Hothotレビュー
ディスプレイ代わりにもなるドンキの税別3万円切り一体型PC「MONIPA」は使いものになるか
2019年10月19日 11:00
株式会社ドン・キホーテは21.5型液晶ディスプレイ一体型PC「MONIPA」を10月9日に発表、10月11日より販売開始した。本製品はAMD製のエントリープロセッサやストレージにeMMCを採用することで税別29,800円という低価格を実現しつつ、ゲーム機やレコーダを接続するのに利用可能なHDMI入力端子を装備したり、7mm厚のSSDやHDDを増設するためのスロットを用意するなど、単なる低価格PCにとどまらないユニークなモデルに仕上がっている。
税別で3万円を切る、しかも液晶一体型のPCに高性能を望めないことは重々承知しているが、今回のレビューでも各PCメーカーの上位モデルと同様の検証項目を実施し、MONIPAがどのぐらい実用的に使えるのかチェックしてみよう。
価格ありきでベストなパーツを積み上げていった一体型PC
MONIPAは21.5型液晶ディスプレイを搭載した一体型PCだ。OSは「Windows 10(Sモード)」がプリインストールされているが、もちろんSモードを解除し、「Windows 10 Home 64bit」に切り替え可能。というよりも、ライセンスが付属するビジネス統合アプリ「Kingsoft WPS Office Standard Edition」はSモードではインストールできないので、基本的にはSモードを解除することが前提のPCだ。
CPUは「AMD A4-7210(1.8~2.2GHz、4コア/4スレッド)」、iGPUは「AMD Radeon R3 Graphics(686MHz)」、メモリはDDR3-1600 SDRAM 4GB、ストレージは64GB eMMCを搭載。
通信機能はIEEE 802.11ac、Bluetooth 4.2、Gigabit Ethernetをサポートし、インターフェイスはUSB 3.0×2、USB 2.0×3、HDMI入力、microSDカードスロット、ヘッドフォン端子、マイク端子が用意されている。
ディスプレイは、21.5型フルHD IPS液晶(1,920×1,080ドット、102ppi、輝度非公表、色域非公表、非光沢、タッチ非対応、スタイラス非対応)を採用。HDMI入力端子にゲーム機、レコーダ、ほかのPCなどを接続すれば、外部ディスプレイとしても利用可能だ。
付属品は、ACアダプタ(コード長1.5m)、電源ケーブル(1.2m)、スタンド一式、キーボード(コード長1.3m)、マウス(コード長1.3m)、SSD/HDD用取り付け金具一式、取り扱い説明書、保証書、WPS Officeライセンスカード。
CPU、メモリ、ストレージのスペックから、ベンチマークを実施するまでもなくMONIPAは決して高性能なPCではないが、その一方でディスプレイにIPS液晶パネルを採用するなど重要な部分にはコストをかけている。まず税別3万円切りの価格ありきで、できるだけ使い勝手のいいPCにするべくベストなパーツを積み上げていったというのが、スペックから受けた筆者の感想だ。
【表1】MONIPAのスペック | |
---|---|
型番 | KAD215AIO-BK |
OS | Windows 10(S モード) |
CPU | AMD A4-7210(1.8~2.2GHz、4コア/4スレッド) |
GPU | AMD Radeon R3 Graphics(686MHz) |
メモリ | DDR3-1600 SDRAM 4GB |
ストレージ | 64GB eMMC |
ディスプレイ | 21.5型フルHD IPS液晶(1,920×1,080ドット、102ppi、輝度非公表、色域非公表、非光沢、タッチ非対応、スタイラス非対応) |
通信 | IEEE 802.11ac、Bluetooth 4.2、Gigabit Ethernet |
WWAN | - |
インターフェイス | USB 3.0×2、USB 2.0×3、HDMI入力、Gigabit Ethernet、microSDカードスロット、ヘッドフォン端子、マイク端子 |
カメラ | - |
バッテリ容量 | - |
バッテリ駆動時間 | - |
本体サイズ | 495×139×372mm(幅×奥行き×高さ) |
重量 | 約2,600g |
セキュリティ | - |
ビジネス統合アプリ | Kingsoft WPS Office Standard Edition |
同梱品 | ACアダプタ、電源ケーブル、スタンド一式、キーボード、マウス、SSD/HDD用取り付け金具一式、取り扱い説明書、保証書、WPS Officeライセンスカード |
カラー | ブラック |
税別価格 | 29,800円 |
価格から受ける先入観よりも質感を感じさせる筐体
MONIPAの本体サイズは495×139×372mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約2,600g。筐体はプラスチック製、スタンドは金属製で、持ったときの第一印象は「軽い!」に尽きる。ベゼルが比較的細く、スタンドが金属製なので、本体の質感は価格から受ける先入観よりも安っぽく感じない。ただし、キーボードとマウスは、いかにも安価そうな質感だ。またキーボードには傾きを変えるような機構は用意されていない。
インターフェイスは、本体背面にUSB 3.0×2、USB 2.0×2、HDMI入力、有線LAN、ヘッドフォン端子、マイク端子、本体底面にUSB 2.0×1、microSDカードスロットが配置されている。前からアクセスしやすいように本体底面にUSB 2.0、microSDカードスロットが用意されている点はユーザーフレンドリーな配慮だが、個人的にはmicroSDではなくフルサイズのSDカード対応スロットを搭載してほしかった。
もう1つ、強いて残念な点を挙げればWebカメラが搭載されていないことだが、いまどきはスマートフォンでビデオ通話する方が多数派だろう。税別3万円を切れなくなる、もしくはほかのスペックを落とさなければいけなくなるのであれば、Webカメラを省略したドン・キホーテの判断は正しかったと考える。
なおマニュアルに記載がないが、起動時に「Del」キーを連打することでBIOS画面に入れる。搭載されているBIOSは、American Megatrends製でバージョンは「E.MC215.012」。MONIPAを買うエントリー層がBIOS画面で余計な設定をしないように、あえてマニュアルには記載していないのだろう。
組み立て、ストレージの増設は容易、ディスプレイとしての使い勝手はシンプル
セットアップにとくに難しいところはない。スタンドは合計3本のネジで取り付けられるので、作業は数分単位で終わるはずだ。ただし、スタンド取り付け部のカバーは、スタンドを装着したあとは指が入らず取り外しにくい。できればマイナスドライバーなどは使わず、箸やプラスチック製のフォークやスプーンの柄で慎重に取り外そう。
本体背面のストレージの着脱は容易だ。ストレージに4本のプラスネジで金具を取り付けたのち、スロットにスライドさせて装着したあと、最後に2本のプラスネジで固定するだけ。こちらの作業も数分で完了するだろう。
ディスプレイとしての使い勝手は、いい意味でも悪い意味でもシンプルだ。OSが起動していても、起動していなくても、本体背面の切り替えボタンを押せば、数秒でPCまたはHDMI入力端子に接続している映像に切り替わる。ここまでの使い勝手はわかりやすくていい。
問題は画質調整やボリュームボタンなどが存在しないので、ディスプレイとして利用しているときに明るさや音量を変更できないこと。ボリュームボタンだけでも搭載してほしかったところだ。
低価格PCとは思えない広い色域、画質調整機能が搭載されていないのは残念
MONIPAには、21.5型フルHD IPS液晶(1,920×1,080ドット、102ppi、非光沢)が搭載されているが、輝度や色域については公表されていない。そこで実際の色域をディスプレイキャリブレーション機器「i1Display Pro」と色度図作成ソフト「ColorAC」で確認してみたところ、sRGBカバー率99.7%、Adobe RGBカバー率80.7%という値が出た。税別3万円切りのディスプレイ一体型PCとは思えないほど広い色域だ。
ただしディスプレイの輝度は実測169cd/平方mと暗かった。また、ColorACでカラープロファイルを読み込むさいに「注意 : このICCプロファイルのLUT Blackにクリップ(値が飽和)の可能性が見られます」という警告メッセージが表示されたので誤差が生じている可能性がある。しかし、少なくとも低価格ディスプレイ以上の広い色域を備えていると言えそうだ。
サウンドについては、YouTubeで公開されている「前前前世(movie ver.) RADWIMPS MV」を最大ボリュームで再生したさいの音圧レベルは最大79.5dB(50cmの距離で測定)と、ノートPCなどと比べても少し低め。また、音質に大きな破綻はないが、結構こもり気味だ。できれば、外部スピーカーやヘッドフォンなどを用意しよう。
AV品質以前に、もっとも問題に思えたのが、やはり画質調節機能が搭載されていないこと。個体差がある可能性はあるが、今回借用したMONIPAは緑が強めに出ていた。そしてその傾向は、ディスプレイとして利用する場合でも変わらなかった。
Windows環境なら「設定→システム→ディスプレイ→ディスプレイの詳細設定→ディスプレイ1のアダプターのプロパティを表示します→色の管理→詳細設定→ディスプレイの調整」の「カラーバランスの調整」で緑を弱めれば標準的な発色に変更できるが、色調整機能を備えていないゲーム機器を接続した場合には改善のしようがない。
個人的には税別3万円切りのディスプレイ一体型PCとしては十分合格点だが、もしAV品質にこだわるなら気をつけたい。
Webブラウジングや動画鑑賞をなんとかこなせる性能
最後に処理性能をチェックしてみよう。今回は下記のベンチマークを実施している。
- 総合ベンチマーク「PCMark 10 v2.0.2144」
- 3Dグラフィックベンチマーク「3DMark v2.10.6799」
- CPU/OpenGLベンチマーク「CINEBENCH R15.0」
- CPUベンチマーク「CINEBENCH R20.060」
- 3Dゲームベンチマーク「ファイナルファンタジ-XIV: 漆黒の反逆者 ベンチマ-ク」
- ストレージベンチマーク「CrystalDiskMark 6.0.2」
なお比較用にマウスコンピューターの2in1 PC「MT-WN1004-Pro」のベンチマークスコアを、石田賀津男氏のレビュー記事(3Dゲームも遊べるのか? 4万円ちょっとの10.1型2in1「マウス MT-WN1004」を試す)から引用した。MONIPAはディスプレイ一体型PC、MT-WN1004-Proは2in1と製品ジャンルがまったく異なるが、シリーズの価格帯が37,800円からと比較的MONIPAと近いことからMT-WN1004-Proを比較対象機種として採用した。下記が検証機の仕様と、その結果だ。
【表2】検証機の仕様 | ||
---|---|---|
MONIPA | MT-WN1004-Pro | |
CPU | AMD A4-7210(1.8~2.2GHz、4コア/4スレッド) | Celeron N4000(1.1~2.6GHz、2コア/2スレッド) |
GPU | AMD Radeon R3 Graphics(686MHz) | Intel UHD Graphics 600(200MHz~650MHz) |
メモリ | DDR3-1600 SDRAM 4GB | LPDDR4-2400 SDRAM 4GB |
ストレ-ジ | 64GB eMMC | |
ディスプレイ | 21.5型、1,920×1,080ドット(102ppi) | 10.1型、1,280×800ドット(149ppi) |
TDP | 15W | 6W |
OS | Windows 10 Home 64bit バージョン1903 | Windows 10 Pro 64bit |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 495×139×372mm | 259×174×10mm |
重量 | 約2,600g | 約640g(本体のみ) |
MONIPA | MT-WN1004-Pro | |
---|---|---|
PCMark 10 v2.0.2144 | ||
PCMark 10 Score | 1,186 | 1,571 |
Essentials | 3,116 | 4,409 |
App Start-up Score | 2,864 | 4,561 |
Video Conferencing Score | 3,982 | 4,228 |
Web Browsing Score | 2,654 | 4,445 |
Productivity | 1,951 | 2,628 |
Spreadsheets Score | 2,288 | 3,146 |
Writing Score | 1,664 | 2,196 |
Digital Content Creation | 747 | 909 |
Photo Editing Score | 966 | 911 |
Rendering and Visualization Score | 537 | 564 |
Video Editting Score | 806 | 1,462 |
PCMark 10 Modern Office Battery Life | - | 4時間38分 |
3DMark v2.10.6799 | ||
Time Spy | 124(互換性なし) | - |
Fire Strike Ultra | 80(互換性なし) | - |
Fire Strike Extreme | 173(互換性なし) | - |
Fire Strike | 433(互換性なし) | 380 |
Night Raid | 1266(互換性なし) | - |
Sky Diver | 1,566 | 1,191 |
Cloud Gate | 2,163 | 2,509 |
Ice Storm Extreme | 18,263 | 12,052 |
Ice Storm | 23,918 | - |
CINEBENCH R15.0 | ||
OpenGL | 13.70 fps | - |
CPU | 108 cb | - |
CPU(Single Core) | 44 cb | - |
CINEBENCH R20.060 | ||
CPU | 212 pts | 299 pts |
CPU(Single Core) | 88 pts | 158 pts |
ファイナルファンタジ-XIV: 漆黒の反逆者 ベンチマ-ク | ||
1,280×720ドット 標準品質(ノ-トPC) | 1,468(設定変更が必要) | 778 |
1,920×1,080ドット 標準品質(ノ-トPC) | 815(動作困難) | - |
1,920×1,080ドット 高品質(ノ-トPC) | 562(動作困難) | - |
SSDをCrystalDiskMark 6.0.2で計測 | ||
Q32T1 シ-ケンシャルリ-ド | 121.888 MB/s | 137.7 MB/s |
Q32T1 シ-ケンシャルライト | 84.342 MB/s | 113.3 MB/s |
4K Q8T8 ランダムリ-ド | 12.323 MB/s | 21.80 MB/s |
4K Q8T8 ランダムライト | 9.308 MB/s | 14.05 MB/s |
4K Q32T1 ランダムリ-ド | 11.968 MB/s | 22.03 MB/s |
4K Q32T1 ランダムライト | 9.394 MB/s | 13.93 MB/s |
4K Q1T1 ランダムリ-ド | 10.542 MB/s | 11.46 MB/s |
4K Q1T1 ランダムライト | 8.424 MB/s | 11.54 MB/s |
増設したSSD(SATA接続)をCrystalDiskMark 6.0.2で計測 | ||
Q32T1 シ-ケンシャルリ-ド | 280.236 MB/s | - |
Q32T1 シ-ケンシャルライト | 263.045 MB/s | - |
4K Q8T8 ランダムリ-ド | 133.862 MB/s | - |
4K Q8T8 ランダムライト | 161.994 MB/s | - |
4K Q32T1 ランダムリ-ド | 90.296 MB/s | - |
4K Q32T1 ランダムライト | 84.262 MB/s | - |
4K Q1T1 ランダムリ-ド | 24.816 MB/s | - |
4K Q1T1 ランダムライト | 48.675 MB/s | - |
MT-WN1004-Proと比較するまでもなく、MONIPAの処理性能はかなり低めだ。CINEBENCH R20.060のCPUスコアがMONIPAはMT-WN1004-Proの約70.1%に相当する212 ptsだ。また、CINEBENCH R15.0のCPUスコアがMONIPAは108 cbなので、ここ数年のUプロセッサーの1コア分にも満たない処理性能ということになる。PCMark 10の総合スコアで見ると、基準値「Office PC(2016)」が2,675で、MONIPAがその約44%の1,186だ。
実際本製品を使ってみた感想としては、Webブラウジングや動画鑑賞は多少待たされるものの、なんとかこなせるだろう。ただ、オフィスアプリケーションで画像をたくさん貼った書類を作成、編集するのは正直厳しいと思う。
なお、せっかくストレージ用のスロットが用意されているので、手持ちのSerial ATA接続のSSD「CSSD-S6M512CG3VZ」を増設してみたが、上の表のとおり仕様上の最大転送速度(シーケンシャルリード550MB/s、シーケンシャルライト510MB/s)には届かなかった。300MB/sが上限のSerial ATA IIで接続されているわけだ。Serial ATA接続のSSDを増設すれば容量を大きく増やせるが、転送速度についてはeMMCより着実に向上するものの、過度な期待は禁物だ。
いくらでもつぶしがきくディスプレイ一体型PC
MONIPAは非常におもしろいコンセプトのPCだ。低価格を追求しながらも、HDMI入力端子を用意したり、Serial ATA接続のSSD/HDDを増設できるようにするなど、ある程度長く使うための配慮もなされている。MONIPAとPlayStation 4、MONIPAとHDDレコーダのような組み合わせで導入すれば、高価なPCを1台購入するよりも用途は広がるかもしれない。
この先、Windows 10やアプリが高機能化して実用的な速度で動かなくなったりしても、セカンドディスプレイとして余生を送らせてあげられることを考えれば、MONIPAはいくらでもつぶしがきくディスプレイ一体型PCと言える。