home 64bit
PCMark 10v2.1.2508
PCMark 10 Score4027
Essentials8345
App Start-up Score11424
Video Conferencing Score6588
Web Browsing Score7722
Productivity6736
Spreadsheets Score7508
Writing Score6045
Digital Content Creation3153
Photo Editing Score3862
Rendering and Visualization Score2054
Video Editting Score3954
CINEBENCH R20.060
CPU1444
CPU (Single Core)405
CINEBENCH R23.200
CPU3624
CPU (Single Core)1090
3DMark Professional Editionv2.17.7137
Night Raid5982
Graphics Score6062
CPU Score5567
Wild Life3157
Time Spy485
Graphics Score442
CPU Score3160

 結果を見ると、Core i5-10210U搭載機として申し分ないスコアが得られている。Tiger Lakeこと第11世代Coreプロセッサではないため、とくにグラフィックス性能はやや低く、ゲームなどのプレイは少々厳しい部分もありそうだ。とはいえ、もともとゲーム向けとして位置付けられていないため、3D描画性能について不満は感じない。

 実際に試用してみても、WebアクセスやOffice系アプリの利用などで動作の重さを感じることはなく、不満を感じる場面は全くと言っていいほどなかった。

 ところで、試用していて感じたのが、動作音が非常に静かだという点だ。低負荷時にはほぼ無音に近い静かさで、高負荷時にはわずかにファンの動作音や風切り音が耳に届く程度で、うるさいとはまったく感じなかった。

 CPUにはブロアーファンと一体化したヒートシンクが取り付けられ、熱を筐体後方のスリットから外に排出。また、本体左右側面の下方と底面には多くの吸気用スリットが用意されている。これによって、かなり効率良く外気を取り入れてCPUの熱を外部に放出できるようになっている。

 しかもこのファンとヒートシンクは、ノートPCなどに搭載されているものよりもサイズが大きい。そのため、静音性を保ちつつ十分な冷却性能を確保できているのだろう。

 この静かさなら、リビングルームのテレビに接続して活用する場合でも、他の音を妨げることはないといえる。

CPUには比較的大型のブロアーファン一体型ヒートシンクを装着。高負荷でもかなり静かな点は嬉しい

試用機では2.5GbE LANの速度低下が見られたが、製品版では改善される予定

 U850の特徴的な仕様となるのが、先ほども紹介したように2.5GbE LANを標準搭載している点だ。これによってクライアントPCとしてだけでなく、高速なファイルサーバーとしても活用できる。そこで、U850にSanDisk製の1TB 2.5インチSSD「Ultra 3D SSD SDSSDH3-1T00」を搭載し、その2.5インチSSDと、2.5GbE LAN搭載のデスクトップPCのM.2 SSDとの間でファイル転送速度を計測してみた。

 テスト用のデスクトップPCの環境は以下のとおり。U850とテスト用PCは、バッファロー製無線LANルータ「WTR-M2133HP」をアクセスポイントモードで稼働させたうえで、WAN用とLAN用として用意されている2ポートの10GbE LANポートと、それぞれの2.5GbE LANポートを有線接続。その状態で、容量約9GBのファイルをデスクトップPCとU850の間で送受信し、それぞれにかかる時間をストップウォッチで計測した。

 また、IEEE 802.11ax(2×2)準拠の無線LANを搭載する富士通クライアントコンピューティング製ノートPC「LIFEBOOK WU2/E3 5Gモデル」(以下、WU2/E3)でも、WT-M2133HPに無線LAN接続した状態で、U850との間で同じファイルの送受信速度を計測した。テストはそれぞれ3回ずつ行ない平均を出している。

テスト用デスクトップPCの環境

  • マザーボード:ASRock Z590 Steel Legend
  • CPU:Core i5-11400
  • メモリ:DDR4-3200 32GB
  • システム用ストレージ:Samsung SSD 840 PRO 256GB
  • OS:Windows 10 Pro 64bit

 グラフ1を見ると、PCからU850にデータをアップロードする場合に、U850からダウンロードする場合と比べて2倍以上の時間がかかっていることがわかる。またWi-Fi 6接続のWU2/E3では、アップロード、ダウンロードともにさらに時間がかかっている。

【グラフ1】2.5GbE LAN接続のU850との間での、容量約9GBのファイル転送時間

 念のため、U850を1GbE LANポートで接続した場合での速度を計測してみた。その結果がグラフ2だが、こちらはアップロード、ダウンロードともにほぼ同じ速度が発揮されている。しかもWi-Fi 6接続のWU2/E3では、アップロードの時間が2.5GbE LAN接続時よりも速くなっている。

【グラフ2】1GbE LAN接続のU850との間での、容量約9GBのファイル転送時間

 試用機に搭載されている2.5GbE LANのコントローラは、Intelの「I225-V」だが、じつはこのチップの「ステップB1」と「ステップB2」にはバグが存在し、データ転送速度が大きく低下するという問題があるという。そして、今回の試用機では「ステップB2」チップが搭載されていたため、とくにU850へのアップロード方向で速度が大幅に低下したと考えられる。

 ところで、テスト用のデスクトップPCと、Wi-Fi 6接続のWU2/E3との間でも速度を計測してみた。グラフ3がその結果だが、ダウンロードはU850間とほぼ同じだったがアップロードが大幅に高速化している。このことから、I225-VのステップB2チップは、WU2/E3が搭載するIntelのWi-Fi 6チップセット「Intel Wi-Fi 6 AX201」との相性も良くないようだ。

【グラフ3】2.5GbE LAN接続のデスクトップPCとの間での、容量約9GBのファイル転送時間

 なお、U850の製品版では、バグが解消されているとされる、I225-Vの「ステップB3」チップを搭載するとのこと。そのため、製品版では2.5GbE LAN接続時の速度低下は発生せず、高速なファイルサーバーとして申し分なく活用できるはずだ。

テレワークから自宅用まで幅広い用途に柔軟に対応

 今回試用したU850は、試作機ということもあって、製品版とは異なる挙動を見せる部分もいくつか見られた。製品版での挙動は推測するしかないが、試用機で見られたような問題は解消されているとのこと。もちろん、そうあってもらう必要があるが、問題が改善されているのであれば、かなり完成度の高い製品と言える。

 CPUは第10世代Core i5のため、Tiger Lake搭載PCに比べると性能面で見劣りする部分もあるだろう。とはいえ、標準で16GBのメモリに256GBのSSD、Wi-Fi 6、2.5GbE LANを搭載していることや、2.5インチSSDを2台搭載できる拡張性の高さなどは、かなり魅力がある。そのため、テレワーク用PCや、自宅で利用するメインPCなど、幅広い用途に柔軟に対応できるはずだ。

 しかも、OSも付属して69,980円からという価格を考えると、コストパフォーマンスもひじょうに優れている。そのため、コストパフォーマンスに優れるミニPCを探しているなら、十分検討に値する製品と言える。