Hothotレビュー
7型UMPCに新たな選択肢、「ONE-NETBOOK OneMix」
2018年8月1日 11:00
深セン市壱号本科技有限公司(ONE-NETBOOK Technology)から2018年5月に突如登場した2in1「OneMix」は、7型液晶を備えた液晶が360度回転する2in1だ。いわばUMPCの類で、その外観はGPD Technologyの「GPD Pocket」にそっくり。GearbestやBanggood、GeekBuyingといった海外のECサイトから、400ドル半ばの価格で購入できる。
今回、OneMixの代理店と務める品星貿易(深セン)有限公司からサンプルが送られてきたのでご紹介しようと思う。なお、本製品は日本国内にいるユーザーが、無線機能を合法的に使用するための技適を取得していないほか、ACアダプタにも国内の安全基準を示すPSEマークがない。このため、筆者は7月中旬にHPの取材で出向いたシンガポールに本製品を持参し試用することにした。
ただ、品星貿易によると、ONE-NETBOOKは技適を取得することにかなり前向きの姿勢を示しているとのこと。これは日本市場で一定数が販売されることを見込んでのことだ。投入時期は不明だが、日本国内での展開には期待していいだろう。
GPD Pocketにそっくりな外観だが……
最初に本製品をひと目見た感想は、「GPD Pocketのパクリ」だと誰もが言うところだろう。7型液晶というサイズもさることながら、MacBookシリーズの表面を彷彿とさせるシルバーの金属削り出し/サンドブラスト仕上げの表面、少しぽっちゃりとしたフォルム、大胆なレイアウト変更を行なったキーボードなど、共通する要素はかなりある。
とは言え、細かく見ていけば、かなり異なることがわかる。1つ目はヒンジで、OneMixは2in1機構を実現するためにヒンジが天板からも確認でき、開いたとき液晶側がキーボードの上に来る。これに対しGPD Pocketはキーボード側にヒンジ機構があり、開いたとき液晶側の下部はキーボードの後部に隠れる。クラムシェル形態で使う場合、1~2cm程度ではあるが、OneMixのほうが目に近い。
2つ目はキーボードで、OneMixにはGPD PocketにはないLEDバックライトを備えており、暗所でも視認できるのが特徴。配列的には、GPD Pocketは「右Alt」、「右Ctrl」があるのに対し、OneMixはこれを省き、スペースバーと「:」を広くとっている。また、「左Fn」と「左Ctrl」もGPD Pcoketのようにくっついておらず余裕がある。
配列において一番大きな違いとも言えるのは、「BackSpace」と「Delete」キーで、GPD PocketとOneMixは上下の位置が逆だ。個人的にはGPD Pocketのほうが使いやすいと感じたが、どちらかと言えばよく使われるBackSpaceのほうが面積が大きいほうがいいというユーザーもいるかもしれない。
3つ目はポインティングデバイスで、GPD Pocketはスティック式であるのに対し、OneMixは光学式だ。また、GPD Pocketのスティック型ポインタはスペースバーと左右クリックボタンのあいだにあるのに対し、OneMixは「B」と「N」とスペースバーのあいだにある。
オプションではあるが、OneMixでは2,048レベルの筆圧を持ったペンが使用可能となっており、この点も差別化要素となっている。
4つ目はインターフェイス周りで、OneMixにはGPD PocketにはないmicroSDカードスロットがある。さらに、USB Type-Cを備えているものの、このポートからの充電には対応せず、Micro USBからの充電のみとなっている。
そして5つ目はCPUで、GPD PocketはAtom x7-Z8750を採用しているが、本製品はAtom x5-Z8350となっている。GPD Pocketと比較して性能は低くなるが、発熱が抑えられているようで、使用中やベンチマーク中にファンが回ることがなかった。
高級感のある外観
GPD Pocketとの仕様比較はこれぐらいにして、パッケージから見ていこう。製品パッケージはめずらしく光沢感のあるもので、平面的に収納されている。本体のほかに、簡単なマニュアル、5V/3AのACアダプタ、USB Type-A→Micro USBケーブルなどが付属する。
本体はアルミCNC削り出し筐体だと思われ、高い質感を実現している。GPD Pocketと比較してエッジが効いた筐体で、手にしたときOneMixのほうが野暮ったい印象。気になるのはタブレット形態利用時で、タブレットとしてはかなり厚みがある上、エッジが手に当たってあまりしっくり来ない。このあたりは改善の余地があるだろう。
設計としてはフレーム+キーボード面(C面)が一体で、底面(D面)が1枚のパネルになっている。底面のネジ穴のうち1つには、製品が正規品であることを示す封印シールがなされており、事実上分解すると保証が無効になる。
筐体の剛性は非常に高いのだが、汚れや傷が付きやすそうなのはネック。高級感がある筐体だけに汚れや傷は気になるが、せっかくのポータブルに特化した製品なので、個人的にこのあたりは気にせずバシバシ使いたいところだ。
なお、タッチペンは別売りとなっており、今回は本体と同時に入手することができた。ペンは若干短めな印象で、単6形乾電池を1本使用するタイプとなっている。
LEDバックライト付きキーボードと光学式ポインティングデバイス
先述のとおり、本製品もGPD Pocketに似たアイソレーションタイプのキーボードを備えている。ただその使い勝手は大きく異なる。
キータッチだが、GPD Pocketが比較的クリック感のしっかりとしたものであるのに対し、本製品はソフトな印象で、ストロークも1.3mmと浅く、押下圧も軽めに設定されている。ただアクチュエーションポイントはかなり深く、かなり底打ちをしなければならない印象だ。筆者の個体の問題かもしれないが、とくに「N」キーに関しては強めに押さないとならなかった。キータッチについては改善の余地はあると言える。
その一方でLEDバックライトの搭載はすばらしいの一言で、これは10月に発売されるGPD Pocket 2でも実現されていないポイント。一般的にUMPCはキーボード配列が特殊なだけに、この仕様は暗所でのタイピングの可能性を大きく引き上げられる。LEDバックライトの搭載でタイピング感と本体の薄さが若干犠牲となっているのは否めないが、このあたりはトレードオフなので致し方ないところだろう。
ポインティングデバイスは光学式で、先述のとおりB/N/スペースバーのあいだに配置されている。まるで小さなタッチパッドのようで、スティック型と比較して力を入れなくても操作できるのは良いし、ポインタの動きもキビキビしていて気持ちいい。
タッチパッドと同様、センサー上を軽くタップするとクリックに相当する動作も実装されているのだが、タップしたときにクリックできなかったり、逆に意図しないタイミングでクリックされたりと、誤動作が多いのが気になった。物理の左右クリックボタンもスペースバーの下に用意されているので、このあたりを併用して乗り越えたいところだ。
タブレットとしても利用できる2in1スタイル
液晶はGPD Pocketと同じく、1,920×1,200ドット(WUXGA)表示対応の7型となっている。とくに謳われていないが、おそらく同じシャープ製だと思われる。IPSタイプのため視野角も広く、色味も比較的正しい。ただ、本製品はペン対応のデジタイザが入っているためか、ごくわずかではあるが白っぽく見える。
本製品の液晶も縦方向で使うタブレット向けに設計されたもので、本製品はソフトウェアによって横に270度回転した状態で使用されている。このため一部ゲームソフトと相性問題が発生するのはGPD Pocketと同様だ。
1点異なるのは、本製品はUEFI BIOS自体が横に回転したかたちで表示されるよう実装している点。このためGPD Pocketのように首をひねって、項目と矢印キーとにらめっこしながらBIOS設定を行なう必要がない。とは言え、そもそも設定できる項目が少ないので、あまり気にならない点ではある。
本製品の液晶は360度回転する2段ヒンジとなっている。180度までは普通に開き、それ以上開くためにはやや強めに力を入れなければならない。タブレットモードになると、電源ボタン以外のキーは反応しなくなり、キーの誤入力を防ぐ仕組みとなっている。タブレットモード時の縦持ちは、まるで単行本を手にしているようなイメージだ。
気になるのは、液晶を回転させても自動的にタブレットモードとデスクトップモードが切り替わらず、手動で切り替えるしかない点。自動切り替えのためには専用のセンサーが必要となるため、それを省いたのかもしれない(とは言え、Chuwi Hi13は同センサーがあるにもかかわらず自動で切り替えられなかった)。
また、タブレットモードにしたさい、事前にキーボードのLEDバックライトをオンにしたままだと、オンのままとなってしまう。先述のとおり、タブレットモードでは電源ボタン以外効かないので、そのままではFn+ESCキーでオフにできない。画面が回転したら自動でキーボードバックライトをオフにする機能がほしかったところだ。
別売りのペンは、視差が若干あるものの、追従性はそこそこで書き心地は悪くない。さすがに置いただけで反応するほど軽い筆圧に対応していないが、少ない力でも反応する。液晶表面は素のままだとかなり滑りやすいが、出荷時にはあらかじめ液晶保護フィルムが貼り付けられており、これが貼り付いたままの状態では抵抗が増すため、書き心地が向上する。
本製品は液晶解像度が高いため、ソフトウェアのUIを表示させたままでも描き込み部分を損なうことがなく、頑張ればかなりの描き込みが可能。また、タブレットモードにすれば描きやすくもなる。ただ精度についてはイマイチで、とくに斜めの線はかなり波打ってしまい、苦手のようだ。対応するソフトウェア補正の作り次第だろうが、精度を要求する作品作りには向かないだろう。
スピーカーはこもり気味だが、このクラスで音質についてこだわる人は少ないだろうから問題にはならないだろう。気になるユーザーは3.5mmミニジャックを使えば良い。3.5mmミニジャックの出力は比較的素直な部類だが、若干低音寄りに味づけがなされている印象である。
インターフェイスは豊富だが、USB Type-Cで充電できないのはネック
先述のとおり、本機はGPD PocketにはないmicroSDカードスロットと、Micro USBによる充電ポートがある。本機のストレージは128GBと決して少ないほうではないが、多くもないため、容量拡張できるmicroSDカードスロットは重宝する。
本機には5V/3AのACアダプタが付属し、Micro USBによる充電に対応する。本体にはUSB 3.0 Type-Cポートもあるが、こちらは充電には対応しない。USB Type-Cが当たり前になりつつあるご時世にMicro USBしか対応しないというのはいただけないが、入手性の面ではまだMicro USBケーブルに一日の長があるのも確かではある。また、2Aしか出力できないモバイルバッテリでも充電できるのは評価していいだろう。
1点インターフェイスで気になるとすれば、USB 3.0 Type-Aは、オス側の端子が見えるほうを下にして装着する点と、microSDは端子が見えるほうを上にして装着する点。一般的なノートPCは逆のパターンが多いので、最初のうちは戸惑うかもしれない。
直接目に見えないインターフェイス周りでもう1点の特徴は、本機は無線LANモジュールに「Intel Dual Band Wireless-AC 3165」を採用している点が挙げられる。AtomタブレットはBroadcom製モジュールを採用しているものが多く、GPD Pocketもその類なのだが、過去にスリープから復帰後に無線を認識しなかったりと、バグに遭遇したことが何度かある。一方でOneMixは、4日間程度の試用ではあるが、無線の挙動は非常に安定している印象だった。
GPD Pocketの約8割の性能
ベンチマークは「PCMark 10」、「Cinebench R15」を実施した。製品の位置づけや用途を考え、3Dに特化したベンチマークはとくに実施していない。
One Mix | GPD Pocket | |
---|---|---|
CPU | Atom x5-Z8350 | Atom x7-Z8750 |
メモリ | 8GB | |
ストレージ | 128GB | |
OS | Windows 10 Home/2018 Spring Update | |
PCMark 10 | ||
Score | 796 | 966 |
Essentials | 2344 | 2490 |
App Start-up Score | 1908 | 2337 |
Video Conferencing Score | 3036 | 3309 |
Web Browsing Score | 2225 | 1998 |
Productivity | 1050 | 1387 |
Spreadsheets Score | 1002 | 1162 |
Writing Score | 1102 | 1657 |
Digital Content Creation | 558 | 710 |
Photo Editing Score | 677 | 911 |
Rendering and Visualization Score | 327 | 370 |
Video Editing Score | 786 | 1063 |
Cinebench R15 | ||
CPU | 99 | 99 |
OpenGL | 7.82 | 12.19 |
一般ユーザーの日常的なコンピューティング性能を数値化するPCMark 10では、GPD Pocketの966に対し796と、約8割の性能を示した。これは純粋に搭載されているCPUの性能差だと言ってもいい。GPD Pocketに搭載されているAtom x7-Z8750は最大2.6GHzで駆動するが、OneMixのAtom x5-Z8350は最大1.92GHzと、約73%に留まる。これを踏まえるとほぼ期待されるどおりの性能だと言える。
PCMark 10のベンチマーク中、GPD PocketのCPU温度は終盤最大83℃に達するが、OneMixは74℃程度まで抑えられていた。OneMixはファンが回っていないことを考えるとかなり健闘しているが、ベンチマーク実施中はキーボード面の右側が熱くなった。GPD Pocketは底面こそ熱いが、表面はさほど温度が上がっておらず、ファンが功を奏していると思われる。このあたりも設計思想の違いが現れている。
Cinebench R15は、意外にもCPUの項目でスコア差が生まれなかった。PCMark 10のようなCPU使用率に波があるケースでは、Atom x7-Z8750の高クロックが活きるが、Cinebench R15のような高負荷が続くケースでは、そのクロックを維持できないためと考えられる。
一方でOpenGLテストでは、OneMixが約36%遅れを取っており、実行ユニットの差の違い(Atom x5-Z8350の12基対Atom x7-Z8750の16基)、およびGPUの最大クロック差(同500MHz対600MHz)が影響したと言える。
バッテリ駆動時間は、BBenchを使い、キーバックライトオフ、液晶輝度20%の状態で、キーストローク+Web巡回をオンに設定して計測した。結果は約8.9時間と、Atom搭載機としてはまずまずの結果を残した。7型クラムシェルである点を加味すると優秀な部類だろう。20%あたりから減りが早くなっており、この点GPD Pocketなどと同様の挙動でバッテリ残量管理がやや心配だが、1日のライト使用ならACアダプタは不要だろう。
【8月2日訂正】記事初出時、ファンレスとしておりましたが、ファンを搭載しておりました。ただ試用中に回転することはありませんでした。お詫びして訂正します。
廃れたUMPCというジャンルに新たな選択肢
ちなみにこのOneMixの存在自体はGPDも認識しているようで、機能や性能面で差別化が図られていることも把握済み。最終的にどの製品が良いのか、消費者に決めてもらいたいとのことだ。そもそもUMPCという市場自体ニッチであり、PCのコモディティ化が進むなか、数点の差別化要素があること自体ありがたい。筆者としても、OneMixのような新しいUMPCの選択肢が生まれたことは歓迎したい。
また、GPDはCore m3-7Y30を搭載した「GPD Pocket 2」の生産開始後、GPD Pocketを生産終了させるとのことだ。Core m3-7Y30ほどの性能は必要としない、もしくはそこまでの予算がないといったユーザーにとっても、OneMixは救世主となるはずだ。
OneMix自体だが、テキスト入力や数点の画像の編集程度の作業、ペンを活用したアイディアスケッチ、WebブラウジングやWebブラウザゲームなどを中心とした用途であれば、おおむね満足できるだろう。GPD Pocketからのごくわずかな重量増で、2in1機構やペン入力、microSDカードスロット、LEDバックライトキーボードが手に入るので、これらに価値を見いだせるユーザーであれば、良き選択肢となりそうだ。