大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
「スタバでMac」を大阪でも!?
~関西エリアでのMac販売強化でシェア拡大に弾み
(2016/2/8 06:00)
アップルが、関西エリアにおいて、Macの販売を加速する。アップルストア心斎橋では、来店客向けの新たな製品デモプログラムを1月25日から展開。サポートを行なうジーニアス・スペシャリストの規模拡大に努める一方、ヨドバシカメラ マルチメディア梅田では、アップルショップの売り場拡大とともに、修理窓口を新たに設置して、販売、サービス体制の強化を図った。さらに地元量販店最大手の上新電機では、2016年中に、関西エリアの約60店舗にMac売り場を拡張する。関西地区におけるMacの販売拡大の向けた基盤が整いつつある。大阪を訪れ、関西エリアにおけるMac販売動向について追ってみた。
Macが東京圏で首位の衝撃
2015年のPC市場で大きな変化が起こっていた。
全国の主要販売店のPOSデータを集計しているBCNによると、2015年(2015年1月~12月)の集計で、ノートPCおよびデスクトップをあわせた東京圏におけるMacのシェアは19.9%となり、なんと首位になったのだ。2位にはNECが19.6%、3位には東芝の14.3%、4位には富士通の13.9%と続くが、これらの国内大手PCメーカーを据え置いてのトップシェア獲得となっている。
本誌では、2015年12月17日付けで、東京圏においてMacのシェアが高いことを報じたが、2015年年間では、それを上回り、トップシェアを獲得する結果となったのだ。BCNの集計では、直営店であるアップルストアの数値が反映されていないが、これにアップルストアの数字を加えると、さらにシェアが高まる可能性もありそうだ。
だが、その一方で、東京圏以外でのMacのシェアは決して高くない。2015年の大阪圏のシェアは5.6%で6位、名古屋圏では5.3%で同じく6位、その他地域では5.9%と5位。いずれも5%台のシェアに留まり、東京圏の4分の1程度に留まっているというわけだ。
アップルにとってみれば、首都圏エリア以外でのシェア拡大が課題となっているのは明らかだ。特に、首都圏エリアに次ぐ市場規模を誇る関西エリアでのシェア拡大は最優先課題ということになろう。
だが、実際に、大阪を訪れて取材をしてみると、関西エリアにおけるシェア拡大の動きが着実に形になりつつあることが感じられた。
展示機を約2倍に拡張したヨドバシカメラ梅田
大阪・梅田のヨドバシカメラマルチメディア梅田の1階フロア。阪急に近い入口から入ってすぐの場所に設置されたアップルショップには、平日にも関わらず多くの人が詰めかけていた。土日になると、終日、あふれんばかりの人だかりになるという。
ヨドバシカメラマルチメディア梅田 アップル&ウィンドウズチーム・高田翔平グループリーダーは、「これまではPCに詳しい人、グラフィック用途で活用する人、CADなどの設計用途に利用する人が中心だったものが、ここ数年、学生や女性、あるいはシニア層が、アップルショップを訪れる例が増えている。購入者の傾向が大きく変化している」と語る。
その背景には、iPhoneの広がりがあると、高田グループリーダーは指摘する。
「iPhoneを使っている学生や女性が、その操作性の高さから、Macに興味を持ち、店頭を訪れる例が増加している。一方で、シニア層は、デジタルカメラで撮影した写真を、友人などに見せるために、iPadを購入したいという声が聞かれる」という。
実は、ヨドバシカメラマルチメディア梅田は、Macの販売台数では、東京・秋葉原のマルチメディアAkibaを上回り、国内最大規模を誇るという。
「事前予約や、発売日の売れ行きは、マルチメディアAkibaがダントツの売れ行きとなっているが、マルチメディア梅田は、その後、徐々に販売台数が増加し、最終的にはマルチメディアAkibaの販売台数を抜くといったことが何度も起こっている」という。
関西の購入者は、購入前に製品を何度も吟味する傾向や、口コミによる評価を重視する傾向が強いという。むしろ、売り場を訪れて、衝動買いする例は少ないようだ。
「マルチメディア梅田では、発売日に購入する人は東京の店舗に比べると少ないが、その後、何度もお店を訪れて製品について詳しく質問したり、実際に購入し、使った人の声を聞いて、店を訪れるといった人が多いことを感じる」と、高田グループマネージャーは語る。
売り場への滞留時間が長いのも、関西エリアならではの特徴で、「2時間以上に渡って、1人のお客様と接客する場合もある」という。
こうした関西エリア特有の購入動向を捉えて、ヨドバシカメラマルチメディア梅田では、ここ数年で、いくつかの施策を展開している。
2014年6月に1階フロアのアップルショップをリニューアル。2011年4月のアップルショップオープン以来のコンセプトとしていた「実際に触ってもらうための売り場づくり」を強化。さらに、2015年には、地下1階にもアップルショップを拡大し、売り場スペースを約1.3倍に拡張した。そして、2015年11月には、アップル製品専用の修理窓口を地下2階に設置し、購入後のサポートについても対応できる体制を整えた。また、ディスプレイ部への液晶保護フィルムの有償貼り付けサービスをiPhoneのほかにも、iPadやMacの展開していることが口コミで広がり、これを利用する購入者も増えているという。このように、購入からサポートまでをワンストップで対応できる体制を整えたというわけだ。
2015年12月には、展示機を2倍規模に拡大し、より多くの人が実際に触ってもらえるスペースを確保した点も見逃せない。最新のiPad Proも昨年末には3台の展示に留まっていたが、現在は6台を展示し、自由に触れるようにしているという。
「量販店において、ここまで展示しているのは関西エリアではヨドバシカメラマルチメディア梅田だけ。MacやiPadの使いやすさや、実用性の高さ、あるいは使っていて楽しいということを感じ、納得してもらうことが、購入につながる。今でも、Macは難しいのではないか、という先入観を持っている人もまだ多い。売り場を広げたり、展示台数を倍増させたことで、より多くの人に、待つことなく、触ってもらう環境が実現でき、そうした疑問を払拭することができる」とする。
土日には、売り場において、デモストレーションやミニセミナーを数多く開催して、アップル製品の魅力を伝えることにも余念がない。
「関西エリアでも、スマートフォンにおけるiPhoneのシェアは圧倒的に高い。まずは、そうしたユーザーの方々に対して、iPadやMacの魅力を伝えたい。iPhoneからMacへの流れは、今年はさらに加速すると考えている。そのなかで、関西エリアにおいて、Macを購入するならば、ヨドバシカメラマルチメディア梅田という流れを作りたい」と語る。
今後、拡大が見込まれる関西エリアにおけるMac販売において、リーダー的存在を担う姿勢を強調してみせた。
地元大手量販の上新電機もMacに本腰
地元最大手量販店の上新電機でも、2015年後半から、アップル製品の販売実績が右肩上がりになっているという。
上新電機営業本部副本部長の尾上公一取締役は、「Macは、ターミナル型の大型店舗でしか売れないという前提があった。だが、実際の店舗で実験をしてみたところ、Macの売り上げが着実に成果に結びついていることが分かった」と語る。
同社では、大阪・守口市のジョーシン大日イオンモール店において、2015年10月16日、同社初となるアップルショップをオープンした。
アップルショップ共通の什器を使用することで、ほかの売り場とは異なるしつらえとなるアップルショップの展開は、上新電機にとっても、いわば挑戦と言えるものだった。上新電機全体のPC販売に占めるアップル製品の比率は、わずか1%。あとはWindows搭載PCが占めている。その点でも、アップルショップの展開が、同社にとって大きな挑戦であったことがわかるだろう。
「大型ショッピングモールにおいて、単価が高く、説明が求められるアップル製品が売れるのかどうか。まさに手探りでの挑戦だった」と、上新電機の尾上取締役は振り返る。
だが、その懸念は杞憂に終わったようだ。
商戦期となる2015年12月における、同店のMacの販売台数は、前年比3割以上。iPadについては、実に7割以上の販売台数を記録したという。
「やはりベースには、iPhoneの普及がある。アップルのブランドが一般ユーザーにも受け入れられやすい環境が整っており、しっかりとした説明を行なえば、MacやiPadを購入していただけるといった手応えを感じた」と語る。
特に、iPadの場合には、iPhoneと操作性が一緒であることが購入に繋がりやすく、Macについては、データ共有などでの使いやすさが購入に繋がっているという。
「iPhoneというブランドが一人歩きしており、説明をすると、iPhoneと同じメーカーが、Macを出していることを知らないという来店客もいた」とのエピソードも明かす。
実は、上新電機におけるスマートフォンの販売実績のうち、iPhoneのシェアは7割を超える月もあるというほど、高い人気を誇る。言い換えれば、iPhoneでは高い販売実績を持っているのに対して、Macは手付かずという状況が生まれていたとも言える。
「Macの取り扱いを本格化することで、今までにない販売が、そのまま上乗せできた。新たな需要を開拓できたともいえ、上新電機が取り組む意味は大きい」とする。
これまで販売したiPhoneユーザーに対して、新たな商材を提案するという動きにつなげることができたというわけだ。
ジョーシン大日イオンモール店でのアップルショップの成功を受けて、上新電機では、Macの販売体制強化に本格的に乗り出すことになった。
従来は、大阪・日本橋のJ&Pテクノランドなど、10店舗強での取り扱いに留めていたMacの販売を、2015年末までに、約30店舗に拡大。さらに、今年春以降、段階的にMac取り扱い店舗を拡大させ、2016年中には、関西エリアを中心に、約60店舗でMacの取り扱いを開始する。
特に、今後の大きな目玉になりそうなのが、大阪・岸和田市のジョーシン岸和田店での取り組みだ。同店は、約2,000坪の売り場面積を持つ大型独立店舗で、郊外型の中規模店舗を主軸とする上新電機の中でも、広域型の地域一番店を目指す基幹店舗の1つと位置付けられている。
「大型ショッピングモール内での展開に続き、大型独立店舗でMacがどんな動きを見せるか、といった点に注目している。今年春に、岸和田での本格販売を開始する予定であり、その手応えによって、順次、郊外型店舗への展開を推進していきたい」とする。
大型ショッピングモール、大型独立店舗、そして、売り場面積1,000坪程度の中規模の郊外型店舗への展開という3つのステップを通じて、Macの販売を拡大させる考えだ。
一方で、これにあわせた社員教育にも余念がない。
アップルでは、ASTO(アスト=アップル・セールス・トレーニング・オンライン)と呼ぶ、正規販売代理店を対象にしたウェブトレーニングの仕組みを提供。ここで、Macに関する基本的な知識から、製品に関する情報、顧客への接客や販売方法などについて学習することができる。これを受講し、一定のポイントに達すると、アップル側が認定した資格を取得できるようになる。
上新電機では、PC売り場の担当者全員を対象に、ASTOの受講を開始。店頭における対応力を強化している。
さらに、物流センターにおけるMacの在庫の拡大にも乗り出す考えで、郊外型店舗への展開にあわせて、在庫をおけない製品についても、早ければ翌日には購入者の手元に納品する体制を構築する。ここでは、同社の通信販売サイト「Joshinネットショッピング」においても、2015年12月からアップル製品の取り扱いを初めて開始したことを受けて、これと連動した取り組みになる。
「通販サイトにおいても、アップル製品の世界を表現するような姿へと変えていきたい。当社にとって、アップル製品の取り扱いはビジネスチャンスの拡大に繋がる。大日でのアップルショップの展開のほか、取り扱い店舗の拡大、通信販売での展開などを通じて、関西エリアにおけるMacの取り扱いを拡大したい。まずは、Macのシェア倍増以上を目指したい」とする。
関西エリアに幅広く店舗を持つ上新電機が、Macの販売を強化することで、関西エリアにおけるMacの存在感は、さらに高まることになりそうだ。
アップルも関西エリアでの販売強化に注力
一方、関西エリア唯一の直営店であり、関西エリアにおける中核的存在となるアップルストア心斎橋も、販売、サポート体制の強化に取り組んでいる。
アップルストア心斎橋では、2016年1月25日から、同店の来店客に対して、Macなどのプロダクトデモを実施するプログラムを新たにスタート。現場からは、デモストレーションの最中にも活発な質問が出ており、これに対して丁寧に回答することで、Macへの理解が高まっているとの声が聞かれるという。
また、2階のシアターを使用したワークショップイベントでは、今年に入ってから、アーティストが参加する形で、iPad Proを使ったイベントを開催。新たに開始したワークショップ「iPadでスケッチしたり絵を描いてみよう 」は、毎回大好評で、すぐに満員になるほどの人気ぶりだという。
さらに、関西エリアへの外国人観光客に対応するため、英語、中国語、フランス語を話すスタッフを増員。サポートについても、ジーニアス・スペシャリストの人数を拡大し、待ち時間の縮小に取り組んでいるという。
米Appleで、MacOSおよびiOSのプロダクトマーケティング担当バイスプレジデントのブライアン・クロール氏は、2016年1月下旬に大阪を訪問。「日本においては、アップルのビジネスは30年以上の歴史があり、Appleにとって、日本は重要な市場であることはずっと変わらない。例えば、最新のOS X El Capitanでは、新たに4つの日本語フォントを追加し、日本語環境における表現力の幅を広げたり、日本語入力においても、新たな言語エンジンを採用することによって、ひらがなを入力するのとほぼ同時に、自動的に変換することができる機能を搭載した。日本のユーザーに最適な環境を提供するための努力を続けている」と前置きしながら、「今回、大阪を訪れたのは、日本のビジネスをさらに改善し、次のステップへと進めることが狙いになる」とコメントした。
日本のビジネスの次のステップとは何か。それについては、詳細を明らかにしなかったが、あえて大阪に足を運んだことを考えれば、関西エリアでのビジネス拡大が、その1つに位置付けられることは間違いないだろう。
「今後、力を入れたいのは、より多くのお客様にアップルを使ってもらうこと。アップルは、1つのデバイスで、全てをカバーするという提案ではなく、iPhone、iPad、Mac、Apple TV、Apple Watchなど、さまざまなデバイスを組み合わせて利用するという提案を行なっている。最新のOS X El Capitanでは、このコンセプトを実現するための機能が大幅に強化されており、複数のデバイスをシームレスに利用する環境が整っている。特に、日本はiPhoneユーザーの比率が高い。iPhoneとMacを組み合わせた使い方提案を、さらに加速させていきたい」と語る。
関西エリアにおけるiPhoneの普及状況を考えれば、Macの販売シェアは、首都圏エリアと比べて、まだまだ低いと言わざるを得ない。ただ、言い換えれば、Macのシェアを拡大する余地が大きい市場ということもできる。
そして、今回、大阪での取材を通じて、Mac拡大に向けた潮流は、徐々に顕在化していることを感じた。果たして、今年末には、関西エリアにおけるMacのシェアはどこまで拡大することになるのだろうか。東京圏でトップシェアを獲得している実績を照らし合わせれば、その結果が、今から楽しみだ。