大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

米東海岸でタフブック導入の警察現場を訪ねる

~車載カメラや警察向けのボディカメラの導入も促進

タフブックを使用するスタッフォード・タウンシップ警察署の警官

 堅牢ノートPCのタフブックは、フィールドモバイルを実現するためのデバイスだ。建設現場や製造現場、倉庫や医療、自動車修理、ロードサービスなどの過酷な現場での利用を想定して開発されたものであり、パナソニックでは現場のユーザーの声を反映しながら、モノづくりを進めている。

 そのタフブックは、警察への導入でも高い実績を誇り、犯罪現場や捜査現場で警官たちの活動をサポートしているのも特徴の1つといえる。このほど、米ニュージャージー州スタッフォード・タウンシップ警察署を訪ね、タフブックを始めとするパナソニック製品が現場で活用されている様子を取材することができた。その様子をレポートしよう。

現場の声を反映したモノづくりに高評価

 ニューヨークのマンハッタンから、ハイウェイを飛ばして約2時間。のどかな風景の中にスタッフォード・タウンシップがある。近くには、マナホーキン野生動物保護区もあり、自然に囲まれた風景が特徴だ。今回取材で訪れたスタッフォード・タウンシップ警察署も、同じマナホーキンにある。

米ニュージャージー州スタッフォード・タウンシップ警察署
スタッフォード・タウンシップ警察署のジョゼフ・ギバーソン署長

 スタッフォード・タウンシップ警察署を訪れると、ジョゼフ・ギバーソン署長が満面の笑みで迎えてくれた。

 警察勤務歴27年間、2010年から署長を務めているギバーソン署長は、「ここでは、1年間で36,000件の通報がある。スタッフォード・タウンシップ警察署は、ニュージャージー州の中でもIT武装には先進的な警察署であり、タフブックやパトカーの車載カメラなどにパナソニック製品を採用。警官や刑事の活動を支えている。パナソニックとは強い信頼関係を築いている」と切り出した。

 その言葉を補足するように、パナソニック システムコミュニュケーションズノースアメリカ セキュリティソリューションズビジネスユニット長のグレッグ・ペラット バイスプレジデントは、「パナソニックのビジネスのやり方は、顧客と緊密な関係を築き、その声を聞き、製品に反映するというもの。パトカーに搭載するビデオカメラについては、9年前に、全米200カ所以上の警察署を訪問し、警官から直接声を聞き、それを日本の開発部門にフィードバックし、設計、開発を行なってきた」と振り返る。

 さらに、自身が警察官だったという、パナソニック コミュニケーションズのジョン・キューシック プロダクトマネージャーも、「警官が身に着けて、ビデオ撮影を行なうボディウォーンカメラは、最初の製品を3年前に投入したが、昨年(2015年)12月に発売した新製品では、軽量化、小型化に対する警官の要望を反映した。カメラの取り外しがしやすいクリップ型モジュールの採用などについても、警官の意見をもとに改良を加えていった」と、警官の要望を反映したモノづくりを進めている具体例を示してみせる。

パナソニック システムコミュニュケーションズノースアメリカ セキュリティソリューションズビジネスユニット長のグレッグ・ペラット バイスプレジデント
パナソニック コミュニケーションズのジョン・キューシック プロダクトマネージャー

 実際、ボディウォーンカメラの進化においては、今回訪れたスタッフォード・タウンシップ警察署の警官の声も反映されているという。実は、取材当日も、取材前の午前中の時間帯を利用して、警官からの意見を収集していたという。

ボディウォーンカメラ「Arbitrator Body Worn Camera System SA366」
ボディカメラを固定するためのクリップ型モジュール
簡単な操作でネクタイ部分に装着することができる
スタッフォード・タウンシップ署のトーマス・デレイン警部

 「パナソニックには、多くの声を聞いてもらい、それを最終製品に採用してもらえるという点で、他社以上に、信頼関係がある。懸念していることについて、解決するための道筋ができていることが安心感に繋がっている」と、現場を指揮するスタッフォード・タウンシップ署のトーマス・デレイン警部は語る。

 ギバーソン署長は、「カメラやPCの導入に際しては、さまざまな製品を検討したが、パナソニックの製品品質が圧倒的に高かったこと、サービス面において、迅速な支援を受けられる体制が整っていること、顧客のフィードバックに耳を傾けていることが、パナソニックを選択した理由である」とする。

ボディウォーンカメラを充電しているところ

全パトカーに搭載できるように30台のタフブックを導入

 現在、スタッフォード・タウンシップ警察署では、約30台のタフブックと、22台の車載カメラ、3台の最新ボディウォーンカメラが導入されているという。そのほか、取調室や留置場、警察署の屋外などにもカメラが設置されている。

スタッフォード署のパトカー。最新機器が満載だ

 デレイン警部は、「私が警官になった1987年には、全てがアナログであり、作業のほとんどを紙に依存していたが、今では、これが全てデジタルに置きかわった。特に、この10年間で、デジタルメディアの利用が広がり、警察業務の全てがデジタル化している。そして、市民の間からも、犯罪現場の証拠や状況を、デジタルメディアを使って保管すべきであるとの声が挙がっている。現時点で、犯罪現場の写真や映像の管理、指紋の管理、911への通報から警察官を現場に派遣する作業においても、全てがデジタル化している」とする。

 現在、同署には約30台のパトカーがあるが、タフブックは、全てのパトカーに1台ずつ搭載できる環境が整っており、タフブックCF-53およびタフブックCF-31が導入されているという。

運転席の様子。タフブック「CF-53」が設置されている
実際にタフブックの操作を行なっているところ
タフブックの情報を見ながら、本署と連絡を取る
タフブックにはパトカーの前後に設置されたカメラの映像が映っている

 タフブックは、犯罪現場や捜査現場において、さまざまな情報を確認したり、情報を入力したりといった作業に活用されており、パトカーに着脱式で設置。白バイに搭載することも可能となっている。

 「捜査現場で相手の名前を聞いても、それを確認することができなかったが、タフブックを使用して、免許証のデータベースなどにアクセスして、名前と顔写真を確認することができ、本人であることが分かる。また、銀行強盗が発生した際には、従来は、監視カメラから得た犯人の顔写真を、紙でコピーをして、警官に配布していたが、現在では、電子メールを使って、現場で業務を行なっている警官に対して、タフブックなどに顔写真を送信することができるようになった」(デレイン警部)。

 そして、ギバーソン署長は次のように語る。「私自身、タフブック以外にも、ほかのメーカーのラップトップPCを使用した経験があるが、すぐに壊れたり、壊れた場合にもサービス体制が悪いといった問題で、苦い思いをしたことがあった。パナソニックの場合には、サービス体制がしっかりとしている点も評価しているが、それ以前に、タフブックそのものが、名前の通り、タフであり、犯罪の現場においても、証拠写真などに簡単にログインすることができる環境が実現できた。パトカーの中だけでなく、外に持ち出して十分に使えるという点でも、警察が求める使用条件に耐えることができる仕様となっている」とする。

 さらに、「タフブックを現場に持って行き、その場でPCを利用できるようになったことで、大幅な業務効率化が図れた。従来は、警官は現場から一度、本署に戻り、デスクトップPCで報告書を作成するという作業が必要であったが、タフブックによって、パトカーの中がバーチャルオフィスとなって、本署のデスクトップPCにあるアプリケーションと同じものが現場で利用できるようになった。その点でも、警官にとっては大きなメリットがある」とした。

 ところで、米国の警察ドラマを見ると、タフブックが用いられている例はほとんどない。現場とドラマとの違いがあるのは当然だが、実際の警察現場でタフブックが使われているのであれば、いくつかの警察ドラマでも使われていていいはずだ。そこで、あえて、その点を質問してみた。

 すると、パナソニックのペラット バイスプレジデントから明確な回答が返ってきた。
「ドラマで利用されているPCは、メーカーがハリウッドにお金を出して、広告宣伝の形で採用してもらっている。同じお金を払うのであれば、我々はハリウッドに払うのではなく、実際の警察現場にメリットがある部分に投資し、より良いものを開発したい。署長や警部、警官に直接使ってもらい、これはいいPCであるということを、隣の警察署に口コミで伝えてもらう方が、何倍もの宣伝効果があると考えている」と語った。

 ペラット バイスプレジデントの言葉は、警察現場の声を反映して、他社の追随を許さないモノづくりをしているからこその自信の裏返しだと言えよう。

取調室の様子。上部にカメラが設置されている
取調室に設置されているカメラ。全てを録画する
取調室の様子をモニターしている様子
取り調べの様子を録画する

車載カメラを先行的に導入

 車載カメラは、現在、同署にある約30台のパトカーのうち、22台のパトカーに搭載されており、そのうち、5台がHDカメラを搭載しているという。今後、5年計画で、全てのカメラをHD化していくことになるという。

右上がパナソニック製のビデオカメラ。左下の装置が速度を計測するレーダー
ビデオカメラはフルHDの解像度で撮影している。赤いランプが見える範囲は撮影可能エリアであることが分かる

 デレイン警部は、「当初は、VHS方式のビデオカメラを導入していたが、非常に使い勝手が悪かった。だが、パナソニックが警察向けの新たな車載カメラを開発したのに合わせて、いち早く、スタッフォード・タウンシップ署で導入した。それ以来、パナソニックの車載カメラを採用している」という。

 ニュージャージー州では法改正によって、新たなパトカーの全てにカメラを搭載するように義務付けられているようになった。一般市民からも警察官がカメラを装着すべきという声が挙がっており、スタッフォード・タウンシップ警察署は、それに先駆ける形で車載カメラを導入している。

 実際に車載カメラが効果を発揮した例では、麻薬所持で逮捕した犯人が、麻薬をパトカーの後部座席のシートの間に入れて隠したことがあったという。警察署に連れてこられた段階では、麻薬は所持していないということになるのだが、その際も車載カメラで後部座席の様子を録画しており、犯人自らがシートに隠したことが証明されたという。

後ろの座席の様子。前の座席との間には堅牢な壁がある
後部座席の様子を撮影するカメラ
車載デジタルビデオ記録システム。撮影したデータは、無線通信を使って署内のサーバーにアップロードされる
警察署の外壁には監視カメラとともに、データを受信する無線通信のアンテナが設置されている。0.5マイルの範囲内で自動的にアップロードする

 ちなみに、パナソニックによると、車載カメラは、現金輸送車、ゴミ収集車などでも採用実績があるという。「時間通りにゴミを出さずに、ゴミ収集車が行なった後に、ゴミを出して苦情を申し入れるといったことに対して、GPSと車載カメラの組み合わせで、何時何分にゴミ収集車が全てのゴミを収集した記録を残すといった使い方をしている」(パナソニック・ペラット バイスプレジデント)という。

ガスの漏洩による爆発の様子を車載カメラで撮影した様子。赤色灯を回すと、その前の30秒間も録画データとして残る

今後、普及が見込まれるボディウォーンカメラ

 ボディウォーンカメラは、現在、最新版となる「Arbitrator Body Worn Camera System SA366」を、3台試験導入しているところだという。

 同製品は、2015年12月に出荷を開始したモデルであり、まだ生産量も少ない。これまでの成果を見て、「ぜひ、本格的に採用したいと考えている」(デレイン警部)とする。ニューヨークやボルチモア、ファーガソンなどで人種差別問題に端を発した警官の事件が発生しており、それも、ボディウォーンカメラの必要性が高まっている背景にある。

 同製品は、本体重量が約130gと軽量化を図ったカメラで、手の平よりも少し大きなサイズでありながら、前方向130度の範囲で、720pのHD画質で映像を撮影したり、音声を自動録音することが可能。IP54対応の堅牢性を持ち、GPS機能を内蔵。Wi-Fi機能により、録画した映像をパトカーの録画システムに転送することができる。

 このカメラは、専用のクリップモジュールにより、警官のネクタイ部分に装着できるほか、肩部分への装着、あるいは銃への装着といった使い方も可能だという。

 本体のスイッチを入れると、撮影を開始。警官の身体が揺れても、撮影している画像はぶれないようになっている。「当初はクリップ部が動きやすい構造となっていたが、我々の提案で、これがずれないような改良をしてもらった。パナソニックはこうした要望に対して、迅速に対応してもらえる点が心強い」(同)とする。

 新製品では、暗い場所でも鮮明な映像が撮影できるように改良したほか、画像の安定性、高画質での録画、質の高い音声録音などにおいても改善を遂げているという。

 「逮捕された際に、警官に不当な扱いを受けたと証言するケースもあるが、そうした際にも撮影した記録によって、申し立てが無効であることを証明できたという例がある。犯人などが、飲酒や麻薬の使用、あるいは精神状態が錯乱しており、記憶が曖昧である場合にも、録画での証明が可能になる」(同)とした。

 また、未成年者の撮影や個人のプライバシーに配慮した形で記録を残すために、プライバシーフィルタをオプションで提供しており、シーンに合わせて、録音だけを行なうといったことも可能だという。

 「州ごとにルールが異なっており、当事者間の合意を得た上でないと録画できない場合もある。さらに、ミュートボタンにより録音ができないような機能も提供している。州や警察署ごとに異なる細かいニーズにも対応している」(パナソニック・ペラット バイスプレジデント)という。

 ボディウォーンカメラは、警察にとっても新たなツールの1つであり、その運用ルールも日々、変更が加えられており、それに伴い要望も増加しているという。そうした細かな要望にもパナソニックは1つ1つ対応していく姿勢を見せており、「プライバシーフィルタも、警察側から早急に対応して欲しいとの要望に応じたもの」だという。

 ちなみに、ボディウォーンカメラは警察向けに開発された製品であるが、ほかの業種からも引き合いがあるという。しかし、「現時点では警察向けに導入するだけで供給体制が追いつかない。ほかの業種に展開することは、今は考えていない」(同)としている。

 そして、パナソニックのボディウォーンカメラの特徴は、ハードウェアの強みだけではない。ソフトウェアでも強みがあるという。

 「車載カメラやボディウォーンカメラでは、証拠であるデータを、確実に録画し、保存することが大切。ハードだけでなく、ソフトウェアも重要な役割を担う。当社が提供するバックエンドの管理システムは、車載カメラの開発時から改良を加えたものであり、そこにも長年のノウハウが活用されている」(パナソニック コミュニケーションズのジョン・キューシックプロダクトマネージャー)とする。

 パナソニックでは、「SafeServ」と呼ぶ証拠管理ソフトウェアを製品化。一度録画されたものは、改ざんやカメラから削除することができないようになっているという。また、取調室での映像、車載カメラの映像、ボディウォーンカメラの映像は全て、1つのソフトウェアプラットフォーム上で一元的に管理。管理環境をシンプル化している点も特徴だという。

 「警察には、収集している証拠データをいかに保存するか、安全でセキュアな形でデータが保存できているのか、といった点へのプレッシャーがかかっている。そのためには、技術進化に遅れないようにする姿勢が必要である。その点でもパナソニックとの強い関係を持っている点は心強いといえる」(デレイン警部)などと述べた。

 このようにパナソニックの警察向けのソリューションは、PCやカメラなどのハードウェアだけでなく、ソフトウェアを含めてトータルソリューション提案が強みだ。これも警察の細かい要望を反映し、既に10年近い取り組みを行なっているからこそ成せるものだといえる。

 ギバーソン署長は、「スタッフォード・タウンシップ署では、今後、ボディウォーンカメラの導入を推進し、タフブック、車載カメラ、ボディウォーンカメラによるデジタル体制を確立することになる。今後も、警察業務を効率化するためのパナソニックに機器が登場することを期待している。そこに強い関心を持っている」とした。

 パナソニックに対する警察署からの信頼は、我々が思う以上に高いものだと言えそうだ。

刑事や警官が持ち歩くタフブック
スタッフォード署内部の様子
刑事の机の上にはタフブックが置かれていた
シフトの交代時に会議を行なう部屋
ここにはパナソニックのTVが設置してあった
外出から戻った警官。手にはAEDとともに大型の銃を持っているのはやはり米国らしいところ
署内にある留置場の様子
留置場内のカメラは壊されないようにカバーが施されている
飲酒運転の容疑がある場合には、アルコール濃度を計測する
容疑者が使うトイレ。覚醒剤などを所持した容疑者がトイレに流そうとしても外のボタン(写真左下)を警官が押さないと流れない
警察官がトレーニングするための部屋もあった
FBIに登録された指紋とも照合できる装置
容疑者を撮影するカメラ。ドラマや映画で見るような身長を示す線はない
911番(日本では110番)にかかってきた電話を受け取る部屋
コンピュータルームの様子。ここが心臓部となる

(大河原 克行)